髄液糖は「単独」では語れない―血糖との比で見抜く細菌性髄膜炎
第111回医師国家試験 C問題 第27問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,26と27の問いに答えよ。 32歳の男性。激しい頭痛と意識障害のため救急車で搬入された。 現病歴:1週間前から咽頭痛と38℃台の発熱とを自覚していたが,市販薬を内服して様子をみていた。昨日から頭部全体の頭痛を訴えていたが,今朝になって呼びかけに対する反応が鈍くなったため家族が救急車を要請した。 既往歴:3年前に交通事故で下顎骨骨折。歯科治療中。 生活歴:喫煙は20本/日を12年間。飲酒はビール1,000mL/日を週5回程度で12年間。 家族歴:特記すべきことはない。 現症:眼を閉じているが呼びかけると開眼する。簡単な質問には返答できるが内容が混乱している。手の挙上など簡単な命令には応じる。体温40.1℃。心拍数136/分,整。血圧126/72mmHg。SpO2 98%(マスク 5L/分酸素投与下)。項部硬直とKernig徴候を認める。その他の神経学的所見に異常を認めない。
脳脊髄液検査を行うこととした。 鑑別診断のために脳脊髄液検査の結果と対比すべき血液検査の項目はどれか。
- a.血糖
- b.総蛋白
- c.好中球数
- d.ナトリウム
- e.クレアチンキナーゼ
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
髄液糖は血液中のブドウ糖が髄液へ移行したもので血糖に連動するため、必ず同時に測った血糖と対比し、髄液糖/血糖比で評価します。比は通常0.6〜0.7程度で、0.6未満なら低下、0.4未満なら細菌性髄膜炎を強く示唆し、細菌性・結核性・真菌性で低下する一方、ウイルス性や単純ヘルペス脳炎では保たれることが多いのが鑑別の要点です。髄液の細胞数・分画や蛋白は髄液単独で判断し、血清の総蛋白や好中球数、ナトリウム、CKと対比する必要はありません。細菌性髄膜炎を疑えば血液培養後ただちに抗菌薬を開始し、検査で治療を遅らせないことが重要です。「髄液糖は血糖とセットで読む」という原則は、救急の現場で髄膜炎を正しく見分けるための基本になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理と診断
32歳の男性。1週間前からの咽頭痛・発熱に続き、前日から頭痛、当日朝から意識障害(GCS E3V4M6)が出現した。体温40.1℃、心拍数136/分で、項部硬直とKernig徴候という髄膜刺激徴候を認め、巣症状はない。急性に進行する発熱・頭痛・意識障害と髄膜刺激徴候から中枢神経系感染症、とくに細菌性髄膜炎がもっとも疑われる。鑑別としてウイルス性髄膜炎、単純ヘルペス脳炎、脳膿瘍などが残る。歯科治療中であることからは口腔内細菌の菌血症(感染性心内膜炎を含む)を介した感染、大量飲酒からは免疫能低下による肺炎球菌感染のリスクも念頭に置く。
設問の考え方
治療方針を決めるうえで最も重要なのは、細菌性か否かを速やかに見極めることであり、その中心となるのが脳脊髄液(髄液)検査である。髄液の細胞数・細胞の種類・蛋白・糖を評価するが、このうち髄液の糖(髄液糖)だけは、それ単独の値ではなく血液中の糖(血糖)と比べて判断しなければならない。 髄液糖は血液中のブドウ糖が脈絡叢や血液脳関門の輸送体を介して髄液へ移行したものであり、その濃度は血糖に連動して変動する(通常、血糖のおよそ60〜70%)。そのため髄液糖の実測値が一見正常範囲でも、同時に高血糖があれば相対的には低下していることになる。例えば髄液糖が80mg/dLでも血糖が300mg/dLなら、比は約0.27で明らかな低下である。細菌性髄膜炎では、細菌や好中球による糖の消費や、糖の輸送障害によって髄液糖が低下するため、髄液糖/血糖比が0.6未満(とくに0.4未満)であることが細菌性を示唆する重要な根拠となる。 したがって、腰椎穿刺と同時(または直前)に採血して血糖を測定し、髄液糖と対比する必要がある。
選択肢考察
- ○a. 血糖
髄液糖は血糖に依存して変化するため、必ず同時に測定した血糖と比較して評価する。髄液糖/血糖比が0.6未満なら低下と判断し、0.4未満では細菌性髄膜炎の可能性が高い。細菌性・結核性・真菌性髄膜炎では髄液糖が低下するのに対し、ウイルス性髄膜炎や単純ヘルペス脳炎では正常か軽度の低下にとどまることが多く、本症例の鑑別に直結する指標である。髄液の糖濃度は血糖変化から数時間遅れて追随するため、高血糖・低血糖や糖液輸液中の患者では解釈に注意が要る。
- ×b. 総蛋白
髄液蛋白(基準はおよそ15〜45mg/dL)は、細菌性髄膜炎で著明に上昇し、ウイルス性では軽度上昇にとどまるなど、それ自体が鑑別に役立つ。しかし髄液蛋白は血清の総蛋白とは大きく桁が異なり、血清値と対比して判定する項目ではない。なお多発性硬化症などで免疫グロブリン(IgG)が髄腔内で産生されているかを評価する場合には、IgGインデックスのように血清と髄液のアルブミン・IgGを対比するが、これは総蛋白の比較ではなく、本症例の鑑別目的でもない。
- ×c. 好中球数
髄液の細胞数と細胞分画(多形核球優位か単核球優位か)は、細菌性(好中球優位で数百〜数千/μL)とウイルス性(リンパ球優位で数十〜数百/μL)の鑑別に重要である。ただし末梢血の好中球数と比べて判定するものではない。例外的に、血液疾患や抗癌薬による化学療法で末梢血の白血球が著減している患者では、細菌性髄膜炎でも髄液細胞数が増えにくいことがあり、解釈の際に考慮する。
- ×d. ナトリウム
髄膜炎・脳炎の鑑別のために髄液ナトリウムを測定することはなく、血清ナトリウムと対比する意義もない。かつては髄液のクロール(Cl)が結核性髄膜炎で低下するとして測定され、髄液Clは血清より高値(おおむね1.2倍前後)であるため血清と比べて評価されたが、現在はアデノシンデアミナーゼ(ADA)や核酸増幅検査などより有用な検査があり、臨床的意義は乏しい。なお血清ナトリウムそのものは、髄膜炎に合併しやすい抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)による低ナトリウム血症の評価には重要である。
- ×e. クレアチンキナーゼ
クレアチンキナーゼ(CK)は骨格筋や心筋の傷害の指標であり、髄膜炎・脳炎の鑑別目的で髄液中のCKを測定することはない。当然、血清CKと対比する必要もない。
髄液検査の基準値
・外観:水様透明 ・初圧:およそ70〜180mmH2O(側臥位) ・細胞数:5/μL以下(単核球) ・蛋白:およそ15〜45mg/dL ・糖:およそ50〜80mg/dL(血糖の約60〜70%)
髄膜炎の病型と典型的な髄液所見
・細菌性:外観は混濁。細胞数は著増(数百〜数千/μL)し好中球優位。蛋白は著増、糖は著明に低下(髄液糖/血糖比0.4未満が多い)。グラム染色・培養で起炎菌を同定する。 ・ウイルス性:外観は透明。細胞数は軽〜中等度増加でリンパ球優位(初期は好中球優位のこともある)。蛋白は軽度増加、糖は正常。 ・結核性:外観は透明〜日光微塵(キラキラした浮遊物)。リンパ球優位。蛋白は著増、糖は低下。ADA高値が参考になり、経過は亜急性。 ・真菌性(クリプトコックスなど):リンパ球優位。蛋白は増加、糖は低下。墨汁染色やクリプトコックス抗原で診断する。免疫不全者に多い。 ・単純ヘルペス脳炎:リンパ球優位の細胞増多、蛋白軽度増加、糖は正常。赤血球が混じることがある。髄液の単純ヘルペスウイルスDNA(PCR)で診断し、疑った時点でアシクロビルを開始する。
細菌性髄膜炎を疑ったときの初期対応
・血液培養を2セット採取し、腰椎穿刺と同時に血糖を測定する。 ・意識障害、局所神経症状、けいれん、乳頭浮腫、免疫不全などがあれば、腰椎穿刺前に頭部CTで占拠性病変を除外する。ただしCTを待つために抗菌薬投与を遅らせてはならない。 ・成人の市中発症例では、肺炎球菌と髄膜炎菌を主な標的として第3世代セファロスポリン(セフトリアキソンなど)とバンコマイシンを用い、50歳以上や免疫不全ではリステリアを考えてアンピシリンを加える。成人ではデキサメタゾンを抗菌薬投与の直前または同時に開始することが推奨される。
POINT
・髄液糖は血糖と連動するため、必ず同時に測定した血糖と対比して評価する。 ・髄液糖/血糖比は通常約0.6〜0.7。0.6未満で低下、0.4未満なら細菌性髄膜炎を強く示唆する。 ・髄液糖が低下する髄膜炎:細菌性・結核性・真菌性(ウイルス性では正常)。 ・細胞数・分画、蛋白は髄液単独で評価し、血清値との対比は不要。 ・細菌性髄膜炎を疑えば、血液培養後ただちに抗菌薬を開始し、検査で治療を遅らせない。
