透明な窓を守る「水のくみ出し係」―角膜内皮細胞の本当の仕事
第108回医師国家試験 E問題 第9問
国試問題にチャレンジ
角膜内皮細胞の機能はどれか。
- a.感染の防止
- b.房水の取込み
- c.屈折力の増強
- d.角膜実質の再生
- e.角膜透明性の維持
対話形式の解説
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ドクターまとめ
角膜内皮細胞は角膜の最内層にある1層の六角形細胞で、Na+/K+-ATPaseなどによるポンプ機能と細胞間結合によるバリア機能によって角膜実質の水分を前房へくみ出し、実質の含水率を一定に保つことで角膜の透明性を維持しています。感染防御は角膜上皮と涙液、房水の排出は線維柱帯とSchlemm管、屈折力の調節は毛様体筋と水晶体の役割であり、混同しないよう注意が必要です。ヒトの角膜内皮細胞は生体内でほとんど再生しないため、内眼手術や眼圧上昇、炎症、Fuchs角膜内皮ジストロフィなどで減少し、おおむね500個/mm²を下回ると角膜浮腫から水疱性角膜症を生じます。治療の中心はDSAEKやDMEKなどの角膜内皮移植であり、白内障手術などの前に内皮細胞密度を評価する意義もここにあります。角膜各層の役割を構造と結びつけて理解することは、角膜疾患の病態や手術リスクを考える土台になります。
解答・解説
正解はeです
角膜は前から順に、角膜上皮、ボーマン膜、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮の5層からなる(近年は実質とデスメ膜の間にもう1層あるとする説もある)。角膜内皮は角膜の最も内側(前房側)にある1層の六角形の細胞で、房水と接している。 角膜は血管をもたない透明な組織である。透明性は、角膜実質のコラーゲン線維が規則正しく細かく並び、含水率が一定(約78%)に保たれることで成り立っている。角膜実質は水を引き込みやすい性質をもつので、前房側から房水が少しずつしみ込んでくる。角膜内皮細胞は、Na+/K+-ATPaseや重炭酸イオン輸送を利用したポンプ機能で実質の水を前房へくみ出し、同時に細胞どうしの結合による関門(バリア)機能で水の流入を制限する。この働きで角膜の脱水状態(deturgescence)を保ち、透明性を維持している。 したがって、角膜内皮の機能は「角膜透明性の維持」である。他の選択肢は、角膜上皮・涙液・線維柱帯など別の構造の役割や、角膜内皮とは関係のない性質と混同させるものである。
選択肢考察
- ×a. 感染の防止
角膜内皮の機能ではない。外界からの病原体の侵入を防ぐのは、主に最表層の角膜上皮(細胞間の密着結合による物理的なバリア)と涙液である。涙液にはリゾチーム、ラクトフェリン、分泌型IgAなどの抗菌物質が含まれ、瞬目による洗い流しとあわせて感染防御に役立つ。角膜上皮に傷があると細菌や真菌が侵入しやすく、角膜潰瘍の原因となる。角膜内皮は眼内側にあり、外界と接していない。
- ×b. 房水の取込み
角膜内皮の機能ではない。房水は毛様体上皮でつくられ、後房から瞳孔を通って前房へ流れ、隅角の線維柱帯からSchlemm管(シュレム管)へ流出する経路(主経路)と、毛様体筋の間を抜けるぶどう膜強膜流出路(副経路)で眼外へ排出される。房水を取り込んで排出するのはこれらの流出路である。角膜内皮はむしろ、実質へしみ込んだ水を前房へ汲み出す側に働く。なお、ブドウ糖などの栄養は房水から内皮を通って角膜へ供給されるが、これは房水を取り込んで処理する機能とは異なる。
- ×c. 屈折力の増強
角膜内皮の機能ではない。角膜は眼全体の屈折力(約60ジオプトリー)のうち約3分の2(約43ジオプトリー)を担う。ただし、その大部分は屈折率差の大きい空気と角膜前面(涙液層)の境界で生じる。角膜後面では、角膜から屈折率の近い房水へ移るため屈折力はわずかにマイナスとなり、内皮が屈折力を増強することはない。見る距離に応じて屈折力を変える(調節する)のは、毛様体筋の収縮で水晶体が厚くなる仕組みである。
- ×d. 角膜実質の再生
角膜内皮の機能ではない。角膜実質は角膜の厚さの約9割を占め、コラーゲン線維と実質細胞(ケラトサイト)からなる。損傷を受けると実質細胞が線維芽細胞様に変化して修復するが、線維配列が乱れるため瘢痕(混濁)として治り、元の透明な組織には戻らない。角膜内皮はこの修復に関与しない。なお、角膜上皮は角膜輪部(角膜と結膜の境界)の幹細胞から補充されて再生するが、ヒトの角膜内皮細胞は生体内でほとんど分裂・増殖しない。
- ○e. 角膜透明性の維持
角膜内皮の主要な機能である。内皮細胞はポンプ機能(Na+/K+-ATPase、重炭酸イオン輸送など)で実質から前房へ水を汲み出し、バリア機能で水の流入を抑えて、実質の含水率を一定に保つ。これにより実質のコラーゲン線維の規則的な配列が保たれ、光が散乱せずに通過できる。内皮細胞が減ってこの働きが追いつかなくなると、実質に水がたまって角膜浮腫となり、角膜が厚く濁る。進行すると上皮下に水疱ができる水疱性角膜症となり、視力低下や強い眼痛を生じる。
角膜内皮細胞の特徴
・1層の六角形細胞で、密度は若年成人で約2,500〜3,000個/mm2。加齢とともに徐々に減少する。 ・ヒトでは生体内でほとんど増殖しないため、失われた細胞は隣の細胞が広がって(大型化・多形化して)欠損を埋める。 ・密度がおおむね500個/mm2を下回ると、ポンプ機能が不足して角膜浮腫(水疱性角膜症)を起こしやすくなる。 ・スペキュラーマイクロスコープ(角膜内皮細胞撮影装置)で細胞密度、大きさのばらつき、六角形細胞の割合を評価する。内眼手術の前に確認しておくことが重要である。
角膜内皮細胞が減少する主な原因
・内眼手術(白内障手術など)による手術侵襲 ・急激な眼圧上昇(急性緑内障発作など) ・眼内の炎症(ぶどう膜炎など)、外傷 ・長期間のコンタクトレンズ装用(酸素不足) ・Fuchs角膜内皮ジストロフィ(遺伝性に内皮が減少し、デスメ膜に滴状の沈着物〈guttae〉ができる) ・角膜内皮炎(サイトメガロウイルスなど)
水疱性角膜症の治療
内皮細胞は増えないため、根本治療は内皮の移植である。全層角膜移植のほか、現在は病的な内皮とデスメ膜だけを置き換える角膜内皮移植(DSAEK〈デスメ膜剥離角膜内皮移植術〉、DMEK〈デスメ膜角膜内皮移植術〉)が主流となっている。培養した角膜内皮細胞を前房内に注入する再生医療も実用化が進んでいる。
角膜各層の主な役割の整理
角膜上皮:外界からのバリア、感染防御。輪部幹細胞から再生する。 ボーマン膜:上皮の土台。傷つくと再生しない。 角膜実質:角膜の厚さの大部分。コラーゲン線維の規則的配列で透明性を担う。 デスメ膜:内皮の基底膜。 角膜内皮:ポンプ機能とバリア機能で実質の含水率を保ち、透明性を維持する。
POINT
・角膜内皮の機能は、ポンプ機能とバリア機能による角膜実質の脱水維持、すなわち角膜透明性の維持である。 ・ヒトの角膜内皮細胞は生体内でほとんど再生しない。減少すると角膜浮腫から水疱性角膜症になる。 ・感染防御は角膜上皮と涙液、房水の排出は線維柱帯・Schlemm管、調節(屈折力の変化)は毛様体筋と水晶体の役割である。
