「落ち着きがない」は育て方のせい?―ADHDの原因・疫学・症状の揺らぎを正しく理解する
第111回医師国家試験 I問題 第14問
国試問題にチャレンジ
注意欠陥多動性障害〈ADHD〉について正しいのはどれか。
- a.愛着障害を伴う。
- b.言語発達が遅れる。
- c.男児より女児に多い。
- d.親の養育態度が主な原因である。
- e.初めての状況で多動が増悪する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ADHDは不注意・多動性・衝動性を中核症状とする神経発達症で、遺伝要因の強い生来性の脳機能の偏りによるものであり、親の養育態度が主な原因ではありません。男児に多く、知能や言語発達は通常保たれます。不適切な養育による愛着障害とは別の病態ですが、脱抑制型対人交流障害とは見分けにくいため鑑別が必要です。症状は環境に左右され、初めての状況や刺激の多い場面では多動が目立ちやすい一方、1対1の診察場面では目立たないこともあるため、家庭や学校での様子の聴取が重要です。見通しをもたせる環境調整やペアレントトレーニングを基本に、二次障害を防ぐ視点で支援することが、子どもと家族を支える診療の土台になります。
解答・解説
正解はeです
注意欠陥多動性障害〈ADHD: attention-deficit/hyperactivity disorder〉は、年齢や発達水準に見合わない「不注意」「多動性」「衝動性」の3つを中核症状とする神経発達症(発達障害)である。DSM-5(米国精神医学会の診断基準)以降は「注意欠如・多動症」とも呼ばれる。 本問は、ADHDの病因・疫学・臨床像についての基本的な理解を問う問題である。押さえるべき軸は次の3点である。 1) 病因: 遺伝要因の関与が大きい生来性の脳機能の偏り(実行機能や報酬系の問題)であり、育て方や愛着形成の失敗が原因ではない。 2) 疫学: 男児に多い。 3) 臨床像: 中核症状は不注意・多動性・衝動性であり、言語発達の遅れは診断の要素に含まれない。症状は環境の影響を受けて強弱が変わり、新しい環境や刺激が多く見通しの立たない状況では、緊張や不安、注意の転導が加わって多動・衝動性が目立ちやすくなる。 この3つの軸に照らすと、病因を養育や愛着に求める選択肢、女児に多いとする選択肢、言語発達の遅れを特徴とする選択肢はいずれも誤りであり、状況によって多動が増悪するという臨床像を述べた選択肢が正しいと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 愛着障害を伴う。
誤り。愛着障害(反応性アタッチメント障害、脱抑制型対人交流障害)は、乳幼児期の虐待・ネグレクトや養育者の頻繁な交代など、不適切な養育環境によって養育者との安定した愛着関係が形成されなかったことで生じる病態である。一方ADHDは生来性の脳機能の偏りによる神経発達症であり、両者は成因の異なる別の概念である。ADHDに愛着障害が必ず伴うわけではない。ただし、脱抑制型対人交流障害の子どもは落ち着きのなさや衝動的な行動を示し、ADHDと見分けにくいことがあるため、鑑別診断として重要である(生育歴、とくに養育環境の聴取が鍵となる)。
- ×b. 言語発達が遅れる。
誤り。ADHDの中核症状は不注意・多動性・衝動性であり、知的能力や言語発達は通常保たれている。言語発達の遅れは診断基準に含まれない。言語発達の遅れを伴う場合には、知的能力障害(知的障害)、自閉スペクトラム症(ASD)、言語症(発達性言語障害)、難聴などの合併や鑑別を考える必要がある。なお、ADHDには学習障害(限局性学習症)やASDが併存することが少なくないため、併存症として言語面の問題がみられることはあるが、ADHDそのものの特徴ではない。
- ×c. 男児より女児に多い。
誤り。ADHDは男児に多い。学童期の有病率はおおむね5%前後とされ、一般人口では男児が女児の約2倍、医療機関を受診する臨床例ではさらに男児の割合が高くなる。女児は多動・衝動性が目立たない不注意優勢の病像をとりやすく、周囲に気づかれにくいことも受診例での男女差を大きくしている一因と考えられている。成人期になると男女差は小さくなる。
- ×d. 親の養育態度が主な原因である。
誤り。ADHDは生来性の脳機能障害と考えられており、双生児研究などから遺伝率は約70〜80%と高い。前頭前野や線条体を中心とした神経回路、ドパミン・ノルアドレナリン系の機能の偏りが関与し、実行機能(計画を立て、行動を抑制・切り替える能力)や報酬系の働きに問題が生じると考えられている。早産・低出生体重や胎児期のアルコール・喫煙曝露なども危険因子として挙げられる。親の養育態度は症状の現れ方や二次障害(自己評価の低下、反抗挑発症など)に影響しうるが、発症の主な原因ではない。親の育て方のせいだと誤解されやすいため、保護者への説明では特に強調すべき点である。
- ○e. 初めての状況で多動が増悪する。
正しい。ADHDの症状は環境要因によって強弱が変化する。入学・進級・転居など初めての場面や、見通しが立たず刺激が多い状況では、子どもは過度に緊張し不安が高まる。さらにADHDの子どもは周囲の刺激に注意が次々とそれやすく、自分の行動を抑える力(抑制機能)が弱いため、そうした場面で落ち着きのなさや多動・衝動的行動が目立ちやすくなる。このため支援では、予定を事前に伝えて見通しをもたせる、刺激の少ない環境を整える、ルールを具体的・視覚的に示すといった環境調整が重視される。
ADHDの概要
・不注意(忘れ物・なくし物が多い、ケアレスミス、課題を最後までやり遂げられない、話を聞いていないようにみえる)、多動性(着席していられない、そわそわする、しゃべりすぎる)、衝動性(順番を待てない、質問が終わる前に答える、他人の邪魔をする)の3つが中核症状である。 ・DSM-5では、症状のいくつかが12歳以前から存在し(以前のDSM-IVでは7歳以前)、2つ以上の場面(家庭と学校など)でみられ、社会的・学業的機能を損なっていることが求められる。 ・症状の組合せにより、混合して存在する病像、不注意優勢に存在する病像、多動・衝動優勢に存在する病像に分けられる。年齢とともに多動は目立たなくなる一方、不注意は成人期まで残りやすい。 ・わが国では発達障害者支援法における「発達障害」に含まれる。
併存症・二次障害
・自閉スペクトラム症、限局性学習症、発達性協調運動症、チック症などの併存が多い。 ・叱責や失敗体験の積み重ねにより、自己評価の低下、反抗挑発症、素行症、不安症、うつ病などの二次障害を生じることがある。
症状の状況依存性
・初めての環境、刺激の多い集団場面、退屈な課題では症状が目立ちやすい。 ・一方、診察室での1対1の場面や、興味のある活動に取り組んでいる時、大人がすぐそばで見守っている時などには症状が目立たないこともある。そのため、診察場面だけで判断せず、家庭や学校での様子を保護者・教師から聴取することが重要である。
治療
・心理社会的治療が基本: 環境調整(刺激を減らす、見通しを示す)、ペアレントトレーニング(保護者が子どもへの適切な関わり方を学ぶ)、ソーシャルスキルトレーニング、学校との連携。 ・薬物療法: 中枢刺激薬(メチルフェニデート徐放錠、リスデキサンフェタミン)、非中枢刺激薬(アトモキセチン、グアンファシン)が用いられる。
愛着障害との関係
・反応性アタッチメント障害: 虐待・ネグレクトなどを背景に、養育者に安心や慰めを求めない、情緒的に引きこもった状態となる。 ・脱抑制型対人交流障害: 見知らぬ大人にもためらいなく近づき、なれなれしく振る舞う。多動・衝動的にみえるためADHDとの鑑別が問題になる。
POINT
・ADHDの中核症状は不注意・多動性・衝動性の3つである。 ・遺伝要因の強い生来性の脳機能障害であり、親の養育態度が原因ではない。 ・男児に多い。 ・言語発達や知能は通常保たれ、言語発達の遅れは診断の要素ではない。 ・愛着障害は不適切な養育による別の病態だが、ADHDとの鑑別は必要である。 ・症状は環境に左右され、初めての状況や刺激の多い場面で多動が増悪しやすい。環境調整が支援の基本となる。
