StudyMed医師国家試験

減っても戻らない細胞を数える―白内障術前のスペキュラーマイクロスコピー

第111回医師国家試験 G問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第111回 G問題 第16問

白内障手術の術前にスペキュラーマイクロスコピーで観察するのはどれか。

  1. a.結膜杯細胞
  2. b.角膜内皮細胞
  3. c.水晶体上皮細胞
  4. d.硝子体細胞
  5. e.網膜色素上皮細胞

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は白内障手術の術前検査がテーマだ。スペキュラーマイクロスコピーという装置が「何を見ているのか」、そしてなぜそれを手術の前に確認する必要があるのかを考えてみよう。名前のspecularは「鏡面の」という意味で、鏡のような反射を利用して観察する装置なんだ。
医学生医学生
鏡面反射を使うということは、光をよく反射する境界面を見ているんでしょうか。眼の中だと角膜か水晶体の表面あたりかなと思います。
ドクタードクター
いい推論だね。正解は角膜内皮細胞だ。角膜の一番内側にある内皮と前房水の境界面で反射した光をとらえると、六角形の細胞が敷石状に並ぶ像が非侵襲的に撮れる。そこから細胞密度、細胞の大小不同、六角形細胞の割合などを数値で評価できるんだ。
医学生医学生
角膜は外から上皮、Bowman層、実質、Descemet膜、内皮の5層でしたよね。組織学の実習で覚えました。でも、なぜわざわざ内皮だけを術前に調べるんですか。
ドクタードクター
そこが一番大事なところ。角膜内皮細胞は、ヒトでは生体内でほとんど分裂・増殖しない。加齢や手術、炎症、外傷などで脱落しても、周りの細胞が伸びて広がり隙間を埋めるだけで、細胞の数そのものは回復しないんだ。
医学生医学生
上皮みたいにどんどん入れ替わるわけではないんですね。数が減ると具体的に何が困るんですか。
ドクタードクター
角膜内皮には、角膜実質から前房へ水を汲み出すポンプ機能と、前房水が入り込むのを防ぐバリア機能がある。これで角膜はやや脱水状態に保たれて透明性を維持している。内皮細胞が一定以下に減るとこの仕組みが破綻して角膜がむくみ、混濁して水疱性角膜症に陥るんだ。
医学生医学生
白内障手術は前房の中で器具を動かすので、そのときに内皮が傷つくということですね。
ドクタードクター
その通り。超音波水晶体乳化吸引術では、超音波のエネルギーや灌流液の流れが内皮細胞を傷害するから、術後には必ずある程度減少する。もともと少ない眼だと、手術をきっかけに角膜が濁ってしまうおそれがある。だから術前に密度を測り、リスクの評価や粘弾性物質の選択、患者さんへの説明に役立てるんだ。
医学生医学生
目安の数値はどれくらいでしょうか。
ドクタードクター
健常成人ではおおむね2,500〜3,000個/mm2程度で、加齢とともに少しずつ減っていく。おおむね400〜500個/mm2を下回ると透明性を保てなくなり、水疱性角膜症を起こしやすい。術前にたとえば1,000個/mm2未満なら、術後の角膜代償不全のリスクが高いと考えて慎重に対応する。ではほかの選択肢も確認しよう。結膜杯細胞はどうかな。
医学生医学生
結膜杯細胞はムチンを出して涙液を安定させる細胞で、ドライアイと関係があったと思います。
ドクタードクター
そうだね。評価には結膜表面にフィルターを当てて細胞を採取するインプレッションサイトロジーなどを使う。スペキュラーマイクロスコピーの対象ではないし、白内障の術前に通常調べるものでもない。
医学生医学生
水晶体上皮細胞は、白内障手術にいちばん関係がありそうなので少し迷いました。
ドクタードクター
気持ちはわかるよ。水晶体上皮細胞は前嚢の内側に並ぶ細胞で、術後に残ると増殖して後発白内障の原因になる。ただ、角膜より奥にある水晶体内部の細胞をこの装置で術前に観察することはできない。水晶体の混濁の程度は細隙灯顕微鏡で評価するんだ。
医学生医学生
硝子体や網膜色素上皮はさらに奥なので、なおさら見えませんね。
ドクタードクター
その通り。硝子体はほとんどが水とコラーゲン線維、ヒアルロン酸からなるゲルで、細胞成分はごくわずかだ。中の炎症細胞や出血は細隙灯顕微鏡、眼底検査、超音波Bモードなどで評価する。網膜色素上皮は網膜の最外層にあって、眼底検査や光干渉断層計、蛍光眼底造影で調べる。
医学生医学生
眼科の実習では、術前に眼軸長や角膜曲率も測っていました。あれは眼内レンズの度数を決めるためですよね。
ドクタードクター
よく見ていたね。白内障の術前には、視力・眼圧、細隙灯顕微鏡、眼底検査、眼軸長と角膜曲率の測定、そして角膜内皮細胞の検査をセットで行う。内皮細胞を減らす要因としては、加齢や内眼手術のほか、ぶどう膜炎、外傷、急性緑内障発作、Fuchs角膜内皮ジストロフィ、コンタクトレンズの長期装用なども覚えておこう。
医学生医学生
もし水疱性角膜症になってしまったら、治療はどうするんですか。
ドクタードクター
根本的な治療は角膜移植だ。最近は角膜全層ではなく、傷んだ内皮だけを置き換える角膜内皮移植(DSAEKやDMEK)が主流になっている。「再生しない細胞だから、減らさない工夫と術前の把握が大切」というのが、この問題の根底にある考え方だね。

まとめ

スペキュラーマイクロスコピーは、角膜内皮と前房水の境界面での鏡面反射を利用して、角膜内皮細胞の密度や形態を非侵襲的に評価する検査です。角膜内皮細胞はヒトではほとんど再生せず、ポンプ機能とバリア機能によって角膜の透明性を保っているため、密度がおおむね400〜500個/mm2を下回ると水疱性角膜症を生じやすくなります。白内障手術では超音波エネルギーや灌流によって内皮細胞が必ず減少するため、術前に内皮細胞密度を測定してリスクを評価することが欠かせません。結膜杯細胞、水晶体上皮細胞、硝子体細胞、網膜色素上皮細胞はこの装置の観察対象ではなく、それぞれ別の検査で評価します。「再生しない細胞を守る」という視点は、内眼手術全般の術前評価や術後合併症の理解につながります。

解答・解説

正解はbです

スペキュラーマイクロスコピー(角膜内皮細胞撮影装置、specular microscope)は、角膜の最も内側にある角膜内皮細胞を、鏡面反射(specular reflection)を利用して非侵襲的に撮影する検査である。角膜内皮と前房水の境界面で反射した光をとらえることで、六角形の内皮細胞が敷石状に並ぶ像が得られ、細胞密度(個/mm2)、細胞面積の変動係数(大小不同)、六角形細胞の出現率(形態の乱れ)などを定量できる。 角膜内皮細胞はヒトでは生体内でほとんど分裂・増殖しない。そのため、加齢や手術・炎症・外傷などで脱落した分は、周囲の細胞が伸展・拡大して隙間を埋めるだけで、細胞数は回復しない。角膜内皮には、角膜実質から前房へ水を汲み出すポンプ機能(Na+/K+-ATPaseなど)と、前房水の流入を抑えるバリア機能があり、これによって角膜は脱水状態に保たれ透明性を維持している。内皮細胞密度が一定以下に減ると角膜が浮腫を起こし、混濁した状態(水疱性角膜症)に陥る。 白内障手術(超音波水晶体乳化吸引術など)は前房内で器具を操作し、超音波エネルギーや灌流液の流れが内皮細胞を傷害するため、術後に内皮細胞が減少する。術前に内皮細胞密度を確認しておくことは、術後の水疱性角膜症のリスク評価、術式や粘弾性物質の選択、患者への説明のために必須である。したがって、白内障手術の術前にスペキュラーマイクロスコピーで観察する対象は角膜内皮細胞である。

選択肢考察

  1. ×a.  結膜杯細胞

    結膜杯細胞はムチンを分泌して涙液層の安定化に関わる細胞である。評価には結膜の擦過やインプレッションサイトロジー(結膜表面にフィルターを当てて細胞を採取し染色する方法)が用いられ、ドライアイなどの眼表面疾患で調べられる。スペキュラーマイクロスコピーの観察対象ではなく、白内障の術前検査として通常評価するものでもない。

  2. ○b.  角膜内皮細胞

    スペキュラーマイクロスコピーは角膜内皮面からの鏡面反射像を撮影し、角膜内皮細胞の密度や形態を評価する装置である。角膜内皮細胞は再生能をほとんどもたず、白内障手術で必ずある程度減少する。術前の内皮細胞密度が低い眼では術後に角膜浮腫・水疱性角膜症を起こすおそれがあるため、術前に必ず測定する。

  3. ×c.  水晶体上皮細胞

    水晶体上皮細胞は水晶体前嚢の内側に一層に並ぶ細胞で、術後に残存すると増殖して後発白内障(後嚢混濁)の原因となる。しかし、角膜の後方にある水晶体内部の細胞を術前にスペキュラーマイクロスコピーで観察することはできず、術前評価の対象でもない。水晶体の混濁の程度は細隙灯顕微鏡で評価する。

  4. ×d.  硝子体細胞

    硝子体は大部分が水とコラーゲン線維・ヒアルロン酸からなるゲルで、細胞成分はごくわずか(硝子体細胞=ヒアロサイト)である。硝子体中の炎症細胞や出血は細隙灯顕微鏡・眼底検査・超音波Bモードなどで評価するもので、スペキュラーマイクロスコピーでは観察できない。

  5. ×e.  網膜色素上皮細胞

    網膜色素上皮は網膜の最外層にある細胞層であり、評価には眼底検査、光干渉断層計(OCT)、蛍光眼底造影、眼底自発蛍光などを用いる。眼球後部にある構造であり、スペキュラーマイクロスコピーの観察対象ではない。

角膜の構造

角膜は前方から、上皮・Bowman層・実質・Descemet膜・内皮の5層からなる(Descemet膜と実質の間にDua層を加える考え方もある)。内皮は一層の六角形細胞からなる。

角膜内皮細胞密度のおおよその目安

・出生時は約3,000〜4,000個/mm2と多く、加齢とともに徐々に減少する。 ・健常成人ではおおむね2,500〜3,000個/mm2程度である。 ・密度が著しく低下し、おおむね400〜500個/mm2を下回ると角膜の透明性を維持できなくなり、水疱性角膜症を生じやすい。 ・術前に密度が低い(たとえば1,000個/mm2未満)場合は、内眼手術後の角膜代償不全のリスクが高いと考えて慎重に対応する。

角膜内皮細胞を減少させる要因

加齢、白内障手術などの内眼手術、ぶどう膜炎、外傷、急性緑内障発作、Fuchs角膜内皮ジストロフィ、コンタクトレンズの長期装用(酸素不足)など。

水疱性角膜症

内皮のポンプ機能不全により角膜実質と上皮に浮腫が生じ、上皮下に水疱を形成して視力低下や疼痛をきたす。根本的な治療は角膜移植であり、近年は内皮だけを置き換える角膜内皮移植(DSAEK、DMEK)が主流となっている。

白内障手術の主な術前検査

視力・眼圧、細隙灯顕微鏡検査、眼底検査、眼軸長測定・角膜曲率測定(眼内レンズ度数の決定)、角膜内皮細胞検査(スペキュラーマイクロスコピー)など。

POINT

・スペキュラーマイクロスコピー=角膜内皮細胞の密度・形態を観察する検査。 ・角膜内皮細胞はほとんど再生せず、内眼手術で減少する。 ・内皮細胞密度が著しく低下すると水疱性角膜症を生じるため、白内障手術前に必ず評価する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。