StudyMed医師国家試験

白苔だけでは決められない―首の「後ろ」が教えるEBウイルスのサイン

第111回医師国家試験 C問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第111回 C問題 第24問

18歳の女子。発熱と咽頭痛とを主訴に来院した。2日前から38.5℃の発熱と咽頭痛が続いている。口蓋扁桃は両側とも発赤,腫大しており,白苔の付着を認める。  この患者が細菌感染症よりウイルス感染症であることを示唆するのはどれか。

  1. a.後頸リンパ節腫大を認める。
  2. b.口蓋垂の偏位を認める。
  3. c.結膜充血を認めない。
  4. d.肝脾腫を認めない。
  5. e.皮疹を認めない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、白苔を伴う扁桃炎が細菌性かウイルス性かを見分ける問題だ。扁桃の見た目そのものではなく、扁桃以外のどんな所見に注目するかがカギになる。まず、白苔があると聞いて何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
白苔があると、溶連菌のような細菌性の扁桃炎を考えてしまいます。
ドクタードクター
そう考えがちだけれど、実は白苔はウイルス性でもよく出る。代表がEBウイルスによる伝染性単核球症と、アデノウイルス感染症だ。扁桃の外観だけでは原因を区別できないんだよ。
医学生医学生
伝染性単核球症は思春期から青年期に多いと講義で習いました。この患者さんの年齢にも合いますね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。では、溶連菌性咽頭炎と伝染性単核球症で、リンパ節の腫れ方はどう違うだろう。
医学生医学生
溶連菌だと首の前のほうが痛く腫れるイメージです。
ドクタードクター
その通り。溶連菌性咽頭炎では、咽頭の所属リンパ節である前頸部、つまり顎の下から胸鎖乳突筋の前縁あたりに有痛性の腫大が限局しやすい。一方、伝染性単核球症ではEBウイルスに感染したB細胞と、それに反応するT細胞が全身のリンパ組織で増えるから、胸鎖乳突筋より後ろの後頸部も含めた両側性・多発性のリンパ節腫大になりやすい。だから後頸リンパ節腫大は、ウイルス感染、とくにEBウイルスを示唆する所見なんだ。
医学生医学生
なるほど、正解は後頸リンパ節腫大ですね。口蓋垂の偏位はどう考えればいいですか。
ドクタードクター
これは扁桃周囲膿瘍の所見だ。患側の軟口蓋が膨らんで、口蓋垂が健側に押される。扁桃周囲膿瘍は細菌性扁桃炎の合併症だから、むしろ細菌感染を示す。開口障害や含み声を伴い、穿刺や切開排膿が必要になる。
医学生医学生
耳鼻咽喉科の実習で、穿刺の場面を見学しました。患者さんが口をほとんど開けられなくてつらそうでした。
ドクタードクター
まさにその病態だね。残りの3つは「結膜充血を認めない」「肝脾腫を認めない」「皮疹を認めない」と、どれも陰性所見だ。ここをどう考えた?
医学生医学生
肝脾腫がないなら伝染性単核球症らしくない、とは思いました。でも結膜充血がないのはアデノウイルスを否定する方向ですよね。
ドクタードクター
鋭いね。結膜充血が「ある」なら咽頭結膜熱を思わせるし、肝脾腫が「ある」なら伝染性単核球症を示唆する。でも「ない」ことは、その病気の可能性を下げるだけで、ウイルス性を積極的に示す根拠にはならない。皮疹に至っては、伝染性単核球症でも溶連菌の猩紅熱でも出うるから、ないことは鑑別にほとんど役立たない。
医学生医学生
設問が求めているのは、ウイルス感染を示す「陽性所見」なんですね。陰性所見の並びに引っかかりそうでした。
ドクタードクター
国試ではよくある仕掛けだから、所見が「ある」のか「ない」のか、それが何を支持するのかを丁寧に読むことが大事だ。では臨床での注意点もまとめよう。伝染性単核球症を疑ったら、末梢血でリンパ球増多と異型リンパ球、AST・ALTの上昇を確認し、EBウイルス抗体でVCA-IgM陽性、EBNA抗体陰性なら初感染と判断できる。
医学生医学生
CBTの勉強で、アンピシリンを使うと皮疹が出ると覚えました。
ドクタードクター
そう、アンピシリンやアモキシシリンは高率に薬疹を誘発するから、伝染性単核球症の可能性があるときは避ける。治療は対症療法が中心で、脾腫がある間は脾破裂の危険があるので、激しい運動やコンタクトスポーツは控えてもらう。
医学生医学生
溶連菌かどうかを判断するときはCentorの基準も使いますよね。
ドクタードクター
うん。38℃以上の発熱、咳嗽がない、圧痛のある前頸部リンパ節腫脹、扁桃の腫大・滲出物の4項目に年齢補正を加えたMcIsaacスコアで、迅速抗原検査や培養をするかを決める。溶連菌と確定すればペニシリン系を10日間投与して、リウマチ熱の予防も図る。安易に抗菌薬を出す前に、首の後ろまで触ってウイルス性の可能性を考える習慣をつけてほしい。

まとめ

白苔を伴う扁桃炎はA群β溶連菌による細菌性でも、EBウイルスやアデノウイルスによるウイルス性でも生じるため、扁桃以外の随伴所見で鑑別します。溶連菌性咽頭炎のリンパ節腫大は前頸部に限局しやすいのに対し、伝染性単核球症ではEBウイルスが全身のリンパ組織で増殖するため後頸部を含む両側性の腫大や肝脾腫をきたし、後頸リンパ節腫大はウイルス感染を示唆する陽性所見となります。口蓋垂偏位は扁桃周囲膿瘍の所見で細菌感染を示し、結膜充血・肝脾腫・皮疹が「ない」ことはウイルス性を積極的に示す根拠になりません。伝染性単核球症ではアンピシリン・アモキシシリンによる皮疹や脾破裂に注意が必要で、溶連菌が疑われる場合はCentor・McIsaacスコアを参考に検査と治療を判断します。所見の有無が何を支持するのかを丁寧に考える姿勢は、抗菌薬の適正使用にも直結する臨床の基本です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

18歳の女性が、2日前からの38.5℃の発熱と咽頭痛を訴えている。両側の口蓋扁桃は発赤・腫大し、白苔(扁桃表面に付着する白色の滲出物)を伴っている。すなわち滲出性の急性扁桃炎・咽頭炎である。

鑑別の考え方

白苔を伴う扁桃炎は、細菌性・ウイルス性のいずれでも生じるため、扁桃の見た目だけでは原因を区別できない。主な原因は次のとおりである。 ・細菌性:A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)が代表的である。前頸部リンパ節の有痛性腫大を伴い、咳嗽がないことが多い。 ・ウイルス性:EBウイルス(Epstein-Barr virus)による伝染性単核球症、アデノウイルス感染症(咽頭結膜熱)などがある。とくに伝染性単核球症は思春期から青年期に好発し、本例の年齢に合致する。 そこで、扁桃以外の随伴所見に注目して両者を区別する。細菌性咽頭炎の頸部リンパ節腫大は咽頭からの所属リンパ節である前頸部(顎下部〜胸鎖乳突筋前縁)に限局しやすい。これに対し、伝染性単核球症ではEBウイルスが全身のリンパ組織で増殖するため、後頸部(胸鎖乳突筋後縁より後方)を含む両側性・多発性のリンパ節腫大や肝脾腫をきたしやすい。後頸部リンパ節腫大は、溶連菌性咽頭炎よりも伝染性単核球症を示唆する所見として知られている。 本問は、ウイルス感染を示唆する「陽性所見」を選ぶ問題である。選択肢には「〜を認めない」という陰性所見が並ぶが、ある所見が認められないことは、その所見を伴いうる疾患を否定する根拠にとどまり、細菌性かウイルス性かを積極的に示すものではない点に注意する。

選択肢考察

  1. ○a.  後頸リンパ節腫大を認める。

    伝染性単核球症では、EBウイルスに感染したB細胞とそれに反応するT細胞が全身のリンパ組織で増殖するため、後頸部を含む両側性のリンパ節腫大が特徴的にみられる。溶連菌性咽頭炎では腫大は主に前頸部リンパ節に限局するため、後頸部リンパ節の腫大はウイルス感染(とくにEBウイルス感染)を示唆する所見である。

  2. ×b.  口蓋垂の偏位を認める。

    口蓋垂の健側への偏位は、扁桃周囲膿瘍で患側の軟口蓋が膨隆することにより生じる。扁桃周囲膿瘍は細菌性扁桃炎(溶連菌や嫌気性菌など)の合併症であり、細菌感染を示唆する所見である。開口障害や含み声を伴うことが多く、穿刺・切開排膿が必要となる。

  3. ×c.  結膜充血を認めない。

    結膜充血は、アデノウイルスによる咽頭結膜熱(発熱・咽頭炎・結膜炎)でみられる所見である。結膜充血が「ある」ことはアデノウイルス感染を示唆するが、「ない」ことはむしろその可能性を下げる情報であり、ウイルス感染を示唆する根拠にはならない。

  4. ×d.  肝脾腫を認めない。

    肝脾腫は伝染性単核球症で高頻度にみられる所見であり、「ある」場合にEBウイルス感染を示唆する。肝脾腫がないことは伝染性単核球症を支持しない方向の情報であって、ウイルス感染を示唆する所見ではない。

  5. ×e.  皮疹を認めない。

    皮疹は伝染性単核球症(とくにアンピシリンやアモキシシリン投与後に出現しやすい)や、各種ウイルス感染症でみられることがある。一方、溶連菌感染症でも猩紅熱として全身の細かい紅斑を生じうる。皮疹がないことは細菌性・ウイルス性のいずれも否定せず、鑑別に役立たない。

伝染性単核球症

・原因:主にEBウイルスの初感染。唾液を介して感染し(kissing disease)、咽頭上皮を経てB細胞に感染する。サイトメガロウイルスなどでも類似の病像を呈する。 ・好発:乳幼児期の初感染は不顕性に終わることが多い。思春期以降に初感染すると、免疫反応が強く症状が顕在化しやすい。 ・症状:発熱、咽頭痛(白苔を伴う扁桃炎)、頸部リンパ節腫脹が三徴である。後頸部リンパ節腫大、肝脾腫、眼瞼浮腫、皮疹などを伴う。 ・検査:末梢血でリンパ球増多と異型リンパ球(活性化した細胞傷害性T細胞)の増加、AST・ALTの上昇を認める。診断にはEBウイルス抗体(VCA-IgM陽性、EBNA抗体陰性は初感染を示す)を用いる。 ・治療・注意点:対症療法が中心である。アンピシリン・アモキシシリンは高率に薬疹を誘発するため避ける。脾腫がある間は脾破裂の危険があり、激しい運動やコンタクトスポーツを控えさせる。

A群β溶連菌性咽頭炎

・症状:発熱、咽頭痛、白苔を伴う扁桃炎、前頸部リンパ節の有痛性腫大、口蓋の点状出血、苺舌など。咳嗽や鼻汁は乏しい。 ・臨床予測スコア:Centorの基準(38℃以上の発熱、咳嗽がない、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、扁桃の腫大・滲出物)に年齢補正を加えたMcIsaacスコアがあり、点数に応じて迅速抗原検査や培養を行う。 ・治療:ペニシリン系抗菌薬(アモキシシリンなど)を10日間投与し、リウマチ熱の予防を図る。 ・合併症:扁桃周囲膿瘍などの化膿性合併症、急性糸球体腎炎やリウマチ熱などの非化膿性合併症。

アデノウイルス感染症(咽頭結膜熱)

小児に多く、発熱・咽頭炎・結膜炎を三徴とする。プール熱とも呼ばれる。白苔を伴う扁桃炎を呈し、溶連菌感染と紛らわしいことがある。迅速抗原検査で診断できる。

POINT

・白苔を伴う扁桃炎は、細菌性(A群β溶連菌)とウイルス性(EBウイルス、アデノウイルス)のいずれでも生じる。 ・後頸部リンパ節腫大、肝脾腫は伝染性単核球症(EBウイルス)を示唆する。 ・溶連菌性咽頭炎のリンパ節腫大は前頸部に多い。 ・口蓋垂偏位は扁桃周囲膿瘍の所見で、細菌感染を示す。 ・伝染性単核球症疑いではアンピシリン・アモキシシリンを避ける(皮疹の誘発)。 ・「〜を認めない」という陰性所見は、特定疾患の可能性を下げるにとどまり、ウイルス性を積極的に示唆するものではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。