StudyMed医師国家試験

脂肪は胆汁がないと運べない―長鎖と中鎖で分かれる脂肪酸の吸収ルート

第113回医師国家試験 C問題 第12問

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第113回 C問題 第12問

消化管の消化吸収機能について正しいのはどれか。

  1. a.閉塞性黄疸は便色に影響しない。
  2. b.蛋白の吸収に消化は不要である。
  3. c.食物繊維は糖の吸収に影響しない。
  4. d.中鎖脂肪酸はリンパ管へ運ばれる。
  5. e.長鎖脂肪酸の吸収に胆汁酸が必要である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は消化吸収の生理を問う問題だ。三大栄養素がどう分解され、どこから吸収され、どの経路で運ばれるのか。そして胆汁が何をしているのか。この流れを一本の筋として理解しているかがポイントになる。
医学生医学生
選択肢が全部バラバラなテーマに見えて、ちょっと戸惑いました。
ドクタードクター
そう見えるけれど、根っこは「大きな分子はそのままでは吸収できない」「水に溶けないものは運び役が要る」という2つの原則なんだ。まず原則の1つ目から。蛋白は消化しなくても吸収できると思う?
医学生医学生
生理学の講義で、蛋白はアミノ酸まで分解されてから吸収されると習ったので、消化は必要だと思います。
ドクタードクター
正しい。蛋白は高分子だから、そのままでは腸管上皮をほとんど通らない。胃のペプシン、膵液のトリプシンやキモトリプシン、小腸刷子縁のペプチダーゼで段階的に分解される。補足すると、アミノ酸だけでなくジペプチドやトリペプチドの形でも輸送体で取り込まれるんだ。だから慢性膵炎が進んで膵外分泌不全になると、蛋白の消化吸収も障害される。
医学生医学生
食物繊維のほうは、糖の吸収には関係なさそうに思えたんですが。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいね。特に水溶性食物繊維は腸の内容物の粘りを増し、胃からの排出を遅らせ、糖と消化酵素の接触を妨げる。結果として糖の吸収が緩やかになって、食後血糖の急上昇が抑えられる。糖尿病の食事療法で食物繊維を勧めるのはこのためだ。
医学生医学生
α-グルコシダーゼ阻害薬が糖の吸収を遅らせるのと似た発想ですね。糖尿病内科の実習で、野菜から先に食べるよう患者さんに指導していました。
ドクタードクター
まさにその理屈だね。では2つ目の原則、脂質に進もう。中性脂肪は膵リパーゼで脂肪酸とモノグリセリドに分解される。ところが長鎖脂肪酸は水に非常に溶けにくい。腸管の中は水の環境だから、どうやって上皮まで届くと思う?
医学生医学生
胆汁酸がミセルを作って運ぶんでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。胆汁酸は水になじむ部分と油になじむ部分をあわせもつ両親媒性の分子で、長鎖脂肪酸やモノグリセリド、コレステロール、脂溶性ビタミンを包み込んだミセルを作り、上皮表面まで運ぶ。脂肪を乳化してリパーゼを働きやすくする役割もある。だから長鎖脂肪酸の吸収に胆汁酸が必要、というのが正しい記述だ。
医学生医学生
じゃあ中鎖脂肪酸も同じく胆汁酸で運ばれて、リンパ管に入るんですか。
ドクタードクター
ここが大事な違いだ。長鎖脂肪酸は上皮細胞内でトリグリセリドに再合成され、カイロミクロンとして乳び管、つまりリンパ管へ入り、胸管を経て静脈に合流する。一方、中鎖脂肪酸は比較的水に溶けやすいので胆汁酸ミセルが不要で、再合成されずに門脈から直接肝臓へ運ばれる。リンパ管へ行くのは長鎖のほうなんだ。
医学生医学生
なるほど、長鎖は胆汁酸とリンパ管、中鎖はどちらも不要で門脈、とセットで覚えればいいんですね。
ドクタードクター
いいまとめだ。この性質は臨床でも使われる。胆汁うっ滞や膵外分泌不全で脂肪を吸収しにくい人、乳び胸やリンパ管拡張症でリンパの流れを減らしたい人には、中鎖脂肪酸トリグリセリド、いわゆるMCTを使った栄養療法が行われる。
医学生医学生
最後に閉塞性黄疸ですが、胆汁が腸に流れないなら便の色は変わりますよね。
ドクタードクター
そう。便の茶色はビリルビンが腸内細菌でウロビリノゲンになり、さらにステルコビリンなどに変わることで生じる。胆道が閉塞すればこれが作られず灰白色便になる。同時に血中の抱合型ビリルビンが尿に出て褐色尿となり、尿中ウロビリノゲンは減る。さらに胆汁酸が届かないので脂肪便や脂溶性ビタミン欠乏、とくにビタミンK欠乏による出血傾向にも注意が必要だ。
医学生医学生
消化器外科の実習で、膵頭部癌の患者さんの術前にビタミンKを補充していた理由がつながりました。
ドクタードクター
よく結びつけたね。もう一つ発展として、胆汁酸の大部分は回腸末端で再吸収されて肝臓に戻る腸肝循環をしている。回腸末端を切除したりクローン病で障害されたりすると、胆汁酸が不足して脂肪の吸収障害が起こり、大腸に流れ込んだ胆汁酸が下痢の原因にもなる。回腸末端はビタミンB12の吸収部位でもあるから、あわせて押さえておこう。

まとめ

三大栄養素は消化酵素で小さな単位まで分解されてから吸収され、蛋白質もアミノ酸やジ・トリペプチドの形まで消化されて初めて腸管上皮を通過できます。脂質のうち長鎖脂肪酸は水に溶けにくいため、両親媒性の胆汁酸が作るミセルによって上皮表面まで運ばれ、細胞内でカイロミクロンとなってリンパ管(乳び管)へ入ります。これに対し中鎖脂肪酸は胆汁酸を必要とせず門脈から直接肝臓へ運ばれるため、脂肪吸収障害やリンパ流を減らしたい病態ではMCTを用いた栄養療法が行われます。また水溶性食物繊維は糖の吸収を緩やかにして食後高血糖を抑え、閉塞性黄疸では灰白色便・褐色尿に加えて脂肪便や脂溶性ビタミン欠乏が問題となります。消化吸収の生理を原則から理解しておくことは、黄疸や吸収不良、栄養療法といった臨床場面での判断の基盤になります。

解答・解説

正解はeです

三大栄養素(糖質・蛋白質・脂質)は、そのままの大きな分子では腸管上皮を通過できない。消化酵素で小さな単位まで分解(消化)されて初めて、小腸上皮細胞に取り込まれ(吸収)、血液やリンパ液によって全身に運ばれる。本問は、栄養素ごとの消化・吸収の仕組みと、胆汁の役割を確認する問題である。 ・糖質:唾液と膵液のα-アミラーゼで二糖類やオリゴ糖に分解され、さらに小腸刷子縁の二糖類分解酵素(マルターゼ、スクラーゼ、ラクターゼなど)で単糖に分解されて吸収される。 ・蛋白質:胃のペプシン、膵液のトリプシン・キモトリプシンなどでペプチドに分解され、刷子縁のペプチダーゼでアミノ酸やジペプチド・トリペプチドとなって吸収される。 ・脂質:主成分のトリグリセリド(中性脂肪)は膵リパーゼにより脂肪酸とモノグリセリドに分解される。長鎖脂肪酸は水に溶けにくいため、胆汁酸とミセル(微小な集合体)を形成して上皮表面まで運ばれ吸収される。上皮細胞内でトリグリセリドに再合成されてカイロミクロンとなり、リンパ管(乳び管)に入る。一方、中鎖脂肪酸は水に比較的溶けやすく、胆汁酸のミセル形成を必要とせずに吸収され、門脈を経て直接肝臓へ運ばれる。 この整理に照らすと、長鎖脂肪酸の吸収に胆汁酸が必要であるという記述が正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  閉塞性黄疸は便色に影響しない。

    誤り。便の茶褐色は、胆汁中に排泄された抱合型ビリルビンが腸内細菌によってウロビリノゲンに変換され、さらにステルコビリンなどに酸化されることで生じる。閉塞性黄疸(総胆管結石、膵頭部癌、胆管癌などによる胆道の閉塞)では胆汁が腸管に流れなくなるため、便の色素が作られず灰白色便(白色便)となる。同時に、血中に逆流した抱合型ビリルビンが尿中に排泄されて濃い褐色尿(ビリルビン尿)となり、尿中ウロビリノゲンは減少・陰性化する。

  2. ×b.  蛋白の吸収に消化は不要である。

    誤り。蛋白質は分子量の大きい高分子であり、そのままでは腸管上皮をほとんど通過できない。胃のペプシン、膵液のトリプシン・キモトリプシン・カルボキシペプチダーゼ、小腸刷子縁のペプチダーゼによって段階的に分解され、アミノ酸、あるいはジペプチド・トリペプチドの形で吸収される(ジペプチド・トリペプチドはペプチド輸送体で取り込まれ、上皮細胞内でアミノ酸に分解される)。膵外分泌不全(慢性膵炎の進行例など)では蛋白の消化が障害され、吸収不良をきたす。

  3. ×c.  食物繊維は糖の吸収に影響しない。

    誤り。食物繊維、特に水溶性食物繊維は、腸管内容物の粘稠度を高めて胃からの排出を遅らせ、消化酵素と糖の接触や糖の拡散を妨げる。その結果、糖の吸収が緩やかになり、食後血糖の急上昇が抑えられる。この作用は糖尿病の食事療法で食物繊維の摂取が勧められる根拠の一つであり、α-グルコシダーゼ阻害薬が糖の吸収を遅らせる作用と考え方が似ている。食物繊維はコレステロールの吸収抑制や便通の改善にも寄与する。

  4. ×d.  中鎖脂肪酸はリンパ管へ運ばれる。

    誤り。中鎖脂肪酸(炭素数おおむね8〜12)は水溶性が比較的高く、胆汁酸ミセルを必要とせずに吸収され、上皮細胞内でトリグリセリドに再合成されることなくアルブミンと結合して門脈から直接肝臓へ運ばれる。リンパ管(乳び管)へカイロミクロンとして運ばれるのは長鎖脂肪酸である。この性質を利用し、胆汁うっ滞や膵外分泌不全などの脂肪吸収障害、乳び胸・リンパ管拡張症などリンパ流を減らしたい病態では、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)を用いた栄養療法が行われる。

  5. ○e.  長鎖脂肪酸の吸収に胆汁酸が必要である。

    正しい。長鎖脂肪酸は疎水性が強く水に溶けにくいため、腸管内の水溶液環境ではそのまま上皮細胞表面へ到達できない。胆汁酸は両親媒性(水になじむ部分と油になじむ部分をあわせもつ)の分子であり、長鎖脂肪酸やモノグリセリド、コレステロール、脂溶性ビタミン(A・D・E・K)を内部に取り込んだミセルを形成して、上皮表面へ運搬する。胆汁酸は脂肪を乳化して膵リパーゼの作用を助ける役割ももつ。したがって、閉塞性黄疸や回腸切除後の胆汁酸欠乏では脂肪便や脂溶性ビタミン欠乏(ビタミンK欠乏による出血傾向など)が起こる。

脂肪の消化吸収の流れ(長鎖脂肪酸)

1. 胆汁酸による乳化:大きな脂肪滴を細かくし、リパーゼが作用する表面積を増やす。 2. 膵リパーゼ(補助因子コリパーゼ)による分解:トリグリセリド → 2-モノグリセリド+脂肪酸。 3. 胆汁酸とのミセル形成:分解産物を小腸上皮の表面まで運ぶ。 4. 上皮細胞内で再びトリグリセリドに合成され、アポ蛋白B-48などとともにカイロミクロンを形成。 5. カイロミクロンは乳び管(リンパ管)→胸管を経て左静脈角から静脈系に入る。

中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸の比較

・長鎖脂肪酸:胆汁酸ミセルが必要、カイロミクロンとしてリンパ管へ。 ・中鎖脂肪酸:胆汁酸ミセル不要、遊離脂肪酸のまま門脈へ。速やかにエネルギー源として利用されやすい。

胆汁酸の腸肝循環

・胆汁酸は肝臓でコレステロールから合成され、胆汁中に分泌される。役目を終えた胆汁酸の大部分は回腸末端で再吸収され、門脈を通って肝臓に戻る(腸肝循環)。 ・回腸末端の切除やクローン病では胆汁酸の再吸収が障害され、胆汁酸プールが減少して脂肪吸収障害をきたす。大腸に流入した胆汁酸は水分分泌を促し下痢(胆汁酸性下痢)の原因にもなる。

主な栄養素の吸収部位

・十二指腸〜空腸上部:鉄、カルシウム、マグネシウムなど。 ・空腸:糖質、蛋白質(アミノ酸)、脂質、水溶性ビタミン、葉酸、水・電解質など大部分の栄養素。 ・回腸末端:ビタミンB12(内因子と結合した形)、胆汁酸。 ・大腸:水分と電解質(Na+など)。

便色と疾患

・灰白色便:閉塞性黄疸、胆道閉鎖症、ロタウイルス腸炎(乳幼児)など。 ・黒色便(タール便):上部消化管出血、鉄剤服用など。

POINT

・長鎖脂肪酸は胆汁酸ミセルにより吸収され、カイロミクロンとしてリンパ管へ運ばれる。 ・中鎖脂肪酸は胆汁酸不要で、門脈から肝臓へ直接運ばれる(MCTの臨床応用)。 ・蛋白質はアミノ酸やジ・トリペプチドまで消化されて吸収される。 ・水溶性食物繊維は糖の吸収を緩やかにし、食後高血糖を抑える。 ・閉塞性黄疸では灰白色便、褐色尿(ビリルビン尿)、尿中ウロビリノゲン減少。 ・胆汁酸欠乏では脂肪便と脂溶性ビタミン(A・D・E・K)欠乏が起こる。 ・ビタミンB12と胆汁酸は回腸末端、鉄とカルシウムは十二指腸で主に吸収される。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。