告げる前に、まず聴く―SPIKESの「P」が悪い知らせを変える
第113回医師国家試験 B問題 第28問
国試問題にチャレンジ
23歳の女性。左乳房にしこりを自覚したため受診した。穿刺吸引細胞診および組織診の結果,乳癌と診断した。担当医は本人と母親に対して,検査結果と診断および今後の治療について説明することとなった。 悪い知らせを伝える際のSPIKESモデルの「P」に相当するのはどれか。
- a.防音性の高い個室で面談する。
- b.さらに詳しい説明を希望するか尋ねる。
- c.今後の治療の選択肢について説明する。
- d.病気についての患者の理解度を確認する。
- e.ショックを受けているであろう心情に寄り添う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
SPIKESモデルは、悪い知らせを伝える面談をSetting(環境設定)、Perception(患者の認識の把握)、Invitation(知りたい範囲の確認)、Knowledge(情報提供)、Emotions(感情への共感的対応)、Strategy and Summary(方針提示と要約)の6段階で進める手順です。「P」は医師が説明を始める前に、患者が病状や検査の意味をどう理解しているかを開かれた質問で確かめる段階で、誤解や過度な楽観・悲観を把握し、その後の説明の出発点を決める役割があります。「今どう理解しているか」を聞くPと「どこまで知りたいか」を聞くIの区別、最初のS(環境)と最後のS(方針・要約)の区別が得点のポイントです。若年乳癌では妊孕性温存や遺伝性乳癌卵巣癌症候群への配慮も方針決定に関わり、成人であれば意思決定の主体は本人です。告知の手順を理解しておくことは、試験対策にとどまらず、患者との信頼関係を築く臨床の基本技術につながります。
解答・解説
正解はdです
状況の整理
23歳という若年の女性が、左乳房のしこりを主訴に受診し、穿刺吸引細胞診と組織診によって乳癌の確定診断に至った。担当医はこれから本人と母親に、検査結果・診断名・今後の治療方針を伝えようとしている。若年者への癌の診断告知は典型的な「悪い知らせ(bad news)」であり、伝え方そのものが患者の受け止め方、医師患者関係、その後の治療への参加姿勢を大きく左右する。
SPIKESモデルとは
SPIKESは、Baileらが2000年に提唱した、悪い知らせを伝えるための6段階の面談手順である。各段階の英語の頭文字をつなげると「SPIKES」になる。 S:Setting(面談の場を整える) P:Perception(患者が現状をどう認識しているかを把握する) I:Invitation(患者がどこまで、どのように知りたいかを確かめる) K:Knowledge(医学的な情報をわかりやすく伝える) E:Emotions(Empathy)(患者の感情に気づき、共感的に応じる) S:Strategy and Summary(今後の方針を示し、話をまとめる)
設問の考え方
問われているのは2番目の「P」、すなわちPerceptionである。これは、医師が説明を始める前に「病気について今どのように理解しているか」「検査をどう受け止めているか」を患者自身の言葉で語ってもらい、その認識を把握する段階である。したがって「病気についての患者の理解度を確認する」が該当する。他の選択肢も、それぞれSPIKESの別の段階に当てはまる行動であるため、各選択肢がどの段階に対応するかを順に整理すれば正解は一つに定まる。
選択肢考察
- ×a. 防音性の高い個室で面談する。
誤り。プライバシーが守られ、会話が外に漏れない落ち着いた場所を用意するのは、最初の段階であるS(Setting:面談環境の設定)に当たる。Settingには場所の確保のほか、患者が望む家族の同席を認める、着席して目線の高さを合わせる、面談中に呼び出しで中断されないよう準備する、といった配慮も含まれる。重要な準備ではあるが「P」ではない。
- ×b. さらに詳しい説明を希望するか尋ねる。
誤り。患者がどの程度まで詳しく知りたいのか、どのような形で情報を受け取りたいのかを確かめる行動は、I(Invitation:情報提供への招き入れ)に相当する。患者には詳細を「知りたくない」という意思を示す権利もあり、それを尊重するための段階である。患者の現在の理解を確認する「P」とは目的が異なる。
- ×c. 今後の治療の選択肢について説明する。
誤り。治療の選択肢と、それぞれの利点・欠点、予想される経過を提示し、患者とともに今後の計画を立てて面談を締めくくるのは、最後の段階であるS(Strategy and Summary:方針の提示と要約)に当たる。準備ができていない患者に治療計画を示しても受け止められないため、この段階は感情への対応の後に置かれている。
- ○d. 病気についての患者の理解度を確認する。
正解。P(Perception:認識の把握)は、医師が情報を伝える前に、患者が自分の病状や検査の意味をどう理解しているかを確かめる段階である。「これまでの検査について、どのように説明を受けていますか」「ご自身ではどうお考えですか」といった開かれた質問を用いる。これにより、患者の誤解や過度な楽観・悲観を把握でき、その後の説明(Knowledge)の出発点と言葉の選び方を患者に合わせて調整できる。
- ×e. ショックを受けているであろう心情に寄り添う。
誤り。悪い知らせを聞いた患者が示す驚き、悲しみ、怒り、沈黙などの感情に気づき、その感情を言葉にして受け止め、共感的に応答するのはE(Emotions/Empathy:感情への対応)に当たる。必要に応じて沈黙を保ち、患者が気持ちを表出できる時間を確保することも含まれる。
SPIKESの各段階の具体的行動
1. Setting:プライバシーの保たれた個室を確保する。患者が希望すれば家族などの同席を認める。座って向き合い、適度な距離とアイコンタクトを保つ。院内PHSなどによる中断を避け、時間を十分に確保する。 2. Perception:「今の状態についてどのように理解されていますか」など開かれた質問で、患者の認識を把握する。 3. Invitation:どこまで詳しく知りたいかを確認する。知りたくない意思があれば尊重し、代わりに誰に説明すればよいかを尋ねる。 4. Knowledge:「残念なお知らせがあります」のように前置き(警告の一言)をしてから伝える。専門用語を避け、少しずつ区切って説明し、理解できているかを適宜確かめる。 5. Emotions:患者の感情を観察し、何が感情の原因かを確かめ、それを受け止める言葉で応じる(共感的応答)。 6. Strategy and Summary:治療選択肢と見通しを示し、患者の価値観を踏まえて方針を共有する。内容を要約し、次回の予定を確認する。
関連事項
・本例は23歳であり、乳癌の治療が妊孕性(将来妊娠・出産する能力)に影響しうる年齢である。方針を話し合う段階では、妊孕性温存についての情報提供も重要になる。 ・若年発症の乳癌では、BRCA1/2などの遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の可能性も念頭に置き、必要に応じて遺伝カウンセリングを紹介する。 ・本人が成人である以上、説明と意思決定の主体は本人である。母親の同席は本人の希望に基づいて行う。
POINT
・SPIKES=Setting(環境設定)→Perception(患者の認識の把握)→Invitation(知りたい範囲の確認)→Knowledge(情報提供)→Emotions(感情への共感的対応)→Strategy and Summary(方針提示と要約)。 ・「P」は医師が説明する前に患者の理解度・認識を確かめる段階である。 ・2つの「S」(最初=環境、最後=方針・要約)と、「I」(知りたいかの確認)・「P」(今どう理解しているかの確認)を混同しないこと。
