乳頭陥凹の拡大を指摘されたら―「構造」の次は「機能」を確かめる緑内障診療の第一歩
第111回医師国家試験 I問題 第43問
国試問題にチャレンジ
55歳の女性。人間ドックで異常を指摘されたため来院した。以前からしばしば悪心を伴う頭痛があり,右眼の霧視を自覚していたが特に気にしていなかった。人間ドックの眼底検査で右眼底に視神経乳頭陥凹の拡大を指摘され受診した。 まず行うべき検査はどれか。
- a.調節検査
- b.視野検査
- c.頭部MRI
- d.涙液分泌検査
- e.散瞳後眼底検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
視神経乳頭陥凹の拡大は網膜神経節細胞の軸索が失われたことを示す緑内障の重要な所見で、診断には構造変化に対応する視野欠損の確認が必要なため、まず視野検査を行います。緑内障の視野異常は傍中心暗点、Bjerrum暗点、鼻側階段などから始まり、自覚されにくいので検査で客観的に評価することが大切です。悪心を伴う頭痛と霧視は間欠的な眼圧上昇を示唆し、閉塞隅角が疑われるときに前房・隅角を確認せず散瞳すると急性緑内障発作を誘発しうる点に注意が必要です。頭蓋内圧亢進では乳頭陥凹拡大ではなくうっ血乳頭がみられ、眼科的所見で説明がつかない場合に頭部MRIを検討します。日本では正常眼圧緑内障が多く中途失明原因の第1位でもあるため、「構造と機能をセットで評価する」考え方は眼科診療の基本として押さえておきたいところです。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
55歳の女性。人間ドックの眼底検査で右眼の視神経乳頭陥凹拡大を指摘された。以前から悪心を伴う頭痛がたびたびあり、右眼のかすみ(霧視)も自覚していた。
診断の考え方
視神経乳頭陥凹(カップ)の拡大は、網膜神経節細胞の軸索(神経線維)が失われて乳頭の縁(リム)が薄くなったことを示し、緑内障を疑う最も重要な眼底所見である。 さらに、悪心を伴う頭痛と片眼の霧視が繰り返し起きていたことは、一過性に眼圧が上がるエピソードを示唆する。眼圧が急に上がると角膜上皮がむくんで(浮腫)かすんで見え、三叉神経を介して眼痛・頭痛、迷走神経反射を介して悪心・嘔吐が起こる。中高年女性は眼軸が短く前房が浅い人が多く、隅角が狭くなりやすいため、間欠的に隅角が閉じる原発閉塞隅角緑内障の可能性が高い。
設問への考え方
緑内障は、視神経の構造的変化(乳頭陥凹拡大)と、それに対応する機能的変化(特徴的な視野欠損)がそろって診断される。眼底所見という構造の異常をすでに指摘されているので、次に確認すべきは機能の異常、すなわち視野検査である。視野検査は診断の確定だけでなく、病期の評価や治療効果・進行の判定にも欠かせない。 実際の診療では、視力・眼圧測定や細隙灯顕微鏡による前房深度の観察、隅角検査も併せて行うが、選択肢の中で緑内障の診断に直結する検査は視野検査である。なお、頭痛・悪心は頭蓋内疾患でも起こりうるため、眼科的評価で説明がつかなければ画像検査も検討する。
選択肢考察
- ×a. 調節検査
調節検査は、水晶体の厚みを変えて近くにピントを合わせる力(調節力)を測る検査で、老視(老眼)や調節けいれん、眼精疲労などを疑う場合に行う。視神経乳頭陥凹拡大の評価には役立たない。
- ○b. 視野検査
緑内障では視神経障害に対応した特徴的な視野欠損(傍中心暗点、Bjerrum暗点、鼻側階段など)が生じる。乳頭陥凹拡大という構造変化に一致する視野異常を確認できれば緑内障の診断が確定し、病期も評価できる。初期の視野欠損は自覚されにくいため、検査で客観的に検出することが重要である。
- ×c. 頭部MRI
悪心を伴う頭痛は脳腫瘍などによる頭蓋内圧亢進でも起こるため、眼科的検索で説明がつかない場合や、視野欠損が緑内障に合わない形(半盲など)の場合には頭部MRIを行う。しかし本例は霧視と乳頭陥凹拡大という眼の所見がそろっており、まず眼科的な検査を優先する。なお頭蓋内圧亢進では乳頭浮腫(うっ血乳頭)がみられるのが典型で、乳頭陥凹の拡大とは異なる。
- ×d. 涙液分泌検査
涙液分泌検査(Schirmer試験など)は、ドライアイやSjögren症候群などによる乾性角結膜炎を疑うときに行う。乳頭陥凹拡大とは関係がない。
- ×e. 散瞳後眼底検査
散瞳後眼底検査は糖尿病網膜症や網膜剝離など、眼底周辺部まで詳しく観察したいときに行う。しかし本例は閉塞隅角緑内障が疑われ、前房深度や隅角を確認しないまま散瞳すると、虹彩が隅角に寄って房水の流出路を塞ぎ、急性緑内障発作を誘発するおそれがある。まず行う検査として不適切である。
緑内障の概要
緑内障は、視神経乳頭と視野の特徴的な変化を示し、通常は眼圧を十分に下げることで進行を止めたり遅らせたりできる視神経症である。日本の中途失明原因の第1位を占める。
主な分類
・原発開放隅角緑内障:隅角は開いているが、線維柱帯から房水が流れにくい。日本ではこのうち眼圧が正常範囲(21mmHg以下)にとどまる正常眼圧緑内障が最も多い。自覚症状に乏しく、検診での乳頭陥凹拡大の指摘が発見の契機になりやすい。 ・原発閉塞隅角緑内障:虹彩が隅角を塞いで房水の流出が妨げられる。遠視眼・高齢・女性に多い。急激に眼圧が上がる急性発作では、眼痛・頭痛・悪心嘔吐・霧視・虹視(光の周りに虹が見える)・結膜充血・角膜浮腫・中等度散瞳がみられ、緊急の治療(縮瞳薬・高浸透圧薬・レーザー虹彩切開術など)を要する。 ・続発緑内障:ぶどう膜炎、ステロイド使用、糖尿病網膜症(血管新生緑内障)などに続いて起こる。
主な検査
・眼圧測定(正常値は10〜21mmHg程度) ・眼底検査:乳頭陥凹拡大、リムの菲薄化、網膜神経線維層欠損、乳頭出血 ・光干渉断層計(OCT):網膜神経線維層の厚みの定量 ・隅角検査:開放隅角か閉塞隅角かの判定 ・視野検査:Goldmann動的視野計、Humphrey静的視野計
緑内障の視野変化の進み方
傍中心暗点やBjerrum暗点、鼻側階段から始まり、進行すると視野が狭くなり、末期には中心のわずかな視野だけが残る。中心視力は末期まで保たれやすく、自覚が遅れる。
POINT
・視神経乳頭陥凹拡大 → 緑内障を疑う。 ・緑内障の診断は「乳頭の構造変化」と「対応する視野欠損」の両方で行う → まず視野検査。 ・悪心を伴う頭痛・霧視 → 眼圧上昇(閉塞隅角)を考える。 ・閉塞隅角が疑われるときは、前房・隅角を確認せずに散瞳してはならない(急性発作の誘発)。 ・頭痛・悪心があっても、眼所見で説明できるならまず眼科的検索を優先する。
