刺さるより「溶かす」が速い―食道異物の緊急度はボタン電池が別格
第111回医師国家試験 G問題 第28問
国試問題にチャレンジ
食道異物のうち,最も緊急に摘出する必要があるのはどれか。
- a.魚骨
- b.硬貨
- c.歯牙
- d.ボタン電池
- e.PTP(錠剤やカプセル剤の包装)
対話形式の解説
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ドクターまとめ
食道異物の緊急度は、異物の形状だけでなく組織を傷つける機序で判断します。ボタン電池は粘膜に接すると放電によって局所に強アルカリが生じ、融解壊死で深部へ進むため、特にリチウム電池では30分〜1時間で潰瘍・穿孔をきたしうるとされ、食道内停滞が判明したら直ちに(遅くとも2時間以内に)内視鏡で摘出します。PTP包装・魚骨・クラスプ付き義歯など鋭利な異物は穿孔の危険から早期摘出の対象であり、硬貨など鈍な異物は胃に落ちれば多くが自然排出されます。X線ではダブルリングサインや側面像の段差でボタン電池と硬貨を見分けることが重要で、複数個の磁石誤飲も緊急摘出の対象です。「刺さる危険」と「化学的に溶かす危険」を区別して考える視点は、救急外来での異物対応の優先順位づけに直結します。
解答・解説
正解はdです
食道異物の対応では、「何を飲んだか」「どこに停滞しているか」「どのくらい時間がたったか」によって緊急度が大きく異なる。
食道異物の好発部位
異物は食道の3つの生理的狭窄部位に停滞しやすい。 ①食道入口部(輪状咽頭筋の部位、第6頸椎の高さ):最も多い ②大動脈弓・左主気管支との交差部 ③食道裂孔部(横隔膜貫通部)
緊急度の考え方
・最も緊急度が高い:ボタン電池(短時間で化学的・電気的に組織を損傷する)、磁石の複数個誤飲、完全閉塞で唾液も飲み込めない状態 ・早期の摘出が必要:PTP包装・魚骨・針・義歯のクラスプなど鋭利なもの(刺入・穿孔の危険) ・待機・経過観察が可能なことが多い:硬貨、小さく鈍な異物(胃に落ちれば多くは自然排出される) 鋭利な異物は「刺さるまで」は時間的余裕があるが、食道内のボタン電池は停滞した時点から組織傷害が進行する。特にリチウム電池は停滞後30分〜1時間で消化管壁に潰瘍・穿孔をきたしうるため、食道内停滞が判明したら直ちに摘出する(遅くとも2時間以内の摘出が目安とされる)。このため食道異物の中で最も緊急に摘出すべきものはボタン電池である。
選択肢考察
- ×a. 魚骨
魚骨(タイの骨など)は成人に多い異物で、咽頭(口蓋扁桃や舌根)や食道入口部に刺さることが多い。食道壁を貫いて縦隔へ穿通すると縦隔炎・縦隔膿瘍、さらには大動脈損傷などの重篤な合併症をきたすため、食道内に確認されれば早期に内視鏡で摘出する。ただし、組織を化学的に傷害し続けるボタン電池と比べると、分単位〜時間単位の最優先度ではない。
- ×b. 硬貨
硬貨は小児の消化管異物で最も頻度が高い。表面が平滑で鋭利な部分がないため、多くは食道を通過して胃に入り、便とともに自然排出される。食道に停滞している場合は内視鏡などで摘出するが、症状がなければ短時間の経過観察で胃内への自然落下を待つ選択肢もある。単純X線では正面像で円形に見え、ボタン電池との鑑別(電池は辺縁に段差があり二重輪郭に見える)が重要である。
- ×c. 歯牙
歯牙(抜けた歯や歯冠補綴物など)は高齢者や歯科治療中にみられる異物である。小さく鈍な形状のものはほとんどが食道を通過して胃に入り、自然排出される。なお、金属のクラスプ(留め金)が付いた部分義歯は鋭利で食道壁に引っかかりやすく、穿孔の危険があるため早期摘出の対象となるが、それでも緊急度ではボタン電池に及ばない。
- ○d. ボタン電池
最も緊急に摘出すべきである。ボタン電池が食道粘膜に接すると、粘膜を介して電流が流れ、陰極側で水の電気分解により水酸化物イオンが発生して局所が強アルカリとなる。アルカリは組織を融解壊死(液化壊死)させて深部へ進むため、短時間で潰瘍・穿孔をきたす。この放電による機序は胃酸を必要としないため、酸のない食道内でもきわめて速く進行する。特に近年普及したリチウム電池は放電能力が高く(電圧約3V)、直径20mm程度のものは小児の食道にはまり込みやすいため危険性が高く、停滞後30分〜1時間で潰瘍・穿孔をきたしうる。なお、アルカリ電池などが胃内に長くとどまると、胃酸で外装の金属が腐食されて内部のアルカリ性物質が漏れ出し、胃壁を傷害することもある。電池の圧迫による壊死も加わる。遅れると気管食道瘻、大動脈食道瘻による大出血、縦隔炎などの致死的合併症を起こすため、食道内にあると判明したら直ちに内視鏡的摘出を行う(遅くとも2時間以内が目安)。
- ×e. PTP(錠剤やカプセル剤の包装)
PTP(press through package)は高齢者の食道異物で最も多い。錠剤を1つずつ切り離すと角が鋭利になり、食道の生理的狭窄部に刺入しやすい。透明なプラスチックとアルミ箔からなるため単純X線で写りにくく、CTが診断に有用である。穿孔すると縦隔炎などの重篤な合併症をきたすため、誤飲が疑われれば早期に内視鏡で確認・摘出する。ただし、時間とともに化学的傷害が進むボタン電池ほどの緊急性はない。
年齢層別に多い消化管異物
・小児:硬貨、ボタン電池、玩具の部品、磁石 ・高齢者:PTP包装、義歯、魚骨、食物塊
ボタン電池誤飲の要点
・単純X線では、正面像で辺縁が二重に見える(ダブルリングサイン)、側面像で段差がみられることで硬貨と区別する ・リチウム電池は停滞後30分〜1時間で潰瘍・穿孔をきたしうるため、食道内停滞は直ちに内視鏡で摘出する(遅くとも2時間以内が目安) ・アルカリ電池が胃内に長く停留すると、胃酸で外装が腐食されて内容のアルカリ性物質が漏出し、胃壁を傷害しうる ・胃内に落ちた場合は、無症状で小さいものなら経過観察とすることもあるが、停滞が続く場合や症状がある場合、年少児や大きな電池では摘出を考慮する ・摘出後も、遅れて食道穿孔や瘻孔、狭窄が生じることがあるため経過観察が必要である
緊急摘出が必要なその他の消化管異物
・複数個の磁石(あるいは磁石と金属):腸管壁を挟んで引き合い、圧迫壊死・穿孔・瘻孔をきたす ・食道を完全に閉塞し唾液も飲み込めない状態:誤嚥の危険がある
食道異物の主な合併症
穿孔、縦隔炎・縦隔膿瘍、気管食道瘻、大動脈食道瘻(大量出血)、食道狭窄
POINT
・食道異物で最も緊急度が高いのはボタン電池(特にリチウム電池)で、放電で生じたアルカリによる液化壊死のため30分〜1時間で潰瘍・穿孔をきたしうる。食道内停滞は直ちに摘出する(遅くとも2時間以内) ・PTP、魚骨、義歯など鋭利な異物は穿孔の危険があり早期に摘出する ・硬貨など鈍な異物は胃に落ちれば多くが自然排出される ・小児は硬貨・ボタン電池、高齢者はPTP・義歯・魚骨が多い ・異物は食道の3つの生理的狭窄部(特に食道入口部)に停滞しやすい
