StudyMed医師国家試験

濃いひげの正体はアンドロゲン―多毛から読み解く多嚢胞性卵巣症候群

第111回医師国家試験 B問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第111回 B問題 第22問

多毛をきたすのはどれか。

  1. a.Sheehan症候群
  2. b.甲状腺機能亢進症
  3. c.多嚢胞性卵巣症候群
  4. d.17-α水酸化酵素欠損症
  5. e.原発性アルドステロン症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、女性の多毛をきたす疾患を選ぶ問題だ。ポイントは「多毛とは何のホルモンのサインか」を押さえること。それがわかれば、各選択肢を一つの物差しで判定できるよ。
医学生医学生
多毛というと、毛が全体的に濃くなる状態のことでしょうか。
ドクタードクター
そこは整理が必要だね。ここでいう多毛(hirsutism)は、女性の口ひげ部、あご、前胸部、下腹部の正中線、大腿内側など、本来は男性型の分布を示す部位に太く濃い硬毛が生える状態のこと。全身の産毛が一様に増える多毛症(hypertrichosis)とは区別するんだ。本質はアンドロゲン作用の過剰。テストステロンが毛包で5α還元酵素によりジヒドロテストステロンに変換され、軟毛が終毛に変わることで起こる。
医学生医学生
ということは、この問題は「アンドロゲンが増える病気はどれか」と読み替えればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。女性のアンドロゲンの主な供給源は、卵巣の莢膜細胞と副腎皮質の網状層。どちらかで産生が増える病気なら多毛が起こるし、逆に産生が減る病気では起こらない。では多嚢胞性卵巣症候群から考えてみよう。
医学生医学生
産婦人科の講義で、LHが高くてLH/FSH比が上がると習いました。それが関係しますか。
ドクタードクター
まさにそこだ。LHの相対的な過剰と、インスリン抵抗性による高インスリン血症が卵巣の莢膜細胞を刺激して、アンドロゲン産生が亢進する。その結果、多毛やざ瘡が出てくる。ほかに排卵障害による稀発月経・無月経、超音波で卵巣に小卵胞が多数並ぶネックレスサイン、肥満なども特徴だ。初経後に出てきた女性の多毛では最も頻度の高い原因で、これが正解になる。
医学生医学生
産婦人科の実習で、月経不順とにきびで受診した若い方の超音波を見せてもらったことがあります。あれがネックレスサインだったんですね。
ドクタードクター
いい経験だね。では他の選択肢も同じ物差しで見ていこう。Sheehan症候群はどうかな。
医学生医学生
分娩時の大量出血で下垂体前葉が壊死する病気ですよね。ホルモンが減る側なので、多毛にはならなそうです。
ドクタードクター
正解。LHやFSHが低下して卵巣由来のアンドロゲンが減り、ACTHの低下で副腎由来のDHEA-Sも減る。だから多毛どころか、腋毛・恥毛の脱落が特徴的な所見になるんだ。産後の乳汁分泌不全や無月経、低血圧、低血糖なども伴う。
医学生医学生
甲状腺機能亢進症は代謝が上がるので、毛も増えそうな気がしてしまいました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、アンドロゲン過剰を伴う病態ではないんだ。むしろ甲状腺ホルモンは肝臓での性ホルモン結合グロブリンの産生を増やすので、遊離テストステロンの比率は下がる方向に働く。毛髪は細く柔らかくなったり、びまん性に抜けやすくなったりするよ。
医学生医学生
17α水酸化酵素欠損症は先天性副腎過形成の一つなので、アンドロゲンが増えるのかと思いました。
ドクタードクター
ここが一番のひっかけだね。先天性副腎過形成でも、どの酵素が欠けるかでアンドロゲンの増減が逆になる。17α水酸化酵素はコルチゾールと性ステロイドの両方の合成に必要で、副腎と性腺の両方で働く。これが欠損するとアンドロゲンもエストロゲンも作れず、合成は鉱質コルチコイド側に偏って、高血圧と低カリウム血症が出る。女性では二次性徴の欠如や原発性無月経になるんだ。
医学生医学生
多毛をきたす先天性副腎過形成は、21水酸化酵素欠損症と11β水酸化酵素欠損症のほうですね。生化学のステロイド合成経路の図を思い出しました。
ドクタードクター
その通り。どちらもコルチゾールが作れずACTHが上昇し、行き場を失った前駆体がアンドロゲン側へ流れる。11β水酸化酵素欠損症はデオキシコルチコステロンの蓄積で高血圧も伴う。最後に原発性アルドステロン症はどうだろう。
医学生医学生
球状層からアルドステロンが出すぎる病気なので、アンドロゲンとは関係なさそうです。
ドクタードクター
そうだね。原因の大部分はアルドステロン産生腺腫や両側副腎過形成で、アンドロゲンの増加は伴わない。ごくまれに副腎癌が複数のステロイドを同時に分泌して多毛を伴うことはあるけれど、典型像ではない。臨床での注意点として、多毛の患者さんを診たら進行のスピードを必ず確認しよう。短期間で急速に進む多毛や、声の低音化、陰核肥大、男性型脱毛といった男性化徴候を伴う場合は、アンドロゲン産生卵巣腫瘍や副腎癌を除外する必要がある。
医学生医学生
ゆっくり出てきた多毛ならPCOSらしく、急に強く出てきたら腫瘍を疑う、ということですね。
ドクタードクター
その感覚が大事だ。ほかにもCushing症候群、高プロラクチン血症、先端巨大症、アンドロゲン製剤などの薬剤も多毛の原因になる。一方、フェニトインやシクロスポリン、ミノキシジルはアンドロゲンと無関係な全身性の多毛症の原因だから、言葉の区別とあわせて覚えておこう。

まとめ

女性の多毛(hirsutism)は男性型の分布に硬毛が生える状態で、その本質はアンドロゲン作用の過剰であり、「アンドロゲンが増える疾患か」という物差しで判断できます。多嚢胞性卵巣症候群は、LHの相対的過剰とインスリン抵抗性による高インスリン血症が卵巣莢膜細胞を刺激してアンドロゲン産生を高め、多毛・ざ瘡・月経異常をきたす、後天性多毛の最多の原因です。これに対し、Sheehan症候群では性腺刺激ホルモンとACTHの低下で腋毛・恥毛が脱落し、17α水酸化酵素欠損症では性ステロイドが作れず高血圧・低カリウム血症と性腺機能低下を示し、甲状腺機能亢進症や原発性アルドステロン症もアンドロゲン過剰を伴いません。先天性副腎過形成のうち多毛をきたすのは21水酸化酵素欠損症と11β水酸化酵素欠損症であり、急速に進行する多毛や男性化徴候はアンドロゲン産生腫瘍を疑うサインです。ホルモンの供給源と合成経路から症状を説明する考え方は、内分泌疾患全般の理解に直結します。

解答・解説

正解はcです

多毛とは

多毛(hirsutism)とは、女性において本来は男性型の分布を示す部位(口ひげ部、あご、前胸部、乳輪周囲、下腹部の正中線、背部、大腿内側など)に、太く濃い硬毛(終毛)が生える状態を指す。全身の産毛が一様に増える「多毛症(hypertrichosis)」とは区別され、その本質はアンドロゲン(男性ホルモン)作用の過剰である。毛包に作用するテストステロンが5α還元酵素によってより強力なジヒドロテストステロン(DHT)に変換され、軟毛が終毛へと転換することで生じる。

考え方

したがって本問は「血中アンドロゲンが過剰になる疾患はどれか」と読み替えればよい。アンドロゲンの主な供給源は女性では卵巣(莢膜細胞)と副腎皮質(網状層)であり、 ・卵巣由来のアンドロゲン過剰:多嚢胞性卵巣症候群、アンドロゲン産生卵巣腫瘍、卵巣莢膜細胞過形成など ・副腎由来のアンドロゲン過剰:先天性副腎過形成(21-水酸化酵素欠損症、11β-水酸化酵素欠損症)、Cushing症候群(特にACTH依存性)、アンドロゲン産生副腎腫瘍(多くは副腎癌) などが多毛の原因となる。逆に、性腺刺激ホルモンやACTHが低下する病態、性ステロイド合成そのものが障害される病態ではアンドロゲンは低下し、多毛は起こらない。 選択肢のうち、アンドロゲン過剰を基本病態とするのは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のみである。

選択肢考察

  1. ×a.  Sheehan症候群

    Sheehan症候群は、分娩時の大量出血とショックにより、妊娠で腫大していた下垂体前葉が虚血性壊死に陥って生じる下垂体機能低下症である。性腺刺激ホルモン(LH・FSH)の低下により卵巣からのアンドロゲン産生が減り、ACTHの低下により副腎由来のアンドロゲン(DHEA-Sなど)も減少する。そのため多毛とは逆に、腋毛・恥毛の脱落が特徴的な所見となる。ほかに産褥期の乳汁分泌不全、無月経、易疲労感、低血圧、低血糖などを示す。

  2. ×b.  甲状腺機能亢進症

    甲状腺機能亢進症(代表はBasedow病)では、頻脈、体重減少、発汗過多、手指振戦、甲状腺腫などがみられるが、アンドロゲン過剰を伴う病態ではなく多毛は起こらない。むしろ甲状腺ホルモンは肝での性ホルモン結合グロブリン(SHBG)産生を増やし、遊離テストステロンの比率は低下する方向にはたらく(男性では女性化乳房をきたすことがある)。毛髪については、細く柔らかくなる、びまん性に抜けやすくなるといった変化が知られる。

  3. ○c.  多嚢胞性卵巣症候群

    多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、LHの相対的な過剰分泌とインスリン抵抗性による高インスリン血症が卵巣莢膜細胞を刺激し、卵巣でのアンドロゲン産生が亢進する疾患である。過剰なアンドロゲンが毛包に作用して多毛をきたし、ざ瘡(にきび)なども伴いうる。ほかに排卵障害による月経異常(稀発月経・無月経)、超音波での卵巣の多数の小卵胞(ネックレスサイン)、肥満などが特徴である。初経後に後天的に出現した女性の多毛では最も頻度の高い原因であり、本問の正解である。ただし、急速に進行する多毛や声の低音化・陰核肥大など強い男性化徴候を伴う場合は、アンドロゲン産生卵巣腫瘍や副腎腫瘍、非古典型21-水酸化酵素欠損症などとの鑑別が必要になる。

  4. ×d.  17-α水酸化酵素欠損症

    17α-水酸化酵素(CYP17A1)は、プレグネノロン・プロゲステロンを17位で水酸化してコルチゾールおよび性ステロイド(アンドロゲン・エストロゲン)の合成へ進めるための酵素であり、副腎と性腺の両方で働く。この酵素が欠損するとコルチゾールも性ステロイドも作れず、アンドロゲンは著明に低下するため多毛は起こらない。代わりに合成経路は鉱質コルチコイド側(11-デオキシコルチコステロン、コルチコステロン)へ偏り、高血圧と低カリウム血症をきたす。性ステロイド欠乏により、女性(46,XX)では二次性徴の欠如・原発性無月経、男性(46,XY)では外性器の女性化(性分化疾患)を示す。

  5. ×e.  原発性アルドステロン症

    原発性アルドステロン症は、副腎皮質球状層からアルドステロンが自律的に過剰分泌される疾患で、高血圧、低カリウム血症、血漿レニン活性の抑制が特徴である。原因の大部分は良性のアルドステロン産生腺腫または両側副腎の過形成であり、アンドロゲン分泌の増加は伴わないため多毛は通常みられない。なお、きわめてまれに副腎癌がアルドステロンを過剰に産生することがあり、副腎癌はアンドロゲンなど複数のステロイドを同時に分泌しうるため多毛を伴うこともある。しかし原発性アルドステロン症という疾患概念の典型像としては多毛をきたさず、多毛の原因として代表的かつ頻度の高い多嚢胞性卵巣症候群を選ぶのが妥当である。

女性の多毛の主な原因

・多嚢胞性卵巣症候群(最多) ・特発性多毛(血中アンドロゲン正常、毛包の感受性亢進などが想定される) ・先天性副腎過形成:21-水酸化酵素欠損症(古典型・非古典型)、11β-水酸化酵素欠損症 ・Cushing症候群(ACTH依存性では副腎アンドロゲンも増加しやすい) ・アンドロゲン産生腫瘍:卵巣腫瘍(Sertoli-Leydig細胞腫など)、副腎癌 ・高プロラクチン血症(副腎アンドロゲン増加を伴うことがある) ・先端巨大症 ・薬剤:アンドロゲン製剤、蛋白同化ステロイド、ダナゾールなど (なお、フェニトイン、シクロスポリン、ミノキシジルなどはアンドロゲンと無関係な全身性の多毛症=hypertrichosisの原因である)

多毛と男性化

多毛やざ瘡はアンドロゲン過剰の比較的軽い表現である。声の低音化、陰核肥大、男性型脱毛、乳房萎縮、筋肉量増加などを伴う場合を「男性化(virilization)」と呼び、テストステロンが高度に上昇していることを示唆する。短期間で急速に進行する多毛・男性化は、アンドロゲン産生腫瘍(卵巣・副腎)を疑う重要なサインである。

多嚢胞性卵巣症候群の診断基準(日本産科婦人科学会 2024年改訂)

以下の1および2を満たし、3または4のいずれかを満たす場合をPCOSとする(他疾患の除外が前提)。 1. 月経周期異常 2. 多嚢胞卵巣または血清AMH(抗ミュラー管ホルモン)高値 3. アンドロゲン過剰症(多毛・ざ瘡などの臨床症状)または高アンドロゲン血症 4. LH高値かつLH/FSH比高値

ステロイド合成酵素欠損とアンドロゲン

・21-水酸化酵素欠損症:コルチゾール低下→ACTH上昇→副腎アンドロゲン過剰→女児の外性器男性化・多毛 ・11β-水酸化酵素欠損症:アンドロゲン過剰+DOC蓄積による高血圧 ・17α-水酸化酵素欠損症:アンドロゲン・エストロゲン低下+DOC蓄積による高血圧・低K血症

POINT

・多毛(hirsutism)はアンドロゲン過剰の徴候であり、「アンドロゲンが増える疾患か」で判断する。 ・女性の後天性多毛の原因で最も多いのは多嚢胞性卵巣症候群(LH過剰・インスリン抵抗性→卵巣アンドロゲン産生亢進)。 ・Sheehan症候群などの下垂体機能低下症では腋毛・恥毛が脱落する(多毛とは逆)。 ・17α-水酸化酵素欠損症は性ステロイドが作れず、高血圧・低K血症・性腺機能低下をきたす。多毛をきたす先天性副腎過形成は21-水酸化酵素欠損症・11β-水酸化酵素欠損症。 ・急速進行性の多毛・男性化は卵巣・副腎のアンドロゲン産生腫瘍を除外する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。