神経内分泌の顔をもつ癌―小細胞肺癌の腫瘍マーカーはProGRP
第111回医師国家試験 I問題 第15問
国試問題にチャレンジ
小細胞肺癌で高値を示すのはどれか。
- a.CEA
- b.SCC
- c.AFP
- d.ProGRP
- e.PIVKA-Ⅱ
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
小細胞肺癌は神経内分泌細胞の性質をもつ腫瘍で、ガストリン放出ペプチド前駆体(ProGRP)や神経特異エノラーゼ(NSE)が高値を示し、とくにProGRPは特異性が高く早期でも上昇しやすいため、診断補助や治療効果判定、再発監視に用いられます。肺癌のマーカーは組織型ごとに異なり、腺癌ではCEA・SLX、扁平上皮癌ではSCC・CYFRAが上昇しやすく、AFPとPIVKA-Ⅱは肝細胞癌のマーカーです。ProGRPは腎機能障害、NSEは溶血、PIVKA-Ⅱはワルファリン内服で偽高値となりうる点にも注意が必要です。小細胞肺癌は喫煙と強く関連し、SIADHやLambert-Eaton筋無力症候群などの腫瘍随伴症候群を起こしやすく、化学療法・放射線療法が治療の中心となります。腫瘍の由来となる細胞の性質からマーカーを理解しておくと、暗記に頼らず臨床像全体と結びつけて考えられるようになります。
解答・解説
正解はdです
腫瘍マーカーとは、腫瘍細胞が産生する(あるいは腫瘍に反応して生体が産生する)物質のうち、血中などで測定でき、癌の補助診断・治療効果判定・再発の監視に役立つものをいう。多くは臓器や組織型に一定の特異性をもつため、「どの癌(どの組織型)でどのマーカーが上がるか」を組で覚えておくことが重要である。 肺癌は組織型によって大きく小細胞肺癌と非小細胞肺癌(腺癌・扁平上皮癌・大細胞癌など)に分けられ、組織型ごとに上昇しやすいマーカーが異なる。小細胞肺癌は神経内分泌細胞の性質をもつ腫瘍であり、神経内分泌系の物質であるProGRP(ガストリン放出ペプチド前駆体)やNSE(神経特異エノラーゼ)が高値を示す。したがって本問では、神経内分泌系マーカーを選べばよい。 他の選択肢は、腺癌・消化器癌(CEA)、扁平上皮癌(SCC)、肝細胞癌・胚細胞腫瘍(AFP)、肝細胞癌(PIVKA-Ⅱ)のマーカーであり、それぞれの対応を整理しておくと類題にも対応できる。
選択肢考察
- ×a. CEA
誤り。CEA(carcinoembryonic antigen: 癌胎児性抗原)は、大腸癌・胃癌・膵癌などの消化器癌や、肺腺癌で上昇しやすい代表的なマーカーである。肺癌では組織型を問わず上昇しうるが、とくに腺癌で陽性率が高く、小細胞肺癌に特徴的なマーカーではない。臓器特異性は低く、喫煙者や高齢者、肝硬変、肺結核などの炎症性疾患、甲状腺機能低下症などでも軽度上昇することがあるため、偽陽性に注意が必要である。
- ×b. SCC
誤り。SCC(squamous cell carcinoma-related antigen: 扁平上皮癌関連抗原)は扁平上皮癌のマーカーであり、肺扁平上皮癌のほか、子宮頸癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌など、扁平上皮由来の癌で上昇する。小細胞肺癌では通常上昇しない。皮膚疾患(乾癬・アトピー性皮膚炎・天疱瘡など)でも上昇しうるため、偽陽性に注意が必要である。SCC抗原は正常の表皮や唾液にも多く含まれるため、検体処理の際に皮膚片(ふけ)や唾液が混入すると偽高値となることがある。肺扁平上皮癌ではCYFRA(シフラ: サイトケラチン19フラグメント)も有用である。
- ×c. AFP
誤り。AFP(α-fetoprotein: αフェトプロテイン)は胎児期に肝細胞や卵黄嚢で産生される糖蛋白であり、成人では肝細胞癌や、卵黄嚢腫瘍を含む胚細胞腫瘍(精巣・卵巣・縦隔など)で上昇する。慢性肝炎・肝硬変の肝再生時や妊娠中にも上昇することがある。小細胞肺癌のマーカーではない。
- ○d. ProGRP
正しい。ProGRP(pro-gastrin-releasing peptide: ガストリン放出ペプチド前駆体)は、神経内分泌細胞が産生するガストリン放出ペプチド(GRP)の前駆体である。小細胞肺癌は神経内分泌細胞の性質をもち、GRPを自ら産生して増殖因子として利用するため、血中ProGRPが高値となる。小細胞肺癌に対する特異性が高く、NSEとともに小細胞肺癌のマーカーとして用いられ、診断の補助、化学療法の効果判定、再発の早期発見に役立つ。早期の限局型でも上昇しやすい点が利点である。なお、腎機能障害では排泄が低下して偽陽性を示すことがある。
- ×e. PIVKA-Ⅱ
誤り。PIVKA-Ⅱ(protein induced by vitamin K absence or antagonist-Ⅱ)は、ビタミンKが不足した状態で肝臓が産生する異常プロトロンビン(凝固活性をもたない)である。肝細胞癌に特異性の高いマーカーで、AFPと併用して肝細胞癌の診断・経過観察に用いられる。ワルファリン服用中、ビタミンK欠乏、閉塞性黄疸などでも上昇するため、解釈には注意を要する。小細胞肺癌では上昇しない。
肺癌の組織型と主な腫瘍マーカー
・腺癌: CEA、SLX(シアリルLex-i抗原) ・扁平上皮癌: SCC、CYFRA(シフラ) ・小細胞癌: ProGRP、NSE ・CEAは組織型を問わず上昇しうるため、肺癌全般の指標としても用いられる。
小細胞肺癌の特徴
・肺癌全体の約10〜15%を占め、喫煙との関連が非常に強い。 ・肺門部(中枢側)に好発し、増殖が速く、早期からリンパ節転移や遠隔転移(脳・肝・骨・副腎など)をきたす。 ・神経内分泌細胞の性質をもつため、腫瘍随伴症候群を起こしやすい。代表例は抗利尿ホルモン不適合分泌症候群〈SIADH〉による低ナトリウム血症、異所性ACTH産生によるCushing症候群、Lambert-Eaton筋無力症候群(電位依存性カルシウムチャネルに対する自己抗体による)である。 ・化学療法や放射線療法への感受性が高いが、再発しやすい。治療は手術より化学療法(プラチナ製剤+エトポシドなど、近年は免疫チェックポイント阻害薬の併用)と放射線療法が中心となる。
NSEの補足
・NSE(neuron-specific enolase: 神経特異エノラーゼ)は神経細胞・神経内分泌細胞に存在する解糖系酵素で、小細胞肺癌のほか神経芽腫でも上昇する。 ・赤血球や血小板にも含まれるため、溶血した検体では偽高値となる。 ・ProGRPはNSEに比べ、早期の小細胞肺癌でも陽性になりやすいとされる。
その他の主な腫瘍マーカーと対応する癌
・CA19-9: 膵癌、胆道癌 ・CA125: 卵巣癌 ・PSA: 前立腺癌 ・AFP、PIVKA-Ⅱ: 肝細胞癌 ・hCG: 絨毛癌などの絨毛性疾患、一部の胚細胞腫瘍
POINT
・小細胞肺癌のマーカーはProGRPとNSE(いずれも神経内分泌系の物質)である。 ・肺腺癌はCEA・SLX、肺扁平上皮癌はSCC・CYFRAが上昇しやすい。 ・AFPとPIVKA-Ⅱは肝細胞癌のマーカーである(AFPは胚細胞腫瘍でも上昇)。 ・偽陽性の要因: CEAは喫煙、SCCは皮膚疾患(乾癬・アトピー性皮膚炎など)、ProGRPは腎機能障害、NSEは溶血、PIVKA-Ⅱはワルファリン・ビタミンK欠乏。
