「乾性」「巨大乳頭」「フリクテン」は何を語る?―病名から原因を読み解く角結膜のウイルス性疾患
第112回医師国家試験 D問題 第13問
国試問題にチャレンジ
角結膜のウイルス性疾患はどれか。2つ選べ。
- a.乾性角結膜炎
- b.樹枝状角膜炎
- c.流行性角結膜炎
- d.巨大乳頭結膜炎
- e.フリクテン性角結膜炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
角結膜の炎症は、感染性・アレルギー/免疫性・涙液異常・機械的刺激など原因別に整理すると理解しやすくなります。ウイルス性の代表は、単純ヘルペスウイルスによる樹枝状角膜炎(terminal bulb、角膜知覚低下、アシクロビル眼軟膏で治療しステロイド点眼は禁忌)と、アデノウイルスによる流行性角結膜炎(耳前リンパ節腫脹、角膜上皮下混濁、院内感染に注意、学校保健安全法第三種)です。一方、乾性角結膜炎はドライアイ、巨大乳頭結膜炎はコンタクトレンズなどの刺激とアレルギー、フリクテン性角結膜炎は細菌抗原への遅延型過敏反応によるもので、病名そのものが病態を表しています。眼脂の性状や濾胞・リンパ節腫脹の有無で原因を推定する視点は、日常診療で頻繁に出会う「赤い目」を適切に評価し、感染拡大やステロイドの誤用を防ぐための基本となります。
解答・解説
正解はb, cです
角膜・結膜の炎症は、原因によって大きく、感染性(ウイルス・細菌・真菌・アカントアメーバなど)、アレルギー性・免疫性、涙液の異常(ドライアイ)、機械的刺激などに分けられる。本問は、病名からその原因を思い浮かべ、ウイルスが原因の疾患を2つ選ぶ問題である。 各疾患の原因を整理すると次のようになる。 ・乾性角結膜炎:涙液の量・質の異常(ドライアイ) ・樹枝状角膜炎:単純ヘルペスウイルス(ウイルス性) ・流行性角結膜炎:アデノウイルス(ウイルス性) ・巨大乳頭結膜炎:コンタクトレンズなどの機械的刺激とアレルギー反応 ・フリクテン性角結膜炎:細菌抗原などに対する遅延型過敏反応 したがって、ウイルス性疾患は樹枝状角膜炎と流行性角結膜炎である。病名に含まれる「乾性」「巨大乳頭」「フリクテン」といった語は、病態や所見を表している点に着目するとよい。
選択肢考察
- ×a. 乾性角結膜炎
誤り。乾性角結膜炎はドライアイに伴って角膜・結膜の表面が障害された状態であり、ウイルス感染によるものではない。涙液の分泌量の低下(Sjögren症候群、加齢など)や、涙液の蒸発亢進(マイボーム腺機能不全、VDT作業での瞬目減少など)により眼表面が乾燥し、異物感、乾燥感、眼精疲労、充血などを生じる。Schirmer試験(涙液分泌量の測定)、涙液層破壊時間(BUT)の短縮、フルオレセイン染色やローズベンガル染色・リサミングリーン染色による角結膜上皮障害の評価で診断する。
- ○b. 樹枝状角膜炎
正しい。樹枝状角膜炎は、単純ヘルペスウイルス(主に1型)による上皮型角膜ヘルペスの典型像である。三叉神経節に潜伏していたウイルスが、発熱、紫外線、ストレス、免疫低下などを契機に再活性化し、角膜上皮で増殖して発症する。フルオレセイン染色で、枝分かれした潰瘍の先端が膨らんだ形(terminal bulb)を示す樹枝状の病変がみられるのが特徴である。角膜知覚の低下を伴うことが多い。治療はアシクロビル眼軟膏などの抗ウイルス薬で、副腎皮質ステロイドの点眼は上皮型病変を悪化させ地図状潰瘍へ進展させるため禁忌である。再発を繰り返すと実質型角膜炎となり、角膜混濁や視力低下の原因となる。
- ○c. 流行性角結膜炎
正しい。流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis:EKC)はアデノウイルス(主に8型、37型、54型、旧19型として分類されていた64型など)による感染症で、「はやり目」とも呼ばれる。潜伏期は1〜2週間程度で、急性の充血、流涙、眼脂、眼瞼腫脹、結膜の濾胞形成、耳前リンパ節の腫脹・圧痛がみられる。発症後1〜2週ごろから角膜上皮下に点状の混濁(多発性角膜上皮下浸潤)が生じることがある。手指やタオル、眼科器具を介した接触感染で院内感染を起こしやすく、学校保健安全法では第三種の感染症として、医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止となる。迅速診断キット(イムノクロマト法)が用いられる。特効的な抗ウイルス薬はなく、細菌の混合感染予防の抗菌薬点眼や、角膜上皮下浸潤に対する低濃度ステロイド点眼などの対症療法を行う。
- ×d. 巨大乳頭結膜炎
誤り。巨大乳頭結膜炎は、ソフトコンタクトレンズ(特にレンズ表面の汚れ)、義眼、手術の縫合糸などによる機械的刺激と、それに付着したタンパクなどへのアレルギー反応によって、上眼瞼結膜に直径1mm以上の大きな乳頭が形成される疾患である。アレルギー性結膜疾患の一型に分類され、ウイルス感染とは関係がない。かゆみ、眼脂、レンズの汚れ・ずれなどを訴え、治療はコンタクトレンズの中止や変更、抗アレルギー薬の点眼などである。
- ×e. フリクテン性角結膜炎
誤り。フリクテン性角結膜炎は、細菌の菌体成分などに対する遅延型(Ⅳ型)過敏反応により、角膜輪部付近の結膜や角膜に小さな隆起性の結節(フリクテン)が生じる疾患である。現在は黄色ブドウ球菌やアクネ菌(Cutibacterium acnes)などの抗原が主な原因と考えられ、眼瞼縁炎やマイボーム腺炎を伴うことが多い。かつては結核菌のタンパクに対する反応として知られていた。感染症そのものではなく免疫反応であり、ウイルスによるものではない。
原因別にみた主な角結膜疾患
・ウイルス性:流行性角結膜炎(アデノウイルス8・37・54型など)、咽頭結膜熱(アデノウイルス3型など、プール熱)、急性出血性結膜炎(エンテロウイルス70型、コクサッキーウイルスA24変異型)、角膜ヘルペス(単純ヘルペスウイルス)、眼部帯状疱疹(水痘・帯状疱疹ウイルス、偽樹枝状病変を示すことがある) ・細菌性:細菌性結膜炎(インフルエンザ菌、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌など)、淋菌性結膜炎、細菌性角膜潰瘍(緑膿菌など) ・クラミジア:封入体結膜炎、トラコーマ ・真菌:角膜真菌症(植物による外傷、ステロイド使用歴) ・原虫:アカントアメーバ角膜炎(コンタクトレンズの不適切な管理、放射状角膜神経炎、強い眼痛) ・アレルギー・免疫:アレルギー性結膜炎、春季カタル、アトピー性角結膜炎、巨大乳頭結膜炎、フリクテン性角結膜炎 ・その他:ドライアイ(乾性角結膜炎)
学校保健安全法での扱い
流行性角結膜炎と急性出血性結膜炎は第三種の感染症で、医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止となる。咽頭結膜熱は第二種で、主要症状が消退した後2日を経過するまで出席停止となる。
ウイルス性結膜炎の見分け方
ウイルス性結膜炎では、漿液性〜線維素性の眼脂、結膜の濾胞形成、耳前リンパ節腫脹が特徴であり、細菌性結膜炎の膿性眼脂や、アレルギー性結膜炎の強いかゆみと対比して覚える。
POINT
・樹枝状角膜炎=単純ヘルペスウイルス(上皮型角膜ヘルペス)。terminal bulbが特徴、ステロイド点眼は禁忌、治療はアシクロビル眼軟膏。 ・流行性角結膜炎=アデノウイルス(8・37・54型など)。耳前リンパ節腫脹、角膜上皮下浸潤、院内感染に注意、学校保健安全法第三種。 ・乾性角結膜炎=ドライアイ、巨大乳頭結膜炎=コンタクトレンズ等による刺激とアレルギー、フリクテン=細菌抗原への遅延型過敏反応。
