胃の中のボタン電池は「待つ」か「取る」か―硬貨とは違う誤飲異物の危険性
第112回医師国家試験 D問題 第67問
国試問題にチャレンジ
4歳の女児。30分前にボタン電池を飲み込んだため父親に連れられて来院した。機嫌はよい。胸腹部エックス線写真で胃内にあることが確認された。 対応として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.胃洗浄
- b.開腹手術
- c.経過観察
- d.磁石による摘出
- e.内視鏡による摘出
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ボタン電池は消化管粘膜に接すると電流が流れ、陰極側に生じるアルカリによって短時間で潰瘍や穿孔を起こしうるため、硬貨のように自然排出を待つ異物とは区別して扱います。食道内にあれば緊急摘出、胃内にあれば透視下の磁石付きカテーテルによる回収をまず試み、困難なら内視鏡で摘出するのが基本で、幽門を越えたものはエックス線で移動を追いながら排出を確認します。胃洗浄は固形異物には無効で、開腹手術は回収不能や穿孔が疑われる場合に限られます。リチウム電池や複数個の磁石、鋭利な異物も危険度の高い誤飲物として押さえておきましょう。「何を」「どこに」で対応を決める考え方は、小児救急での異物誤飲対応全般の基本となります。
解答・解説
正解はd, eです
状況の整理
・4歳女児がボタン電池を誤飲し、30分後に来院した。 ・機嫌はよく、腹痛や嘔吐、流涎などの症状はない。 ・胸腹部エックス線写真でボタン電池は胃内にあり、すでに食道は通過している。
考え方
小児の誤飲異物の対応は、「何を飲んだか」と「どこにあるか」で決まる。ボタン電池は、消化管の粘膜に接すると電池から電流が流れ、陰極側で水酸化物イオンが生じて局所的にアルカリ性となり、粘膜を傷害する。さらに時間がたつと外装が腐食して内容物が漏れ出すこともある。このため、硬貨のような「放置して自然排出を待ってよい異物」とは区別して扱う。 食道に停滞している場合は短時間で潰瘍・穿孔をきたしうるため、緊急に摘出する。本例のように胃内にある場合は食道ほどの緊急性はないが、胃粘膜の損傷や電池崩壊の可能性を考えれば、取り出せる位置にあるうちに回収するのが望ましい。胃内のボタン電池は金属であるため、透視下に磁石付きカテーテルを挿入して吸着・回収する方法が侵襲が少なく、まず試みられる。磁石で回収できない場合や電池が大きい場合、粘膜損傷の評価が必要な場合などには内視鏡で摘出する。したがって、本問で適切な対応は磁石による摘出と内視鏡による摘出である。
選択肢考察
- ×a. 胃洗浄
胃洗浄は、毒性の強い薬物・化学物質を経口摂取した直後(おおむね1時間以内)に、胃内容を洗い流して吸収を減らす目的で行う処置である。しかも現在では、適応は生命を脅かす量の摂取に限られ、ルーチンでは行わない。ボタン電池のような固形物を洗浄液で胃の外へ流し出すことは困難であり、誤嚥などの合併症を考えると行う意義はない。
- ×b. 開腹手術
胃内にあって無症状の段階では、磁石や内視鏡という低侵襲な方法で回収できるため、最初から開腹手術を選ぶことはない。開腹手術が考慮されるのは、幽門を越えた電池が同じ部位に長く停滞して移動しない場合、内視鏡的に回収できない場合、あるいは強い腹痛や腹膜刺激症状などから消化管穿孔が疑われる場合である。
- ×c. 経過観察
胃内のボタン電池は電流による粘膜傷害や電池の腐食・内容物漏出によって潰瘍・穿孔を起こすおそれがあり、回収可能な位置にあるうちに取り出すのが望ましい。小さな電池が胃や腸にあり自然排出が期待できる場合に、通常の食事と下剤で排出を促しエックス線で追跡する方針がとられることもあるが、本問のように胃内にあって磁石や内視鏡で回収できる状況で、何もせず経過をみることは適切ではない。
- ○d. 磁石による摘出
ボタン電池は磁石に付く金属でできているため、胃内にある場合は先端に磁石の付いたカテーテルを経口的に挿入し、エックス線透視で位置を確認しながら電池を吸着させて引き抜くことができる。全身麻酔を必要とせず侵襲が少ないため、胃内のボタン電池に対してまず試みられる方法である。
- ○e. 内視鏡による摘出
磁石付きカテーテルで回収できない場合、電池が大きい場合、胃内に長時間とどまっている場合などには、内視鏡で直視下に把持して摘出する。小児では通常、全身麻酔下に行う。内視鏡では同時に粘膜のびらん・潰瘍の有無を確認できる利点もある。
誤飲異物の危険度と対応の原則
・ボタン電池:粘膜に接すると電流により陰極側でアルカリが生じ、短時間で組織を傷害する。リチウム電池(硬貨型で直径20 mm程度、電圧3 V)は電圧が高く径も大きいため食道に停滞しやすく、特に危険である。 ・磁石(複数個):腸管壁を挟んで互いに引き合い、圧迫壊死・穿孔・瘻孔をきたすため、早期の摘出が必要である。 ・鋭利な異物(針、画鋲など):穿孔の危険があり摘出を考慮する。 ・硬貨など鈍的で小さな異物:胃内にあれば多くは自然排出を待つ。
ボタン電池の部位別対応
・食道内:食道潰瘍・穿孔、気管食道瘻、大血管との瘻孔などの重篤な合併症を起こしうるため、直ちに(内視鏡などで)摘出する。 ・胃内:磁石付きカテーテルによる透視下摘出をまず試み、困難な場合は内視鏡で摘出する。 ・幽門通過後:多くは自然に排出されるため、エックス線で移動を確認しながら経過観察し、便中への排出を確かめる。同じ部位に停滞し続ける場合や腹痛・腹膜刺激症状が出現した場合は外科的処置を考慮する。
胃洗浄の位置づけ
・中毒診療における胃洗浄は、致死的な量の毒物を摂取して早期(おおむね1時間以内)の場合に限って検討される処置であり、固形の異物の除去には用いない。
POINT
・ボタン電池は電流によるアルカリ性の粘膜傷害を起こすため、通常の異物より積極的に摘出する。 ・食道内:緊急摘出。 ・胃内:磁石付きカテーテルで透視下に摘出、困難なら内視鏡で摘出。 ・幽門通過後:経過観察し排出を確認、停滞や穿孔徴候があれば外科的処置。 ・胃洗浄は固形異物には無効。
