健診の尿潜血を放置した若者―赤血球円柱が指し示す「腎生検」への道
第111回医師国家試験 D問題 第26問
国試問題にチャレンジ
26歳の男性。健康診断で蛋白尿と血尿とを指摘されて来院した。数年前から尿潜血を指摘されていたがそのままにしていた。血圧120/76mmHg。尿所見:蛋白2+,潜血2+,沈渣に変形赤血球と赤血球円柱とを認める。血液所見:尿素窒素16mg/dL,クレアチニン0.7mg/dL。腹部超音波検査で異常を認めない。 次に行うべき検査はどれか。
- a.膀胱鏡
- b.腎生検
- c.腹部CT
- d.腎動脈造影
- e.レノグラム
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
血尿を見たら、まず糸球体性か非糸球体性かを区別することが大切で、変形赤血球、赤血球円柱、蛋白尿の合併は糸球体由来を強く示します。若年者で持続する顕微鏡的血尿に蛋白尿が加わった場合は、日本で最も多い慢性糸球体腎炎であるIgA腎症をまず考えます。糸球体疾患の病型確定と、活動性や慢性化の程度の評価には腎生検が必要で、蛋白尿と血尿の合併はその代表的な適応です。膀胱鏡、CT、腎動脈造影、レノグラムは尿路や血管、分腎機能を評価する検査であり、糸球体の病変は診断できません。生検前には出血傾向や高血圧、腎萎縮などの禁忌を確認する必要があり、健診の検尿異常を見逃さず適切に精査へつなげる意識が、腎予後を守る臨床の基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・26歳の男性。健康診断で蛋白尿と血尿を指摘された。数年前から尿潜血陽性が続いていた(持続性の顕微鏡的血尿)。 ・血圧120/76mmHgで高血圧はない。 ・尿蛋白2+、尿潜血2+。尿沈渣で変形赤血球と赤血球円柱を認める。 ・尿素窒素16mg/dL、クレアチニン0.7mg/dLで、現時点の腎機能は保たれている。 ・腹部超音波検査で異常なし(腎の大きさ・形態に問題がなく、結石や腫瘍などの構造的異常も指摘されていない)。
血尿の由来の判定
血尿を見たら、まず「糸球体性血尿」か「非糸球体性血尿(尿路の結石・腫瘍・炎症などによる出血)」かを区別する。本例には糸球体由来を示す所見がそろっている。 ・変形赤血球:赤血球が糸球体基底膜の隙間を通り抜け、尿細管内の浸透圧変化にさらされることで形がいびつになる。尿路からの出血では赤血球の形は均一(均一赤血球)である。 ・赤血球円柱:尿細管内で赤血球が Tamm-Horsfall ムコ蛋白とともに固められたもので、赤血球がネフロン内に出ていること、すなわち糸球体からの出血を示す。糸球体腎炎に特異性の高い所見である。 ・蛋白尿の合併:尿路出血だけでは2+程度の蛋白尿は説明しにくく、糸球体障害の存在を示唆する。 さらに腹部超音波で異常がないことから、超音波で捉えられる泌尿器科的疾患(腎腫瘍、結石、水腎症など)の可能性も低い。
診断の方向性
若年者、数年来の無症候性血尿に蛋白尿が加わった経過、腎機能正常、という組み合わせは慢性糸球体腎炎、特に日本で最も頻度が高い IgA 腎症に典型的である。ほかに菲薄基底膜病、Alport 症候群、膜性増殖性糸球体腎炎なども鑑別に入るが、これらは尿所見や血液検査だけでは区別できない。
設問の考え方
糸球体疾患の確定診断と、組織学的な活動性・慢性化の程度(治療方針や予後の判断に直結する)の評価には、腎組織を直接観察する腎生検が必要である。蛋白尿と血尿をともに認める場合は腎生検の代表的な適応であり、腎機能が保たれ、高血圧もなく、超音波で両腎の大きさ・形態が正常であることが確認されている本例は、合併症の面からも腎生検を安全に行いやすい条件にある。画像検査や機能検査では糸球体レベルの病変は評価できない。
選択肢考察
- ×a. 膀胱鏡
膀胱鏡は膀胱や尿道の内腔を直接観察する検査で、膀胱癌など下部尿路からの出血の検索に用いる。特に高齢者、喫煙者、肉眼的血尿の例では重要である。しかし本例は変形赤血球・赤血球円柱・蛋白尿という糸球体性血尿の所見がそろっており、26歳と若年で尿路悪性腫瘍の危険因子も乏しい。下部尿路を観察しても糸球体病変は評価できないため、次に行う検査として優先されない。
- ○b. 腎生検
糸球体性血尿に2+の蛋白尿を伴い、数年の経過で持続していることから慢性糸球体腎炎(IgA 腎症が最も考えやすい)が疑われる。糸球体疾患は組織所見でなければ病型を確定できず、光学顕微鏡・蛍光抗体法(IgA 腎症ではメサンギウム領域への IgA 沈着)・電子顕微鏡で診断し、同時に病変の活動性や線維化の程度を評価して治療方針と予後を判断する。腎機能正常、高血圧なし、超音波で腎形態異常なしという条件は、萎縮腎・単腎・コントロール不良の高血圧・出血傾向などの禁忌に当たらないことの確認にもなっている。したがって次に行うべき検査は腎生検である。
- ×c. 腹部CT
腹部CTは腎腫瘍、尿路結石、腎周囲の病変など形態的異常の検出に有用である。しかし腎の大きさや構造の評価は腹部超音波ですでに行われ異常がなく、CTでも糸球体という微細な構造の病変は描出できない。被曝や造影剤使用の不利益に見合う情報は得られず、次に行う検査ではない。
- ×d. 腎動脈造影
腎動脈造影は腎動脈狭窄(腎血管性高血圧の原因)、腎動脈瘤、腎動静脈瘻などの血管病変の診断に用いる侵襲的検査で、現在は診断目的なら CT アンギオグラフィや MR アンギオグラフィ(MRA)で代替されることが多く、経皮的腎動脈形成術などの治療を兼ねて行われることが多い。本例は高血圧がなく、血管病変を疑う所見もない。糸球体レベルの病変は評価できないため不適切である。
- ×e. レノグラム
レノグラムは放射性医薬品(99mTc-MAG3 など)を静注し、腎への集積と排泄の時間経過を曲線として描く核医学検査で、左右それぞれの腎機能(分腎機能)や尿路の通過障害、腎動脈狭窄の機能的評価に用いる。本例は腎機能が正常で、尿路閉塞や腎血管性高血圧を疑う所見もない。糸球体病変の病理診断には役立たないため、次に行う検査ではない。
血尿の鑑別:糸球体性と非糸球体性
・糸球体性:変形赤血球(特に有棘赤血球など)が多い、赤血球円柱、蛋白尿の合併。原因は IgA 腎症、急性糸球体腎炎、ループス腎炎、ANCA 関連血管炎、菲薄基底膜病、Alport 症候群など。 ・非糸球体性:均一な形の赤血球、円柱なし、蛋白尿は乏しい。原因は尿路結石、膀胱癌・腎盂尿管癌・腎細胞癌、膀胱炎、前立腺疾患、ナットクラッカー現象など。超音波・尿細胞診・膀胱鏡・CT などで検索する。
IgA 腎症の概要
・日本の慢性糸球体腎炎で最も多い。若年〜中年に多く、健診での検尿異常(持続性顕微鏡的血尿±蛋白尿)を契機に見つかることが多い。上気道感染の直後(1〜3日以内)に肉眼的血尿をきたすことがある。 ・約半数で血清 IgA 高値(330mg/dL 以上)を認めるが、確定診断は腎生検でメサンギウム領域への IgA 優位の沈着を証明することによる。 ・無治療では長期的に一部が末期腎不全に至る。治療は降圧(RA 系阻害薬)、副腎皮質ステロイド、口蓋扁桃摘出術+ステロイドパルス療法などを病変の程度に応じて選ぶ。
腎生検の主な適応と禁忌
・適応:持続性の蛋白尿(目安として0.5g/日または0.5g/gCr以上)、蛋白尿と血尿の合併、ネフローゼ症候群、原因不明の急速な腎機能低下、全身性疾患(SLE など)に伴う腎障害の評価など。 ・主な禁忌:出血傾向、コントロール不良の高血圧、萎縮腎(末期腎)、機能的単腎、多発嚢胞腎、腎の感染症、協力が得られない患者など。生検前に超音波で腎の大きさ・形態を確認するのはこのためでもある。
POINT
・変形赤血球・赤血球円柱・蛋白尿の合併は糸球体性血尿を示す。 ・若年者で持続する顕微鏡的血尿に蛋白尿が加わった場合はまず IgA 腎症を考える。 ・糸球体疾患の確定診断と治療方針決定には腎生検が必須。蛋白尿と血尿の合併は腎生検の代表的な適応である。 ・膀胱鏡・CT・腎動脈造影・レノグラムでは糸球体病変は評価できない。
