瞳を開くのは「奥」を見るため―散瞳検査の向き不向きを整理する
第112回医師国家試験 B問題 第14問
国試問題にチャレンジ
散瞳して行う検査はどれか。
- a.視野検査
- b.調節検査
- c.隅角検査
- d.両眼視機能検査
- e.蛍光眼底造影検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
散瞳して行う検査は、おおむね眼底を精密に観察・撮影する検査であり、蛍光眼底造影検査はその代表です。散瞳薬に含まれる抗コリン薬は毛様体筋も麻痺させるため、調節検査や近見での両眼視機能検査は散瞳下では正しく行えず、視野検査も条件をそろえるため無散瞳で実施します。隅角検査は散瞳で隅角が狭く見えるうえ、狭隅角眼では急性緑内障発作を誘発しうるため無散瞳で行います。小児の調節麻痺下屈折検査は散瞳ではなく調節を止めることが目的である点、散瞳前の前房深度確認と検査後の運転制限の説明も臨床上の重要事項です。散瞳の「見やすくなる面」と「機能を止める面」を理解しておくと、眼科検査の選択と患者説明の両方に役立ちます。
解答・解説
正解はeです
本問は、眼科検査のうち散瞳(点眼薬で瞳孔を広げること)を行ったうえで実施する検査を選ぶ問題である。
散瞳の目的と影響
瞳孔は眼の奥をのぞくための「窓」にあたる。瞳孔が小さいままだと、眼底(網膜・視神経乳頭・網膜血管)の観察範囲が中心部に限られ、周辺部まで十分に観察・撮影できない。そこで眼底を詳しく調べる検査では、散瞳薬を点眼して瞳孔を広げてから行う。日本でよく用いられる散瞳薬はトロピカミド(抗コリン薬)とフェニレフリン(α1刺激薬)の配合点眼薬である。 一方、散瞳薬、特に抗コリン作用をもつ薬は、毛様体筋の働きも弱めて調節(近くにピントを合わせる働き)を麻痺させる。また散瞳すると周辺部の虹彩が厚く寄り集まり、隅角(角膜と虹彩の間の房水の出口)が狭くなる。このため、調節や瞳孔の働きを評価する検査や、自然な状態の隅角を観察したい検査では、散瞳は不都合となる。
考え方
「散瞳して行う検査」は、おおむね「眼底を精密に観察・撮影する検査」と考えてよい。選択肢の中で眼底の検査に該当するのは蛍光眼底造影検査であり、これが正解である。それ以外の選択肢は、散瞳すると評価が困難になる、あるいは結果がゆがむため、通常は散瞳せずに行う。
選択肢考察
- ×a. 視野検査
視野検査は、視標が見えるかどうかを患者に答えてもらい、見える範囲と感度を調べる自覚的検査である。瞳孔の大きさは網膜に届く光の量や像のぼけに影響し、散瞳に伴う調節麻痺やまぶしさで結果が変動しうる。経過を比較するためにも条件をそろえる必要があり、通常は散瞳せずに行う。
- ×b. 調節検査
調節検査は、近くを見るときに毛様体筋が収縮して水晶体を厚くし、ピントを合わせる力(調節力)を測る検査である。散瞳薬の多くは抗コリン作用により毛様体筋を麻痺させる(調節麻痺)ため、散瞳下では調節そのものが働かず、評価できない。
- ×c. 隅角検査
隅角検査は、隅角鏡というレンズを角膜に当てて隅角の広さや状態を観察する検査で、緑内障の病型診断に用いる。散瞳すると周辺部の虹彩が厚くなって隅角が狭く見え、本来の状態を正しく評価できない。さらに隅角がもともと狭い眼では、散瞳によって隅角が閉じて急性緑内障発作を誘発するおそれがある。このため隅角検査は無散瞳で行う。
- ×d. 両眼視機能検査
両眼視機能検査は、左右の眼で見た像を一つにまとめる働き(同時視、融像、立体視)を調べる検査で、斜視や弱視の評価に用いる。散瞳による調節麻痺が起こると近くの視標にピントが合わず、近見での検査が正しく行えないため、通常は散瞳せずに行う。
- ○e. 蛍光眼底造影検査
蛍光眼底造影検査は、フルオレセインなどの蛍光色素を静脈内に注射し、網膜・脈絡膜の血管を色素が流れる様子を連続的に撮影する検査である。網膜血管の閉塞や新生血管、血管からの漏出などを評価し、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、加齢黄斑変性などの診断・治療方針の決定に用いる。眼底を広い範囲で鮮明に撮影する必要があるため、散瞳したうえで行うのが一般的である。
散瞳下で行う主な検査
・眼底検査(倒像鏡などによる網膜周辺部までの精密検査) ・眼底写真撮影 ・蛍光眼底造影検査(フルオレセイン蛍光眼底造影、インドシアニングリーン蛍光眼底造影) ・細隙灯顕微鏡による水晶体・硝子体の詳細な観察(白内障の評価など) ・網膜電図(ERG:網膜の電気的反応を記録する検査) なお、近年は散瞳せずに撮影できる眼底カメラや光干渉断層計(OCT:網膜の断面を撮影する装置)もあるが、周辺部まで十分な画像を得るには散瞳下のほうが有利である。
散瞳せずに行う主な検査
・調節検査、両眼視機能検査、視野検査 ・隅角検査 ・瞳孔反応の検査(対光反射など)
関連事項
・小児の屈折検査では、調節の影響を除くためにアトロピンやシクロペントラートなどの調節麻痺薬を点眼して行う(調節麻痺下屈折検査)。これは散瞳そのものではなく、調節を止めることが目的である。 ・散瞳薬の点眼後は数時間にわたりまぶしさやピントの合いにくさが残るため、検査後の自動車運転を控えるよう説明する。 ・浅前房・狭隅角の眼では、散瞳によって急性緑内障発作が誘発されることがあるため、散瞳前に前房の深さを確認する。
POINT
・散瞳して行う検査=眼底の精密検査(眼底検査、眼底写真、蛍光眼底造影検査など)と考える。 ・散瞳薬(抗コリン薬)は調節麻痺を起こすため、調節検査や近見の両眼視機能検査は散瞳下では行えない。 ・隅角検査は無散瞳で行う。狭隅角眼の散瞳は急性緑内障発作を誘発しうる。
