眼底を「立体で」見る条件―両眼でのぞく双眼倒像鏡と、片眼の直像鏡の違い
第107回医師国家試験 F問題 第7問
国試問題にチャレンジ
眼底を立体的に観察することが可能なのはどれか。
- a.暗順応検査
- b.直像鏡検査
- c.眼軸長検査
- d.双眼倒像鏡検査
- e.網膜電図〈ERG〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
立体視には左右の眼で見た像のずれ(両眼視差)を統合する必要があり、眼底を立体的に観察できるのは検者が両眼で見る双眼倒像鏡検査です。双眼倒像鏡は倒立像で拡大率は数倍程度と低いものの観察範囲が広く、強膜圧迫を併用すれば最周辺部まで観察できるため、網膜剝離・裂孔の検索や未熟児網膜症の診察に重要です。直像鏡は正立像・約15倍の高倍率で乳頭や黄斑の細部観察に向きますが、片眼で見るため立体視はできません。暗順応検査とERGは網膜の機能検査、眼軸長検査は眼内レンズ度数計算などに用いる計測検査で、眼底を観察する検査ではありません。各検査の原理と得意分野を整理しておくことは、眼科診療で適切な検査を選ぶための基礎になります。
解答・解説
正解はdです
物を立体的に(奥行きをもって)見るには、左右の眼がわずかに異なる角度から同じ対象を見て、その像のずれ(両眼視差)を脳で統合する必要がある。つまり、立体視には両眼で同時に観察することが前提となる。眼底検査でも同じで、検者が片眼だけでのぞく方法では平面的な像しか得られず、検者が両眼で観察できる方法でなければ眼底の凹凸を立体的に捉えることはできない。 本問では、まず選択肢を「眼底を観察する(形態をみる)検査」と「網膜などの機能や眼球の計測を行う検査」に分けるとよい。眼底を直接観察する検査は直像鏡検査と双眼倒像鏡検査の2つであり、そのうち検者が両眼で観察するのは双眼倒像鏡検査である。暗順応検査と網膜電図は網膜の機能検査、眼軸長検査は眼球の長さの計測であり、いずれも眼底を目で見る検査ではない。
選択肢考察
- ×a. 暗順応検査
誤り。暗順応検査は、明るい環境から暗所に移ったときに光覚閾値(見える最も弱い光の強さ)が時間とともにどう低下していくかを測定する網膜の機能検査である。暗順応曲線は、はじめの数分の錐体による順応と、その後の杆体による順応の二相性を示し、両者の境目の屈曲点をKohlrausch屈曲点と呼ぶ。杆体機能が障害される夜盲(網膜色素変性、ビタミンA欠乏症、小口病など)の評価に用いられる。眼底を観察する検査ではない。
- ×b. 直像鏡検査
誤り。直像鏡(直接検眼鏡)は、検者が片眼で器械をのぞき込み、被検者の眼に近づいて眼底を直接観察する方法である。像は正立像(直像)で、拡大率は約15倍と高く、視神経乳頭や黄斑部の細部をみるのに適する。一方、観察できる範囲は狭く、眼底の周辺部はみにくい。検者が片眼で観察するため、立体的に観察することはできない。
- ×c. 眼軸長検査
誤り。眼軸長検査は、角膜頂点から網膜までの眼球の前後方向の長さ(眼軸長、成人の正常はおよそ24 mm前後)を測る計測検査である。超音波Aモード法や、光干渉を用いた光学式眼軸長測定装置で測定する。白内障手術で挿入する眼内レンズの度数計算や、近視(特に軸性近視)の評価・進行管理に用いられる。眼底を観察する検査ではない。
- ○d. 双眼倒像鏡検査
正しい。双眼倒像鏡検査では、検者が頭部に装着した光源付きの双眼鏡をのぞき、被検者の眼前に保持した集光レンズ(凸レンズ、+20 D前後のものがよく用いられる)で眼底の空中像を作って観察する。検者が両眼で観察するため、眼底を立体的に観察できる。得られる像は上下左右が逆転した倒立像で、拡大率は数倍程度と低いが、観察範囲が広く、強膜圧迫子を併用すると眼底の最周辺部(鋸状縁付近)まで観察できる。網膜剝離や網膜裂孔の検索、網膜の隆起や陥凹の評価、未熟児網膜症の診察などで特に重要である。
- ×e. 網膜電図〈ERG〉
誤り。網膜電図(electroretinogram:ERG)は、光刺激に対して網膜全体に生じる電位変化を、角膜上などに置いた電極で記録する網膜の機能検査である。主に視細胞由来の陰性波であるa波と、双極細胞やMüller細胞に由来する陽性波であるb波から構成される。網膜色素変性では早期から振幅が著しく低下し、進行すると記録されなくなる(平坦型)。中間透光体の混濁で眼底がみえないときに網膜機能を評価する目的でも用いられるが、眼底を観察する検査ではない。
直像鏡と倒像鏡の比較
・直像鏡:正立像、拡大率約15倍、観察範囲は狭い、片眼で観察するため立体視不可。視神経乳頭や黄斑部の詳細観察に向く。携帯しやすく、散瞳しなくても観察可能な場合がある。 ・双眼倒像鏡:倒立像(上下左右が逆)、拡大率は数倍程度、観察範囲は広い、両眼で観察するため立体視可能。散瞳下で行い、眼底周辺部の観察(網膜剝離・裂孔など)に向く。 ・単眼倒像鏡:倒像鏡でも検者が片眼で観察する方法では立体視はできない。
その他の眼底の立体的観察法
細隙灯顕微鏡(両眼で観察する生体顕微鏡)に前置レンズや接触型の眼底観察用レンズを組み合わせると、黄斑部や視神経乳頭を高倍率かつ立体的に観察できる。黄斑浮腫や乳頭陥凹(緑内障)の評価に有用である。また、光干渉断層計(OCT)は網膜の断層像を得る画像検査で、網膜の厚みや層構造を客観的に評価できる。
網膜の機能検査と計測検査
・暗順応検査:杆体・錐体の順応過程をみる。夜盲の評価。 ・網膜電図(ERG):網膜全体の電気的反応をみる。網膜色素変性で振幅低下・平坦化。 ・眼電図(EOG):網膜色素上皮の機能をみる。卵黄状黄斑ジストロフィ(Best病)で異常。 ・眼軸長検査:超音波Aモードまたは光学式で眼球の長さを計測する。眼内レンズ度数計算に必須。
POINT
・立体視には両眼での観察が必要であり、眼底を立体的に観察できるのは双眼倒像鏡(や細隙灯顕微鏡を用いた眼底観察)である。 ・直像鏡:正立像・高倍率(約15倍)・狭い視野・立体視不可。 ・双眼倒像鏡:倒立像・低倍率・広い視野・立体視可能・周辺部網膜(網膜剝離)の観察に有用。 ・暗順応検査とERGは網膜の機能検査、眼軸長検査は眼球の計測であり、眼底を観察する検査ではない。
