StudyMed医師国家試験

85歳の「強い近視」は水晶体からのサイン―細隙灯で見抜く核白内障

第120回医師国家試験 B問題 第39問

国試問題にチャレンジ

第120回 B問題 第39問

85歳の女性。右眼の視力低下を主訴に来院した。右眼視力0.03(0.5×-6.5D)であった。右眼の細隙灯顕微鏡写真を下に示す。  この患者で異常をきたしている部位はどれか。

第120回 B問題 第39問の問題画像
  1. a.結膜
  2. b.虹彩
  3. c.水晶体
  4. d.硝子体
  5. e.視神経乳頭

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の視力低下を細隙灯顕微鏡写真から読み解き、異常のある「部位」を答える問題だ。注目してほしいのは2つ。視力表記の読み方と、写真のどこに光が当たって何が濁っているか、だよ。
医学生医学生
まず視力表記ですね。0.03の後ろのカッコは矯正視力でしたっけ。眼科のポリクリで習ったのに、いざ読むと自信がなくて。
ドクタードクター
そう、カッコの中が矯正視力。この場合はマイナス6.5ジオプターの凹レンズ、つまり近視用のレンズで矯正して0.5まで出る、という意味だ。ここから2つのことが読み取れる。強い近視があること、そしてレンズで矯正しても1.0に届かないことだ。
医学生医学生
矯正しても見えないなら、ピントの問題だけじゃなくて、光の通り道か網膜・視神経のどこかに異常があるということですね。
ドクタードクター
その通り。矯正視力の低下は「屈折異常以外の原因」を探すきっかけになる。では写真を見よう。瞳孔は散瞳されていて、斜めから入ったスリット光が水晶体を照らしている。水晶体の中心部、つまり核が黄色から褐色に濁っているのがわかるかな。結膜の充血や、虹彩の変形・癒着ははっきりしない。
医学生医学生
水晶体の中心が濁っているので白内障ですか。でも、85歳で-6.5Dの近視って、若い頃からの強度近視なんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。そこがこの問題のもう一つの鍵なんだ。核白内障では、水晶体の核が硬化して屈折率が上がる。すると眼全体の屈折力が強くなって近視側にずれる。これを核性近視と呼ぶ。もともとの近視もありうるけれど、この強い近視には核白内障による近視化が関わっていると考えられる。
医学生医学生
そういえば、祖母が「最近老眼鏡なしで新聞が読めるようになった」と言っていました。あれも白内障だったのかもしれません。
ドクタードクター
まさにそれが典型的な訴えだよ。患者さんは喜んでいることも多いけれど、実は核白内障の進行サインかもしれない。では、ほかの部位がなぜ違うかも確認しよう。まず結膜はどうかな。
医学生医学生
結膜の病気なら充血や翼状片みたいな変化が見えるはずですし、そもそも結膜炎で矯正視力が下がることは普通ないですよね。
ドクタードクター
そうだね。次に虹彩。虹彩炎なら毛様充血や前房の炎症細胞がみられたり、虹彩後癒着で瞳孔がいびつになったりする。この写真では瞳孔は正円に散瞳していて、そうした所見はない。
医学生医学生
硝子体と視神経乳頭は、そもそも細隙灯だけでは見えにくい場所ですよね。OSCEの眼底鏡の練習で、奥を見るには散瞳と別の器具が必要だと教わりました。
ドクタードクター
その通り。通常の細隙灯顕微鏡で観察できるのは主に前眼部、つまり眼瞼・結膜・角膜・前房・虹彩・水晶体だ。硝子体の詳細や視神経乳頭は、前置レンズを併用した観察や倒像鏡・直像鏡による眼底検査、OCTで評価する。硝子体出血や緑内障による乳頭陥凹拡大も視機能を障害するけれど、この写真と経過からはそれを示す根拠がない。
医学生医学生
前眼部の写真で、異常が写っているのは水晶体だけ。だから答えは水晶体ですね。
ドクタードクター
正解。整理すると、高齢者のゆっくり進む矯正視力低下、細隙灯での水晶体核の黄褐色混濁、そして近視化。すべてが加齢性の核白内障で説明できる。
医学生医学生
白内障には混濁の場所でいくつかタイプがあったと思います。後嚢下白内障はステロイドで出やすいんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。核白内障のほかに、皮質に楔状の混濁ができる皮質白内障、後嚢の直前が濁る後嚢下白内障がある。後嚢下白内障はステロイドの長期使用や糖尿病に多く、早い段階から視力低下やまぶしさが強く出やすい。原因としては加齢が最多だけれど、アトピー性皮膚炎、外傷、ぶどう膜炎、先天風疹なども押さえておこう。
医学生医学生
治療は手術ですよね。点眼薬では治らないんですか。
ドクタードクター
点眼薬は進行予防を目的に使われることがあるけれど、濁りを元に戻す効果は確立していない。生活に支障が出てきたら、超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行うのが標準だ。眼内レンズの度数を選ぶことで術後の屈折もある程度調整できるから、この方の強い近視も手術を機に変わりうる。臨床では、白内障だけで説明できない視力低下がないか、眼底や視神経もきちんと確認することが大切だよ。
医学生医学生
矯正視力が出ない原因を白内障だと決めつけず、加齢黄斑変性や緑内障も一緒に考えておく必要があるんですね。
ドクタードクター
その姿勢が大事だね。高齢者では複数の眼疾患が重なることも珍しくない。視力表記の意味と写真の読み方、この2つを押さえておけば、眼科の画像問題はぐっと解きやすくなるはずだ。

まとめ

高齢者の緩徐な矯正視力低下で、細隙灯顕微鏡写真に水晶体核の黄褐色混濁がみられれば加齢性の核白内障と考えられ、異常をきたしている部位は水晶体です。核白内障では核が硬化して屈折率が上がるため近視化(核性近視)をきたし、「老眼鏡なしで近くが見える」と訴えることもあります。細隙灯顕微鏡で主に評価するのは結膜・角膜・前房・虹彩・水晶体といった前眼部であり、硝子体や視神経乳頭の評価には眼底検査やOCTが必要です。白内障には核・皮質・後嚢下の各型があり、後嚢下白内障はステロイドや糖尿病と関連が深く、治療は超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術が標準です。視力表記から「矯正しても見えない」ことを読み取り、写真で混濁部位を特定する流れは、眼科の画像問題全般に通じる基本となります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・85歳の高齢女性が、右眼の視力低下を訴えて受診した。 ・右眼視力は裸眼0.03、-6.5D(ジオプター)の凹レンズで矯正して0.5である。「0.03(0.5×-6.5D)」は、裸眼視力0.03、-6.5Dの球面レンズで矯正すると0.5まで見えるという意味であり、強い近視があり、さらに矯正しても1.0に届かない(矯正視力の低下がある)ことを示す。 ・細隙灯顕微鏡写真では、瞳孔領の奥にある水晶体の中心部(核)が黄色〜褐色に濁って見え、核の硬化・混濁が認められる。結膜の充血や虹彩の異常、前房の炎症所見ははっきりしない。

診断へのプロセス

高齢者の緩徐な視力低下の原因としては、白内障、緑内障、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症などが挙がる。本症例では細隙灯顕微鏡で水晶体核の混濁が確認できるため、加齢性白内障(核白内障)と診断できる。 また、高齢になって近視が強くなること(近視化)も核白内障の特徴である。水晶体の核が硬化すると屈折率が上がって目の屈折力が強くなり、近視側にずれる(核性近視)。本症例の-6.5Dという強い近視も、核白内障による近視化が関与していると考えられ、矯正しても0.5までしか出ないのは水晶体混濁による透光性の低下のためである。 緑内障や急性緑内障発作を示唆する記載(眼圧上昇、視野障害、毛様充血、浅前房)や、ぶどう膜炎を示唆する毛様充血・前房内炎症もない。

設問の考え方

問われているのは異常の「部位」である。細隙灯顕微鏡で観察できるのは主に前眼部(眼瞼、結膜、角膜、前房、虹彩、水晶体)であり、写真で異常が認められるのは水晶体である。

選択肢考察

  1. ×a.  結膜

    結膜は眼瞼の裏面と眼球表面(強膜の前面)を覆う薄い粘膜である。結膜の異常であれば充血、浮腫、出血、増殖組織(翼状片など)がみられるが、本症例の写真ではそうした所見はない。また結膜疾患で矯正視力が低下することは通常ない。

  2. ×b.  虹彩

    虹彩の異常(虹彩炎、虹彩萎縮、虹彩後癒着、新生血管など)では、毛様充血や前房内の炎症細胞、瞳孔の変形・癒着などがみられる。本症例ではこのような所見はなく、瞳孔も正円で散瞳されており、虹彩に異常は認められない。

  3. ○c.  水晶体

    細隙灯顕微鏡写真で水晶体の中心部(核)が黄褐色に混濁しており、加齢性の核白内障と判断できる。白内障は水晶体の透明性が失われる疾患で、矯正視力の低下、霧視、まぶしさ(羞明)をきたす。核白内障では核の屈折率が上がるため近視化が起こり、本症例の強い近視(-6.5D)と矯正視力低下(0.5)も水晶体の異常で説明できる。

  4. ×d.  硝子体

    硝子体は水晶体の後方で眼球内腔を満たすゲル状の組織である。硝子体出血や硝子体混濁でも視力は低下するが、通常の細隙灯顕微鏡写真では前部硝子体の一部しか見えず、その詳細を評価するには散瞳下の眼底検査や前置レンズ・眼底レンズを併用した観察、超音波検査などが必要である。本問の写真と経過からは硝子体の異常を示す根拠はない。

  5. ×e.  視神経乳頭

    視神経乳頭は眼底にあり、緑内障による乳頭陥凹拡大や乳頭浮腫などは眼底検査(検眼鏡や前置レンズを用いた観察、眼底写真、OCT)で評価する。前眼部を写した細隙灯顕微鏡写真では観察できず、本症例で視神経乳頭の異常を示唆する所見(眼圧上昇や視野異常など)の記載もない。

白内障の概要

・水晶体が混濁して透光性が低下する疾患で、最も多いのは加齢性白内障である。その他、糖尿病、ステロイド薬の長期使用、アトピー性皮膚炎、外傷、ぶどう膜炎、先天性(風疹など)などが原因となる。 ・症状は緩徐に進行する視力低下、霧視、羞明(まぶしさ)、単眼複視などで、痛みや充血は伴わない。

混濁部位による分類

・核白内障:水晶体中央の核が硬化・黄褐色化する。屈折率の上昇により近視化をきたし、「老眼鏡なしで近くが見えるようになった」と訴えることもある。 ・皮質白内障:周辺の皮質に楔状の混濁が生じる。混濁が瞳孔領にかかるまで視力は保たれやすい。 ・後囊下白内障:水晶体後囊の直前に混濁が生じる。ステロイド白内障や糖尿病に多く、早期から視力低下や羞明が強い。

検査

・細隙灯顕微鏡検査:細い光の束(スリット光)を斜めから当てて、角膜・前房・虹彩・水晶体などの前眼部を立体的・断面的に観察する。散瞳すると水晶体の混濁を評価しやすい。 ・硝子体・網膜・視神経乳頭の観察には、散瞳下で前置レンズを併用した細隙灯顕微鏡検査、倒像鏡・直像鏡による眼底検査、OCT(光干渉断層計)などを用いる。

治療

・薬物(点眼)は進行予防を目的とするが、混濁を改善させる効果は確立していない。 ・視力低下により日常生活に支障がある場合は手術を行う。現在の標準術式は超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術である。眼内レンズの度数を選ぶことで術後の屈折(近視・遠視)も調整できる。

視力表記の読み方

・「0.03(0.5×-6.5D)」は、裸眼視力0.03、-6.5Dの凹レンズ(近視矯正)による矯正視力0.5を表す。矯正視力が低い場合は、屈折異常以外の原因(白内障、網膜疾患、視神経疾患など)を考える。

POINT

・高齢者の緩徐な矯正視力低下+細隙灯顕微鏡で水晶体混濁=加齢性白内障。 ・核白内障では水晶体核の屈折率上昇により近視化する(核性近視)。 ・細隙灯顕微鏡は前眼部(結膜・角膜・前房・虹彩・水晶体)の観察に用いる。硝子体・網膜・視神経乳頭は眼底検査で評価する。 ・白内障の治療は超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。