肩書きで医療は変わらない―威圧的な患者に向き合う「公正」の原則
第112回医師国家試験 B問題 第35問
国試問題にチャレンジ
65歳の男性。会社役員。間質性肺炎のために入院している。看護師から担当医へ,患者が咳で眠れないと訴えていることに加え,態度が威圧的であるという連絡があった。 患者へ治療方針を説明するにあたり担当医として適切でないのはどれか。
- a.治療に対する希望を尋ねる。
- b.治療に関する最新の知見を調べる。
- c.会社役員なので優遇して診療を行う。
- d.看護師と治療に関する情報を共有する。
- e.患者の態度にかかわらず丁寧に説明する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
治療方針の説明では、患者の社会的地位や態度によって診療内容に差をつけてはならず、会社役員だから優遇するという対応は医療倫理4原則の「公正(正義)」に反します。一方、患者の希望を尋ねて自己決定を支えること(インフォームド・コンセント、共同意思決定)、最新のエビデンスを確認すること(EBM)、看護師と情報を共有して一貫した対応をとること(チーム医療)、威圧的な患者にも礼節をもって丁寧に説明することは、いずれも適切な対応です。間質性肺炎の咳による不眠のように、威圧的な態度の背景には症状の苦痛や不安があることも多く、傾聴と共感、症状緩和を含めた説明が関係改善につながります。暴言・暴力に及ぶ場合は組織として対応することも含め、倫理原則を判断の軸にする姿勢は、あらゆる診療場面の土台となります。
解答・解説
正解はcです
状況の整理
・65歳男性、会社役員。間質性肺炎で入院中。 ・看護師から担当医に、①咳のため眠れないという訴え、②患者の態度が威圧的であること、の2点が報告された。 ・担当医はこれから治療方針を説明しようとしている。
考え方
本問は医学知識ではなく、医師としての態度や医療倫理を問う問題である。間質性肺炎は肺の間質(肺胞の壁など)に炎症や線維化が起こる疾患で、乾いた咳(乾性咳嗽)や息切れが続き、患者にとって大きな苦痛となる。咳で眠れない状態が続けば、不安やいらだちが強まり、それが医療者への威圧的な態度として表れることも少なくない。担当医は、態度の背景にある苦痛や不安に目を向けつつ、症状緩和を含めた治療方針を説明する必要がある。 その際に守るべき原則は、患者の自己決定権の尊重(インフォームド・コンセント)、科学的根拠に基づく医療(EBM)、多職種によるチーム医療、そして社会的地位や態度にかかわらずすべての患者を公平に扱うこと(公正の原則)である。設問は「適切でないもの」を選ぶ形式であり、これらの原則に反する選択肢を探せばよい。患者の肩書きによって診療内容に差をつけることは、公正の原則に反する。
選択肢考察
- ×a. 治療に対する希望を尋ねる。
適切な対応である。インフォームド・コンセントでは、医師が病状や治療の選択肢、それぞれの利益と不利益を説明し、患者が理解・納得したうえで自ら選ぶことが求められる。患者の価値観や希望(例:まず咳を抑えて眠れるようにしたい、仕事への影響を減らしたいなど)を尋ねることは、患者の自己決定を支え、医師と患者が共同で方針を決める共同意思決定(shared decision making)の出発点となる。不満の背景を知る手がかりにもなる。
- ×b. 治療に関する最新の知見を調べる。
適切な対応である。医療の知見やガイドラインは日々更新されており、説明の前に最新のエビデンスを確認することは、科学的根拠に基づく医療(EBM)を実践するうえで欠かせない。たとえば間質性肺炎の分野では、特発性肺線維症などに対して抗線維化薬が使われるようになるなど、治療の選択肢が変化してきた。正確で新しい情報に基づいて説明することは、患者の信頼を得ることにもつながる。
- ○c. 会社役員なので優遇して診療を行う。
適切でない対応であり、これが正解である。医療倫理の4原則の一つである「公正(正義)」は、医療資源や医療行為を社会的地位、職業、経済力、人種、信条などによって差別せず、公平に提供することを求めている。会社役員であることや態度が威圧的であることを理由に、特定の患者を優遇(あるいは逆に冷遇)すれば、他の患者が不利益を受けるうえ、医学的必要性ではなく肩書きで医療が左右されることになる。診療内容は病状と医学的必要性に基づいて決めるべきである。
- ×d. 看護師と治療に関する情報を共有する。
適切な対応である。入院診療は医師、看護師、薬剤師、理学療法士などが協働するチーム医療で行われる。看護師は患者に接する時間が長く、本例でも咳による不眠や患者の様子を報告してきた。治療方針を看護師と共有しておけば、患者への説明内容が職種間で食い違うことを防ぎ、咳や不眠への対応、患者の不安や不満への対応を一貫して行える。患者の同意のもと、チーム内で診療情報を共有することは守秘義務違反にはあたらない。
- ×e. 患者の態度にかかわらず丁寧に説明する。
適切な対応である。患者の態度が威圧的であっても、医師が感情的になったり説明を省いたりしてよい理由にはならない。礼節を保ち、理解できる言葉で丁寧に説明することは医師の基本的な責務である。威圧的な態度は、症状の苦痛や病気への不安、入院生活のストレスから生じていることも多く、まず訴えを傾聴して共感を示すことで関係が改善することがある。ただし暴言や暴力に至る場合には、個人で抱え込まず、組織として対応することも必要である。
医療倫理の4原則(Beauchamp と Childress)
・自律尊重:患者が自分の価値観に基づいて自己決定することを尊重する。インフォームド・コンセントの基盤。 ・善行(与益):患者の利益になることを行う。 ・無危害:患者に害を与えない、あるいは害を最小限にする。 ・公正(正義):医療資源や医療行為を公平に分配し、患者を差別しない。
インフォームド・コンセントで説明すべき主な内容
病名と病状、検査や治療の目的と内容、期待される効果と危険性(副作用・合併症)、他の選択肢とその利害、治療を受けない場合の見通し。説明を受けたうえで、患者は治療を拒否することもできる。
対応が難しい患者への接し方
・態度の背景(症状の苦痛、不安、医療への不信、生活上の心配など)を考える。 ・傾聴し、相手の感情を言葉にして受け止める(共感的態度)。 ・説明は一貫させ、多職種で情報を共有して対応を統一する。 ・暴言・暴力など安全が脅かされる場合は、組織として対応する。
間質性肺炎の症状について
乾性咳嗽と労作時呼吸困難が主な症状で、聴診で捻髪音(fine crackles)、ばち指を認めることがある。咳は睡眠や日常生活を大きく妨げるため、原疾患の治療とあわせて鎮咳薬などによる症状緩和も重要である。
POINT
・患者の社会的地位や態度によって診療内容に差をつけない(公正の原則)。 ・治療方針の説明では患者の希望を尋ね、自己決定を尊重する(インフォームド・コンセント、共同意思決定)。 ・最新のエビデンスを確認して説明する(EBM)。 ・看護師など多職種と情報を共有し、チーム医療として一貫した対応をとる。 ・威圧的な患者にも礼節をもって丁寧に説明し、態度の背景にある苦痛や不安に目を向ける。
