「診断名」はどこに書く?―HIV感染症の症例で身につけるSOAPの振り分け
第120回医師国家試験 B問題 第40問
国試問題にチャレンジ
28歳の男性。発熱,乾性咳嗽および倦怠感を主訴に来院した。2週間前から38℃前後の発熱・倦怠感が続いており,乾性咳嗽も認めるようになったため受診した。半年間で6kgの体重減少を認めている。来院時,意識は清明。身長172cm,体重58kg。体温37.8℃。脈拍120/分,整。血圧118/60mmHg。呼吸数28/分。SpO2 90%(room air)。咽頭粘膜に白苔を認める。両側の背部でfine cracklesを聴取する。血液所見:赤血球340万,Hb 9.6g/dL,Ht 30%,白血球4,800,CD4陽性細胞数54/mm3(基準500~1,000),血小板20万。血液生化学所見:AST 28U/L,ALT 18U/L,LD 256U/L(基準124~222),尿素窒素40mg/dL,クレアチニン1.0mg/dL。HIV抗原・抗体陽性。血中HIV RNA定量検査も陽性であった。 この患者の入院診療録の問題指向型医療記録〈POMR〉におけるSOAPのassessment〈評価〉の記載に該当するのはどれか。
- a.酸素投与
- b.HIV感染症
- c.保健所への届出
- d.発熱,乾性咳嗽,倦怠感
- e.両側背部のfine crackles
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
POMRの経過記録はSOAP形式で書かれ、Sは患者の訴え(主訴・自覚症状・病歴)、Oは医療者が観察・測定した所見(バイタルサイン・身体所見・検査結果)、AはS・Oを統合した医療者の評価・判断、Pは検査・治療・教育の計画や届出などの手続きです。本症例では、HIV抗原・抗体やHIV RNA陽性、CD4低値といった客観的データを解釈して下した「HIV感染症」という診断がAに該当し、発熱・乾性咳嗽・倦怠感はS、fine cracklesはO、酸素投与と保健所への届出はPに入ります。HIV感染症は五類感染症(全数把握)で診断後7日以内の届出が必要であり、CD4が200/mm3未満で亜急性の発熱・乾性咳嗽・低酸素血症をみればニューモシスチス肺炎を考えます。「事実(S・O)」「解釈(A)」「行動(P)」を区別して記録する習慣は、他職種と思考を共有し、安全で一貫した診療を行うための基盤となります。
解答・解説
正解はbです
症例の整理
28歳の男性で、2週間続く38℃前後の発熱・倦怠感に乾性咳嗽が加わり受診した。半年で6kg(現体重58kgからみて約1割)の体重減少があり、慢性の消耗性病態がうかがえる。 身体所見では頻脈(120/分)、頻呼吸(28/分)、SpO2 90%(room air)と低酸素血症を認め、両側背部でfine crackles(捻髪音、間質性病変を示唆する細かい断続性ラ音)を聴取する。咽頭粘膜の白苔は口腔咽頭カンジダ症を疑わせ、細胞性免疫の低下を示唆する所見である。 検査ではCD4陽性T細胞数が54/mm3と著明に低下し、HIV抗原・抗体陽性、血中HIV RNA陽性からHIV感染症と確定できる。CD4が200/mm3未満で、亜急性の発熱・乾性咳嗽・低酸素血症・両側fine cracklesを呈し、LD軽度高値もあることから、ニューモシスチス肺炎(PCP)の合併が強く疑われ、AIDS発症の可能性が高い。尿素窒素40mg/dLに対しクレアチニン1.0mg/dLとBUN/Cr比が高く、脱水も考えられる。Hb 9.6g/dLの貧血もある。
設問の考え方
本問は診断そのものではなく、POMR(problem-oriented medical record:問題指向型医療記録)の経過記録をSOAP形式で書くとき、各情報がどの欄に入るかを問うている。 S(Subjective):患者が訴える主観的情報(主訴、自覚症状、病歴) O(Objective):医療者が得た客観的情報(バイタルサイン、身体所見、検査結果) A(Assessment):S・Oを踏まえた医療者の評価・判断(診断、鑑別診断、病態の解釈、重症度) P(Plan):今後の計画(検査計画、治療計画、患者教育、届出などの手続き) S・Oの情報を統合して「HIV感染症である」と判断した結果は、医療者の評価にあたるためAに記載する。
選択肢考察
- ×a. 酸素投与
SpO2 90%の低酸素血症に対してこれから行う治療であり、Plan(計画)のうち治療計画(therapeutic plan)に該当する。評価の結果として決めた行動はAではなくPに書く。
- ○b. HIV感染症
HIV抗原・抗体陽性、HIV RNA陽性、CD4低値という客観的データを医療者が解釈して下した診断であり、Assessment(評価)に記載する内容である。Aには確定診断のほか、「ニューモシスチス肺炎疑い」「口腔カンジダ症疑い」「脱水」など、病態の解釈や鑑別診断も記載される。
- ×c. 保健所への届出
HIV感染症(AIDSを含む)は感染症法の五類感染症(全数把握)で、診断した医師は7日以内に保健所長を経由して都道府県知事に届け出る義務がある。これは今後行う手続きであり、Plan(計画)に記載する。
- ×d. 発熱,乾性咳嗽,倦怠感
患者本人が訴える主訴・自覚症状であり、Subjective data(主観的データ)に記載する。なお、体温計で測定した「体温37.8℃」という値はOに入るが、「熱っぽい」という訴えや経過としての発熱はSに含まれる。
- ×e. 両側背部のfine crackles
医師が聴診によって得た身体所見であり、Objective data(客観的データ)に記載する。バイタルサインや血液検査結果、画像所見も同様にOに入る。
POMRの構成
POMRはWeedが提唱した診療記録の方式で、患者の問題点を中心に記録・整理する。おおむね次の要素からなる。 ①基礎データ(data base):主訴、現病歴、既往歴、家族歴、社会歴、身体所見、検査所見など ②問題リスト(problem list):抽出した問題点に番号を付けて列挙する(#1 HIV感染症、#2 呼吸不全 など) ③初期計画(initial plan):問題ごとに診断計画(Dx)、治療計画(Tx)、教育計画(Ex)を立てる ④経過記録(progress note):問題ごとにSOAP形式で記載する ⑤退院時要約(discharge summary) さらに、記録を見直して内容を評価・改善する監査(audit)が加わる。
SOAPの振り分けの例(本症例)
S:2週間前からの発熱・倦怠感、乾性咳嗽、半年で6kgの体重減少 O:体温37.8℃、脈拍120/分、呼吸数28/分、SpO2 90%、咽頭の白苔、両側背部fine crackles、CD4 54/mm3、HIV抗原・抗体陽性、HIV RNA陽性、BUN 40mg/dL A:HIV感染症、ニューモシスチス肺炎疑い(AIDS発症疑い)、口腔カンジダ症疑い、脱水 P:胸部CT・β-D-グルカン測定・喀痰や気管支肺胞洗浄液の検査(Dx)、酸素投与・ST合剤投与・補液(Tx)、病状説明(Ex)、保健所への届出
HIV感染症とAIDS指標疾患
CD4が低下するにつれて口腔咽頭カンジダ症などが出現し、200/mm3未満ではニューモシスチス肺炎、50/mm3未満ではサイトメガロウイルス感染症や非結核性抗酸菌症などの日和見感染症が起こりやすくなる。AIDS指標疾患を発症した時点でAIDSと診断される。ニューモシスチス肺炎はわが国で最も多いAIDS指標疾患である。
POINT
・S:患者の訴え(主訴・自覚症状・病歴) ・O:医療者が観察・測定した所見(バイタル、身体所見、検査結果) ・A:S・Oからの評価・判断(診断名、鑑別診断、病態の解釈) ・P:検査・治療・教育の計画、届出などの手続き ・HIV感染症は五類感染症(全数把握)で、診断後7日以内に届出が必要 ・CD4 200/mm3未満で亜急性の発熱・乾性咳嗽・低酸素血症ならニューモシスチス肺炎を考える
