StudyMed医師国家試験

硬くなるのは皮膚だけじゃない―強皮症を「線維化」と「血管障害」で読み解く

第110回医師国家試験 I問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第38問

強皮症でみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.陰部潰瘍
  2. b.涙腺腫大
  3. c.ぶどう膜炎
  4. d.肺高血圧症
  5. e.胃食道逆流症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、全身性強皮症でどんな臓器病変がみられるかを問う問題だ。選択肢には膠原病や炎症性疾患で見かける所見が並んでいるけれど、強皮症の病態の柱を押さえておけば迷わずに選べる。まず、強皮症ってどんな病気だと理解しているかな。
医学生医学生
皮膚が硬くなる膠原病、というイメージです。Raynaud現象から始まることが多いと免疫の講義で習いました。
ドクタードクター
いいね。病態は大きく3本柱で整理できる。1つ目は皮膚や内臓に膠原線維が過剰にたまる「線維化」、2つ目は小血管や細動脈の内膜が厚くなって内腔が狭くなる「血管障害」、3つ目は抗トポイソメラーゼⅠ(Scl-70)抗体や抗セントロメア抗体などの「自己抗体」だ。臓器病変は、線維化と血管障害のどちらで起きているかを考えると整理しやすい。
医学生医学生
皮膚の線維化は分かるんですが、内臓だとどこが硬くなるんでしょう。肺ですか。
ドクタードクター
肺は代表だね。間質性肺炎・肺線維症は主要な死因の一つだ。もう一つ大事なのが消化管。平滑筋が萎縮・線維化して蠕動が落ちる。特に食道は下部の平滑筋優位の部分がやられて、下部食道括約筋の圧も下がる。そうすると何が起きると思う?
医学生医学生
胃酸が上がってきやすくなる……胃食道逆流症ですか。
ドクタードクター
その通り。しかも蠕動が弱いから、逆流した酸がなかなか胃に戻らず食道にとどまる。だから強皮症では胃食道逆流症を高率に合併し、胸やけやつかえ感の原因になる。進むと食道狭窄やBarrett食道を生じることもあるし、治療にはプロトンポンプ阻害薬や消化管運動改善薬を使う。これが正解の一つ目だ。
医学生医学生
消化器内科の実習で、食道造影で下部食道が拡張して造影剤が停滞している強皮症の患者さんを見ました。あれが蠕動低下なんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。では、もう一つの柱の血管障害からは何が出てくるかな。
医学生医学生
Raynaud現象や指先の潰瘍ですよね。でも選択肢にはないので……肺の血管がやられると肺高血圧症でしょうか。
ドクタードクター
正解。肺の小動脈に内膜肥厚や中膜肥厚が起こり、肺血管抵抗が上がって肺動脈性肺高血圧症になる。特に抗セントロメア抗体陽性の限局皮膚硬化型で、長い経過の後に出やすい。間質性肺炎が進んで肺疾患に伴う肺高血圧症になることもある。予後に直結するので、心エコーなどで定期的にスクリーニングするのが大切だ。
医学生医学生
膠原病の肺高血圧症というと、SLEや混合性結合組織病もありましたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。強皮症、SLE、MCTDが膠原病に伴う肺高血圧症の代表だ。では残りの選択肢も見ていこう。陰部潰瘍はどの病気を思い浮かべる?
医学生医学生
口腔内アフタ、皮膚症状、眼症状と並ぶBehçet病の主症状です。
ドクタードクター
そう。強皮症の皮膚潰瘍は、虚血による指尖の潰瘍や陥凹性瘢痕であって、陰部潰瘍ではない。次に涙腺腫大は?
医学生医学生
強皮症にSjögren症候群が合併することがあると聞いたので、少し迷いました。
ドクタードクター
その迷いはもっともだ。ただ、合併するSjögren症候群で乾燥症状が出ることはあっても、涙腺腫大は強皮症そのものの所見ではない。涙腺や唾液腺が左右対称に腫れるなら、まずIgG4関連疾患(Mikulicz病)やサルコイドーシス、Sjögren症候群、悪性リンパ腫などを考える。ぶどう膜炎も同様で、日本で多い原因はサルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、Behçet病の三大ぶどう膜炎。HLA-B27関連の強直性脊椎炎なども原因になるけれど、強皮症は原因疾患に入らない。
医学生医学生
線維化なら皮膚・肺・消化管、血管障害ならRaynaud現象・指尖潰瘍・肺高血圧症、と分けて覚えればいいんですね。
ドクタードクター
そう。最後に臨床で大事な点をいくつか補足しよう。病型には、皮膚硬化が肘・膝より近位や体幹に及ぶびまん皮膚硬化型と、遠位と顔面にとどまる限局皮膚硬化型がある。びまん型は進行が速く、間質性肺炎や強皮症腎クリーゼを合併しやすい。抗RNAポリメラーゼⅢ抗体は腎クリーゼとの関連が知られている。
医学生医学生
腎クリーゼは血管障害の側ですよね。治療はACE阻害薬だとCBTの問題で見ました。
ドクタードクター
その通り。腎の小動脈障害で急激な高血圧と腎機能低下が起こる病態で、ACE阻害薬で治療する。副腎皮質ステロイドの大量投与は誘因になりうるから、膠原病だからとむやみに大量ステロイドを使わない、というのは臨床で特に注意したいポイントだ。限局型のほうでは、皮膚石灰沈着、Raynaud現象、食道蠕動低下、手指硬化、毛細血管拡張をまとめたCREST症候群も覚えておこう。
医学生医学生
CRESTのEが食道なんですね。今回の胃食道逆流症ともつながりました。

まとめ

全身性強皮症は、皮膚や内臓の「線維化」、小血管の「血管障害」、特異的な「自己抗体」を3本柱とする膠原病です。線維化の側からは皮膚硬化、間質性肺炎、消化管平滑筋の線維化による食道蠕動低下と胃食道逆流症が、血管障害の側からはRaynaud現象、指尖潰瘍、肺動脈性肺高血圧症、強皮症腎クリーゼが生じます。陰部潰瘍はBehçet病、涙腺腫大はIgG4関連疾患やサルコイドーシス、Sjögren症候群、ぶどう膜炎はサルコイドーシス・原田病・Behçet病などを想起させる所見で、強皮症の所見ではありません。肺高血圧症は抗セントロメア抗体陽性の限局型で晩期に出やすく予後に直結するため定期的なスクリーニングが重要で、腎クリーゼにはACE阻害薬を用い、ステロイド大量投与は誘因となる点に注意します。病態から臓器病変を整理しておくと、膠原病どうしの鑑別問題にも応用が利きます。

解答・解説

正解はd, eです

強皮症(全身性強皮症、systemic sclerosis:SSc)は、①皮膚や内臓の線維化(膠原線維の過剰な沈着)、②小血管・細動脈の障害(内膜肥厚による内腔狭窄、Raynaud現象)、③自己免疫異常(抗トポイソメラーゼⅠ〈Scl-70〉抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体など)の3つを病態の柱とする膠原病である。 臓器病変はこの「線維化」と「血管障害」の2つの視点で整理すると理解しやすい。 ・線維化による病変:皮膚硬化(手指から体幹へ向かう)、間質性肺炎・肺線維症、消化管平滑筋の萎縮・線維化による蠕動低下(食道下部の拡張、胃食道逆流症、小腸の偽性腸閉塞、吸収不良)、心筋線維化 ・血管障害による病変:Raynaud現象、指尖潰瘍・陥凹性瘢痕、肺動脈性肺高血圧症、強皮症腎クリーゼ(腎の小動脈障害による急激な高血圧と腎不全) 選択肢のうち、肺高血圧症(血管障害)と胃食道逆流症(消化管の線維化・蠕動低下)がこの枠組みに当てはまる。陰部潰瘍・涙腺腫大・ぶどう膜炎は、それぞれ別の疾患(Behçet病、IgG4関連疾患やSjögren症候群など、ぶどう膜炎の三大原因疾患など)を想起させる所見である。

選択肢考察

  1. ×a.  陰部潰瘍

    外陰部潰瘍はBehçet病の4主症状(口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、皮膚症状〈結節性紅斑様皮疹、毛嚢炎様皮疹など〉、眼症状〈ぶどう膜炎〉、外陰部潰瘍)の一つである。強皮症の皮膚病変は皮膚硬化や指尖の虚血性潰瘍であり、陰部潰瘍は特徴的な所見ではない。

  2. ×b.  涙腺腫大

    涙腺の腫大は、IgG4関連疾患(涙腺・唾液腺が左右対称に腫大するMikulicz病)、サルコイドーシス、Sjögren症候群、悪性リンパ腫、甲状腺眼症(Basedow病)などでみられる。強皮症では皮膚硬化による閉眼障害や、合併するSjögren症候群による乾燥症状はありうるが、涙腺腫大は強皮症そのものの所見ではない。

  3. ×c.  ぶどう膜炎

    日本でぶどう膜炎の原因として頻度が高いのは、サルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、Behçet病(三大ぶどう膜炎)である。そのほか強直性脊椎炎などの脊椎関節炎(HLA-B27関連の急性前部ぶどう膜炎)、若年性特発性関節炎、炎症性腸疾患、感染症(ヘルペス、結核、トキソプラズマなど)も原因となる。強皮症はぶどう膜炎の原因疾患ではない。

  4. ○d.  肺高血圧症

    強皮症では肺の小動脈に内膜肥厚・中膜肥厚が生じて内腔が狭窄し、肺血管抵抗が上昇して肺動脈性肺高血圧症(PAH)をきたす。とくに抗セントロメア抗体陽性の限局皮膚硬化型で、長い経過の後に出現しやすい。また間質性肺炎の進行に伴う肺疾患性の肺高血圧症も起こりうる。肺高血圧症は強皮症の主要な死因の一つであり、心エコー検査などによる定期的なスクリーニングが推奨される。膠原病に伴う肺高血圧症の原因としては、強皮症のほか全身性エリテマトーデス(SLE)、混合性結合組織病(MCTD)が代表的である。

  5. ○e.  胃食道逆流症

    強皮症では消化管の平滑筋が萎縮・線維化し、とくに食道の下部2/3(平滑筋優位の部分)で蠕動が低下し、下部食道括約筋の圧も低下する。その結果、胃酸が逆流しやすく、また逆流した酸が排出されにくいため、胃食道逆流症(逆流性食道炎)を高率に合併する。強皮症患者の過半数、報告によっては9割前後に認められ、胸やけ、つかえ感の原因となり、食道狭窄やBarrett食道を生じることもある。治療にはプロトンポンプ阻害薬や消化管運動改善薬が用いられる。

全身性強皮症の病型

・びまん皮膚硬化型(dcSSc):皮膚硬化が肘・膝より近位や体幹に及ぶ。発症早期から進行が速く、間質性肺炎・強皮症腎クリーゼを合併しやすい。抗トポイソメラーゼⅠ(Scl-70)抗体や抗RNAポリメラーゼⅢ抗体(腎クリーゼ、悪性腫瘍との関連)が多い。 ・限局皮膚硬化型(lcSSc):皮膚硬化は肘・膝より遠位と顔面に限られ、緩徐に進行する。抗セントロメア抗体が多く、晩期に肺動脈性肺高血圧症を生じやすい。皮膚石灰沈着、Raynaud現象、食道蠕動低下、手指硬化、毛細血管拡張を特徴とするCREST症候群もこの型に含まれる。

主な臓器病変

・皮膚:手指の浮腫・硬化(ソーセージ様手指)、指尖潰瘍・陥凹性瘢痕、仮面様顔貌、舌小帯の短縮、色素沈着・脱失、爪上皮出血点 ・血管:Raynaud現象(初発症状として最多) ・肺:間質性肺炎(主な死因の一つ)、肺高血圧症 ・消化管:食道蠕動低下・逆流性食道炎、小腸の運動低下による腸内細菌異常増殖・吸収不良、偽性腸閉塞 ・腎:強皮症腎クリーゼ(急激な高血圧、腎機能低下、微小血管症性溶血)。ACE阻害薬で治療する。副腎皮質ステロイドの大量投与は誘因となるため注意する。 ・心臓:心筋線維化による不整脈・心不全、心膜炎 ・関節・筋:関節痛、腱摩擦音、筋炎

鑑別に関わる所見

・陰部潰瘍:Behçet病 ・涙腺・唾液腺腫大:IgG4関連疾患(Mikulicz病)、サルコイドーシス、Sjögren症候群 ・ぶどう膜炎:サルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、Behçet病、脊椎関節炎

POINT

・強皮症は「線維化」「血管障害」「自己抗体」が病態の3本柱 ・血管障害:Raynaud現象、指尖潰瘍、肺動脈性肺高血圧症(抗セントロメア抗体・限局型で多い)、強皮症腎クリーゼ ・線維化:皮膚硬化、間質性肺炎、食道蠕動低下による胃食道逆流症 ・膠原病の肺高血圧症は強皮症、SLE、MCTDが代表 ・陰部潰瘍・ぶどう膜炎はBehçet病、涙腺腫大はIgG4関連疾患などを想起

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。