StudyMed医師国家試験

検診で見つかった「トゲのある影」―乳癌を疑ったら、まず何を調べるか

第112回医師国家試験 A問題 第71問

国試問題にチャレンジ

第112回 A問題 第71問

64歳の女性。乳がん検診のマンモグラフィで異常を指摘され来院した。左乳房に長径約2cmの腫瘤を触知する。腫瘤は境界不明瞭で硬く圧痛を認めない。乳頭からの分泌物を認めない。マンモグラムを別に示す。  次に行うべき検査はどれか。2つ選べ。

第112回 A問題 第71問の問題画像
  1. a.血管造影
  2. b.乳管造影
  3. c.経皮的針生検
  4. d.乳房超音波検査
  5. e.骨シンチグラフィ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、検診マンモグラフィで異常を指摘された女性に、次にどの検査を行うかを考える問題だ。ポイントは「乳癌の診断はどんな順番で進めるか」。まずは触診所見とマンモグラムから、どのくらい悪性を疑うかを判断しよう。
医学生医学生
硬くて境界がはっきりせず、痛みもない腫瘤なので、良性よりは癌を疑う所見だと思います。
ドクタードクター
その通り。癌は周りの組織に浸み込むように広がるから、境界がぼやけて硬く触れる。一方、若い女性に多い線維腺腫は、境界がはっきりしていて弾力があり、指で押すとよく動くのが典型だ。そしてマンモグラムでは、辺縁が不整で、周囲に放射状のトゲのような突起、つまりスピキュラを伴う高濃度の腫瘤影がみえる。
医学生医学生
スピキュラは放射線科の講義で「悪性を強く疑う所見」として何度も出てきました。
ドクタードクター
そう、マンモグラフィで悪性を疑う代表格だね。ほかに多形性や線状・分枝状の微細石灰化、腫瘤がないのに乳腺の走行がゆがむ構築の乱れも重要だ。年齢も乳癌の好発年齢にあたるから、浸潤性乳癌がかなり疑わしい状況といえる。では、ここで何をすべきかな。
医学生医学生
癌が疑わしいなら、転移があるかどうかを早く調べたくなります。骨シンチグラフィで骨転移を見るのはどうでしょうか。
ドクタードクター
そこがよくある落とし穴だ。骨シンチグラフィは、乳癌と確定したあとで進行度を決める病期診断の検査なんだ。まだ癌と決まっていない段階で全身の転移を探すのは順番が逆。早期で症状がなければ、全身の転移検索を省くこともあるくらいだよ。
医学生医学生
なるほど。まずは「本当に癌なのか」を確かめるのが先なんですね。
ドクタードクター
そう。乳癌診断は、画像で病変を詳しく評価する、組織を採って病理で確定する、確定したら広がりと転移を調べる、という3段階で進む。今回はその最初の2段階にあたる乳房超音波検査と経皮的針生検が答えになる。
医学生医学生
超音波はマンモグラフィの次に必ずやる検査という印象があります。臨床実習の乳腺外科外来でも、ほぼ全員に当てていました。
ドクタードクター
被曝がなくて非侵襲的、しかも腫瘤の形、境界、内部エコー、後方エコー、縦横比まで評価できるからね。乳癌では、形が不整で境界不明瞭な低エコー腫瘤として描出されることが多く、境界部が高エコーにみえるhaloや後方エコーの減弱、縦長の形も悪性を示唆する。腋窩リンパ節の腫大も確認できるし、続けて行う針生検のガイドにもなるんだ。
医学生医学生
針生検は、細い針で細胞を吸い取る検査とは違うんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。穿刺吸引細胞診は細胞だけを見る検査で、針生検はコア針や吸引式の器具で組織そのものを採る。組織があれば、浸潤癌か非浸潤癌か、組織型まで決められるし、ホルモン受容体のERやPgR、HER2、Ki-67も調べられる。これらは薬物療法を選ぶのに欠かせない情報だから、今は組織診が主流なんだ。
医学生医学生
病理実習で、ERの免疫染色で核が茶色く染まっている標本を見ました。あれが針生検の組織からわかるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。では残りの選択肢も確認しよう。血管造影はどうかな。
医学生医学生
肝細胞癌の診断や、肝動脈化学塞栓療法で使うイメージです。乳癌ではやらない気がします。
ドクタードクター
正解。血管造影は侵襲的な検査で、乳癌の診断にはマンモグラフィ、超音波、MRIと針生検で十分だ。乳管造影は、乳頭から分泌物、特に血性の分泌がある場合に、その乳管の開口部から造影剤を入れて乳管内の病変を描き出す検査。今回は乳頭分泌がないから、どの乳管を造影すればよいかもわからず、適応がない。しかも今は超音波やMRI、乳管内視鏡が中心で、行う機会自体が減っている。
医学生医学生
乳頭分泌があるかどうかが、乳管造影を選ぶかどうかの分かれ目なんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に発展知識をまとめよう。癌と確定したら、乳房MRIで乳房内の広がり、つまり多発病変や乳管内進展を評価し、必要に応じてCT、骨シンチグラフィ、PET-CTで遠隔転移を調べる。また、石灰化だけで超音波で描出できない病変は、マンモグラフィガイド下の吸引式組織生検を使うことも覚えておこう。
医学生医学生
針生検で調べたERやHER2の結果で、サブタイプを決めて治療を選ぶんですよね。
ドクタードクター
そう。ルミナルA様、ルミナルB様、HER2陽性、トリプルネガティブに分けて、内分泌療法、抗HER2療法、化学療法の組み合わせを決める。だからこそ、確定診断の段階で質のよい組織を採ることが、その後の治療全体を左右するんだ。

まとめ

硬く境界不明瞭で圧痛のない乳房腫瘤と、マンモグラフィでスピキュラを伴う腫瘤影がみられれば、乳癌を強く疑います。乳癌の診断は、画像による精査、病理による確定診断、病期診断の順に進めるため、次に行う検査は乳房超音波検査と経皮的針生検です。超音波では形状不整・境界不明瞭な低エコー腫瘤やhalo、後方エコー減弱が悪性を示唆し、針生検では組織型に加えてER、PgR、HER2、Ki-67を評価して治療方針を決めます。乳管造影は乳頭分泌がある場合の検査、骨シンチグラフィは確定後の病期診断の検査であり、血管造影は乳癌診断に用いません。「疑う→確かめる→広がりを調べる」という検査の順序を意識することは、乳癌に限らず腫瘍診療全般の基本になります。

解答・解説

正解はc, dです

所見の整理

・64歳女性。乳がん検診のマンモグラフィで異常を指摘された。乳癌は40歳代後半と60歳代前半に罹患が多く、本例はその好発年齢にあたる。 ・左乳房に長径約2cmの腫瘤を触れる。境界が不明瞭で硬く、圧痛はない。これは周囲組織に浸み込むように増殖する浸潤癌に典型的な触診所見である。線維腺腫のような良性腫瘤は、境界明瞭で弾性があり、よく動くことが多い。 ・乳頭からの分泌物はない。 ・マンモグラムでは、左乳房に辺縁が不整で、周囲へ放射状に伸びる棘状の突起(スピキュラ)を伴う高濃度の腫瘤影がみられる。スピキュラを伴う腫瘤は、マンモグラフィで悪性を強く疑う代表的な所見である。

診断の方向性

年齢、硬く境界不明瞭で圧痛のない腫瘤、マンモグラムのスピキュラを伴う腫瘤影から、乳癌(浸潤癌)が強く疑われる。

次に行うべき検査の考え方

乳癌が疑われたときは、次の順に検査を進める。 (1) 画像で病変の性状を詳しく評価する(マンモグラフィに加えて乳房超音波検査)。 (2) 組織を採取して病理学的に確定診断する(針生検)。 (3) 癌と確定したら、乳房MRIで乳房内の広がりを、CT・骨シンチグラフィなどで遠隔転移を評価する(病期診断)。 本問は「次に行うべき検査」を問うている。したがって、確定診断のための段階にある乳房超音波検査と経皮的針生検を選ぶ。病期診断の検査や、適応のない侵襲的検査は、この時点では選ばない。

選択肢考察

  1. ×a.  血管造影

    血管造影は、肝細胞癌など血流の豊富な腫瘍の診断や、肝動脈化学塞栓療法のような血管内治療の際に用いる侵襲的検査である。乳癌の診断にはマンモグラフィ・超音波・MRIなどの非侵襲的画像と針生検で十分であり、血管造影を行う意義はない。

  2. ×b.  乳管造影

    乳管造影は、乳頭から分泌物(特に血性分泌)がある場合に、分泌のある乳管開口部から造影剤を注入し、乳管の拡張や乳管内の腫瘤(乳管内乳頭腫や非浸潤性乳管癌など)を描出する検査である。本例は乳頭分泌がなく、造影する乳管を特定できないため、適応がない。なお現在は、乳頭分泌の精査でも超音波やMRI、乳管内視鏡などが中心となり、乳管造影を行う機会は減っている。

  3. ○c.  経皮的針生検

    乳癌の確定診断には、病変から細胞や組織を採取した病理学的診断が必要である。局所麻酔下に皮膚から腫瘤へ針を刺して組織を採取する経皮的針生検(コア針生検、吸引式組織生検など)は、通常は超音波ガイド下で行う。浸潤癌か非浸潤癌か、組織型などを決められる。さらに、薬物療法の方針決定に必要なホルモン受容体(ER・PgR)、HER2、Ki-67などの検索もできる。細胞だけを採る穿刺吸引細胞診に比べて得られる情報が多いため、現在は組織診が主流である。悪性が強く疑われる本例では、確定診断のために必須の検査である。

  4. ○d.  乳房超音波検査

    乳房超音波検査は、被曝がなく非侵襲的に腫瘤の形状、境界、内部エコー、後方エコー、縦横比などを評価でき、良悪性の鑑別に役立つ。乳癌では、形状が不整で境界が不明瞭な低エコー腫瘤として描出されることが多い。周囲脂肪織へ浸潤した境界部が高エコーにみえる像(halo)、後方エコーの減弱、縦横比の大きい腫瘤などもみられる。腋窩リンパ節腫大の評価もでき、引き続き行う針生検のガイドにもなる。マンモグラフィで異常を指摘された後に最初に追加すべき画像検査である。

  5. ×e.  骨シンチグラフィ

    乳癌は骨に転移しやすく、骨シンチグラフィは骨転移を検索する病期診断の検査である。病理学的に乳癌と確定し、進行度などから必要と判断された段階で行う。早期で症状のない例では、全身の転移検索を省略することもある。確定診断前の「次に行うべき検査」としては適切でない。

乳癌の診断の流れ

1. 発見の契機:検診マンモグラフィの異常、しこりの自覚、乳頭分泌、皮膚の変化など。 2. 視触診:腫瘤の大きさ、硬さ、境界、可動性を確認する。皮膚のくぼみ(dimpling sign)、乳頭陥凹、皮膚の発赤・浮腫(橙皮様皮膚)、腋窩・鎖骨上リンパ節の腫大もみる。 3. 画像診断:マンモグラフィと乳房超音波検査。 4. 病理診断:超音波ガイド下などの針生検(コア針生検、吸引式組織生検)。穿刺吸引細胞診も行われる。石灰化病変のみで超音波で描出できない場合は、マンモグラフィガイド下(ステレオガイド下)吸引式組織生検を行う。 5. 確定後の評価:乳房MRIで乳房内の広がり(多発病変や乳管内進展)を、CT・骨シンチグラフィ・PET-CTなどで遠隔転移を評価する。免疫染色でER、PgR、HER2、Ki-67を調べ、サブタイプ(ルミナルA様、ルミナルB様、HER2陽性、トリプルネガティブ)を決めて治療方針を立てる。

マンモグラフィの悪性を疑う所見

・スピキュラを伴う腫瘤、辺縁不整・微細分葉状の腫瘤 ・微細石灰化(多形性・微小線状・分枝状、区域性や線状の分布) ・構築の乱れ(腫瘤がはっきりしないのに、乳腺の正常な走行がゆがんでいる)

乳房超音波の悪性を疑う所見

・形状不整、境界不明瞭・粗ぞう ・内部が不均一な低エコー ・境界部の高エコー像(halo) ・後方エコーの減弱または消失 ・縦横比が大きい(縦長の腫瘤) ・前方境界線の断裂(周囲組織への浸潤)

良性腫瘤との対比

線維腺腫は若年女性に多く、境界明瞭・平滑で可動性がよく、弾性硬の腫瘤として触れる。超音波では楕円形で境界明瞭な低エコー腫瘤で、後方エコーは不変〜増強することが多い。

POINT

・硬く境界不明瞭で圧痛のない腫瘤+マンモグラフィのスピキュラを伴う腫瘤影 → 乳癌を疑う。 ・次の検査は、乳房超音波検査(画像による精査)と針生検(病理学的確定診断)である。 ・乳管造影は乳頭分泌がある場合の検査であり、分泌のない例では適応がない。 ・骨シンチグラフィ・CT・MRIは、確定診断後の病期診断・広がり診断に用いる。 ・針生検の組織でER、PgR、HER2、Ki-67を調べ、サブタイプ別に治療を決める。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。