空気の基準に重金属はいない―大気と水質の環境基準を混同しないために
第113回医師国家試験 C問題 第10問
国試問題にチャレンジ
大気汚染に係る環境基準の対象物質はどれか。
- a.鉛
- b.カドミウム
- c.二酸化硫黄
- d.アルキル水銀化合物
- e.ポリビニルアルコール
対話形式の解説
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ドクターまとめ
環境基準は環境基本法に基づき国が定める「維持されることが望ましい」目標値で、個々の工場に罰則付きで課される排出基準とは区別されます。大気汚染に係る環境基準の対象は、二酸化硫黄、二酸化窒素、一酸化炭素、浮遊粒子状物質、光化学オキシダント、PM2.5、ベンゼンなど有機溶剤4物質、そしてダイオキシン類です。鉛・カドミウム・アルキル水銀化合物は大気汚染防止法の排出規制などの対象にはなっていても大気の環境基準はなく、水質や土壌の環境基準の対象物質として登場します。二酸化硫黄は四日市ぜんそくの原因物質で現在はほぼ基準を達成している一方、光化学オキシダントは達成率が極めて低いままです。「ガスと粒子は大気、重金属は水質・土壌」と整理しておくと混同を防げ、公害の歴史や患者指導の理解にもつながります。
解答・解説
正解はcです
環境基準とは、環境基本法第16条に基づき、「人の健康を保護し、生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準」として国(環境省)が定める行政上の目標値である。工場などの個々の発生源に守らせる規制値(排出基準)とは異なり、地域全体の環境の質についての目標である点が特徴である。環境基準は大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音について定められており、ダイオキシン類についてはダイオキシン類対策特別措置法に基づいて別に定められている。 大気汚染に係る環境基準の対象物質は次のとおりである。 ・二酸化硫黄(SO2) ・一酸化炭素(CO) ・浮遊粒子状物質(SPM:粒径10μm以下の粒子) ・二酸化窒素(NO2) ・光化学オキシダント(Ox) ・微小粒子状物質(PM2.5:粒径2.5μm以下の粒子) ・有害大気汚染物質のうちベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタンの4物質 ・ダイオキシン類(ダイオキシン類対策特別措置法による) 本問ではこのリストに含まれるかどうかで判断すればよく、該当するのは二酸化硫黄である。鉛・カドミウム・アルキル水銀化合物は「水質汚濁に係る環境基準(人の健康の保護に関する項目)」や土壌の環境基準で登場する物質であり、水質・土壌の環境基準と混同しないことが問われている。
選択肢考察
- ×a. 鉛
誤り。鉛及びその化合物は、大気汚染防止法で「ばい煙」に含まれる有害物質として定められ、工場などからの排出基準による規制を受けるが、大気の環境基準は設定されていない。鉛について環境基準があるのは水質(健康項目)と土壌である。
- ×b. カドミウム
誤り。カドミウム及びその化合物も、大気汚染防止法上はばい煙中の有害物質として排出基準の対象となっているが、大気の環境基準はない。カドミウムは水質汚濁(健康項目)や土壌の環境基準の対象物質であり、イタイイタイ病の原因物質として知られる。
- ○c. 二酸化硫黄
正しい。二酸化硫黄は大気汚染に係る環境基準の対象物質であり、「1時間値の1日平均値が0.04ppm以下であり、かつ、1時間値が0.1ppm以下であること」と定められている。石炭や重油など硫黄分を含む化石燃料の燃焼で発生し、気道を刺激して慢性気管支炎や気管支喘息の原因となる。四日市ぜんそくの主な原因物質であり、酸性雨の原因にもなる。脱硫装置の普及や燃料の低硫黄化により、現在はほぼ全ての測定局で環境基準を達成している。
- ×d. アルキル水銀化合物
誤り。アルキル水銀化合物(メチル水銀など)は水俣病の原因物質であり、水質汚濁に係る環境基準(健康項目)で「検出されないこと」と定められているほか、土壌の環境基準の対象でもある。大気については、水銀及びその化合物が大気汚染防止法による排出規制や、有害大気汚染物質としての指針値の対象となっているが、大気の環境基準は設定されていない。
- ×e. ポリビニルアルコール
誤り。ポリビニルアルコール(PVA)は水溶性の合成樹脂で、接着剤や洗濯のり、繊維などに用いられる。大気汚染の環境基準の対象ではなく、大気汚染防止法の規制対象物質でもない。
環境基準と規制基準の違い
・環境基準:環境基本法に基づく、地域の環境全体について維持されることが望ましい目標値。行政の努力目標であり、直接の罰則はない。 ・規制基準(排出基準など):大気汚染防止法・水質汚濁防止法などに基づき、個々の工場・事業場が守るべき排出の上限値。違反には罰則や改善命令がある。
大気の環境基準対象物質の主な発生源と健康影響
・二酸化硫黄:化石燃料の燃焼。気道刺激、喘息、酸性雨。 ・二酸化窒素:自動車排ガスや工場の高温燃焼。気道障害。光化学オキシダントの原料にもなる。 ・一酸化炭素:不完全燃焼、自動車排ガス。ヘモグロビンと結合して酸素運搬を妨げる。 ・浮遊粒子状物質(SPM)・微小粒子状物質(PM2.5):ディーゼル排ガス、工場、二次生成粒子など。粒径が小さいほど肺の奥まで到達し、呼吸器・循環器疾患のリスクを高める。PM2.5の環境基準は2009年に設定された。 ・光化学オキシダント:窒素酸化物と揮発性有機化合物が紫外線を受けて生じる二次汚染物質(主にオゾン)。眼・咽頭の刺激症状。環境基準の達成率が現在も極めて低い。 ・ベンゼン:発がん性(白血病)。トリクロロエチレン・テトラクロロエチレン・ジクロロメタンは有機塩素系溶剤で、洗浄剤などに用いられる。
水質汚濁の環境基準(人の健康の保護に関する項目)の主な物質
・カドミウム、全シアン、鉛、六価クロム、ヒ素、総水銀、アルキル水銀(検出されないこと)、PCB(検出されないこと)、トリクロロエチレン、ベンゼン、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素など。 ・重金属類が並ぶのは水質(および土壌)の方である、と整理すると混同を防げる。
POINT
・大気の環境基準対象:SO2、CO、SPM、NO2、光化学オキシダント、PM2.5、ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン(+ダイオキシン類)。 ・鉛・カドミウム・アルキル水銀は水質・土壌の環境基準の対象であり、大気の環境基準はない。 ・環境基準は環境基本法に基づく「望ましい目標」、排出基準は個別法に基づく「守るべき規制値」。 ・光化学オキシダントは現在も環境基準の達成率が極めて低い。
