検診で見つかった「トゲのある影」―乳癌を疑ったら、まず何を調べるか
第112回医師国家試験 A問題 第71問
国試問題にチャレンジ
64歳の女性。乳がん検診のマンモグラフィで異常を指摘され来院した。左乳房に長径約2cmの腫瘤を触知する。腫瘤は境界不明瞭で硬く圧痛を認めない。乳頭からの分泌物を認めない。マンモグラムを別に示す。 次に行うべき検査はどれか。2つ選べ。

- a.血管造影
- b.乳管造影
- c.経皮的針生検
- d.乳房超音波検査
- e.骨シンチグラフィ
対話形式の解説
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ドクターまとめ
硬く境界不明瞭で圧痛のない乳房腫瘤と、マンモグラフィでスピキュラを伴う腫瘤影がみられれば、乳癌を強く疑います。乳癌の診断は、画像による精査、病理による確定診断、病期診断の順に進めるため、次に行う検査は乳房超音波検査と経皮的針生検です。超音波では形状不整・境界不明瞭な低エコー腫瘤やhalo、後方エコー減弱が悪性を示唆し、針生検では組織型に加えてER、PgR、HER2、Ki-67を評価して治療方針を決めます。乳管造影は乳頭分泌がある場合の検査、骨シンチグラフィは確定後の病期診断の検査であり、血管造影は乳癌診断に用いません。「疑う→確かめる→広がりを調べる」という検査の順序を意識することは、乳癌に限らず腫瘍診療全般の基本になります。
解答・解説
正解はc, dです
所見の整理
・64歳女性。乳がん検診のマンモグラフィで異常を指摘された。乳癌は40歳代後半と60歳代前半に罹患が多く、本例はその好発年齢にあたる。 ・左乳房に長径約2cmの腫瘤を触れる。境界が不明瞭で硬く、圧痛はない。これは周囲組織に浸み込むように増殖する浸潤癌に典型的な触診所見である。線維腺腫のような良性腫瘤は、境界明瞭で弾性があり、よく動くことが多い。 ・乳頭からの分泌物はない。 ・マンモグラムでは、左乳房に辺縁が不整で、周囲へ放射状に伸びる棘状の突起(スピキュラ)を伴う高濃度の腫瘤影がみられる。スピキュラを伴う腫瘤は、マンモグラフィで悪性を強く疑う代表的な所見である。
診断の方向性
年齢、硬く境界不明瞭で圧痛のない腫瘤、マンモグラムのスピキュラを伴う腫瘤影から、乳癌(浸潤癌)が強く疑われる。
次に行うべき検査の考え方
乳癌が疑われたときは、次の順に検査を進める。 (1) 画像で病変の性状を詳しく評価する(マンモグラフィに加えて乳房超音波検査)。 (2) 組織を採取して病理学的に確定診断する(針生検)。 (3) 癌と確定したら、乳房MRIで乳房内の広がりを、CT・骨シンチグラフィなどで遠隔転移を評価する(病期診断)。 本問は「次に行うべき検査」を問うている。したがって、確定診断のための段階にある乳房超音波検査と経皮的針生検を選ぶ。病期診断の検査や、適応のない侵襲的検査は、この時点では選ばない。
選択肢考察
- ×a. 血管造影
血管造影は、肝細胞癌など血流の豊富な腫瘍の診断や、肝動脈化学塞栓療法のような血管内治療の際に用いる侵襲的検査である。乳癌の診断にはマンモグラフィ・超音波・MRIなどの非侵襲的画像と針生検で十分であり、血管造影を行う意義はない。
- ×b. 乳管造影
乳管造影は、乳頭から分泌物(特に血性分泌)がある場合に、分泌のある乳管開口部から造影剤を注入し、乳管の拡張や乳管内の腫瘤(乳管内乳頭腫や非浸潤性乳管癌など)を描出する検査である。本例は乳頭分泌がなく、造影する乳管を特定できないため、適応がない。なお現在は、乳頭分泌の精査でも超音波やMRI、乳管内視鏡などが中心となり、乳管造影を行う機会は減っている。
- ○c. 経皮的針生検
乳癌の確定診断には、病変から細胞や組織を採取した病理学的診断が必要である。局所麻酔下に皮膚から腫瘤へ針を刺して組織を採取する経皮的針生検(コア針生検、吸引式組織生検など)は、通常は超音波ガイド下で行う。浸潤癌か非浸潤癌か、組織型などを決められる。さらに、薬物療法の方針決定に必要なホルモン受容体(ER・PgR)、HER2、Ki-67などの検索もできる。細胞だけを採る穿刺吸引細胞診に比べて得られる情報が多いため、現在は組織診が主流である。悪性が強く疑われる本例では、確定診断のために必須の検査である。
- ○d. 乳房超音波検査
乳房超音波検査は、被曝がなく非侵襲的に腫瘤の形状、境界、内部エコー、後方エコー、縦横比などを評価でき、良悪性の鑑別に役立つ。乳癌では、形状が不整で境界が不明瞭な低エコー腫瘤として描出されることが多い。周囲脂肪織へ浸潤した境界部が高エコーにみえる像(halo)、後方エコーの減弱、縦横比の大きい腫瘤などもみられる。腋窩リンパ節腫大の評価もでき、引き続き行う針生検のガイドにもなる。マンモグラフィで異常を指摘された後に最初に追加すべき画像検査である。
- ×e. 骨シンチグラフィ
乳癌は骨に転移しやすく、骨シンチグラフィは骨転移を検索する病期診断の検査である。病理学的に乳癌と確定し、進行度などから必要と判断された段階で行う。早期で症状のない例では、全身の転移検索を省略することもある。確定診断前の「次に行うべき検査」としては適切でない。
乳癌の診断の流れ
1. 発見の契機:検診マンモグラフィの異常、しこりの自覚、乳頭分泌、皮膚の変化など。 2. 視触診:腫瘤の大きさ、硬さ、境界、可動性を確認する。皮膚のくぼみ(dimpling sign)、乳頭陥凹、皮膚の発赤・浮腫(橙皮様皮膚)、腋窩・鎖骨上リンパ節の腫大もみる。 3. 画像診断:マンモグラフィと乳房超音波検査。 4. 病理診断:超音波ガイド下などの針生検(コア針生検、吸引式組織生検)。穿刺吸引細胞診も行われる。石灰化病変のみで超音波で描出できない場合は、マンモグラフィガイド下(ステレオガイド下)吸引式組織生検を行う。 5. 確定後の評価:乳房MRIで乳房内の広がり(多発病変や乳管内進展)を、CT・骨シンチグラフィ・PET-CTなどで遠隔転移を評価する。免疫染色でER、PgR、HER2、Ki-67を調べ、サブタイプ(ルミナルA様、ルミナルB様、HER2陽性、トリプルネガティブ)を決めて治療方針を立てる。
マンモグラフィの悪性を疑う所見
・スピキュラを伴う腫瘤、辺縁不整・微細分葉状の腫瘤 ・微細石灰化(多形性・微小線状・分枝状、区域性や線状の分布) ・構築の乱れ(腫瘤がはっきりしないのに、乳腺の正常な走行がゆがんでいる)
乳房超音波の悪性を疑う所見
・形状不整、境界不明瞭・粗ぞう ・内部が不均一な低エコー ・境界部の高エコー像(halo) ・後方エコーの減弱または消失 ・縦横比が大きい(縦長の腫瘤) ・前方境界線の断裂(周囲組織への浸潤)
良性腫瘤との対比
線維腺腫は若年女性に多く、境界明瞭・平滑で可動性がよく、弾性硬の腫瘤として触れる。超音波では楕円形で境界明瞭な低エコー腫瘤で、後方エコーは不変〜増強することが多い。
POINT
・硬く境界不明瞭で圧痛のない腫瘤+マンモグラフィのスピキュラを伴う腫瘤影 → 乳癌を疑う。 ・次の検査は、乳房超音波検査(画像による精査)と針生検(病理学的確定診断)である。 ・乳管造影は乳頭分泌がある場合の検査であり、分泌のない例では適応がない。 ・骨シンチグラフィ・CT・MRIは、確定診断後の病期診断・広がり診断に用いる。 ・針生検の組織でER、PgR、HER2、Ki-67を調べ、サブタイプ別に治療を決める。
