StudyMed医師国家試験

署名があれば十分?―インフォームド・コンセントは「紙」ではなく「対話」である

第111回医師国家試験 F問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第111回 F問題 第1問

インフォームド・コンセントについて誤っているのはどれか。

  1. a.患者の理解が同意の前提になる。
  2. b.自己決定尊重の倫理原則に基づく。
  3. c.医療行為に対する承諾書のことである。
  4. d.患者の主体性を重んじて行う行為である。
  5. e.臨床研究に参加してもらう場合に必要になる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、インフォームド・コンセントという言葉の本当の意味を問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、まずはこの概念が何を指しているのかを、自分の言葉で説明できるかどうかがカギになる。どうかな、インフォームド・コンセントを一言で言うと?
医学生医学生
「説明と同意」ですよね。手術の前に患者さんに同意書へサインしてもらうこと、というイメージがあります。
ドクタードクター
多くの人がそう思い浮かべるんだけど、実はそこに今回の落とし穴がある。インフォームド・コンセントは、医療者が病状や治療の目的、効果、危険性、ほかの選択肢、何もしない場合の見通しまでを患者にわかる言葉で説明し、患者がそれを理解したうえで、強制されずに自分の意思で同意したり拒否したりする「一連の過程」を指すんだ。
医学生医学生
過程、ですか。じゃあ同意書はどういう位置づけになるんでしょう。
ドクタードクター
同意書は、そのプロセスがきちんと行われたことを記録に残すための手段にすぎない。だから「医療行為に対する承諾書のことである」という記述が誤りで、これが正解だ。署名があっても、十分な説明や理解がなければインフォームド・コンセントが成立したとはいえない。
医学生医学生
臨床実習で外科を回ったとき、術前説明に同席したら、指導医の先生が図を描きながら1時間近く話していて、サインは最後の数分だけでした。あれが本体だったんですね。
ドクタードクター
いい経験をしているね。それに「承諾」という言葉自体、相手の申し出を受け身で受け入れるニュアンスが強い。患者が主体的に選ぶという趣旨にもそぐわないんだ。では、ほかの記述が正しい理由も確認しよう。患者の理解が同意の前提になる、という点はどう考える?
医学生医学生
説明を聞いても理解できていなければ、本当の意味で同意したとは言えないからですよね。
ドクタードクター
その通り。成立要件としては、十分な情報開示、患者の理解、判断能力があること、強制のない自発的な意思決定、そして本人による意思表示が挙げられる。専門用語を避けて、理解度を確かめながら話すのは医療者側の責任なんだ。
医学生医学生
医療倫理の講義で習った4原則のうち、インフォームド・コンセントは自律尊重に当たりますか。
ドクタードクター
そう。自律尊重、善行、無危害、正義(公正)の4原則のうち、主に自律尊重、つまり自己決定の尊重に立脚している。医師が「患者のため」と考えて一方的に決めるパターナリズムへの反省から重視されるようになった考え方だ。患者の主体性を重んじる行為だ、という記述もこれと同じ流れで正しい。
医学生医学生
主体性を重んじるなら、患者さんが治療を断ることもできるんですよね。
ドクタードクター
もちろん。提案された医療行為を拒否することも、いったん同意した後で撤回することもできる。「同意してもらうための手続き」ではなく、「選んでもらうための支援」と考えるとわかりやすい。
医学生医学生
臨床研究への参加にも必要、というのは研究倫理の講義でヘルシンキ宣言と一緒に出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。臨床研究や治験では、目的や方法、予想される利益と不利益、参加は自由意思で拒否や途中撤回をしても不利益を受けないこと、個人情報の保護などを説明し、原則として文書で同意を得る。GCPなどの指針・法令でも求められている。対象は日常診療に限らないということだ。
医学生医学生
では、意識のない救急患者さんのように説明ができない場合はどうするんですか。
ドクタードクター
大事な疑問だね。本人の意思確認ができず、救命のため直ちに処置が必要な緊急時には、同意を得ずに医療行為を行うことが許容されうる。また小児や判断能力が十分でない患者では、法定代理人や家族などの代諾者から同意を得るけれど、本人にも理解度に応じて説明し、可能な範囲で賛意、いわゆるインフォームド・アセントを得ることが望ましいとされている。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも「わかりにくいところはありませんか」と確認するよう練習しました。あれもインフォームド・コンセントの基本につながっているんですね。
ドクタードクター
まさにそう。主治医以外の意見を聞くセカンドオピニオンも、患者の自己決定を支える仕組みの一つだ。臨床では、同意書を取ること自体が目的化しないよう、「患者さんが本当に理解して選べたか」を常に自問してほしい。

まとめ

インフォームド・コンセントとは、医療者が病状や治療の目的・効果・危険性・代替手段などをわかりやすく説明し、患者が理解したうえで自発的に同意または拒否する一連の過程であり、同意書(承諾書)という書類そのものを指すわけではありません。その根底には医療倫理の4原則のうち自律(自己決定)尊重の原則があり、パターナリズムへの反省から重視されるようになりました。成立には情報開示、理解、判断能力、自発性が必要で、患者は拒否や同意の撤回もでき、日常診療だけでなく臨床研究や治験への参加にも求められます。緊急時の例外や、小児などでの代諾とインフォームド・アセントもあわせて押さえておきましょう。「紙ではなく対話」という本質を理解しておくことは、日々の診療で患者と信頼関係を築くための出発点になります。

解答・解説

正解はcです

テーマ

インフォームド・コンセント(informed consent:説明に基づく同意)の本質を問う問題である。設問は「誤っているもの」を選ぶ形式であることに注意する。

要点

インフォームド・コンセントとは、医師などの医療者が、病状、検査や治療の目的・内容、期待される効果、危険性や副作用、他の選択肢(何もしない場合を含む)とその利点・欠点などを、患者にわかる言葉で十分に説明し、患者がそれを理解したうえで、他者から強制されることなく自らの意思で同意(または拒否)し選択する、という一連の過程を指す。 その根底にあるのは、自分の身体や生き方に関わることは本人が決めるという「自律(自己決定)の尊重」の倫理原則である。対象は日常診療の医療行為にとどまらず、臨床研究や治験への参加にも及ぶ。

解き方

インフォームド・コンセントは「説明→理解→自発的な同意・選択」というプロセスそのものであり、その結果として作成される同意書(承諾書)という書類と同一視するのは誤りである。この点に気づけば、正解を選べる。

選択肢考察

  1. ×a.  患者の理解が同意の前提になる。

    記述は正しい。説明を受けても内容を理解していなければ、本当の意味での同意とはいえない。インフォームド・コンセントの成立には、①十分な情報の開示、②患者の理解、③患者に判断能力があること、④強制のない自発的な意思決定、が必要とされる。医療者は専門用語を避け、患者の理解度を確かめながら説明する責任がある。

  2. ×b.  自己決定尊重の倫理原則に基づく。

    記述は正しい。医療倫理の4原則(自律尊重、善行、無危害、正義〈公正〉)のうち、インフォームド・コンセントは主に自律尊重(自己決定の尊重)の原則に立脚している。医師が患者にとって最善と考えることを一方的に決めるパターナリズム(父権主義)への反省から重視されるようになった考え方である。

  3. ○c.  医療行為に対する承諾書のことである。

    記述は誤りであり、これが正解である。インフォームド・コンセントは書類を指す言葉ではなく、説明・理解・同意という対話の過程全体を指す概念である。同意書(承諾書)は、そのプロセスが行われたことを記録に残すための手段にすぎず、署名があっても十分な説明や理解がなければインフォームド・コンセントが成立したとはいえない。また「承諾」は相手の申し出を受け入れるという受け身の意味合いが強く、患者が主体的に選択するという趣旨にもそぐわない。さらに対象は医療行為に限らず、臨床研究への参加なども含まれる。

  4. ×d.  患者の主体性を重んじて行う行為である。

    記述は正しい。医療の決定権は患者自身にあるという考えに立ち、患者が自ら納得して治療方針を選ぶことを支える行為である。患者は提案された医療行為を拒否することもでき、同意後に撤回することも可能である。

  5. ×e.  臨床研究に参加してもらう場合に必要になる。

    記述は正しい。臨床研究や治験では、研究の目的・方法、予想される利益と不利益、参加は自由意思であり拒否や途中撤回をしても不利益を受けないこと、個人情報の保護などを説明し、原則として文書で同意を得る必要がある。これはヘルシンキ宣言や、わが国の臨床研究に関する指針・法令(医薬品の臨床試験の実施の基準〈GCP〉など)で求められている。

インフォームド・コンセントの成立要件

①情報の開示:病名・病状、検査や治療の内容と目的、予想される効果、危険性・副作用、代替手段、何もしない場合の見通しなど ②理解:患者が説明内容を理解していること ③判断能力:患者に意思決定能力があること ④自発性:強制や不当な誘導がないこと ⑤同意(または拒否):患者自身による意思表示

例外・関連事項

・緊急時で本人の意思確認ができず、救命のため直ちに処置が必要な場合は、同意を得ずに医療行為を行うことが許容されうる。 ・小児や判断能力が十分でない患者では、法定代理人や家族などの代諾者から同意を得るが、本人にも理解度に応じた説明を行い、可能な範囲で賛意(インフォームド・アセント)を得ることが望ましい。 ・セカンドオピニオン:主治医以外の医師の意見を求めることであり、患者の自己決定を支える仕組みの一つである。

医療倫理の4原則

自律尊重(患者の自己決定を尊重する)、善行(患者の利益になることを行う)、無危害(害を与えない)、正義・公正(医療資源を公平に配分する)。

POINT

・インフォームド・コンセントは「説明→理解→自発的同意・選択」のプロセスであり、同意書という書類のことではない ・自律(自己決定)尊重の倫理原則に基づく ・患者は拒否も同意の撤回もできる ・診療だけでなく臨床研究・治験への参加にも必要

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。