StudyMed医師国家試験

病状が進んでも「生活の質」は上げられる―在宅終末期のQOLを決めるもの

第111回医師国家試験 F問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第111回 F問題 第2問

がんの終末期で在宅医療と介護を受けている患者のQOLについて正しいのはどれか。

  1. a.がんの重症度が規定する。
  2. b.人生の最終段階では低下する。
  3. c.身体的機能の高さと一致する。
  4. d.得られる支援によって変化する。
  5. e.投与されるオピオイドの量に比例する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、がんの終末期を自宅で過ごす患者さんのQOLをどう捉えるかという問題だ。着眼点は「QOLは何によって決まるのか」。選択肢の多くは、ある一つの要因でQOLが決まると言い切っている。そこに違和感を持てるかがポイントだよ。
医学生医学生
QOLって「生活の質」ですよね。正直、がんが重くて体が動かなくなれば、どうしても下がるものだと思っていました。
ドクタードクター
直感的にはそう感じるよね。でもQOLは、身体の状態だけでなく、心理的な安定、社会的なつながり、生きがいや人生の意味づけといったスピリチュアルな側面まで含む多面的な概念なんだ。そして最終的には、患者本人がどう感じ、どう評価するかという主観的な要素が大きい。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、WHOがQOLを「個人の価値観や目標との関係で捉える生活状況の認識」みたいに定義していると習った気がします。
ドクタードクター
その通り。だから重症度や身体機能といった単一の客観的指標だけでは決まらない。正解は「得られる支援によって変化する」だ。訪問診療や訪問看護による症状緩和、訪問介護や福祉用具などの介護保険サービス、家族の介護力やその負担を軽くするレスパイトケア、精神的な支え。こうした支援の内容と質で、在宅療養のQOLは大きく変わる。
医学生医学生
じゃあ、がんの重症度が規定する、というのはどこが違うんでしょう。重症度がQOLに影響するのは確かですよね。
ドクタードクター
影響する要因の一つではあるけれど、「規定する」、つまりそれで決まるわけではない。重症でも、苦痛が和らぎ、家族と過ごす時間があり、自分らしい生活ができていれば、本人が満足できる日々を送ることは十分ありうるんだ。
医学生医学生
人生の最終段階では低下する、というのも同じ理屈で誤りですか。
ドクタードクター
そう。終末期だからといって必ず低下するとは限らない。痛みや呼吸困難が適切に緩和され、心残りを解消したり大切な人との時間を確保できたりすれば、むしろ充実した時間になることもある。終末期のQOLを支えることこそ、緩和ケアの目的なんだ。
医学生医学生
身体機能の高さと一致する、というのは? ADLが落ちたらQOLも落ちそうに思えますが。
ドクタードクター
そこは迷いやすいところだね。身の回りのことが自分でできなくなっても、介助や福祉用具、介護サービスを使えば、本人の望む生活を続けられる。身体機能はQOLの一部を構成するにすぎないから、両者は必ずしも一致しないんだ。
医学生医学生
オピオイドの量に比例する、はさすがに違和感があります。薬理学で、必要量には個人差が大きいと習いました。
ドクタードクター
いい感覚だ。適切な疼痛コントロールはQOLの改善に欠かせないけれど、量が多いほどよいわけでも、少ないほどよいわけでもない。過量になれば眠気やせん妄でかえってQOLを損なう。大切なのは、その患者の痛みに見合った量を、便秘や悪心などの副作用に対処しながら使うことだよ。
医学生医学生
結局、どの誤りの選択肢も「一つの要因で一方向に決まる」と言い切っているのがおかしい、ということですね。
ドクタードクター
まさにそれが解き方の核心だ。発展知識として、終末期の苦痛を捉える「全人的苦痛(トータルペイン)」も押さえておこう。身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛の4つが互いに影響し合う。だから医師だけでなく、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、ヘルパーなど多職種で支える必要がある。
医学生医学生
地域医療の実習で在宅療養支援診療所の訪問診療に同行したとき、ベッドから動けない患者さんが、自宅の縁側から庭を眺められるのが嬉しいと話していました。あれがQOLなんだなと今つながりました。
ドクタードクター
素晴らしい経験だね。制度面では、末期がんは介護保険の特定疾病に含まれるので、40〜64歳でも介護保険サービスを使える。また、緩和ケアは終末期だけのものではなく、がんと診断されたときから治療と並行して提供されるべきものとされている。
医学生医学生
支援の組み立て方次第でQOLが変わるなら、医師には制度やサービスを知っておく責任もありますね。
ドクタードクター
その通り。臨床では、検査値や画像だけでなく、「この人は何を大切にして、どこでどう過ごしたいのか」を聴き取ることから始めてほしい。それがQOLを支える医療の出発点になる。

まとめ

QOLは身体的側面だけでなく、心理的・社会的・スピリチュアルな側面を含む多面的な概念であり、患者本人の主観的な評価が大きな比重を占めます。そのため、がんの重症度、身体機能、終末期であること、オピオイドの量といった単一の要因でQOLが決まるわけではなく、在宅の終末期患者では訪問診療・訪問看護による症状緩和、介護保険サービス、家族支援などの「得られる支援」によってQOLは変化し、向上させることもできます。終末期の苦痛は身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛からなる全人的苦痛として捉え、多職種で対応することが重要です。オピオイドは量の多寡ではなく、痛みに見合った量を副作用対策とともに用いることが基本です。QOLの本質を理解しておくことは、緩和ケアや在宅医療で患者の望む生き方を支えるための土台になります。

解答・解説

正解はdです

テーマ

QOL(quality of life:生活の質・人生の質)の概念を、がん終末期の在宅療養という場面で問う問題である。

要点

QOLは、身体的な状態だけでなく、心理的な安定、社会的なつながり、生きがいや人生の意味づけ(スピリチュアルな側面)などを含む多面的な概念であり、最終的には患者本人がどう感じ、どう評価するかという主観的な要素が大きい。WHO(世界保健機関)も、QOLを「個人が自らの文化や価値観のなかで、自身の目標・期待・関心との関係において捉える生活状況の認識」と定義している。 そのため、病気の重さや身体機能、治療の内容といった単一の客観的指標によってQOLが決まるわけではない。病状が進行して身体機能が落ちても、痛みなどの苦痛が和らぎ、家族や医療・介護職の支えを受けて望む場所で望む過ごし方ができれば、QOLは保たれたり高まったりしうる。

解き方

選択肢のうち、ある一つの因子(重症度、時期、身体機能、薬の量)で一方向的にQOLが決まると断定しているものは、QOLの多面性・主観性に反するため誤りと判断できる。周囲からの支援によってQOLが変わりうるとする記述が、緩和ケアや在宅医療の考え方に合致する。

選択肢考察

  1. ×a.  がんの重症度が規定する。

    誤り。がんの進行度や重症度は症状や身体機能を通じてQOLに影響する要因の一つではあるが、それだけでQOLが決まるわけではない。重症であっても、苦痛の緩和、精神的な支え、家族との時間、自分らしい生活の実現などによって、本人が満足できる生活を送ることは可能である。

  2. ×b.  人生の最終段階では低下する。

    誤り。人生の最終段階(終末期)だからといって、QOLが必ず低下するとは限らない。適切な緩和ケアにより痛みや呼吸困難などの症状が和らぎ、心残りの解消や大切な人との時間の確保ができれば、むしろ充実した時間を過ごせることもある。終末期のQOLを支えることこそが緩和ケアの目的である。

  3. ×c.  身体的機能の高さと一致する。

    誤り。身体機能やADL(activities of daily living:日常生活動作)が低下して身の回りのことが自分でできなくなっても、介助や福祉用具、介護サービスを利用することで、本人の望む生活を続けることはできる。身体機能はQOLの一部を構成するにすぎず、両者は必ずしも一致しない。

  4. ○d.  得られる支援によって変化する。

    正しい。在宅の終末期患者のQOLは、訪問診療・訪問看護による症状緩和、訪問介護や福祉用具などの介護保険サービス、家族の介護力やその負担軽減策(レスパイトケアなど)、精神的・社会的な支えといった、周囲から受けられる支援の内容と質に大きく左右される。適切な支援によって療養環境が整い、本人が生活を楽しめるようになれば、病状が進んでいてもQOLを高めることができる。

  5. ×e.  投与されるオピオイドの量に比例する。

    誤り。オピオイド(モルヒネなどの医療用麻薬性鎮痛薬)による適切な疼痛コントロールはQOLの改善に重要であるが、QOLが投与量に比例するわけではない。必要量は痛みの強さや個人差によって大きく異なり、量が多ければよいものでも少なければよいものでもない。過量になれば眠気やせん妄などの副作用でかえってQOLを損なうことがある。重要なのは、その患者の痛みに見合った量を副作用に対処しつつ用いることである。

全人的苦痛(トータルペイン)

終末期のがん患者の苦痛は、①身体的苦痛(痛み、呼吸困難、倦怠感など)、②精神的苦痛(不安、抑うつ、いらだちなど)、③社会的苦痛(仕事や経済的問題、家庭内の役割の喪失など)、④スピリチュアルな苦痛(生きる意味の喪失、死への恐怖、罪の意識など)の4つの側面からなり、互いに影響し合う。QOLの向上には、これらすべてに目を向けた多職種によるケアが必要である。

緩和ケア

WHOは緩和ケアを、生命を脅かす病に直面する患者と家族のQOLを改善するアプローチと位置づけ、痛みなどの問題を早期に見出して的確に評価・対処することを求めている。緩和ケアは終末期に限らず、がんと診断されたときから治療と並行して提供されるべきものとされる。

在宅緩和ケアを支える仕組み

在宅療養支援診療所による訪問診療、訪問看護、訪問薬剤管理、訪問介護、福祉用具の貸与などが組み合わされる。末期がんは介護保険の特定疾病に含まれるため、40〜64歳の患者でも介護保険サービスを利用できる。

がん疼痛治療

WHO方式がん疼痛治療法では、痛みの強さに応じて非オピオイド鎮痛薬、オピオイドを選択し、経口投与を基本として、時間を決めて定期的に投与し、患者ごとに必要量を調整する。オピオイドの使用時には便秘、悪心・嘔吐、眠気などの副作用への対策を併せて行う。

POINT

・QOLは身体・心理・社会・スピリチュアルな側面を含む多面的で主観的な概念 ・重症度、身体機能、終末期であること、オピオイドの量だけでQOLは決まらない ・適切な緩和ケア・在宅医療・介護などの支援によってQOLは変化(向上)しうる ・終末期患者の苦痛は全人的苦痛(トータルペイン)として捉える

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。