StudyMed医師国家試験

体重計が教えてくれること―「水」で増えるか「脂肪」で増えるか、それとも減るか

第111回医師国家試験 G問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第111回 G問題 第27問

体重増加をきたしにくいのはどれか。

  1. a.心不全
  2. b.インスリン治療
  3. c.甲状腺機能低下症
  4. d.ネフローゼ症候群
  5. e.副腎皮質機能低下症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、体重増加をきたす病態を整理する問題だ。体重の変化を考えるときは、「水分が溜まって増える」のか、「脂肪や組織が増えて増える」のか、それとも「食べられず失って減る」のか、という3つの方向で整理すると見通しがよくなる。選択肢を一つずつその枠に当てはめてみよう。
医学生医学生
心不全とネフローゼ症候群は、どちらも浮腫が出る病気なので水で増えるグループですよね。
ドクタードクター
その通り。心不全では心拍出量が落ちて腎血流が減り、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系や交感神経系が活性化してNaと水を溜め込む。さらに静脈圧が上がるから、水分が血管外へ漏れ出して浮腫や胸水になる。数kg単位で体液が増えるから、体重はそのまま増えるんだ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、心不全の患者さんが毎朝体重を測って記録していました。あれは増悪のサインを見るためだったんですね。
ドクタードクター
そう。数日で2kg前後増えたら増悪を疑って受診を、と指導することが多い。脂肪が数日でそんなに増えることはないから、短期間の急な体重増加はまず水を疑う。ネフローゼ症候群はどうかな。
医学生医学生
尿に大量の蛋白が漏れて低アルブミン血症になるので、膠質浸透圧が下がって水が間質に逃げる、というメカニズムでした。
ドクタードクター
正確だね。腎臓でのNa貯留も加わって、全身の浮腫、胸水、腹水が出る。仕組みは違っても、結果として体液が溜まり体重が増える点は心不全と共通だ。次に脂肪・組織が増えるグループ。インスリン治療はなぜ体重が増えると思う?
医学生医学生
血糖が下がるだけなら、むしろ体重には関係なさそうに思えるんですが……。
ドクタードクター
そこが盲点だ。インスリンはグリコーゲン、脂肪、蛋白質の合成を促す同化ホルモンなんだ。それに、治療前は高血糖で糖が尿に捨てられていた、つまりエネルギーを失っていた。治療でその損失がなくなるうえ、腎臓でのNa再吸収も促す。低血糖を避けるための補食も重なると、食事療法が甘いと体重は増えやすい。
医学生医学生
代謝内科の実習で、インスリンを始めたら体重が増えたと気にしていた患者さんがいました。理屈がつながりました。
ドクタードクター
甲状腺機能低下症はどうだろう。
医学生医学生
基礎代謝が落ちるので体重が増えます。生化学の講義で、甲状腺ホルモンが代謝のアクセルだと習いました。
ドクタードクター
いいね。加えて皮下にムコ多糖が沈着して水を抱え込み、指で押しても圧痕が残らない粘液水腫になる。食欲はむしろ落ちることが多いけれど、代謝低下と粘液水腫で体重は増加傾向になる。ただし増えても数kg程度で、高度肥満の主因になることは少ない点も押さえておこう。
医学生医学生
そうすると残るのは副腎皮質機能低下症ですね。でも、ステロイドを飲むと太るイメージがあるので、副腎の病気も体重が増えそうな気がしてしまいました。
ドクタードクター
その引っかかりは大事だよ。太るのはコルチゾールが過剰なとき、つまりCushing症候群やステロイド投与で、中心性肥満が典型だ。副腎皮質機能低下症はその逆で、コルチゾールが足りない。すると食欲不振、悪心・嘔吐、下痢、全身倦怠感、低血糖が起こる。原発性のAddison病ではアルドステロンも不足してNaと水が尿へ失われ、脱水と低血圧をきたす。だから体重は減るのが典型で、これが体重増加をきたしにくい正解になる。
医学生医学生
過剰なら増える、不足なら減る、と対で覚えればいいんですね。CBTの問題で、色素沈着と低Na血症・高K血症の組み合わせからAddison病を選ぶ問題がありました。
ドクタードクター
よく覚えているね。原発性ではACTHが過剰に出て、その前駆体由来の作用で皮膚や歯肉に色素沈着が出る。検査では低Na血症、高K血症、低血糖、好酸球増多がヒントになる。臨床で特に注意したいのは副腎クリーゼだ。感染や手術などのストレスを契機にショックに陥ることがあり、疑ったら検査結果を待たずにヒドロコルチゾンを投与する。原因不明の倦怠感と体重減少、低血圧、低Na血症がそろったら、一度は副腎不全を鑑別に挙げてほしい。
医学生医学生
体重が減っている人を見たら甲状腺機能亢進症やコントロール不良の糖尿病、悪性腫瘍だけでなく、副腎不全も忘れないようにします。
ドクタードクター
それでいい。体重は毎日誰でも測れる指標だけど、増え方の速さと随伴症状を組み合わせると、多くの病態を読み解く手がかりになるんだ。

まとめ

体重増加は、浮腫などの「体液貯留」と、エネルギー過剰や代謝低下による「脂肪・組織の増加」に分けて考えると整理できます。心不全はRAA系の活性化と静脈圧上昇により、ネフローゼ症候群は低アルブミン血症による膠質浸透圧低下とNa貯留により、体液が貯留して体重が増えます。インスリン治療は同化作用と尿糖によるエネルギー損失の解消で、甲状腺機能低下症は基礎代謝の低下と粘液水腫で体重が増加します。一方、副腎皮質機能低下症ではコルチゾール不足による食欲不振・消化器症状、原発性ではアルドステロン不足による脱水が加わり、体重減少が典型です(コルチゾール過剰のCushing症候群とは逆)。体重の変化を「水か脂肪か、増えるか減るか」で捉える視点は、心不全の自己管理指導から副腎不全の早期発見まで、日常診療で幅広く役立ちます。

解答・解説

正解はeです

体重増加の原因は、大きく「体液(水分)の貯留によるもの」と「脂肪・組織の増加によるもの」に分けて考えると整理しやすい。

体液貯留による体重増加

浮腫をきたす病態が代表である。浮腫は、毛細血管の静水圧上昇(心不全、腎不全など)、血漿膠質浸透圧の低下(ネフローゼ症候群、肝硬変、低栄養など)、血管透過性の亢進、リンパ流の障害などで生じる。数日単位の急な体重増加は、脂肪ではなく水分の貯留を疑う手がかりとなる。

脂肪・組織の増加による体重増加

エネルギー摂取が消費を上回る状態で生じる。基礎代謝の低下(甲状腺機能低下症)、同化作用をもつホルモンの過剰や投与(インスリン、グルココルチコイド過剰=Cushing症候群)、食欲を増す薬物(一部の抗精神病薬など)が代表的である。

体重減少をきたす内分泌疾患

反対に、代謝の亢進(甲状腺機能亢進症)、インスリン作用不足(コントロール不良の糖尿病)、食欲不振・消化器症状を伴う病態(副腎皮質機能低下症など)は体重減少を起こす。 本問の選択肢のうち、心不全とネフローゼ症候群は体液貯留により、インスリン治療と甲状腺機能低下症は主に脂肪・組織の増加(甲状腺機能低下症では粘液水腫も加わる)により体重が増える。副腎皮質機能低下症だけは体重減少が典型であり、これが「体重増加をきたしにくい」ものとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  心不全

    体重増加をきたす。心臓のポンプ機能が低下すると心拍出量が減り、腎血流の低下を介してレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)や交感神経系が活性化され、腎臓でのNaと水の再吸収が増える。さらに静脈圧(毛細血管静水圧)が上昇するため、水分が血管外へ漏れ出して浮腫や胸水・肺うっ血を生じる。体液が数kg単位で貯留するため体重が増加し、日々の体重測定は心不全増悪の早期発見に用いられる(例:数日で2kg前後の増加は増悪のサイン)。

  2. ×b.  インスリン治療

    体重増加をきたす。インスリンは血糖を下げるだけでなく、グリコーゲン・脂肪・蛋白質の合成を促す同化ホルモンである。治療前は高血糖により尿中に糖としてエネルギーが失われていたが、インスリン治療で血糖が改善するとこの尿糖による損失がなくなる。また、腎尿細管でのNa再吸収を促進する作用もある。さらに低血糖を避けるための補食なども加わり、食事療法が不十分だと体重が増えやすい。

  3. ×c.  甲状腺機能低下症

    体重増加をきたす。甲状腺ホルモンは基礎代謝を高めるホルモンであり、その不足でエネルギー消費が低下する。また、皮下組織にグリコサミノグリカン(ムコ多糖、ヒアルロン酸など)が沈着して水分を保持し、圧痕を残さない浮腫(粘液水腫)を生じる。食欲はむしろ低下することが多いが、代謝低下と粘液水腫のために体重は増加傾向となる。ただし、増加の程度は数kg程度にとどまることが多く、高度の肥満の原因となることは少ない。

  4. ×d.  ネフローゼ症候群

    体重増加をきたす。ネフローゼ症候群では糸球体から大量の蛋白(3.5g/日以上)が尿中に失われ、低アルブミン血症(血清アルブミン3.0g/dL以下)となる。血漿膠質浸透圧が低下して水分が血管内にとどまれず間質へ移動するうえ、腎臓でのNa貯留も加わり、全身性の浮腫・胸水・腹水を生じて体重が増加する。浮腫は診断基準の必須項目ではないが、重要な所見とされている。

  5. ○e.  副腎皮質機能低下症

    体重増加をきたしにくい(むしろ体重減少が典型的)。副腎皮質機能低下症ではコルチゾールが不足し、原発性(Addison病)ではアルドステロンも不足する。コルチゾール不足により食欲不振、悪心・嘔吐、下痢などの消化器症状や全身倦怠感、低血糖が生じ、アルドステロン不足ではNa・水が尿中に失われて脱水・低血圧をきたす。これらにより体重は減少する。原発性ではACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の過剰分泌により皮膚・粘膜の色素沈着もみられる。逆にコルチゾール過剰(Cushing症候群、ステロイド投与)では体重が増加する(中心性肥満)ことと対比して覚えるとよい。

体重増加をきたす主な原因

・浮腫性疾患:心不全、ネフローゼ症候群、腎不全、肝硬変 ・内分泌疾患:甲状腺機能低下症、Cushing症候群、インスリノーマ(低血糖を避けるための過食)、成長ホルモン分泌不全症、性腺機能低下症 ・視床下部性:視床下部腫瘍などによる過食 ・薬剤性:インスリン、スルホニル尿素薬、チアゾリジン薬、グルココルチコイド、一部の抗精神病薬・抗うつ薬など

体重減少をきたす主な原因

・内分泌・代謝疾患:甲状腺機能亢進症、コントロール不良の糖尿病、副腎皮質機能低下症、褐色細胞腫 ・悪性腫瘍、慢性感染症(結核など) ・消化器疾患(吸収不良、炎症性腸疾患など) ・精神疾患(うつ病、神経性やせ症)

副腎皮質機能低下症の主な症状と検査所見

・症状:全身倦怠感、易疲労感、食欲不振、悪心・嘔吐、体重減少、低血圧、色素沈着(原発性のみ) ・検査:低Na血症、高K血症(原発性でアルドステロンも欠乏する場合)、低血糖、好酸球増多 ・急性副腎不全(副腎クリーゼ)は感染などのストレスを契機に起こり、ショックに至りうるため、ヒドロコルチゾールの緊急投与が必要である

POINT

・体重増加は「体液貯留(浮腫)」と「脂肪の増加」に分けて考える ・心不全・ネフローゼ症候群は浮腫で、インスリン治療・甲状腺機能低下症は同化促進や代謝低下で体重が増える ・副腎皮質機能低下症は食欲不振・消化器症状・脱水で体重が減少する(コルチゾール過剰のCushing症候群は体重増加)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。