「朝食から時間が経ったから空腹時」は本当か―食後6時間の採血で最も動く検査値
第111回医師国家試験 C問題 第25問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。タクシーの運転手で,高血圧症,糖尿病,脂質異常症および高尿酸血症に対して食事療法と運動療法とを行っている。午前11時30分ごろ定期受診のため来院した。担当医との会話を示す。 医師「こんにちは。お変わりありませんか」 患者「はい,特に変わりありません。今日は朝食から時間が経っていますので,血液検査をしていただけますか」 医師「朝食は何時に摂られましたか」 患者「5時半ごろにうどんを食べました」 血液生化学検査項目のうち最も朝食の影響を受けるのはどれか。
- a.尿酸
- b.HbA1c
- c.クレアチニン
- d.トリグリセリド
- e.LDLコレステロール
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
血液検査で空腹時採血とは10時間以上の絶食後の採血を指し、食後6時間程度では随時採血として扱います。食事で大きく変動する代表的な項目は血糖とトリグリセリドで、トリグリセリドはカイロミクロンや肝臓由来のVLDLの増加により食後数時間でピークとなり、インスリン抵抗性があると上昇が遷延します(食後高脂血症)。一方、HbA1cは過去1〜2か月の平均血糖を反映し、尿酸・クレアチニン・LDLコレステロールも1回の食事による変動は小さいものの、Friedewald式によるLDLコレステロールの計算は食後には不正確になるため、直接法やnon-HDLコレステロールで評価します。高トリグリセリド血症の基準は空腹時150mg/dL以上、随時175mg/dL以上とされており、採血条件を確認して検査値を解釈する姿勢は日常診療の基本です。
解答・解説
正解はdです
状況の整理
・45歳の男性で、高血圧症・糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症(いわゆる生活習慣病)に対し、食事療法と運動療法で経過をみている。 ・朝5時半ごろにうどんを食べ、午前11時30分ごろに受診している。食後約6時間で採血することになる。 ・患者は「朝食から時間が経っているから空腹時と同じ」と考えているが、検査上の空腹時採血は一般に10時間以上の絶食後(通常は前夜から絶食した早朝)の採血を指す。食後6時間では空腹時の条件を満たさない。
考え方
血液検査の値には、1回の食事で大きく動く項目と、ほとんど動かない項目がある。食後に大きく変動する代表は血糖とトリグリセリド(中性脂肪)である。食事中の脂質は小腸で吸収されてカイロミクロンとして血中に入り、さらに肝臓での超低比重リポ蛋白(VLDL)産生も増えるため、トリグリセリドは食後数時間でピークに達し、空腹時の値に戻るまでに時間を要する。うどんのように糖質の多い食事でも、肝臓でのトリグリセリド合成が促されて値は上昇する。 これに対して、HbA1cは長期間の平均血糖を反映する指標であり、尿酸・クレアチニン・LDLコレステロールは1回の食事による変動がわずかである。したがって、選択肢の中で最も朝食の影響を受けるのはトリグリセリドである。本例のように食後時間が短い採血でトリグリセリドを評価する場合は、随時(非空腹時)の値として解釈する必要がある。
選択肢考察
- ×a. 尿酸
血清尿酸値は、長期的にはプリン体を多く含む食品の摂取や飲酒、肥満などの影響を受けるが、1回の食事による短時間での変動はわずかである。採血のタイミングを空腹時に限定する必要は乏しい。
- ×b. HbA1c
HbA1cは赤血球中のヘモグロビンにブドウ糖が結合したものの割合で、赤血球の寿命(約120日)を背景に、過去1〜2か月の平均的な血糖状態を反映する。直前の食事で血糖が一時的に上昇しても、HbA1cはほとんど変化しないため、食事の時刻に関係なく測定できる。
- ×c. クレアチニン
血清クレアチニンは筋肉で産生され腎臓から排泄される物質で、主に筋肉量と腎機能(糸球体濾過量)を反映する。大量の肉類摂取後に軽度上昇することはあるが、1回の通常の食事(うどん)による影響はごく小さい。
- ○d. トリグリセリド
トリグリセリドは食後にカイロミクロンやVLDLとして血中で増加し、一般に食後数時間(3〜4時間程度)でピークとなる。インスリン抵抗性や脂質異常症を有する人では、上昇が大きく、空腹時の値に戻るまでの時間も延びやすい(食後高脂血症)。食後約6時間の本例では空腹時より高値となる可能性が高く、選択肢中で最も朝食の影響を受ける項目である。このため、トリグリセリドは原則として10時間以上の絶食後の空腹時採血で評価する。
- ×e. LDLコレステロール
LDLコレステロール自体は食事による短期的変動が小さい。ただし、LDLコレステロールを総コレステロール、HDLコレステロール、トリグリセリドから計算するFriedewald式(LDL-C=TC−HDL-C−TG/5)は空腹時採血を前提としており、食後採血ではトリグリセリドの上昇により計算値が不正確になる。非空腹時には直接法での測定やnon-HDLコレステロール(総コレステロール−HDLコレステロール)による評価を用いる。
食事の影響を受ける主な検査項目
・食後に上昇するもの:血糖、インスリン、トリグリセリド。 ・食後に低下するもの:遊離脂肪酸(インスリンにより脂肪分解が抑制されるため)、血清無機リン、血清カリウム(インスリンによる細胞内への取り込み)。 ・影響が小さいもの:HbA1c、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール(直接法)、尿酸、クレアチニン、尿素窒素など。
脂質異常症の診断基準(日本動脈硬化学会)
・LDLコレステロール:140mg/dL以上で高LDLコレステロール血症、120〜139mg/dLで境界域。 ・HDLコレステロール:40mg/dL未満で低HDLコレステロール血症。 ・トリグリセリド:空腹時150mg/dL以上で高トリグリセリド血症。2022年版ガイドラインからは、随時(非空腹時)採血では175mg/dL以上を基準とすることが示された。 ・non-HDLコレステロール:170mg/dL以上で高non-HDLコレステロール血症、150〜169mg/dLで境界域。 ・空腹時とは、10時間以上の絶食(水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可)を指す。
LDLコレステロールの求め方
Friedewald式(LDL-C=TC−HDL-C−TG/5)は空腹時採血でトリグリセリドが400mg/dL未満の場合に用いる。食後採血やトリグリセリド400mg/dL以上の場合は、直接法によるLDLコレステロールまたはnon-HDLコレステロールで評価する。
食後高脂血症
食後のトリグリセリド上昇が大きく、かつ遷延する状態を指す。食後にはトリグリセリドに富むリポ蛋白の残り(レムナント)が増え、これが動脈硬化を促進するとされる。糖尿病やメタボリックシンドロームなどインスリン抵抗性のある患者に多い。
POINT
・1回の食事で大きく変動する代表的な項目は、血糖とトリグリセリドである。 ・トリグリセリドは原則として空腹時(10時間以上の絶食後)に採血して評価する。随時採血では175mg/dL以上を高トリグリセリド血症の基準とする。 ・HbA1cは過去1〜2か月の平均血糖を反映し、直前の食事の影響を受けない。 ・食後採血ではFriedewald式によるLDLコレステロールの計算は不正確になるため、直接法やnon-HDLコレステロールで評価する。 ・遊離脂肪酸は食後に低下する。
