「100から7を引いてください」―外来で認知機能を測るひと言の意味
第111回医師国家試験 C問題 第23問
国試問題にチャレンジ
84歳の男性。物忘れを主訴に家族に連れられて来院した。約半年前から物忘れを自覚していた。最近になり認知症の妻の服薬内容をたびたび間違え,十分に管理できなくなっており,心配した隣町に住む長女に連れられて妻とともに受診した。普段は妻と2人暮らしで,妻の定期受診の際は診療所まで車を運転している。 この患者の認知機能を評価するのに適切な問いかけはどれか。
- a.「よく眠れますか」
- b.「片足で立ってください」
- c.「夜トイレに何回行きますか」
- d.「100から7を順番に引いてください」
- e.「最近死にたいと思ったことはありませんか」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
物忘れを訴える高齢者では、HDS-RやMMSEといったスクリーニング検査で認知機能を客観的に評価します。「100から7を順番に引く」serial 7'sは両検査に共通する項目で、計算だけでなく答えを保持しながら次へ進む注意・作業記憶を評価します。睡眠や希死念慮の問いはうつ病(仮性認知症)の評価、片脚立位は平衡・運動機能、夜間排尿回数は排尿障害の評価であり、認知機能そのものの評価ではありません。HDS-Rは20点以下、MMSEは23点以下が認知症を疑う目安ですが、診断にはうつ病・せん妄や治療可能な認知症の除外が欠かせません。運転や介護の状況まで視野に入れて評価結果を生かすことが、高齢者診療の実践力につながります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・84歳の高齢男性で、約半年前から物忘れを自覚している。 ・最近、認知症の妻の服薬管理をたびたび誤るようになった。薬の管理は、手段的日常生活動作(IADL:買い物・服薬管理・金銭管理など、より複雑な生活動作)の一つであり、記憶や遂行機能(計画を立てて手順どおりに実行する能力)の低下を反映しやすい。 ・妻との2人暮らしで、通院時には自ら車を運転しており、基本的な日常生活は保たれている。
考え方
緩徐に進行する物忘れとIADLの低下がみられ、軽度認知障害(MCI)から初期の認知症を疑う状況である。高齢発症で緩徐進行という経過からはAlzheimer型認知症が最も考えやすいが、本問で問われているのは病型の鑑別ではなく、認知機能を客観的に評価する方法である。 外来で認知機能を簡便に評価するには、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE)といったスクリーニング検査を用いる。これらは見当識、記憶(即時再生・遅延再生)、注意・計算、言語、構成などの領域を短時間で評価できるように作られている。選択肢のうち、これらの検査に含まれる課題は「100から7を順番に引く」(serial 7's)のみである。 なお、運転を続けている高齢者に認知機能低下が疑われる場合、評価結果は運転継続の可否を家族と話し合う材料にもなる。また、介護者である本人自身の認知機能が低下している点は、妻の服薬・生活支援体制を見直す必要性も示している。
選択肢考察
- ×a. 「よく眠れますか」
睡眠の状態を尋ねる問いであり、不眠などの睡眠障害や、うつ病の随伴症状の有無を知る手がかりにはなる。高齢者ではうつ病が認知症に似た症状(仮性認知症)を呈することがあるため情報としては有用だが、認知機能そのものを評価する問いではない。
- ×b. 「片足で立ってください」
片脚立位は平衡機能や下肢筋力をみる検査で、高齢者の転倒リスクや運動機能(フレイル、ロコモティブシンドロームなど)の評価に用いられる。脳血管障害など中枢神経疾患の手がかりになることはあるが、記憶や注意などの認知機能を直接評価するものではない。
- ×c. 「夜トイレに何回行きますか」
夜間頻尿の有無を尋ねる問いである。高齢男性では前立腺肥大症や過活動膀胱、夜間多尿、睡眠障害などを考える契機となるが、認知機能の評価にはならない。
- ○d. 「100から7を順番に引いてください」
serial 7's(連続7減算)と呼ばれる課題で、計算能力に加えて、答えを保持しながら次の計算を進める注意・集中力(作業記憶)を評価する。HDS-Rでは100から7を2回(93、86)、MMSEでは5回連続して引かせる項目として組み込まれており、外来で行う認知機能評価として適切な問いかけである。
- ×e. 「最近死にたいと思ったことはありませんか」
希死念慮の有無を尋ねる問いであり、うつ病の評価や自殺リスクの把握に重要である。認知症とうつ病の鑑別、あるいは認知症に合併する抑うつの評価に役立つことはあるが、認知機能そのものを評価する問いではない。
代表的な認知機能スクリーニング検査
・改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R):30点満点で、20点以下を認知症の疑いとする。年齢、日時の見当識、場所の見当識、3単語の即時記銘、計算(100から7を順に引く)、数字の逆唱、3単語の遅延再生、5つの物品の記銘、野菜の名前の列挙(言語流暢性)の9項目からなる。動作を伴う課題を含まないため、運動障害がある患者にも施行しやすい。 ・Mini-Mental State Examination(MMSE):30点満点で、23点以下を認知症の疑いとすることが多い(24〜27点は軽度認知障害の可能性)。時間・場所の見当識、3単語の記銘と遅延再生、注意と計算(serial 7's)、物品呼称、復唱、3段階の口頭命令、読字理解(「目を閉じてください」)、自発書字、図形模写(重なった五角形)などを含む。 ・そのほか、軽度認知障害の検出に優れるMoCA-J(Montreal Cognitive Assessment日本語版)、遂行機能をみる時計描画テストやFAB(Frontal Assessment Battery)などがある。
認知症と鑑別すべき病態
・うつ病(仮性認知症):抑うつ気分、睡眠障害、希死念慮を伴い、本人が物忘れを強く訴える傾向がある。検査では「わからない」と答えることが多い。 ・せん妄:急性発症で、意識障害と注意障害が変動する。 ・治療可能な認知症:正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症など。血液検査や頭部画像検査で除外する。
高齢運転者と認知機能
75歳以上の運転者は運転免許更新時に認知機能検査を受ける。認知症と診断されると運転免許の取消し・停止の対象となるため、認知機能低下が疑われる場合は運転について本人・家族と話し合うことが重要である。
POINT
・外来での認知機能評価には、HDS-RやMMSEなどのスクリーニング検査を用いる。 ・「100から7を順に引く(serial 7's)」は注意・計算を評価する項目で、HDS-RとMMSEの両方に含まれる。 ・カットオフ:HDS-Rは20点以下、MMSEは23点以下で認知症を疑う。 ・睡眠や希死念慮の問いはうつ病の評価、片脚立位は運動・平衡機能の評価、夜間排尿回数は排尿障害の評価であり、認知機能の評価ではない。
