「生きているか」で決まる―妊婦に打てるワクチン、打てないワクチン
第112回医師国家試験 C問題 第9問
国試問題にチャレンジ
妊娠中にワクチンが接種可能なのはどれか。
- a.風疹
- b.麻疹
- c.水痘
- d.流行性耳下腺炎
- e.インフルエンザ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
妊娠中のワクチン接種は、生ワクチンか不活化ワクチン・トキソイドかで判断します。麻疹・風疹・水痘・流行性耳下腺炎・BCG・ロタなどの生ワクチンは、胎児感染の理論的リスクから妊娠中は原則禁忌で、風疹抗体価が低い妊婦は産褥期に接種します。注射のインフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり、妊婦は罹患すると重症化しやすいため流行期には妊娠週数を問わず接種が勧められ、胎盤を通じた抗体移行で乳児を守る効果も期待されます。一方、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは妊婦には使用しません。ワクチンの種類と妊娠との関係を理解しておくことは、妊娠前からの予防接種指導や先天性風疹症候群の予防に直結します。
解答・解説
正解はeです
問われていること
妊婦にワクチンを接種してよいかどうかは、まず「生ワクチンか、不活化ワクチン(またはトキソイド)か」で判断する。
考え方
生ワクチンは、病原性を弱めた(弱毒化した)生きた病原体を接種し、体内で増殖させて免疫をつけるものである。弱毒化されていても、妊婦に接種するとウイルスが胎盤を通って胎児に感染する可能性が理論上否定できない。このため、生ワクチンは妊娠中は原則として禁忌である。 一方、不活化ワクチンは増殖能力を失わせた病原体やその成分を、トキソイドは細菌が産生する毒素の毒性をなくしたものを用いる。体内で病原体が増えることはなく、胎児に感染を起こさないため、妊娠中でも接種できる。 選択肢のうち、風疹・麻疹・水痘・流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)のワクチンはいずれも生ワクチンであり、不活化ワクチンはインフルエンザのみである。インフルエンザは妊婦が罹患すると重症化しやすいため、妊娠中の接種はむしろ勧められている。
選択肢考察
- ×a. 風疹
風疹ワクチン(通常は麻疹との混合のMRワクチンとして用いる)は生ワクチンであり、妊娠中の接種は原則禁忌である。妊娠初期の風疹感染は先天性風疹症候群(白内障、難聴、心奇形など)の原因となるため、ワクチンウイルスによる胎児感染も理論上避けるべきとされる。妊婦健診で風疹抗体価が低い(HI法で16倍以下)と分かった場合は、妊娠中には接種せず、分娩後の産褥期に接種することが勧められる。授乳中の接種は問題ない。
- ×b. 麻疹
麻疹ワクチンも弱毒生ワクチンであり、単独ワクチンでもMRワクチンでも妊娠中の接種は原則禁忌である。抗体を持たない女性は妊娠前に接種しておくか、分娩後に接種する。
- ×c. 水痘
水痘ワクチンは弱毒生ワクチンであり、妊娠中の接種は原則禁忌である。妊娠中の水痘は母体の水痘肺炎や先天性水痘症候群の原因となり得るが、予防は妊娠前のワクチン接種で行う。妊婦が水痘患者に曝露した場合は、ワクチンではなく免疫グロブリン投与などが検討される。
- ×d. 流行性耳下腺炎
流行性耳下腺炎(ムンプス)ワクチンは弱毒生ワクチンであり、妊娠中の接種は原則禁忌である。日本では任意接種であり、単独ワクチンとして接種されている。
- ○e. インフルエンザ
日本で用いられるインフルエンザワクチン(注射)はウイルスを処理した不活化ワクチン(HAワクチン)であり、体内でウイルスが増殖しないので胎児感染は起こらない。妊婦がインフルエンザに罹患すると肺炎などの合併症を起こして重症化しやすく、流早産などとの関連も指摘されているため、流行期には妊娠週数を問わず接種が勧められる。さらに、母体で作られたIgG抗体が胎盤を通じて胎児へ移行し、ワクチンを接種できない生後6か月未満の乳児を守る効果も期待される。なお、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは生ワクチンであり、妊婦には使用しない。
妊娠中のワクチン接種の原則
・生ワクチン:原則禁忌。接種後は一定期間(通常2か月程度)の避妊が勧められる。 ・不活化ワクチン、トキソイド、mRNAワクチンなど:必要性があれば接種可能。 ・誤って妊娠中に生ワクチンを接種してしまっても、実際に胎児に障害が生じたという報告はほとんどなく、そのことを理由に人工妊娠中絶を勧める根拠はない。
主な生ワクチン
麻疹、風疹、MR(麻疹風疹混合)、水痘、流行性耳下腺炎、BCG、ロタウイルス、黄熱、経鼻インフルエンザワクチン など
主な不活化ワクチン・トキソイド
インフルエンザ(注射)、B型肝炎、Hib(インフルエンザ菌b型)、肺炎球菌、DPT-IPV(ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオ)などの混合ワクチン、日本脳炎、狂犬病、HPV(ヒトパピローマウイルス)、破傷風トキソイド など
妊娠中に接種が勧められるもの
インフルエンザワクチンのほか、新型コロナウイルス(mRNA)ワクチンや、新生児・乳児のRSウイルス感染予防を目的とした妊婦用RSウイルスワクチン(組換えタンパクワクチン)も妊娠中の接種が可能である。海外では百日咳を含む三種混合(Tdap)の妊娠中接種も行われている。
風疹と妊娠
先天性風疹症候群を防ぐため、妊娠を希望する女性とその家族は妊娠前に抗体を確認し、必要ならMRワクチンを接種する。妊娠中に抗体価が低いと判明した妊婦は、人混みを避けるなど感染予防に努め、分娩後に接種する。
POINT
・妊娠中は生ワクチン禁忌、不活化ワクチン・トキソイドは接種可能。 ・麻疹、風疹、水痘、ムンプス、BCG、ロタは生ワクチン。 ・インフルエンザ(注射)は不活化ワクチンで、妊婦は重症化しやすいため接種が推奨される。 ・風疹抗体陰性・低値の妊婦は産褥期に接種する。
