喘息の既往が薬を選ぶ―緑内障点眼で「目だけ見ない」処方の考え方
第119回医師国家試験 C問題 第57問
国試問題にチャレンジ
62歳の男性。右眼の視野に見えにくい部分があることを主訴に来院した。既往歴として10年前に気管支喘息重積状態となり入院した。3年前から喘息発作を繰り返しており,総合病院の呼吸器内科外来に通院している。視力は右0.1(1.0×-3.0D),左0.2(1.0×-2.5D),眼圧は右27mmHg,左20mmHg。両眼の前眼部,中間透光体に異常を認めない。右眼の眼底写真(A)と視野検査の結果(B)とを下に示す。 適切な点眼薬はどれか。

- a.抗菌薬
- b.β遮断薬
- c.副交感神経刺激薬
- d.副腎皮質ステロイド薬
- e.プロスタグランディン関連薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
視神経乳頭陥凹の拡大と、弓状暗点や鼻側階段といった対応する視野欠損がそろえば緑内障と診断でき、高眼圧で前眼部に異常がなければ原発開放隅角緑内障と考えます。進行抑制の根拠がある治療は眼圧下降であり、点眼の第一選択は眼圧下降効果が強く1日1回で全身副作用の少ないプロスタグランディン関連薬です。β遮断薬点眼は鼻涙管から全身に吸収されて気管支収縮を招くため気管支喘息では禁忌であり、ステロイド点眼は眼圧を上げうる点、ピロカルピンは主に閉塞隅角緑内障の薬である点も押さえておきましょう。点眼薬であっても全身疾患との関係を確認して選ぶという姿勢は、眼科に限らず安全な処方の基本になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・62歳の男性が「右眼の視野に見えにくい部分がある」と訴えている。視力低下ではなく、視野の一部が欠ける自覚である。 ・視力は裸眼では低いが、近視の矯正(−3.0D、−2.5D)で両眼とも1.0が得られており、矯正視力は保たれている。 ・眼圧は右27mmHg、左20mmHg。正常眼圧の上限はおおむね21mmHgであり、右眼は高眼圧である。 ・前眼部・中間透光体(角膜、前房、水晶体、硝子体)に異常がない。すなわち炎症、角膜病変、白内障、硝子体混濁などはなく、隅角の狭さや続発性の原因を示す記載もない。 ・眼底写真(A)では視神経乳頭陥凹の拡大(乳頭辺縁部の菲薄化)がみられ、網膜出血など網膜疾患を示す所見はない。 ・視野検査(B)では、緑内障に特徴的な弓状暗点や鼻側階段がみられる。
診断
緑内障は、視神経乳頭の陥凹拡大という構造的変化と、それに対応する視野欠損という機能的変化を特徴とする進行性の視神経症である。本例は乳頭陥凹拡大と特徴的な視野異常がそろい、さらに右眼の眼圧が高いことから、右眼の緑内障と診断できる。前眼部に異常がなく続発性を疑う要素もないため、病型としては原発開放隅角緑内障(高眼圧型)と考えられる。中心視力は末期まで保たれやすく、本例でも矯正視力は良好である。
治療選択の考え方
緑内障で科学的根拠をもって進行抑制が証明されている治療は眼圧下降のみであり、まず点眼薬から開始する。点眼薬は種類が多いが、全身疾患による禁忌を必ず確認する必要がある。本例は気管支喘息重積状態での入院歴があり、現在も発作を繰り返して通院中である。点眼薬であっても鼻涙管から鼻粘膜で吸収されて全身作用を生じるため、喘息を悪化させる薬は避けなければならない。眼圧下降効果が強く、1日1回点眼で済み、全身性副作用が少ないプロスタグランディン関連薬が、本例における最も適切な選択となる。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬
抗菌点眼薬は細菌性結膜炎・角膜炎など眼の細菌感染症や、眼科手術の周術期の感染予防に用いる。本例は眼脂・充血などの感染を示す所見がなく、前眼部にも異常がないため適応はない。また抗菌薬には眼圧を下げる作用はない。
- ×b. β遮断薬
β遮断薬点眼(チモロール、カルテオロールなど)は毛様体での房水産生を抑えて眼圧を下げる、古くからの緑内障治療薬である。しかし点眼液は鼻涙管を経て鼻粘膜から吸収され、全身のβ受容体を遮断する。β2受容体遮断により気管支収縮が起こり喘息発作を誘発しうるため、気管支喘息の患者には禁忌である(同様に、コントロール不十分な心不全、洞性徐脈、2〜3度房室ブロックなどでも禁忌)。重積発作の既往があり現在も発作を繰り返す本例では決して用いてはならない。
- ×c. 副交感神経刺激薬
副交感神経刺激薬(ピロカルピン)は瞳孔括約筋と毛様体筋を収縮させ、縮瞳により隅角を開くとともに線維柱帯からの房水流出を促進して眼圧を下げる。主に原発閉塞隅角緑内障の急性発作時やレーザー虹彩切開術の前後に用いられ、開放隅角緑内障では縮瞳による暗さ、調節けいれんによる近視化・頭痛などの副作用もあり第一選択とはならない。さらにムスカリン受容体刺激は気管支収縮・気道分泌増加をもたらしうるため、喘息患者には慎重に扱うべき薬である。
- ×d. 副腎皮質ステロイド薬
副腎皮質ステロイド点眼はぶどう膜炎、アレルギー性結膜疾患、術後炎症などの消炎に用いる。本例には炎症所見がなく適応がないうえ、ステロイドは線維柱帯の房水流出抵抗を増やして眼圧を上昇させる(ステロイド緑内障)ことがあり、既に高眼圧で緑内障をきたしている本例では病状を悪化させるおそれがある。
- ○e. プロスタグランディン関連薬
プロスタグランディン関連薬(ラタノプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、ビマトプロストなどのFP受容体作動薬や、EP2受容体作動薬のオミデネパグ イソプロピル)は、主にぶどう膜強膜流出路(副経路)からの房水流出を増やして眼圧を下げる。眼圧下降効果が最も強い部類に属し、1日1回点眼でよく、全身性副作用が少ないため、緑内障診療ガイドラインでも第一選択薬に位置づけられている。気管支喘息への影響はほとんどなく、β遮断薬を使えない本例に最も適した点眼薬である。
緑内障の病型
・原発開放隅角緑内障(広義):隅角は開放しており、ほかに原因がない。眼圧が正常範囲(21mmHg以下)にとどまる正常眼圧緑内障も含まれ、日本ではこの正常眼圧緑内障が最も多い。慢性に進行し、自覚症状に乏しい。 ・原発閉塞隅角緑内障:隅角が狭く房水流出が妨げられる。急性発作では眼痛、頭痛、悪心・嘔吐、充血、角膜浮腫、中等度散瞳がみられ、緊急治療を要する。 ・続発緑内障:ぶどう膜炎、ステロイド使用、糖尿病網膜症などによる血管新生、外傷などに起因する。 ・小児緑内障:隅角の発生異常などによる。
緑内障の典型的な視野障害の進行
傍中心暗点やBjerrum領域の弓状暗点、鼻側階段から始まり、進行すると視野が狭窄し、末期に中心視野も失われる。視神経乳頭では陥凹拡大、リム(辺縁部)の菲薄化、網膜神経線維層欠損、乳頭出血などがみられる。
主な緑内障点眼薬と作用機序・注意点
・プロスタグランディン関連薬:ぶどう膜強膜流出促進。結膜充血、虹彩・眼瞼の色素沈着、睫毛の伸長・増加、上眼瞼溝の深化(眼窩周囲脂肪の萎縮)などの局所副作用がある。 ・β遮断薬:房水産生抑制。気管支喘息・コントロール不十分な心不全・徐脈性不整脈では禁忌。 ・炭酸脱水酵素阻害薬(ドルゾラミド、ブリンゾラミド):房水産生抑制。 ・α2作動薬(ブリモニジン):房水産生抑制と副経路からの流出促進。 ・ROCK阻害薬(リパスジル):線維柱帯からの主経路流出促進。結膜充血が多い。 ・副交感神経刺激薬(ピロカルピン):主経路流出促進、縮瞳。主に閉塞隅角緑内障で用いる。 ・α1遮断薬(ブナゾシン)など。 薬物で目標眼圧に達しない場合はレーザー治療(選択的レーザー線維柱帯形成術など)や手術(線維柱帯切除術、線維柱帯切開術など)を考慮する。
POINT
・視神経乳頭陥凹拡大+弓状暗点・鼻側階段などの視野欠損で緑内障と診断する。中心視力は末期まで保たれやすい。 ・緑内障点眼治療の第一選択はプロスタグランディン関連薬(1日1回、強力な眼圧下降、全身副作用が少ない)。 ・β遮断薬点眼は全身に吸収され、気管支喘息・コントロール不十分な心不全・徐脈性不整脈で禁忌となる。 ・ステロイド点眼は眼圧を上昇させうる(ステロイド緑内障)。
