StudyMed医師国家試験

「変わりなし」も立派な記録―診療録の書き方・直し方・残し方

第112回医師国家試験 E問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第112回 E問題 第4問

診療録について誤っているのはどれか。

  1. a.傷病名を記載する。
  2. b.記載者を明らかにする。
  3. c.修正する場合は履歴を残す。
  4. d.診療完結日から5年間保存する。
  5. e.入院中変化がない日は記載を省略できる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は診療録、いわゆるカルテのルールを問う問題だ。何を書くか、誰が書いたことにするか、どう直すか、どのくらいの期間残すか、という4つの視点で整理すると解きやすい。そして「誤っているもの」を選ぶ問題だから、うっかり正しい記述を選ばないように注意しよう。
医学生医学生
カルテって病院ごとの書き方の違いが大きい印象なんですが、法律で決まっていることもあるんですか。
ドクタードクター
あるよ。根拠は医師法第24条。医師は診療をしたら遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載し、それを5年間保存しなければならない、と定められている。記載すべき具体的な事項は医師法施行規則に並んでいるんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習った気がします。住所・氏名・性別・年齢、病名と主要症状、治療方法、診療の年月日、でしたっけ。
ドクタードクター
その通り。だから傷病名を記載する、というのは法定記載事項そのもので正しい記述だね。次に、記載者を明らかにする、についてはどう思う?
医学生医学生
誰が判断したか分からないと責任の所在があいまいになるので、正しいと思います。病棟実習で電子カルテを使ったとき、学生のIDで書いた記事は指導医が承認しないと確定しない仕組みでした。
ドクタードクター
いい経験をしているね。紙なら署名、電子カルテならログインした利用者の識別情報で記載者を特定する。研修医や医療クラークが代行入力した場合も、誰が書いて誰が確認したかを分かるようにしておく必要がある。では、修正するときに履歴を残す、はどうだろう。
医学生医学生
これも正しいはずです。書き間違えたら全部消して書き直したくなりますけど、それは駄目なんですよね。
ドクタードクター
そう。診療録は医療訴訟などで証拠にもなる文書だから、改ざんを疑われない形で直すことが大切だ。紙なら消せないボールペンで書き、修正液や修正テープは使わずに二重線で消して、訂正者のサインと日時を添える。電子カルテでも修正前の内容と修正者・修正日時が履歴として残る仕組みが必要とされている。
医学生医学生
保存期間の5年間も正しいですね。でも、処方箋や検査記録も同じ5年でしょうか。
ドクタードクター
そこはよく混同されるポイントだ。診療録そのものは5年間で、保険医療機関では療養担当規則で完結の日から5年間と定められている。一方、処方箋、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真などの「診療に関する諸記録」は医療法施行規則で2年間なんだ。
医学生医学生
ということは、残る入院中に変化がない日は記載を省略できる、が誤りですね。正直、実習中に「著変なし」だけの記事を見て、それなら書かなくてもいいのでは、と思ったこともありました。
ドクタードクター
正解だ。そして、その疑問は大事な出発点だよ。「変化がない」というのは、診察して所見を確認し、そう判断したという立派な臨床情報なんだ。記載がなければ、その日に診察した事実すら証明できない。翌日急変したとき、前日の状態が記録されていなければ、いつから悪化したのかも追えないよね。
医学生医学生
医療安全の面でも、法的な面でも問題になるということですね。「著変なし」でも、その根拠となる所見を書くべきなんですね。
ドクタードクター
その通り。そこで役立つのがPOMR、つまり問題志向型診療記録と、SOAP形式の経過記録だ。S(患者の訴え)、O(身体所見や検査結果)、A(評価)、P(計画)の順に書けば、変化がない日でも「なぜ変化がないと判断したか」が自然に残る。
医学生医学生
OSCEの医療面接のあとにSOAPでまとめる練習をしました。あれは記録のための型だったんですね。
ドクタードクター
そうだね。もう一つ、電子カルテには真正性・見読性・保存性という3原則がある。真正性は記載者と日時が明確で、書き換えが防止され修正履歴が残ること。見読性はすぐに画面表示や印刷で読めること。保存性は保存期間中、復元可能な状態で残っていること。それから、患者本人から開示を求められたら、個人情報保護法に基づいて原則として応じる必要があることも覚えておこう。
医学生医学生
患者さんが読む可能性もあると思うと、略語だらけの記録や感情的な書き方は避けるべきですね。
ドクタードクター
まさに。カルテは自分のメモではなく、チームと患者、そして将来の自分に向けた公的な文書だと意識して書いてほしい。

まとめ

診療録は医師法第24条で作成と5年間の保存が義務づけられ、医師法施行規則により住所・氏名・性別・年齢、病名と主要症状、治療方法、診療年月日を記載することとされています。記載者を明示し、修正時は二重線や電子カルテの履歴機能で修正前の内容が分かるようにすることが求められ、電子保存では真正性・見読性・保存性の3原則を満たす必要があります。処方箋や検査記録など「診療に関する諸記録」の保存期間は2年間で、診療録の5年間と区別して覚えておきましょう。入院中に変化がない日であっても「変化がない」という判断は重要な臨床情報であり、SOAP形式で所見と根拠を記載すべきで、省略はできません。カルテを公的文書として正しく書く習慣は、医療安全と患者との信頼関係を支える臨床の基本です。

解答・解説

正解はeです

診療録(カルテ)は、医師が行った診療の内容を記録する公的な文書であり、医師法によって作成と保存が義務づけられている。医師法第24条では、医師は診療をしたときは遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならないとされ、その診療録は病院・診療所の管理者(それ以外の場で診療した場合は医師本人)が5年間保存しなければならないと定められている。記載すべき具体的事項は医師法施行規則に列挙されている。 診療録は、①患者に継続的で質の高い医療を提供するための情報共有の手段、②診療内容の証拠(医療訴訟などでの法的証拠)、③保険診療における診療報酬請求の根拠、④教育・研究・医療の質評価の資料、といった多くの役割を担う。そのため「いつ・誰が・何を観察し・どう判断し・何をしたか」を正確に、改ざんできない形で残すことが求められる。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。入院中に患者の状態に変化がなかったとしても、「変化がない」という観察結果そのものが重要な臨床情報であり、記載を省略すると診療の事実が残らない。したがって「変化がない日は記載を省略できる」という記述が誤りとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  傷病名を記載する。

    正しい記述であり、本問の正解ではない。医師法施行規則では、診療録の記載事項として、①診療を受けた者の住所・氏名・性別・年齢、②病名および主要症状、③治療方法(処方および処置)、④診療の年月日、が定められている。傷病名はこの法定記載事項に含まれる。

  2. ×b.  記載者を明らかにする。

    正しい記述であり、本問の正解ではない。診療録は誰がその判断・行為を行ったのかを明確にし、記載内容への責任の所在を示す必要がある。紙の診療録では署名などで、電子カルテではログインした利用者の識別情報によって記載者を特定する。研修医や医師事務作業補助者(医療クラーク)が代行入力した場合も、記載者と確認・承認した医師が分かるようにしておくことが求められている。

  3. ×c.  修正する場合は履歴を残す。

    正しい記述であり、本問の正解ではない。診療録は改ざんを防ぎ、証拠としての信頼性を保つ必要があるため、修正前の内容が確認できるように訂正する。紙の診療録では、消せない筆記具(ボールペンなど)で記載し、訂正時は修正液や修正テープを使わずに二重線で消して、訂正者の署名・訂正印と訂正日時を添える。電子カルテでも、更新前の記録と修正者・修正日時が履歴として保持される仕組みが求められる(真正性の確保)。

  4. ×d.  診療完結日から5年間保存する。

    正しい記述であり、本問の正解ではない。医師法第24条で診療録の保存期間は5年間と定められている。保険医療機関では、保険医療機関及び保険医療養担当規則(療養担当規則)により、その完結の日から5年間保存することが規定されている。なお、処方箋・手術記録・検査所見記録・エックス線写真・看護記録などの「診療に関する諸記録」は医療法施行規則により2年間の保存とされ、診療録とは保存期間が異なる点に注意する。

  5. ○e.  入院中変化がない日は記載を省略できる。

    誤った記述であり、本問の正解である。医師法は診療をしたときは遅滞なく記載することを求めており、入院患者を診察した以上、その日の所見と判断を記録する必要がある。「症状・所見に変化がない」「経過良好」といった評価は、患者の状態を示す重要な情報であり、記載がなければ診察した事実自体が証明できず、医療安全上も法的にも問題となる。変化がない日でも、変化がない旨とその根拠となる所見を記載しなければならない。

診療録に関する主な法的規定

・作成義務:医師法第24条(歯科医師は歯科医師法第23条)。診療をしたときは遅滞なく記載する。 ・保存義務:5年間。病院・診療所に勤務する医師の診療録は管理者が、それ以外は医師本人が保存する。 ・法定記載事項(医師法施行規則):診療を受けた者の住所・氏名・性別・年齢、病名および主要症状、治療方法(処方および処置)、診療の年月日。 ・診療に関する諸記録(病院日誌、各科診療日誌、処方箋、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、入院患者・外来患者の数を明らかにする帳簿、入院診療計画書など)は医療法施行規則で2年間の保存。

電子カルテ(電子保存)の3原則

診療録を電子媒体で保存する場合、以下の3条件を満たす必要がある。 ・真正性:記載者・記載日時が明確で、虚偽入力・書き換え・消去が防止され、修正履歴が残ること。 ・見読性:必要なときに直ちに肉眼で読める状態(画面表示・印刷)にできること。 ・保存性:法定の保存期間中、復元可能な状態で保存されること。

POMR(問題志向型診療記録)とSOAP

診療録の記載方式として、患者の問題点ごとに整理して記録するPOMR(problem-oriented medical record)が広く用いられる。経過記録は以下のSOAP形式で記載することが多い。 ・S(subjective):患者の訴えなどの主観的情報 ・O(objective):身体所見・検査結果などの客観的情報 ・A(assessment):評価・判断 ・P(plan):今後の診療計画(診断計画・治療計画・教育計画) 変化がない日も、このS・O・A・Pに沿って「変化なし」と判断した根拠を記載するのが望ましい。

診療録の開示

患者本人から開示を求められた場合、個人情報保護法に基づき原則として開示に応じる必要がある。

POINT

・診療録の作成・保存義務は医師法第24条に規定。保存期間は5年間(診療に関する諸記録は医療法施行規則で2年間)。 ・法定記載事項:住所・氏名・性別・年齢、病名・主要症状、治療方法(処方・処置)、診療年月日。 ・記載者を明示し、修正は修正前の内容が分かる形で履歴を残す(電子カルテは真正性・見読性・保存性)。 ・変化がない日も「変化がない」ことを記載する。記載の省略は不可。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。