眼底は正常、でも見えない―「光の通り道」から読み解く加齢白内障
第119回医師国家試験 E問題 第30問
国試問題にチャレンジ
72歳の男性。右眼の視力低下を主訴に来院した。2年前に左眼が同様の症状となり,手術を受けたという。視力は右0.5(矯正不能),左1.0(矯正不能)。眼圧は右15mmHg,左14mmHg。右眼の細隙灯顕微鏡写真を下に示す。両眼とも眼底に異常を認めない。 右眼の疾患はどれか。

- a.内反症
- b.白内障
- c.円錐角膜
- d.急性緑内障発作
- e.原発開放隅角緑内障
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高齢者で痛みのない緩徐な視力低下が矯正で改善せず、眼圧・眼底が正常であれば、原因は網膜・視神経より手前の中間透光体にあり、まず白内障を考えます。細隙灯顕微鏡で水晶体の黄白色〜褐色調の混濁を確認でき、対側眼が先に同じ経過をたどって手術で回復していることも加齢白内障に典型的です。急性緑内障発作は高眼圧・浅前房・眼痛と充血、円錐角膜は若年者の角膜菲薄化・突出、内反症は睫毛による角膜障害が手がかりで、原発開放隅角緑内障は眼圧正常でも否定できず視神経乳頭陥凹の有無が決め手になります。治療は超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術で、術後の後発白内障にはNd:YAGレーザーで対応します。「矯正の可否」「眼底」「どの層の異常か」を順に確認する考え方は、視力低下を診るすべての場面の基本になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・72歳の高齢男性で、右眼の視力低下を訴えている。痛み・充血・頭痛などの急性症状の記載はない。 ・2年前に左眼にも同じ症状が出て手術を受け、現在の左眼視力は1.0と良好である。高齢者で両眼に順に生じ、手術で視力が回復する疾患として、まず加齢白内障が想起される。 ・右眼視力は0.5で、眼鏡などで矯正しても改善しない(矯正不能)。屈折異常(近視・遠視・乱視)だけでは説明できず、光の通り道(中間透光体:角膜・前房・水晶体・硝子体)の混濁か、網膜・視神経の障害を考える必要がある。 ・眼圧は右15 mmHg、左14 mmHgで、正常範囲(おおむね10〜21 mmHg)にある。 ・両眼とも眼底に異常はなく、網膜疾患や視神経乳頭の陥凹拡大(緑内障性変化)は否定的である。 ・細隙灯顕微鏡写真では、瞳孔領の奥にある水晶体が黄白色〜褐色調に混濁している。角膜の光切片は滑らかな弧を描いて厚さも保たれ、角膜と虹彩の間(前房)にも十分な深さがある。
診断へのプロセス
矯正しても改善しない視力低下があり、眼底には異常がない。したがって視力低下の原因は網膜・視神経より手前、すなわち中間透光体にある。写真で水晶体の混濁が確認できるので、原因は白内障であると判断できる。高齢であること、もう一方の眼が先に同じ経過をたどって手術(水晶体再建術)で視力が回復していることも、加齢白内障に合致する。
設問の考え方
各選択肢を、細隙灯顕微鏡所見(眼瞼・角膜・前房・水晶体のどこに異常があるか)、眼圧、眼底所見と照らし合わせて検討すると、すべての所見を矛盾なく説明できるのは白内障だけである。
選択肢考察
- ×a. 内反症
誤り。内反症(眼瞼内反症)は、まぶたの縁が眼球側へ倒れ込み、睫毛が角膜や結膜に触れる状態である。異物感・流涙・充血・角膜上皮障害を起こし、高齢者では下眼瞼の退行性内反が多い。写真では眼瞼の内反や睫毛による角膜障害はみられず、水晶体の混濁で生じた視力低下とは関係がない。
- ○b. 白内障
正しい。細隙灯顕微鏡で水晶体の黄白色〜褐色調の混濁が確認できる。視力低下は矯正で改善せず、眼底と眼圧は正常であり、視力低下は水晶体混濁で説明がつく。高齢で、対側眼が先に同じ症状となり手術で視力1.0まで回復した経過も、両眼に時期をずらして進行する加齢白内障に典型的である。治療は、超音波乳化吸引術で混濁した水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する手術である。
- ×c. 円錐角膜
誤り。円錐角膜は、角膜中央〜下方が薄くなって前方へ円錐状に突出する疾患である。思春期〜若年成人に発症・進行することが多く、強い不正乱視による視力低下を起こす。写真では角膜の光切片が整った弧を描き、角膜の菲薄化や突出は認められない。発症年齢も合わない。
- ×d. 急性緑内障発作
誤り。急性緑内障発作(急性原発閉塞隅角症・緑内障)は、隅角が急に閉塞して眼圧が著しく上昇する状態である(40〜50 mmHg以上になることも多い)。激しい眼痛・頭痛、悪心・嘔吐、結膜充血、角膜浮腫、中等度散瞳と対光反射の消失、浅前房を呈する。本例は眼圧15 mmHgで正常であり、写真上も前房は深く、角膜浮腫や充血などの急性炎症所見もないため否定される。
- ×e. 原発開放隅角緑内障
誤り。原発開放隅角緑内障は、隅角は開放しているが、視神経乳頭陥凹の拡大と、それに対応する視野欠損が慢性に進行する疾患である。日本では眼圧が正常範囲にとどまる正常眼圧緑内障が多いため、眼圧が正常というだけでは否定できない。しかし本例では眼底に異常がなく、視神経乳頭陥凹の拡大がないため否定される。また緑内障では中心視力は末期まで保たれやすく、矯正不能な視力低下と水晶体混濁は本症では説明できない。
白内障の概要
・水晶体が混濁した状態の総称で、最も多いのは加齢白内障である。ほかに先天白内障、外傷性白内障、併発白内障(ぶどう膜炎などによる)、糖尿病・アトピー性皮膚炎・副腎皮質ステロイド薬の長期使用・放射線曝露などによる白内障がある。 ・混濁の部位により、核白内障(水晶体中心部が黄褐色に硬化。近視化し、一時的に近くが見やすくなることがある)、皮質白内障(周辺部から楔状に混濁)、後嚢下白内障(後嚢の直前の混濁。ステロイド薬や糖尿病で多く、早い時期からまぶしさや視力低下が目立つ)に分けられる。 ・症状:徐々に進む霧視、視力低下、羞明(まぶしさ)、単眼複視など。痛みや充血は伴わない。 ・診断:散瞳したうえで細隙灯顕微鏡により水晶体の混濁を観察する。眼底が透見できる程度なら、網膜・視神経に他の病気がないかも確認する。 ・治療:生活に支障が出たら手術を行う。標準術式は超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術で、点眼薬で混濁を元に戻すことはできない。白内障手術は国内で最も多く行われている手術の一つである。 ・術後合併症:後発白内障(残した後嚢の混濁。Nd:YAGレーザーで後嚢を切開して治療)、眼内炎、嚢胞様黄斑浮腫、網膜剝離などがある。
矯正不能な視力低下の鑑別の考え方
・光の通り道の混濁:角膜混濁、前房出血、白内障、硝子体出血など ・網膜疾患:加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、網膜剝離など(眼底検査で判別) ・視神経疾患:視神経炎、進行した緑内障など(眼底・視野・対光反射で判別) 本例は眼底が正常で水晶体混濁があるため、白内障で説明できる。
緑内障との区別
・急性緑内障発作:急に起こる眼痛・頭痛・嘔吐、高眼圧、浅前房、中等度散瞳、角膜浮腫 ・原発開放隅角緑内障:自覚症状に乏しく、視神経乳頭陥凹の拡大と視野欠損が進む。日本では正常眼圧緑内障が多い。
POINT
・高齢者で、痛みのない緩徐な視力低下が矯正で改善せず、眼底が正常なら、まず白内障を考える。 ・細隙灯顕微鏡写真では、眼瞼・角膜・前房・水晶体のどこに異常があるかを順に確認する。 ・急性緑内障発作は高眼圧・浅前房・眼痛と充血、円錐角膜は若年者の角膜菲薄化・突出、原発開放隅角緑内障は視神経乳頭陥凹の拡大と視野欠損が手がかりである。 ・眼圧が正常でも緑内障は否定できない(正常眼圧緑内障)。緑内障を否定するには視神経乳頭所見が決め手になる。 ・白内障の治療は超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術である。
