「3P」と「多発」で読み解くMEN1―副甲状腺は過形成、膵はガストリノーマ
第112回医師国家試験 D問題 第12問
国試問題にチャレンジ
多発性内分泌腫瘍症〈MEN〉Ⅰ型について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.副甲状腺病変は過形成を示す。
- b.膵消化管病変は単発性である。
- c.常染色体劣性遺伝性疾患である。
- d.膵内分泌腫瘍はガストリノーマが最も多い。
- e.下垂体腺腫は成長ホルモン産生腺腫が最も多い。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
MEN1は副甲状腺・下垂体・膵消化管に病変を生じる「3P」の遺伝性疾患で、11q13のMEN1遺伝子(腫瘍抑制タンパクのメニンをコード)の変異による常染色体顕性遺伝を示します。生まれつき1ヒット目をもつため病変は多発性・多腺性で若年発症しやすく、副甲状腺は4腺が腫大する過形成、膵消化管の神経内分泌腫瘍は多発し機能性ではガストリノーマが最多(十二指腸に多発)、下垂体腺腫ではプロラクチノーマが最多です。Zollinger-Ellison症候群の約20〜25%はMEN1を背景にもつため、ガストリノーマをみたら副甲状腺機能亢進症を確認することが重要です。Knudsonの2ヒット説から「多発」という特徴を導く考え方は、MEN2や他の遺伝性腫瘍症候群の理解、さらに家族への遺伝カウンセリングやサーベイランスの実践にもつながります。
解答・解説
正解はa, dです
多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia:MEN)は、複数の内分泌臓器に腫瘍や過形成が同時性または異時性に生じる遺伝性疾患である。1型(MEN1)と2型(MEN2)に分けられ、いずれも常染色体顕性(優性)遺伝を示す。 MEN1の3主要病変は、副甲状腺(Parathyroid)、下垂体(Pituitary)、膵・消化管(Pancreas)の頭文字から「3P」と覚える。原因は11番染色体長腕(11q13)にあるMEN1遺伝子の生殖細胞系列変異で、この遺伝子は腫瘍抑制タンパクであるメニン(menin)をコードする。生まれつき片方のアレルが変異しているため、もう片方に後天的な異常が加わった細胞が腫瘍化する(Knudsonの2ヒット説)。この機序のため、病変はしばしば多発性・多腺性となり、散発性の腫瘍より若年で発症する。 本問はこの「多発・多腺性」という特徴と、各臓器で頻度の高い病型を知っているかを問うている。副甲状腺は多腺性の過形成、膵消化管の機能性腫瘍ではガストリノーマが最多、下垂体ではプロラクチノーマが最多、と整理すれば正解に至る。
選択肢考察
- ○a. 副甲状腺病変は過形成を示す。
正しい。MEN1で最も高頻度(90%以上)にみられる病変は原発性副甲状腺機能亢進症であり、多くは20〜40歳代に発症する。病理学的には4腺すべてが(大きさに差はあっても)腫大する多腺性病変で、主細胞の過形成として扱われることが多い(各腺に複数の腺腫が生じていると解釈されることもある)。散発性の原発性副甲状腺機能亢進症の多くが単腺の腺腫であるのと対照的である。そのため手術では、1腺だけを摘出しても再発しやすく、副甲状腺亜全摘術や全摘+自家移植術が選択される。
- ×b. 膵消化管病変は単発性である。
誤り。MEN1に伴う膵・消化管の神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET)は多発性であることが特徴である。特にガストリノーマは膵臓よりも十二指腸の粘膜下に小さな腫瘍として多発することが多く、すべてを画像で見つけて切除するのは難しい。膵臓にも非機能性の小腫瘍が多発していることが多い。
- ×c. 常染色体劣性遺伝性疾患である。
誤り。MEN1は常染色体顕性(優性)遺伝性疾患であり、患者の子は50%の確率で変異を受け継ぐ。浸透率は高く、変異保有者の大部分が生涯のうちに発症する。MEN2(原因遺伝子はRET)も同様に常染色体顕性遺伝である。なお、家族歴がなく新生突然変異(de novo)で発症する例も一定の割合で存在する。
- ○d. 膵内分泌腫瘍はガストリノーマが最も多い。
正しい。MEN1に伴う機能性の膵消化管神経内分泌腫瘍の中では、ガストリノーマが最も多く(機能性腫瘍の約半数)、次いでインスリノーマが多い。グルカゴノーマ、VIPオーマ、ソマトスタチノーマなどはまれである。ガストリノーマは胃酸の過剰分泌により難治性・多発性の消化性潰瘍や下痢をきたし、Zollinger-Ellison症候群と呼ばれる。Zollinger-Ellison症候群の患者の約20〜25%はMEN1を背景にもつため、ガストリノーマをみたら副甲状腺機能亢進症の有無を確認してMEN1を疑う。なお、副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症はガストリン分泌を促進し、症状を悪化させる。
- ×e. 下垂体腺腫は成長ホルモン産生腺腫が最も多い。
誤り。MEN1に伴う下垂体腺腫(現在は下垂体神経内分泌腫瘍:PitNETとも呼ばれる)は、プロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)が最も多く、次いで成長ホルモン産生腺腫、非機能性腺腫、ACTH産生腺腫などが続く。下垂体病変の頻度は報告により30〜40%程度である。プロラクチノーマでは女性で無月経・乳汁漏出、男性で性欲低下などがみられる。
MEN1とMEN2の比較
・MEN1:原因遺伝子MEN1(11q13、メニン、腫瘍抑制遺伝子)。病変は副甲状腺(多腺性過形成)、膵消化管NET(ガストリノーマ、インスリノーマ、非機能性腫瘍)、下垂体腺腫(プロラクチノーマ最多)。このほか副腎皮質腫瘍、胸腺・気管支のカルチノイド(NET)、皮膚の血管線維腫や脂肪腫などを伴うことがある。 ・MEN2A:原因遺伝子RET(10q11.2、受容体型チロシンキナーゼ、がん遺伝子)。甲状腺髄様癌(ほぼ全例)、褐色細胞腫(しばしば両側性)、副甲状腺機能亢進症。 ・MEN2B:RET変異。甲状腺髄様癌(若年発症で悪性度が高い)、褐色細胞腫、粘膜神経腫、Marfan様体型。副甲状腺病変はまれ。 いずれも常染色体顕性(優性)遺伝である。
臨床的な注意点
・MEN1では膵・十二指腸NETや胸腺NETの悪性化が主要な死因となる。 ・副甲状腺機能亢進症は最初に現れることが多い病変であり、若年発症や多腺腫大、家族歴があればMEN1を疑い遺伝学的検査を検討する。 ・MEN1と診断されたら、血液検査(Ca、PTH、ガストリン、プロラクチン、IGF-1など)と画像検査による定期的なサーベイランスを行い、血縁者には遺伝カウンセリングを提供する。 ・MEN2ではRET変異保有者に対して予防的甲状腺全摘術が考慮される点がMEN1との大きな違いである。
POINT
・MEN1=3P(副甲状腺・下垂体・膵消化管)、MEN1遺伝子(11q13、メニン)、常染色体顕性遺伝。 ・副甲状腺:頻度最多(90%以上)、多腺性の過形成。 ・膵消化管NET:多発性。機能性ではガストリノーマ最多(十二指腸に多発)、次いでインスリノーマ。 ・下垂体:プロラクチノーマ最多。 ・Zollinger-Ellison症候群をみたらMEN1を疑う。
