角膜の向こうの「見えない角」―三面鏡で覗く前房隅角
第107回医師国家試験 E問題 第8問
国試問題にチャレンジ
眼科の診察器具(A)とこの器具で得られる検査所見(B)とを別に示す。 観察されている部位はどれか。

- a.涙嚢
- b.前房隅角
- c.視神経管
- d.視神経乳頭陥凹
- e.網膜黄斑部中心窩
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
Goldmann三面鏡は、点眼麻酔下で角膜に密着させ細隙灯顕微鏡と組み合わせて使う接触型レンズで、中央レンズで眼底後極部を、傾きの異なる鏡で周辺部網膜や前房隅角を観察します。前房隅角は角膜表面での全反射のため通常の診察では直接見えず、隅角鏡を用いて初めて観察でき、角膜後面から虹彩根部にかけてSchwalbe線・線維柱帯・強膜岬・毛様体帯が帯状に並ぶ像として写ります。視神経乳頭や黄斑は眼底の像として、涙嚢や視神経管は眼球外の構造として別の検査で評価するため、像の性状と部位の対応で鑑別できます。隅角鏡検査は開放隅角か閉塞隅角かの判定、周辺虹彩前癒着や新生血管の評価など、緑内障診療の基本となる検査です。器具の仕組みと観察部位、検査法の対応を整理しておくことは、眼科診療の理解の土台になります。
解答・解説
正解はbです
器具の同定
写真Aの器具は、円錐形の筒の内側に大きさ・傾きの異なる3枚の鏡を組み込んだ接触型レンズであり、Goldmann三面鏡(スリーミラー)と呼ばれる。点眼麻酔をした角膜の上に、粘性のある液(スコピゾル等)を介して密着させ、細隙灯顕微鏡(スリットランプ)で覗いて使う。中央のレンズでは眼底の後極部を、3枚の鏡ではそれぞれ角度の異なる領域(周辺部網膜や前房隅角)を観察できる。
なぜ特殊なレンズが必要か
前房隅角(角膜と虹彩の付け根が作る角の部分)から出た光は、角膜の表面と空気の境目で全反射してしまい、通常の細隙灯顕微鏡検査では外から直接見ることができない。角膜にレンズを密着させて空気との境界をなくし、鏡で光路を曲げることで初めて隅角を観察できる。この検査を隅角鏡検査(ゴニオスコピー)という。
所見の読み取り
写真Bには、角膜の後面から虹彩へと移行する部分が写っており、その間に帯状の構造(線維柱帯など)が並んで見える。眼底(視神経乳頭や黄斑)の像ではなく、前眼部の角膜と虹彩の境界部を鏡で映した像であるから、観察されているのは前房隅角である。 器具名が思い出せなくても、写真Bが眼球のどの部分を写したものかを判断できれば正解に到達できる基本問題である。
選択肢考察
- ×a. 涙嚢
涙嚢は内眼角の奥、骨性の涙嚢窩に収まる涙道の一部であり、眼球の外にあるため角膜に当てるレンズでは観察できない。涙道の評価には涙管通水試験、涙道内視鏡、涙嚢造影、CTなどを用いる。
- ○b. 前房隅角
Goldmann三面鏡のうち最も傾斜の強い小さな鏡(隅角鏡部分)を用いると、角膜後面と虹彩根部の間にある隅角構造(Schwalbe線、線維柱帯、強膜岬、毛様体帯)を観察できる。写真Bはこれらが帯状に並ぶ隅角部の像であり、観察部位は前房隅角である。隅角の広さ、色素沈着、周辺虹彩前癒着(PAS)、新生血管の有無などを評価し、緑内障の病型診断に用いる。
- ×c. 視神経管
視神経管は蝶形骨小翼内を通る骨の管で、眼球の後方・眼窩の奥に位置する。眼内を覗く器具では観察できず、骨の評価に優れたCT(視神経管撮影、薄いスライスのCT)や、神経の評価にMRIを用いる。外傷性視神経症での骨折の確認などが代表的な適応である。
- ×d. 視神経乳頭陥凹
視神経乳頭陥凹は眼底にある構造で、三面鏡の中央レンズを使えば観察すること自体は可能である。しかし視神経乳頭は円形の乳頭とその中央の陥凹、そこから出入りする網膜血管として写るはずであり、写真Bの所見とは一致しない。通常は検眼鏡、眼底写真、光干渉断層計(OCT)で評価する。
- ×e. 網膜黄斑部中心窩
黄斑部中心窩も眼底後極部の構造であり、三面鏡の中央レンズで観察可能である。しかし黄斑は視神経乳頭の耳側にある、血管のない暗調の領域として写り、写真Bの像とは異なる。通常は眼底検査やOCTで評価する。
Goldmann三面鏡の構成
・中央レンズ: 眼底後極部(視神経乳頭・黄斑)を立体的に観察する。 ・3枚の鏡: 傾きの異なる鏡で、赤道部付近、周辺部網膜、前房隅角・鋸状縁付近をそれぞれ観察する。最も小さく傾斜の強い鏡が隅角観察に用いられる。 ・鏡に映る像は、鏡を置いた位置とは反対側(180°対側)の部位である。
隅角の構造(角膜側から虹彩側へ)
Schwalbe線(角膜内皮・Descemet膜の終端)→ 線維柱帯(房水の主な流出路。後方ほど色素が多い)→ 強膜岬(白色の帯)→ 毛様体帯(暗い帯)→ 虹彩根部。 房水は毛様体で産生され、後房から瞳孔を通って前房に入り、主に線維柱帯からSchlemm管へ流出する。
隅角鏡検査の臨床的意義
・開放隅角か閉塞隅角かの判定(緑内障の病型分類の基本)。 ・周辺虹彩前癒着(PAS)の有無。 ・隅角の新生血管(糖尿病網膜症などに伴う血管新生緑内障)。 ・色素沈着の程度(落屑緑内障、色素緑内障)、外傷後の隅角後退など。 なお隅角の広さは、隅角鏡以外に前眼部OCTや超音波生体顕微鏡(UBM)でも評価できる。
観察部位と検査法の対応
・前房隅角: 隅角鏡(三面鏡など) ・眼底(乳頭・黄斑): 検眼鏡、眼底写真、OCT ・涙道: 通水試験、涙嚢造影、涙道内視鏡 ・視神経管・眼窩: CT、MRI
POINT
・写真Aは角膜に接触させて用いるGoldmann三面鏡であり、細隙灯顕微鏡と組み合わせて使う。 ・前房隅角は角膜表面での全反射のため、隅角鏡を使わなければ直接観察できない。 ・写真Bの角膜と虹彩の境界部の帯状構造は隅角所見である。 ・隅角鏡検査は緑内障の病型診断(開放隅角か閉塞隅角か)の基本検査である。
