スリット光が切り取る「見える病気」と「見えない病気」―細隙灯顕微鏡の守備範囲を見極める
第108回医師国家試験 B問題 第34問
国試問題にチャレンジ
細隙灯顕微鏡で診断できるのはどれか。2つ選べ。
- a.近視
- b.原発開放隅角緑内障
- c.虹彩炎
- d.色覚異常
- e.水晶体偏位
対話形式の解説
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ドクターまとめ
細隙灯顕微鏡はスリット光で眼の断面を照らして拡大観察する装置で、単独では眼瞼・結膜・角膜・前房・虹彩・水晶体・前部硝子体といった前眼部が観察範囲です。前房細胞・前房フレア・角膜後面沈着物で診断する虹彩炎や、水晶体の位置異常・虹彩振盪を直接見られる水晶体偏位は、細隙灯顕微鏡で診断できる代表的な疾患です。一方、近視は屈折検査、色覚異常は仮性同色表やアノマロスコープなどの色覚検査、原発開放隅角緑内障は眼底・OCT・視野検査で診断し、細隙灯だけでは診断できません。「診断の決め手が前眼部の形態や炎症所見として現れるか」という視点で検査を選ぶ考え方は、眼科診療全体の基礎になります。
解答・解説
正解はc, eです
眼科の基本的な検査機器である細隙灯顕微鏡について、何を観察でき、どの疾患の診断に役立つかを問う問題である。
細隙灯顕微鏡とは
細隙灯顕微鏡(スリットランプ)は、細い帯状の光(スリット光)を眼に斜めから当て、その光で切り取られた断面を双眼の顕微鏡で拡大して観察する装置である。透明な組織でも、光の当たった断面が浮かび上がるため、層ごとの状態や奥行きを立体的に評価できる。
単独で観察できる範囲
眼瞼、結膜、角膜、前房、虹彩、瞳孔、水晶体、前部硝子体といった、眼球の前方の構造(前眼部)が対象である。隅角や眼底を観察するには、隅角鏡や前置レンズなどの補助レンズを組み合わせる必要がある。
解き方
各選択肢について、「診断の決め手になる所見が前眼部の形態に現れるか」を考える。 ・前眼部の形の異常や炎症所見そのものが診断根拠になる疾患 → 細隙灯顕微鏡で診断できる(虹彩炎、水晶体偏位)。 ・屈折や色覚のような「機能」の異常 → 形の変化として見えないため、専用の機能検査が必要である(近視、色覚異常)。 ・視神経の障害と視野の欠損で定義される疾患 → 眼底検査と視野検査が必要である(原発開放隅角緑内障)。
選択肢考察
- ×a. 近視
近視は、調節を休ませた状態で平行光線が網膜より前方に焦点を結ぶ屈折異常である。多くは眼軸(眼球の前後径)が長いことによる軸性近視である。診断には、オートレフラクトメータや検眼レンズを用いた屈折検査、視力検査を行う。小児では調節の影響を除くため、調節麻痺薬(シクロペントラートなど)を点眼して屈折を測定する。屈折の異常は前眼部の形の異常として見えないため、細隙灯顕微鏡では診断できない。
- ×b. 原発開放隅角緑内障
緑内障は、視神経乳頭の陥凹拡大(視神経線維の減少)と、それに対応する視野欠損を特徴とする進行性の視神経症である。原発開放隅角緑内障は、隅角が開いているにもかかわらず視神経障害が進む病型である。日本では眼圧が正常範囲にある正常眼圧緑内障が多く、広い意味ではこれも原発開放隅角緑内障に含まれる。したがって診断には、眼圧測定だけでなく、眼底検査での視神経乳頭の評価、光干渉断層計(OCT)による網膜神経線維層の評価、視野検査が必要である。細隙灯顕微鏡では、隅角鏡を併用して隅角が開放していることを確認できるが、開放隅角は正常眼でもみられる所見であり、それだけでは緑内障とはいえない。
- ○c. 虹彩炎
虹彩炎(前部ぶどう膜炎)では、虹彩の血管から炎症細胞や蛋白が前房内へ漏れ出す。細隙灯顕微鏡でスリット光を前房に当てると、次のような所見を直接観察できる。 ・前房細胞:光の帯の中に浮かぶ炎症細胞 ・前房フレア:蛋白の漏出により光の通り道が白く濁って見える現象 ・角膜後面沈着物:角膜の裏側に付着した炎症細胞の塊 ・虹彩後癒着:虹彩が水晶体に癒着する ・前房蓄膿:炎症細胞が前房の下方にたまる これらが診断の決め手となるため、虹彩炎は細隙灯顕微鏡で診断できる代表的な疾患である。
- ×d. 色覚異常
色覚異常は、網膜の錐体細胞に含まれる視物質(視色素)の異常による機能の異常である。先天赤緑色覚異常が最も多く、X連鎖潜性遺伝の形式をとる。眼の構造には異常がないため、細隙灯顕微鏡で観察しても所見はない。診断には、仮性同色表(石原色覚検査表など)によるスクリーニング、パネルD-15テストによる程度判定、アノマロスコープによる確定診断などの色覚検査を用いる。
- ○e. 水晶体偏位
水晶体偏位(水晶体脱臼・亜脱臼)は、水晶体を毛様体につなぎとめているチン小帯(毛様小帯)が弱くなったり断裂したりして、水晶体が本来の位置からずれる状態である。水晶体は細隙灯顕微鏡の観察範囲にあるため、次のような所見で直接診断できる。 ・散瞳すると瞳孔の中に水晶体の縁(赤道部)が見える ・眼球を動かしたときに虹彩が揺れる(虹彩振盪)、水晶体が揺れる(水晶体振盪) ・前房の深さが部位によって異なる 原因には外傷のほか、Marfan症候群(上耳側への偏位が多い)、ホモシスチン尿症(下方への偏位が多い)、落屑症候群などがある。
眼科の主な検査と対象
・細隙灯顕微鏡:眼瞼、結膜、角膜、前房、虹彩、水晶体、前部硝子体(前眼部) ・隅角鏡(細隙灯と併用):隅角の開大度、周辺虹彩前癒着、新生血管 ・前置レンズ(細隙灯と併用)・倒像鏡・眼底写真:網膜、視神経乳頭 ・光干渉断層計(OCT):網膜の断層像、網膜神経線維層の厚さ ・屈折検査・視力検査:近視・遠視・乱視 ・視野検査(Goldmann視野計、Humphrey視野計):緑内障、視路の障害 ・色覚検査(仮性同色表、パネルD-15、アノマロスコープ):色覚異常
ぶどう膜炎の分類
ぶどう膜は虹彩・毛様体・脈絡膜からなる。炎症の主な部位によって、前部(虹彩炎・虹彩毛様体炎)、中間部、後部(脈絡膜炎など)、汎ぶどう膜炎に分けられる。前部ぶどう膜炎は細隙灯顕微鏡で、後部の炎症は眼底検査で評価する。原因としてはサルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、Behçet病が日本の三大原因であり、HLA-B27関連の強直性脊椎炎なども前部ぶどう膜炎を起こす。
細隙灯顕微鏡で診断する代表的な疾患
結膜炎、角膜炎・角膜潰瘍、角膜異物、前房出血、虹彩炎、白内障、水晶体偏位など。
POINT
・細隙灯顕微鏡の単独での観察範囲は前眼部(角膜・結膜・前房・虹彩・水晶体・前部硝子体)。 ・虹彩炎:前房細胞・前房フレア・角膜後面沈着物で診断。 ・水晶体偏位:水晶体の位置異常・虹彩振盪を直接観察できる(Marfan症候群は上耳側、ホモシスチン尿症は下方)。 ・近視は屈折検査、色覚異常は色覚検査、緑内障は眼底(視神経乳頭)・OCT・視野検査で診断する。
