StudyMed医師国家試験

腰・指・眼―「どこに負荷がかかるか」で解く職業性疾病の組合せ

第112回医師国家試験 D問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第112回 D問題 第11問

労働形態と健康障害の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.重量物取扱い作業 ―― 職業性頸肩腕障害
  2. b.食品冷凍作業 ―― 網膜損傷
  3. c.中腰作業 ―― 職業性腰痛
  4. d.振動工具作業 ―― Raynaud現象
  5. e.VDT作業 ―― 白内障

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、働き方とそれによって起こりやすい健康障害の対応を問う公衆衛生の問題だ。丸暗記に頼るより、「その作業で体のどこに、どんな負荷がかかるか」を想像するのがコツだよ。姿勢なのか、振動なのか、温度なのか、光なのか。まずはざっと眺めて、すぐに確信できる組合せはあるかな。
医学生医学生
中腰作業と腰痛はさすがに直感的にわかります。病院実習で看護師さんが移乗介助のたびに腰をかばっていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい観察だね。中腰や前かがみの姿勢を続けると、腰部の筋肉や椎間板に持続的な負荷がかかる。介護、農作業、建設作業が代表例で、職業性腰痛は業務上疾病の中で最も件数が多いんだ。だから中腰作業と職業性腰痛は正しい組合せ。
医学生医学生
そうなると、重量物取扱い作業も腰に来そうですよね。頸肩腕障害というのは少し違和感があります。
ドクタードクター
その違和感は正しい。重い物を持ち上げたり運んだりする作業で一番問題になるのは、やはり腰。ぎっくり腰のような急性腰痛や椎間板ヘルニアの原因になる。一方、職業性頸肩腕障害は、上肢を同じ姿勢で保持したり、細かい反復動作を続けたりする作業で起こる。パソコンの打鍵作業やレジ作業が典型だね。首や肩、腕のこり・痛み・しびれが症状だ。
医学生医学生
振動工具とRaynaud現象は、衛生学の講義で「白ろう病」として習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。チェーンソーや削岩機、グラインダーなどを長く使うと、手腕に伝わる局所振動で振動障害が起こる。寒冷刺激をきっかけに手指の血管が攣縮して、指がろうのように白くなるのがRaynaud現象。林業のチェーンソー作業者で多く報告されたことから白ろう病と呼ばれるようになった。なので、これも正しい組合せだ。
医学生医学生
Raynaud現象以外にも症状はあるんですか。
ドクタードクター
手指のしびれや感覚低下といった末梢神経障害、肘関節などの骨・関節障害も起こる。つまり振動障害は「血管・神経・骨関節」の3つの系統に及ぶと覚えておくといい。診断には手を冷水に浸けて皮膚温の回復を見る冷水負荷試験などが使われる。
医学生医学生
食品冷凍作業と網膜損傷は、冷たさと眼が結びつかないので違う気がします。
ドクタードクター
その通り。低温環境の作業で起こりやすいのは凍傷、凍瘡、低体温症といった寒冷障害だ。網膜損傷はレーザー光線や強い可視光・赤外線を眼に受けて起こるもので、冷凍作業とは関係がない。
医学生医学生
VDT作業と白内障はどうでしょう。画面の光を長時間見るので、ありそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
ひっかかりやすいところだね。VDT、つまりパソコンなどの表示画面付き端末の作業で問題になるのは、眼精疲労、ドライアイ、頸肩腕障害、腰痛、精神的ストレスなど。画面の光で白内障になるわけではないんだ。職業性の白内障は、ガラス工や溶鉱炉作業での赤外線、X線などの電離放射線、マイクロ波への曝露で起こる。
医学生医学生
なるほど、誤りの選択肢は別の作業の障害を入れ替えてあるんですね。重量物には腰痛、VDTには頸肩腕障害と眼精疲労、冷凍には凍傷、白内障には赤外線や放射線、と組み直せば筋が通ります。
ドクタードクター
まさにその整理ができれば完璧。ついでに周辺知識もまとめておこう。騒音作業では騒音性難聴が起こり、初期は4,000Hz付近の聴力が落ちるc5dipが特徴。潜水や潜函工事などの高気圧作業では減圧症、溶接作業の紫外線では電気性眼炎が出る。車両運転などの全身振動は腰痛の原因になる。
医学生医学生
CBTの過去問でc5dipはよく見ました。局所振動と全身振動で障害が違うのも区別しておかないといけませんね。
ドクタードクター
そう、振動は「手に来るか、全身に来るか」で分けて考えよう。予防の面では、VDT作業については2019年に「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に改められ、一連続作業時間が1時間を超えないようにして、10〜15分の作業休止を挟むことなどが推奨されている。振動障害には低振動工具の選択、曝露時間の制限、防振手袋や保温、特殊健康診断が行われる。腰痛については厚生労働省の指針で、作業姿勢の改善や福祉用具の活用が示されているよ。
医学生医学生
将来、産業医として職場巡視をするときにも、作業を見て「どこに負荷がかかっているか」を考えればいいわけですね。
ドクタードクター
その通り。臨床でも、手指の蒼白発作やしびれを訴える患者さんに職歴を聞くだけで振動障害に気づけることがある。問診で仕事内容を尋ねる習慣は、職業性疾病を見逃さないための第一歩だよ。

まとめ

職業性疾病は、作業によって体のどこにどのような負荷(姿勢、振動、温度、光線など)がかかるかを考えると整理しやすくなります。中腰作業や重量物取扱いは職業性腰痛(業務上疾病で最多)を、振動工具による局所振動はRaynaud現象(白ろう病)や末梢神経障害、骨・関節障害を引き起こします。VDT(情報機器)作業では頸肩腕障害や眼精疲労、冷凍作業では凍傷や低体温症が問題となり、白内障は赤外線や電離放射線、網膜損傷はレーザー光線によるものです。騒音性難聴のc5dipや高気圧作業の減圧症なども合わせて押さえておくと、問診で職歴から疾患を推測したり、産業保健の現場で予防策を考えたりする力につながります。

解答・解説

正解はc, dです

本問は、作業の内容(労働形態)と、それによって起こりやすい職業性疾病の対応を問う一般問題である。 考え方の基本は、「その作業で体のどこに、どのような負荷(物理的因子・姿勢・反復動作など)がかかるか」を想像することである。 ・腰に負担がかかる作業(重量物の持ち上げ、中腰・前かがみの姿勢)→ 腰痛 ・手腕に振動が伝わる作業(チェーンソー、削岩機、グラインダーなど)→ 末梢循環障害(Raynaud現象)、末梢神経障害、骨・関節障害 ・寒冷環境での作業 → 凍傷、低体温症 ・強い光線・放射線への曝露 → 網膜損傷、白内障 ・同じ姿勢で上肢・眼を使い続ける作業(VDT作業、キーパンチャーなど)→ 頸肩腕障害、眼精疲労 この対応関係に当てはめると、「中腰作業―職業性腰痛」と「振動工具作業―Raynaud現象」が正しい組合せである。誤りの選択肢は、別の作業に対応する障害が入れ替えられている。

選択肢考察

  1. ×a.  重量物取扱い作業 ―― 職業性頸肩腕障害

    誤り。重量物を持ち上げたり運んだりする作業で最も問題となるのは腰部への負担であり、典型的な健康障害は職業性腰痛(急性の腰痛や椎間板ヘルニアなどを含む)である。職業性頸肩腕障害は、上肢を同じ姿勢で保持したり細かい反復動作を続けたりする作業(VDT作業、レジ作業、打鍵作業など)でみられ、首・肩・腕のこり、痛み、しびれなどを呈する。

  2. ×b.  食品冷凍作業 ―― 網膜損傷

    誤り。冷凍倉庫や冷凍食品の製造など低温環境での作業で起こりやすいのは、凍傷、凍瘡(しもやけ)、低体温症などの寒冷障害である。網膜損傷は、レーザー光線や強い可視光線・赤外線(溶接、溶鉱炉作業など)を目に受けることで生じる障害であり、冷凍作業とは関係がない。

  3. ○c.  中腰作業 ―― 職業性腰痛

    正しい。中腰や前かがみの姿勢を続けると、腰部の筋肉や椎間板に持続的な負荷がかかり、職業性腰痛の原因となる。介護作業(ベッド上での移乗介助やおむつ交換など)、農作業、建設作業などが代表例である。腰痛は業務上疾病の中で最も件数が多く、厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、作業姿勢の改善、福祉用具の活用、作業時間の管理、腰痛予防体操などが示されている。

  4. ○d.  振動工具作業 ―― Raynaud現象

    正しい。チェーンソー、削岩機、グラインダー、インパクトレンチなどの振動工具を長期間使用すると、手腕に伝わる局所振動によって振動障害が起こる。代表的な症状は、寒冷刺激などをきっかけに手指の血管が攣縮して指が蒼白になるRaynaud現象であり、指が白くろうのようになることから白ろう病とも呼ばれる(林業のチェーンソー使用者で多く報告された)。このほか、手指のしびれや感覚低下などの末梢神経障害、肘関節などの骨・関節障害も起こる。診断には冷水負荷試験(手を冷水に浸けた後の皮膚温回復や爪圧迫テストの評価)などが用いられる。

  5. ×e.  VDT作業 ―― 白内障

    誤り。VDT(visual display terminal:パソコンなどの表示画面付き端末)作業で問題となるのは、眼精疲労、ドライアイ、頸肩腕障害、腰痛、精神的ストレスなどである。画面からの放射線や光で白内障が起こるわけではない。白内障は、赤外線(ガラス工・溶鉱炉作業など、いわゆる硝子工白内障)、電離放射線(X線など)、マイクロ波などへの曝露で生じる職業性疾患として知られる。

作業関連の主な職業性疾病

・重量物取扱い、中腰姿勢、介護作業:職業性腰痛 ・VDT作業、キーパンチャー、レジ作業など上肢の反復作業:頸肩腕障害、眼精疲労 ・振動工具(局所振動):Raynaud現象(白ろう病)、末梢神経障害、骨関節障害 ・車両運転などの全身振動:腰痛、内臓下垂など ・騒音作業:騒音性難聴(初期は4,000Hz付近の聴力低下、c5dip) ・高温作業:熱中症、白内障(赤外線) ・寒冷作業:凍傷、凍瘡、低体温症 ・高気圧作業(潜水、潜函工事):減圧症(潜函病) ・電離放射線:白血病、白内障、皮膚障害 ・紫外線:電気性眼炎(溶接作業)、皮膚障害 ・レーザー光線:網膜損傷

VDT作業の管理

厚生労働省は「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を示していたが、2019年に「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」へ改められた。一連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の作業までに10〜15分の作業休止時間を設けること、作業中にも小休止を取ることなどが推奨されている。

振動障害の予防

振動の少ない工具の選択、1日の振動曝露時間の制限、防振手袋の使用、寒冷を避けるための保温、定期的な特殊健康診断などが行われる。

POINT

・中腰作業・重量物取扱い → 職業性腰痛(業務上疾病で最多) ・振動工具 → Raynaud現象(白ろう病)、末梢神経障害 ・VDT(情報機器)作業 → 頸肩腕障害、眼精疲労 ・冷凍作業 → 凍傷・低体温症 ・白内障 → 赤外線・電離放射線、網膜損傷 → レーザー光線

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。