腰・指・眼―「どこに負荷がかかるか」で解く職業性疾病の組合せ
第112回医師国家試験 D問題 第11問
国試問題にチャレンジ
労働形態と健康障害の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.重量物取扱い作業 ―― 職業性頸肩腕障害
- b.食品冷凍作業 ―― 網膜損傷
- c.中腰作業 ―― 職業性腰痛
- d.振動工具作業 ―― Raynaud現象
- e.VDT作業 ―― 白内障
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
職業性疾病は、作業によって体のどこにどのような負荷(姿勢、振動、温度、光線など)がかかるかを考えると整理しやすくなります。中腰作業や重量物取扱いは職業性腰痛(業務上疾病で最多)を、振動工具による局所振動はRaynaud現象(白ろう病)や末梢神経障害、骨・関節障害を引き起こします。VDT(情報機器)作業では頸肩腕障害や眼精疲労、冷凍作業では凍傷や低体温症が問題となり、白内障は赤外線や電離放射線、網膜損傷はレーザー光線によるものです。騒音性難聴のc5dipや高気圧作業の減圧症なども合わせて押さえておくと、問診で職歴から疾患を推測したり、産業保健の現場で予防策を考えたりする力につながります。
解答・解説
正解はc, dです
本問は、作業の内容(労働形態)と、それによって起こりやすい職業性疾病の対応を問う一般問題である。 考え方の基本は、「その作業で体のどこに、どのような負荷(物理的因子・姿勢・反復動作など)がかかるか」を想像することである。 ・腰に負担がかかる作業(重量物の持ち上げ、中腰・前かがみの姿勢)→ 腰痛 ・手腕に振動が伝わる作業(チェーンソー、削岩機、グラインダーなど)→ 末梢循環障害(Raynaud現象)、末梢神経障害、骨・関節障害 ・寒冷環境での作業 → 凍傷、低体温症 ・強い光線・放射線への曝露 → 網膜損傷、白内障 ・同じ姿勢で上肢・眼を使い続ける作業(VDT作業、キーパンチャーなど)→ 頸肩腕障害、眼精疲労 この対応関係に当てはめると、「中腰作業―職業性腰痛」と「振動工具作業―Raynaud現象」が正しい組合せである。誤りの選択肢は、別の作業に対応する障害が入れ替えられている。
選択肢考察
- ×a. 重量物取扱い作業 ―― 職業性頸肩腕障害
誤り。重量物を持ち上げたり運んだりする作業で最も問題となるのは腰部への負担であり、典型的な健康障害は職業性腰痛(急性の腰痛や椎間板ヘルニアなどを含む)である。職業性頸肩腕障害は、上肢を同じ姿勢で保持したり細かい反復動作を続けたりする作業(VDT作業、レジ作業、打鍵作業など)でみられ、首・肩・腕のこり、痛み、しびれなどを呈する。
- ×b. 食品冷凍作業 ―― 網膜損傷
誤り。冷凍倉庫や冷凍食品の製造など低温環境での作業で起こりやすいのは、凍傷、凍瘡(しもやけ)、低体温症などの寒冷障害である。網膜損傷は、レーザー光線や強い可視光線・赤外線(溶接、溶鉱炉作業など)を目に受けることで生じる障害であり、冷凍作業とは関係がない。
- ○c. 中腰作業 ―― 職業性腰痛
正しい。中腰や前かがみの姿勢を続けると、腰部の筋肉や椎間板に持続的な負荷がかかり、職業性腰痛の原因となる。介護作業(ベッド上での移乗介助やおむつ交換など)、農作業、建設作業などが代表例である。腰痛は業務上疾病の中で最も件数が多く、厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、作業姿勢の改善、福祉用具の活用、作業時間の管理、腰痛予防体操などが示されている。
- ○d. 振動工具作業 ―― Raynaud現象
正しい。チェーンソー、削岩機、グラインダー、インパクトレンチなどの振動工具を長期間使用すると、手腕に伝わる局所振動によって振動障害が起こる。代表的な症状は、寒冷刺激などをきっかけに手指の血管が攣縮して指が蒼白になるRaynaud現象であり、指が白くろうのようになることから白ろう病とも呼ばれる(林業のチェーンソー使用者で多く報告された)。このほか、手指のしびれや感覚低下などの末梢神経障害、肘関節などの骨・関節障害も起こる。診断には冷水負荷試験(手を冷水に浸けた後の皮膚温回復や爪圧迫テストの評価)などが用いられる。
- ×e. VDT作業 ―― 白内障
誤り。VDT(visual display terminal:パソコンなどの表示画面付き端末)作業で問題となるのは、眼精疲労、ドライアイ、頸肩腕障害、腰痛、精神的ストレスなどである。画面からの放射線や光で白内障が起こるわけではない。白内障は、赤外線(ガラス工・溶鉱炉作業など、いわゆる硝子工白内障)、電離放射線(X線など)、マイクロ波などへの曝露で生じる職業性疾患として知られる。
作業関連の主な職業性疾病
・重量物取扱い、中腰姿勢、介護作業:職業性腰痛 ・VDT作業、キーパンチャー、レジ作業など上肢の反復作業:頸肩腕障害、眼精疲労 ・振動工具(局所振動):Raynaud現象(白ろう病)、末梢神経障害、骨関節障害 ・車両運転などの全身振動:腰痛、内臓下垂など ・騒音作業:騒音性難聴(初期は4,000Hz付近の聴力低下、c5dip) ・高温作業:熱中症、白内障(赤外線) ・寒冷作業:凍傷、凍瘡、低体温症 ・高気圧作業(潜水、潜函工事):減圧症(潜函病) ・電離放射線:白血病、白内障、皮膚障害 ・紫外線:電気性眼炎(溶接作業)、皮膚障害 ・レーザー光線:網膜損傷
VDT作業の管理
厚生労働省は「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を示していたが、2019年に「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」へ改められた。一連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の作業までに10〜15分の作業休止時間を設けること、作業中にも小休止を取ることなどが推奨されている。
振動障害の予防
振動の少ない工具の選択、1日の振動曝露時間の制限、防振手袋の使用、寒冷を避けるための保温、定期的な特殊健康診断などが行われる。
POINT
・中腰作業・重量物取扱い → 職業性腰痛(業務上疾病で最多) ・振動工具 → Raynaud現象(白ろう病)、末梢神経障害 ・VDT(情報機器)作業 → 頸肩腕障害、眼精疲労 ・冷凍作業 → 凍傷・低体温症 ・白内障 → 赤外線・電離放射線、網膜損傷 → レーザー光線
