肺を替えれば治る病、替えても治らない病―肺移植の適応を「免疫抑制」から読み解く
第112回医師国家試験 D問題 第15問
国試問題にチャレンジ
肺移植の適応となる疾患はどれか。3つ選べ。
- a.肺リンパ脈管筋腫症〈LAM〉
- b.特発性肺線維症〈IPF〉
- c.特発性肺動脈性肺高血圧症
- d.肺アスペルギルス症
- e.肺小細胞癌
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
肺移植は、内科的・外科的治療を尽くしても改善が見込めない進行性の慢性呼吸器疾患に対する最終的な治療であり、特発性肺線維症をはじめとする間質性肺炎、特発性肺動脈性肺高血圧症、肺リンパ脈管筋腫症、COPD、気管支拡張症、閉塞性細気管支炎などが適応となります。一方、移植後は生涯にわたり免疫抑制薬が必要なため、肺アスペルギルス症のような活動性の感染症や、肺小細胞癌のような治癒していない悪性腫瘍は、免疫抑制で増悪・再発するおそれが高く適応外です。肺動脈性肺高血圧症では通常両肺移植が、感染源を残せない気管支拡張症などでも両肺移植が選ばれ、日本ではドナー不足から生体肺移植も行われています。移植後は拒絶反応、特に慢性拒絶としての閉塞性細気管支炎症候群や感染症の管理が続きます。「移植で問題が解決し、免疫抑制に耐えられるか」という視点は、肺に限らず臓器移植全般の適応を理解する土台になります。
解答・解説
正解はa, b, cです
肺移植の適応疾患を問う問題である。 肺移植は、内科的・外科的治療を尽くしても改善が見込めず、余命が限られると予測される進行性の慢性呼吸器疾患に対する最終的な治療である。日本では関連学会の協議会が適応疾患を定めており、主なものとして以下がある。 ・肺動脈性肺高血圧症(特発性・遺伝性など) ・特発性間質性肺炎(特発性肺線維症を含む)、その他の間質性肺炎 ・肺リンパ脈管筋腫症〈LAM〉 ・肺気腫(慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉)、α1-アンチトリプシン欠損症 ・気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、閉塞性細気管支炎(造血幹細胞移植後肺障害を含む) ・嚢胞性線維症、肺ランゲルハンス細胞組織球症、じん肺、肺好酸球性肉芽腫症 など 一方、移植後は拒絶反応を防ぐために生涯にわたり免疫抑制薬を内服する必要がある。そのため、活動性の感染症(特に排除困難な真菌・抗酸菌感染)や悪性腫瘍は、免疫抑制によって増悪・再発するおそれが高く、原則として適応外(禁忌)となる。 考え方としては、「進行性で他に有効な治療がない非腫瘍性・非感染性の慢性肺疾患」が適応、「感染症」「悪性腫瘍」は免疫抑制下で悪化するため適応外、と整理すればよい。
選択肢考察
- ○a. 肺リンパ脈管筋腫症〈LAM〉
適応となる。LAM〈lymphangioleiomyomatosis〉は主に生殖可能年齢の女性に発症し、平滑筋様のLAM細胞が肺で増殖して多数の薄壁嚢胞を形成する疾患である。気胸を繰り返しながら呼吸不全が進行する。mTOR阻害薬シロリムスで進行を遅らせることはできるが、根治はできない。進行して呼吸不全に陥った例は肺移植の適応であり、日本ではLAMは肺移植の主要な原疾患の一つである。
- ○b. 特発性肺線維症〈IPF〉
適応となる。IPF〈idiopathic pulmonary fibrosis〉は原因不明の進行性の肺線維化疾患で、診断後の平均生存期間は数年と予後不良である。抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)は肺機能低下の速度を緩めるのみで、病変を元に戻すことはできない。進行した例は肺移植の適応となり、間質性肺炎は日本の肺移植の原疾患として最も多いものの一つである。
- ○c. 特発性肺動脈性肺高血圧症
適応となる。特発性肺動脈性肺高血圧症は肺の細い動脈の内腔が狭くなって肺動脈圧が上昇し、右心不全をきたす疾患である。プロスタサイクリン製剤、エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬などの肺血管拡張薬の併用療法を行っても重症の右心不全が改善しない例は、肺移植(通常は両肺移植。右心機能の回復が見込めない場合などには心肺移植)の適応となる。
- ×d. 肺アスペルギルス症
適応とならない。肺アスペルギルス症は真菌感染症であり、治療の基本は抗真菌薬(ボリコナゾールなど)の投与、限局例では外科的切除である。移植後の免疫抑制下では侵襲性アスペルギルス症として播種・増悪し致死的となる危険が高く、活動性の真菌感染はむしろ肺移植の禁忌に当たる。
- ×e. 肺小細胞癌
適応とならない。肺小細胞癌は増殖が速く、診断時にすでに遠隔転移していることが多い悪性腫瘍で、治療の中心は化学療法(限局型では放射線療法を併用)である。悪性腫瘍は移植後の免疫抑制によって再発・進行が促進されるため、肺移植の適応外である。肺癌を移植によって治療することは行われない。
肺移植の術式
・脳死片肺移植:片側の肺を移植する。LAMや間質性肺炎などで行われる。 ・脳死両肺移植:両側の肺を移植する。肺高血圧症や、感染源を残さないため両肺の置換が必要な気管支拡張症・嚢胞性線維症などで選択される。 ・生体肺移植:2人の健康なドナーからそれぞれ肺葉(下葉など)の提供を受けて両側に移植する。日本では脳死ドナー不足のため比較的多く行われ、間質性肺炎、肺高血圧症、造血幹細胞移植後の閉塞性細気管支炎などが対象となる。 ・心肺移植:心臓と両肺を同時に移植する。心臓の先天異常を伴う肺高血圧症(アイゼンメンジャー症候群など)が主な対象である。
主な除外条件
・活動性の感染症(排除困難な真菌・抗酸菌感染など) ・悪性腫瘍(治癒していないもの) ・肺以外の重要臓器(腎、肝、心など)の重篤な機能障害 ・喫煙、薬物依存、服薬アドヒアランスが期待できない場合 ・高齢(日本では両肺移植は55歳未満、片肺移植は60歳未満が目安とされている)
移植後の問題
拒絶反応(急性拒絶、慢性拒絶としての閉塞性細気管支炎症候群〈BOS〉など)、免疫抑制に伴う感染症、薬剤の副作用などが主な合併症である。
POINT
・肺移植の適応:他に有効な治療がない進行性の慢性呼吸器疾患(間質性肺炎・IPF、肺動脈性肺高血圧症、LAM、COPD、気管支拡張症、閉塞性細気管支炎など) ・適応外:活動性の感染症(肺アスペルギルス症など)と悪性腫瘍(肺癌など)。移植後の免疫抑制で増悪するため ・LAMは若年女性、多発性の薄壁嚢胞、気胸の反復が特徴。治療はシロリムス、進行例は肺移植
