赤い目は「診断の決め手」になるか―川崎病の主要症状と、膠原病の眼症状を区別する
第107回医師国家試験 F問題 第6問
国試問題にチャレンジ
両側眼球結膜の充血が診断に有用なのはどれか。
- a.川崎病
- b.皮膚筋炎
- c.側頭動脈炎
- d.関節リウマチ
- e.全身性エリテマトーデス〈SLE〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
両側眼球結膜の充血は、川崎病の6つの主要症状(発熱、両側眼球結膜の充血、口唇・口腔所見、発疹、四肢末端の変化、非化膿性頸部リンパ節腫脹)の一つで、診断に直接使われる所見です。川崎病の結膜充血は眼脂を伴わず角膜輪部が白く抜けるのが特徴で、咽頭結膜熱や細菌性結膜炎との鑑別点になります。皮膚筋炎のヘリオトロープ疹はまぶたの皮膚所見、巨細胞性動脈炎では失明、関節リウマチでは強膜炎やドライアイ、SLEでは網膜病変がみられますが、いずれも結膜充血を診断項目としていません。「眼症状を伴うこと」と「診断基準に含まれること」を区別し、疾患ごとに眼の病変を対応させて覚えることが、鑑別の精度を高めます。川崎病では不全型でも冠動脈瘤が起こりうるため、主要症状がそろわなくても疑う姿勢が重要です。
解答・解説
正解はaです
本問は、「両側眼球結膜の充血」という所見が診断基準(あるいは診断の決め手となる主要症状)に組み込まれている疾患を選ぶ問題である。選択肢に挙がっている膠原病・血管炎の多くは何らかの眼症状を伴いうるが、「眼に症状が出ることがある」ことと「その所見が診断に有用である」ことは別である。 川崎病(急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群)は、乳幼児に好発する原因不明の全身性血管炎で、特異的な検査マーカーがないため、特徴的な臨床症状の組み合わせで診断する。その6つの主要症状の一つが「両側眼球結膜の充血」である。一方、皮膚筋炎、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)では、眼症状はあっても結膜充血そのものは診断基準・分類基準の項目に含まれていない。したがって、各疾患の診断基準の骨格を思い出せれば正解にたどり着ける。
選択肢考察
- ○a. 川崎病
正しい。川崎病診断の手引きの主要症状は、①発熱、②両側眼球結膜の充血、③口唇・口腔所見(口唇の紅潮・いちご舌・口腔咽頭粘膜のびまん性発赤)、④発疹(BCG接種部位の発赤を含む)、⑤四肢末端の変化(急性期の手足の硬性浮腫・手掌足底の紅斑、回復期の指先からの膜様落屑)、⑥急性期の非化膿性頸部リンパ節腫脹の6つである。川崎病の結膜充血は眼脂(めやに)を伴わない非化膿性のもので、角膜周囲(角膜輪部)の充血が目立たない(輪部が白く抜ける)のが特徴であり、細菌性結膜炎やアデノウイルス感染症(咽頭結膜熱)との鑑別点になる。急性期には細隙灯顕微鏡で前部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)が高率にみられるが、非肉芽腫性で後遺症を残さず、予後は良好である。
- ×b. 皮膚筋炎
誤り。皮膚筋炎は、近位筋優位の筋力低下を主体とする炎症性筋疾患に特徴的な皮膚症状を伴う疾患である。診断に有用な所見は、ヘリオトロープ疹(上眼瞼の紫紅色の浮腫性紅斑)、Gottron丘疹・Gottron徴候(手指関節背面の角化性紅斑)、近位筋の筋力低下、血清クレアチンキナーゼ(CK)などの筋原性酵素の上昇、筋電図の筋原性変化、MRIでの筋炎所見、筋生検、抗ARS抗体・抗MDA5抗体・抗Mi-2抗体・抗TIF1-γ抗体などの筋炎特異的自己抗体である。眼の周囲の皮疹(ヘリオトロープ疹)は重要だが、これは眼瞼の皮膚所見であって眼球結膜の充血ではない。
- ×c. 側頭動脈炎
誤り。側頭動脈炎は現在、巨細胞性動脈炎(GCA)と呼ばれる。50歳以上の高齢者に好発し、大動脈とその主要分枝、特に浅側頭動脈などの頸動脈系の分枝を侵す大型血管炎である。診断に有用なのは、50歳以上の発症、新たに生じた頭痛、側頭動脈の圧痛・拍動低下・怒張、顎跛行(咀嚼時の顎の痛み)、赤沈亢進やCRP上昇、側頭動脈生検での肉芽腫性血管炎(巨細胞の出現)、リウマチ性多発筋痛症の合併などである。眼科的には、後毛様動脈の閉塞による動脈炎性前部虚血性視神経症や網膜中心動脈閉塞により急激な視力低下・失明をきたすことが最も重大な合併症だが、これは結膜充血ではない。
- ×d. 関節リウマチ
誤り。関節リウマチは多関節の滑膜炎を主体とする自己免疫疾患で、診断(2010年ACR/EULAR分類基準)には、腫脹・圧痛関節の数と分布、血清学的検査(リウマトイド因子、抗CCP抗体)、急性期反応物質(CRP、赤沈)、症状の持続期間(6週以上か)が用いられる。眼病変としては、続発性Sjögren症候群による乾燥性角結膜炎(ドライアイ)が多く、ほかに上強膜炎や強膜炎(重症例では壊死性強膜炎)もみられる。上強膜炎・強膜炎では眼が赤くなるが、これは結膜充血とは別の病変であり、いずれも診断基準の項目ではない。
- ×e. 全身性エリテマトーデス〈SLE〉
誤り。SLEは多彩な自己抗体が出現し、皮膚、関節、腎臓、血液、中枢神経など多臓器を障害する代表的な自己免疫疾患である。分類基準(2019年EULAR/ACR分類基準など)では、抗核抗体陽性を前提に、発熱、白血球減少・血小板減少・自己免疫性溶血、急性皮膚ループス(蝶形紅斑)・円板状ループス・口腔潰瘍・脱毛、関節炎、漿膜炎、ループス腎炎、神経精神症状、抗dsDNA抗体・抗Sm抗体・抗リン脂質抗体、低補体血症などが評価される。眼病変として網膜の綿花様白斑(ループス網膜症)や続発性Sjögren症候群によるドライアイなどがみられることはあるが、結膜充血は診断項目に含まれない。
川崎病の診断(川崎病診断の手引き 改訂第6版、2019年)
・主要症状:①発熱、②両側眼球結膜の充血、③口唇・口腔所見、④発疹(BCG接種痕の発赤を含む)、⑤四肢末端の変化、⑥急性期の非化膿性頸部リンパ節腫脹 ・6つの主要症状のうち5つ以上を満たすもの、または4つの主要症状に加えて冠動脈病変(心エコーで冠動脈の拡大・瘤)を認め他疾患が除外されるものを「川崎病(完全例)」とする。 ・主要症状が3つ以下でも冠動脈病変があり他疾患が否定されれば不全型とされるなど、完全例の基準を満たさない「不全型」も存在し、冠動脈病変を生じうるので注意を要する。 ・なお、改訂第6版では発熱の日数(従来の「5日以上」)が要件から外された。 ・最も重要な合併症は冠動脈瘤であり、急性期の治療は免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)とアスピリンが基本である。
結膜充血と鑑別される「目の赤み」
・結膜充血:結膜血管の拡張。眼瞼結膜・眼球結膜の周辺部で強い。川崎病のほか、ウイルス性・細菌性結膜炎、麻疹、レプトスピラ症(Weil病)などでみられる。 ・毛様充血:角膜輪部周囲の深部血管の充血。ぶどう膜炎、角膜炎、急性閉塞隅角緑内障などでみられる。 ・上強膜炎・強膜炎:関節リウマチ、多発血管炎性肉芽腫症、再発性多発軟骨炎などに合併する。
膠原病・血管炎と眼症状の整理
・Behçet病:再発性の前房蓄膿性ぶどう膜炎(眼症状が主症状の一つ) ・サルコイドーシス:肉芽腫性ぶどう膜炎 ・Sjögren症候群:乾燥性角結膜炎 ・巨細胞性動脈炎:虚血性視神経症による失明 ・皮膚筋炎:ヘリオトロープ疹(上眼瞼) ・反応性関節炎:結膜炎・ぶどう膜炎
POINT
・川崎病の主要症状6つ(発熱、両側眼球結膜充血、口唇・口腔所見、発疹、四肢末端の変化、非化膿性頸部リンパ節腫脹)は必ず暗記する。 ・川崎病の結膜充血は眼脂を伴わず、角膜輪部周囲が白く抜けるのが特徴。 ・眼症状を伴いうることと、診断基準に入っていることは別物である。 ・巨細胞性動脈炎の眼症状は失明(虚血性視神経症)、皮膚筋炎はヘリオトロープ疹、関節リウマチは乾燥性角結膜炎・強膜炎。
