赤より白が怖い―熱湯熱傷の「色」で読む深さの見分け方
第111回医師国家試験 D問題 第27問
国試問題にチャレンジ
1歳0か月の男児。午後9時45分に熱湯による熱傷のため救急車で搬入された。午後9時ごろ,自宅でテーブルの上のポットを両親が目を離した間に倒し,熱湯をかぶったため両親が救急車を要請した。意識は清明で激しく泣いている。体温36.2℃。心拍数152/分,整。呼吸数40/分。SpO2 100%(room air)。患児の皮膚の写真を別に示す。 深度が最も深いと思われる熱傷部位はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
熱傷の深度は、外観の色調、疼痛、毛細血管の再充満で判定します。赤い熱傷面は真皮の血流が保たれた浅い熱傷(Ⅰ度〜浅達性Ⅱ度)を示し、白く抜けた創面や炭化した創面は、血管が破壊されて血流を失った深い熱傷(深達性Ⅱ度〜Ⅲ度)を示すため、見た目が痛々しい赤い部位より白い部位のほうが深いと判断します。熱湯熱傷は数日で深度が進むことがあり、初期判定は経過で見直す必要があります。小児では5の法則やLund-Browderの図表で面積を評価し、少ない面積でも輸液を要すること、受傷機転と分布の整合性から虐待を見逃さないことが重要です。色の意味を病態から理解しておくことは、初期対応から植皮の判断まで熱傷診療全体の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
状況の整理
・1歳0か月の男児。ポットを倒して熱湯をかぶった、いわゆる高温液体による熱傷(scald burn)で、受傷から約45分後に搬入されている。 ・意識清明で激しく泣いており、心拍数152/分、呼吸数40/分はいずれも1歳児としては啼泣の影響を含めて許容範囲で、SpO2 100%と呼吸・循環は現時点で保たれている。 ・写真では胸部から腹部、両大腿にかけて広範に熱傷を認める。①(右上胸部)、②(上腹部正中)、④(左大腿)、⑤(右大腿)は赤色〜淡紅色を呈しているのに対し、③(臍の上方の下腹部)は周囲より明らかに白っぽく、色調が抜けている。
熱傷深度の判定の考え方
熱傷の深さは、皮膚のどの層まで損傷が及んだかで分類され、外観・疼痛・毛細血管の再充満(圧迫して離したときに赤みが戻るか)で判定する。 ・Ⅰ度(表皮熱傷):表皮のみの損傷。紅斑と疼痛のみで水疱はない。 ・浅達性Ⅱ度:真皮浅層までの損傷。水疱を形成し、水疱底は赤色で、圧迫で消退し再充満する。強い疼痛がある。 ・深達性Ⅱ度:真皮深層までの損傷。水疱底は白色〜まだらで、毛細血管の再充満が遅いか乏しく、知覚は鈍くなる。 ・Ⅲ度(全層熱傷):皮膚全層が壊死し皮下組織に及ぶ。白色(蒼白・羊皮紙様)や黒褐色・炭化を呈し、乾燥して硬く、血流が途絶しているため赤みがなく、神経終末も破壊されて痛みを感じない。 つまり「赤い部分」は真皮の血流が保たれている浅い熱傷、「白い部分」は真皮の血管が障害されて血流が失われた深い熱傷を示す。写真上、血流を失ったように白く見えるのは③であり、5か所のうち最も深い熱傷と判断される。
臨床上の留意点
熱湯熱傷は初期には深度の判定が難しく、数日の経過で深くなる(深度が進行する)こともあるため、受傷後早期の判定は暫定的なものと考えて経過で再評価する。また乳幼児の熱傷では、受傷機転と熱傷の分布が合っているかを確認し、虐待の可能性を常に念頭に置く。本例は保護者が目を離した間の事故とされ、こぼれた熱湯が流れたような不整形の分布であるが、詳しい状況の聴取は欠かせない。
選択肢考察
- ×a. ①
①は右上胸部で、鮮やかな赤色を呈している。赤みがあるのは真皮の毛細血管の血流が保たれていることを示し、Ⅰ度〜浅達性Ⅱ度程度の比較的浅い熱傷と考えられる。白色の③より浅い。
- ×b. ②
②は上腹部正中で、淡紅色〜ピンク色である。表皮が剝がれた湿潤なびらん面のように見え、赤みが残っていることから血流は保たれており、浅達性Ⅱ度程度と考えられる。色調が完全に白く抜けた③ほど深くはない。
- ○c. ③
③は臍の上方の下腹部で、周囲の赤い熱傷面と比べて明らかに白っぽく、赤みが消えている。熱傷が真皮深層から皮膚全層に及ぶと真皮内の血管が凝固・破壊されて血流がなくなり、創面は白色(蒼白)となる。このような部位は圧迫しても再充満がなく、痛覚も低下・消失しているのが特徴で、深達性Ⅱ度〜Ⅲ度の深い熱傷を示す。5か所の中で最も深い熱傷と判断される。
- ×d. ④
④は左大腿で、赤色を呈し血流が保たれていると考えられる。浅い熱傷(Ⅰ度〜浅達性Ⅱ度程度)であり、最も深い部位ではない。
- ×e. ⑤
⑤は右大腿で、④と同様に赤色の熱傷面である。赤みが残っていることから真皮の血流は保たれており、③より浅い熱傷と考えられる。
熱傷深度分類のまとめ
・Ⅰ度(epidermal burn, EB):表皮のみ。紅斑・疼痛。水疱なし。数日で瘢痕を残さず治癒。 ・浅達性Ⅱ度(superficial dermal burn, SDB):真皮浅層まで。水疱、水疱底は赤色。強い疼痛。約1〜2週間で治癒し、瘢痕は残りにくい。 ・深達性Ⅱ度(deep dermal burn, DDB):真皮深層まで。水疱底は白色調。知覚鈍麻。治癒に3〜4週間程度かかり、肥厚性瘢痕を残しやすく、植皮が必要になることもある。 ・Ⅲ度(deep burn, DB):皮膚全層〜皮下組織。白色・羊皮紙様、黒色・炭化。無痛。自然上皮化は期待できず(小範囲を除き)、デブリードマンと植皮が必要。
熱傷面積の推定
・成人では「9の法則」を用いるが、小児は体に対して頭部の割合が大きいため「5の法則」や Lund-Browder の図表を用いる。 ・患者の手掌(指を含む)はおよそ体表面積の1%に相当し、散在する熱傷の面積推定に便利である。 ・面積の算定にはⅡ度とⅢ度を含め、Ⅰ度は含めない。
重症度と初期対応
・熱傷指数(burn index)=Ⅲ度熱傷面積(%)+1/2×Ⅱ度熱傷面積(%)。10〜15以上で重症とされる。 ・小児では成人より少ない面積(おおむね10%以上)でも初期輸液を要し、体重あたりの体表面積が大きいため脱水や低体温に陥りやすい。 ・Artz の基準では、Ⅱ度30%以上、Ⅲ度10%以上、顔面・手・足・陰部の熱傷、気道熱傷、電撃傷・化学熱傷、骨折などの合併がある場合は重症熱傷として熱傷専門施設での治療の対象となる。
小児熱傷と虐待
浸漬による熱傷(境界が明瞭で、手袋・靴下状、殿部や会陰の熱傷など)や、説明された受傷機転・発達段階と合わない熱傷は虐待を疑う手がかりとなる。
POINT
・熱傷深度は外観・疼痛・毛細血管の再充満で判定する。 ・赤い熱傷面は血流が保たれた浅い熱傷、白色(蒼白)や炭化した熱傷面は血流を失った深い熱傷(深達性Ⅱ度〜Ⅲ度)を示す。 ・Ⅲ度熱傷は無痛で、自然上皮化しにくく植皮を要する。 ・小児の熱傷面積は5の法則や Lund-Browder 法で評価し、虐待の可能性にも注意する。
