StudyMed医師国家試験

死の直前にあったのは何か―死亡診断書「直接死因」を因果の連鎖で読み解く

第112回医師国家試験 B問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第112回 B問題 第19問

ネフローゼ症候群を併発した全身性エリテマトーデス〈SLE〉のため副腎皮質ステロイドによる治療を受けていた患者が,経過中に糖尿病と細菌性肺炎とを発症し,敗血症性ショックとなり死亡した。死亡診断書の様式の一部を別に示す。  死亡診断書の作成にあたり,「死亡の原因」の「(ア)直接死因」に記載すべきなのはどれか。

第112回 B問題 第19問の問題画像
  1. a.糖尿病
  2. b.細菌性肺炎
  3. c.ネフローゼ症候群
  4. d.敗血症性ショック
  5. e.全身性エリテマトーデス〈SLE〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は死亡診断書の書き方の問題だ。この症例にはいくつもの病名が登場するけれど、大事なのは「どの病気がどの病気を引き起こしたか」という因果関係を整理すること。そのうえで、死亡にいちばん近い位置にある傷病を見つけられるかがポイントだよ。
医学生医学生
患者さんにとって一番大きな病気はSLEなので、直接死因もSLEかなと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。死亡診断書の死亡の原因欄、Ⅰ欄は、上から順に(ア)直接死因、(イ)その原因、(ウ)さらにその原因……と、死亡の側から時間をさかのぼって書く構造になっている。SLEは一連の出来事の出発点で、いちばん下の欄に書く「原死因」にあたるんだ。
医学生医学生
出発点と、最後に死を引き起こしたものは別ということですね。
ドクタードクター
そう。では流れを組み立ててみよう。SLEに対してステロイドを使っていた。ステロイドで何が起こる?
医学生医学生
免疫抑制で易感染性になります。薬理学の講義で、ステロイドの副作用の筆頭として習いました。
ドクタードクター
その通り。易感染状態で細菌性肺炎を起こし、起炎菌が血流に入って全身性の感染になり、敗血症性ショックに陥った。敗血症性ショックは、感染に伴う循環不全で、十分に輸液しても血圧が保てず臓器への血流が障害された状態だ。そして亡くなっている。
医学生医学生
死亡の側から逆にたどると、敗血症性ショック、細菌性肺炎、SLEの順ですね。だから直接死因は敗血症性ショックです。
ドクタードクター
正解。(ア)に敗血症性ショック、(イ)に細菌性肺炎、(ウ)にステロイド治療中のSLE、と書くのが標準的だね。では細菌性肺炎はどう考える?
医学生医学生
実習で見た診断書には「肺炎」と書いてあることが多かった気がします。肺炎でもよさそうに思えるんですが。
ドクタードクター
実際の診療では、肺炎を直接死因とすることもありうる。でもこの問題では、肺炎から敗血症性ショックに進展して亡くなったことがはっきり示されている。より死亡に近い傷病がある以上、肺炎は(ア)の原因として(イ)に書くのが適切なんだ。
医学生医学生
糖尿病はどうでしょう。経過中に発症しているので、ステロイド糖尿病ですよね。
ドクタードクター
よく気づいたね。高血糖は好中球の機能を落とすから、感染の重症化に関わった可能性はある。ただ、肺炎を起こした主な原因はステロイドによる免疫抑制と考えるのが妥当で、糖尿病は因果の連鎖の本流には入らない。こういう「連鎖には含まれないけれど経過に影響した傷病」はⅡ欄に書く。
医学生医学生
ネフローゼ症候群も同じ扱いですか。腎臓内科の実習で、ループス腎炎がネフローゼを呈すると教わりました。
ドクタードクター
その理解で合っている。ネフローゼでは尿中に免疫グロブリンが失われたり低栄養になったりして感染しやすくなる面もあるけれど、死亡の直接の連鎖には入らない。書くとしたらⅡ欄だね。
医学生医学生
整理すると、Ⅰ欄は直線の因果の連鎖、Ⅱ欄はその脇で影響した病気、ということですね。
ドクタードクター
その通り。もうひとつ大事な注意点がある。終末期に誰にでも起こる「心不全」や「呼吸不全」のような、単に死に至った状態は直接死因として書かないよう記入マニュアルで求められている。敗血症性ショックは原因が特定された具体的な病態だから、直接死因として適切なんだ。
医学生医学生
OSCEの前に先輩から、診断書では「心不全」と書いて終わりにしないように、と言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい先輩だね。さらに、人口動態統計の死因統計は原則として原死因、つまりⅠ欄の最下段で集計される。死因の種類も原死因で判断するから、この症例はSLEという疾病が原死因で「病死および自然死」になる。各傷病には発病から死亡までの期間も書くことを忘れずに。
医学生医学生
診断書の一枚一枚が国の統計になると思うと、因果関係を正確に書く責任は大きいですね。
ドクタードクター
まさにそう。研修医になれば必ず書く書類だから、因果をさかのぼって組み立てる練習を今のうちにしておこう。

まとめ

死亡診断書のⅠ欄は、(ア)直接死因から(イ)(ウ)(エ)へと因果関係をさかのぼって記載し、最下段の傷病が原死因となります。本症例は、SLEに対するステロイド治療で易感染状態となり、細菌性肺炎から敗血症性ショックに至って死亡しているため、直接死因は敗血症性ショック、その原因が細菌性肺炎、原死因がSLEです。ステロイド糖尿病やループス腎炎によるネフローゼ症候群は、経過に影響しえても因果の連鎖には含まれないため、記載するならⅡ欄となります。終末期の心不全・呼吸不全のような死に至る状態は直接死因として書かず、死因統計や死因の種類は原死因に基づいて判断される点も重要です。死亡診断書は医師が必ず作成する公的書類であり、正確な因果の整理は人口動態統計の質を支えることにもつながります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

死亡診断書の「死亡の原因」欄のⅠ欄は、死亡に直結した傷病から順に因果関係をさかのぼって書く構造になっている。(ア)直接死因には、患者の死亡を最終的に直接引き起こした傷病名を記載し、(イ)には(ア)の原因、(ウ)には(イ)の原因、(エ)には(ウ)の原因を記載する。Ⅰ欄の最も下の欄に書かれた傷病が、死亡に至る一連の事象を起こした出発点、すなわち原死因である。Ⅱ欄には、Ⅰ欄の因果の連鎖には直接含まれないが、死亡の経過に影響を及ぼした傷病を記載する。

本症例の因果関係の整理

・SLE(全身性エリテマトーデス)に対して副腎皮質ステロイドを投与していた。 ・ステロイドによる免疫抑制で易感染状態となり、細菌性肺炎を発症した。 ・肺炎の起炎菌が血流に入り全身性の感染症となり、敗血症性ショック(感染に伴う循環不全で、十分な輸液をしても血圧が保てず臓器灌流が障害された状態)に陥って死亡した。 これを死亡の側から逆にたどると、敗血症性ショック ← 細菌性肺炎 ← SLE(ステロイド治療中)となる。したがってⅠ欄は(ア)敗血症性ショック、(イ)細菌性肺炎、(ウ)全身性エリテマトーデス(ステロイド治療中)と書くのが標準的であり、原死因はSLEとなる。 糖尿病は経過中に発症しており、ステロイドの副作用(ステロイド糖尿病)と考えられる。高血糖は感染防御能を低下させるため肺炎の増悪に影響しえたが、肺炎発症の主たる原因はステロイドによる免疫抑制と考えるのが妥当であり、記載するならⅡ欄となる。ネフローゼ症候群はSLEの腎病変(ループス腎炎)によるもので、低アルブミン血症や免疫グロブリン喪失により感染リスクを上げうるが、これも死亡の直接の連鎖には入らず、記載するならⅡ欄が適切である。 設問は(ア)直接死因を問うており、死亡に最も近い位置にある敗血症性ショックが該当する。

選択肢考察

  1. ×a.  糖尿病

    経過中に発症した糖尿病は、ステロイド投与に伴う耐糖能異常(ステロイド糖尿病)と考えられる。高血糖は好中球機能を低下させ感染の重症化に寄与しうるが、本例で肺炎を起こした主因はステロイドによる免疫抑制であり、糖尿病は死亡に直結した傷病ではない。直接死因にはならず、記載する場合は死亡経過に影響を及ぼした傷病としてⅡ欄に書くのが適切である。

  2. ×b.  細菌性肺炎

    細菌性肺炎は敗血症性ショックを引き起こした原因の傷病であり、(ア)の原因として(イ)欄に記載するものである。実際の診療では肺炎を直接死因と書く場合もありうるが、本問では肺炎から敗血症性ショックに進展して死亡したことが明示されており、より死亡に近い傷病が存在する以上、肺炎は直接死因ではない。

  3. ×c.  ネフローゼ症候群

    ネフローゼ症候群はSLEに伴うループス腎炎の表現型と考えられる。尿中への免疫グロブリン喪失や低栄養状態で感染しやすくなる可能性はあるが、本例の死亡に至る因果の連鎖(SLE→ステロイド治療→肺炎→敗血症性ショック)には直接含まれない。直接死因ではなく、記載するとしてもⅡ欄が妥当である。

  4. ○d.  敗血症性ショック

    細菌性肺炎から全身性の感染と循環不全に進展し、そのまま死亡に至っているため、死亡に直接結びついた傷病は敗血症性ショックである。したがって(ア)直接死因にはこれを記載する。なお、終末期に誰にでも起こる「心不全」「呼吸不全」のような単なる死に至る状態は直接死因として書くべきではないが、敗血症性ショックは原因が特定された具体的な病態であり、直接死因として適切である。

  5. ×e.  全身性エリテマトーデス〈SLE〉

    SLEそのものの病勢で死亡したのではなく、SLEに対するステロイド治療で生じた易感染状態から肺炎・敗血症性ショックを経て死亡している。SLEは因果の連鎖の出発点であり、Ⅰ欄の最下段(本例では(ウ)欄)に書く原死因に当たる。直接死因ではない。

死亡診断書「死亡の原因」欄の書き方

・Ⅰ欄(ア)直接死因:死亡を直接引き起こした傷病。 ・Ⅰ欄(イ)(ウ)(エ):それぞれ上の欄の傷病の原因。医学的な因果関係で結ばれる順に書く。 ・Ⅰ欄の最下段に記載した傷病が原死因であり、人口動態統計の死因統計は原則として原死因に基づいて集計される。 ・Ⅱ欄:Ⅰ欄の因果関係には含まれないが、死亡の経過に影響を及ぼした傷病(本例の糖尿病、ネフローゼ症候群など)。 ・各傷病には発病(発症)または受傷から死亡までの期間も記載する。 ・疾患の終末期の状態としての心不全・呼吸不全などは書かないことが求められている(記入マニュアルで明示されている)。

死因の種類との関係

死因の種類(病死および自然死、不慮の外因死、自殺、他殺など)は、原死因がどれに該当するかで判断する。本例は原死因がSLEという疾病なので「病死および自然死」となる。

ステロイド治療の主な副作用(本例に関連するもの)

易感染性、ステロイド糖尿病、骨粗鬆症、消化性潰瘍、満月様顔貌、精神症状、白内障・緑内障、副腎不全(急な中止時)などがある。本例では易感染性が死亡の連鎖の要となっている。

POINT

・(ア)直接死因=死亡に直結した傷病。本例は敗血症性ショック。 ・Ⅰ欄は因果関係を(ア)→(イ)→(ウ)とさかのぼって書き、最下段が原死因(本例はSLE)。 ・連鎖に含まれないが経過に影響した傷病(ステロイド糖尿病、ネフローゼ症候群)はⅡ欄。 ・終末期の心不全・呼吸不全は直接死因として書かない。 ・死因の種類は原死因で判断する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。