StudyMed医師国家試験

閉腹したら終わり、ではない―手術室を出る前の腹部エックス線で何を見るか

第110回医師国家試験 I問題 第39問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第39問

消化管穿孔による汎発性腹膜炎手術の終了後,手術室を退室する前に腹部エックス線撮影を行った。  確認すべきなのはどれか。3つ選べ。

  1. a.胃管の位置
  2. b.鏡面像の有無
  3. c.ドレーンの位置
  4. d.腹腔内異物の有無
  5. e.腸腰筋陰影異常の有無

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、緊急開腹手術が終わって手術室を退室する前に撮る腹部エックス線写真の目的を問う問題だ。ポイントは、この写真が「病気を診断するため」ではなく「手術の後始末を確認するため」に撮られている、という視点に立てるかどうか。どんなことを確認すると思う?
医学生医学生
腹膜炎の手術後なので、腸閉塞になっていないかとか、腹水が残っていないかを見るのかと思いました。
ドクタードクター
そこが典型的なひっかけだね。腹部単純写真というと、鏡面像で腸閉塞、腸腰筋陰影の消失で腹水や後腹膜病変、と術前診断の読影を思い浮かべがちだ。でも手術直後のこの写真で知りたいのは、「処置が意図どおりになっているか」と「起きてはいけない事故が起きていないか」の2つなんだ。
医学生医学生
処置が意図どおり、というのは、入れたチューブ類がちゃんとした場所にあるか、ということですか。
ドクタードクター
その通り。まず胃管から考えよう。消化管穿孔で汎発性腹膜炎を起こした後は、腹膜の炎症と手術操作で腸管の動きがしばらく戻らない。いわゆる術後の麻痺性イレウスだね。胃液や腸液がたまるから、胃管で吸引して減圧し、嘔吐や誤嚥、縫合部への負担を防ぐ。
医学生医学生
外科の実習で、胃管を入れた後に先端位置をエックス線で確認していました。気管に入っていたら大変ですもんね。
ドクタードクター
そう。先端が食道にとどまっていたり、胃の中でとぐろを巻いていたりしても十分に減圧できない。胃管にはエックス線不透過のラインが入っているから、先端が胃内の適切な位置にあるか写真で確認できる。次はドレーン。汎発性腹膜炎の手術では、大量の生理食塩水で腹腔内を洗浄した後、どこにドレーンを置くかな?
医学生医学生
膿がたまりやすい場所……仰臥位で低くなるDouglas窩や、横隔膜の下でしょうか。
ドクタードクター
いいね。横隔膜下、肝下面のMorison窩、傍結腸溝、Douglas窩などに複数留置するのが一般的だ。ドレーンには、残った膿や滲出液を外に出す治療的ドレナージと、術後出血や縫合不全を早く察知する情報ドレナージの役割がある。先端が目的の場所から外れていたり、途中で折れ曲がっていたりすると役に立たないから、走行と先端位置を確認する。
医学生医学生
排液の色で縫合不全が分かる、というのも外科で教わりました。便汁様なら要注意だと。
ドクタードクター
その通り。血性なら出血、便汁様や胆汁様なら縫合不全を疑う。そして「起きてはいけない事故」の確認が、腹腔内異物の有無だ。ガーゼや針、器械が体内に残ると、感染や膿瘍、腸閉塞、瘻孔の原因になる重大な医療事故になる。
医学生医学生
手術室で看護師さんがガーゼの枚数を数えていたのは、そのためなんですね。カウントが合っていれば撮影は不要な気もしますが……。
ドクタードクター
もっともな疑問だね。通常は手術開始前・閉創前・閉創後にカウントをするけれど、汎発性腹膜炎の緊急手術のように大量のガーゼを使い、時間にも余裕がない状況では、見落としのリスクが高まる。手術用ガーゼにはエックス線不透過のマーカーが織り込まれているから、写真で二重にチェックするんだ。
医学生医学生
では鏡面像と腸腰筋陰影は、術前診断のための所見だから今回は確認項目に入らない、ということですね。
ドクタードクター
そう整理していい。鏡面像は腸閉塞の所見だけど、腹膜炎の開腹術後は麻痺性の腸管拡張がむしろ普通で、あっても術直後の対応は変わらない。そもそも手術直後は仰臥位で撮るから鏡面像は写りにくい。腸腰筋陰影の消失は腹水や後腹膜の出血・膿瘍・炎症を示す所見で、腹腔内を洗浄した直後に確認する意義は乏しいんだ。
医学生医学生
撮影のタイミングと目的を考えれば、見るべきものが自然に決まるんですね。
ドクタードクター
その感覚が大事だ。発展として、退室前には胸部写真も一緒に撮ることが多い。こちらでは気管チューブや中心静脈カテーテルの先端位置、中心静脈穿刺後の気胸、無気肺などを確認する。それから、開腹術後は手術でお腹に入った空気がしばらく遊離ガスとして残るから、術後早期のfree airをすぐに再穿孔と決めつけないことも覚えておこう。
医学生医学生
術後管理では、ほかにどんなことに気をつければいいですか。
ドクタードクター
汎発性腹膜炎の術後は、抗菌薬投与と輸液・循環管理を行いながら、敗血症性ショックに注意する。数日たって発熱や炎症反応の再上昇があれば、横隔膜下膿瘍やDouglas窩膿瘍などの遺残膿瘍を疑って画像で探す。ドレーンの排液の観察と合わせて、術後の変化を早く拾うことが大切だね。

まとめ

開腹手術の終了後、手術室を退室する前に撮る腹部エックス線写真は、病気の診断ではなく「処置が意図どおりか」と「医療事故がないか」を確認するためのものです。具体的には、減圧のための胃管の先端が胃内にあるか、膿や滲出液がたまりやすい横隔膜下・Morison窩・Douglas窩などに置いたドレーンの位置や屈曲、そしてエックス線不透過マーカー入りのガーゼや針・器械が腹腔内に遺残していないかを確認します。鏡面像は腸閉塞、腸腰筋陰影の消失は腹水や後腹膜病変を示す術前診断向けの所見であり、麻痺性の腸管拡張が当然起こる術直後には確認項目になりません。胸部写真での気管チューブ・中心静脈カテーテル位置や気胸の確認も含め、「何のために撮る写真か」を意識することが、安全な周術期管理と画像読影の基本になります。

解答・解説

正解はa, c, dです

開腹手術の終了直後、患者が手術室を出る前に撮影する腹部単純エックス線写真(多くは胸部写真とともに撮影される)は、病気そのものの評価ではなく、「手術で行った処置が意図どおりになっているか」「起こってはならない事故が起きていないか」を確認するためのものである。 この段階で確認すべきことは大きく2つに整理できる。 ①留置したチューブ・カテーテル類の位置の確認:胃管(経鼻胃管)の先端が胃内にあるか、腹腔ドレーンが目的の部位(横隔膜下、Douglas窩、肝下面など膿や滲出液が溜まりやすい部位)に置かれ、屈曲・逸脱がないか。 ②異物遺残の確認:ガーゼ、針、器械などが腹腔内に残っていないか。手術用ガーゼにはエックス線不透過性のマーカー(造影糸)が織り込まれており、写真で検出できる。 一方、鏡面像(ニボー)や腸腰筋陰影の異常は、腸閉塞や後腹膜・腹腔内の病変を術前に診断する際の所見であり、手術直後に退室前に確認する目的にはそぐわない。消化管穿孔による汎発性腹膜炎の術後には腸管麻痺により鏡面像がみられても不思議ではなく、腹腔内は洗浄されて滲出液が除去されている。

選択肢考察

  1. ○a.  胃管の位置

    消化管穿孔による汎発性腹膜炎の術後は、腹膜の炎症と手術操作によって腸管の蠕動回復が遅れ(術後麻痺性イレウス)、胃液・腸液が貯留しやすい。そこで胃管を留置して胃内容を吸引・減圧し、嘔吐や誤嚥、縫合部への負担を防ぐ。胃管の先端が食道内にとどまっていたり、気管内に誤挿入されていたり、胃内でとぐろを巻いていたりすると、十分に減圧できないばかりか誤嚥などの危険がある。そのため、先端が胃内の適切な位置にあることをエックス線で確認する(胃管には不透過性のラインが入っている)。

  2. ×b.  鏡面像の有無

    鏡面像(air-fluid level、ニボー)は、腸管内にガスと液体が貯留した状態を立位や側臥位で撮影したときにみられる水平な境界線で、腸閉塞(イレウス)の診断に用いる所見である。消化管穿孔・腹膜炎の開腹術後には麻痺性の腸管拡張が生じるのが通常であり、仮に鏡面像があっても術直後の対応は変わらない。また手術直後は仰臥位で撮影するため鏡面像は描出されにくい。退室前に確認すべき項目ではない。

  3. ○c.  ドレーンの位置

    汎発性腹膜炎の手術では、腹腔内を大量の生理食塩水で洗浄した後、膿や滲出液が貯留しやすい部位(横隔膜下、肝下面〈Morison窩〉、傍結腸溝、Douglas窩など)に複数のドレーンを留置するのが一般的である。ドレーンは残存する膿・滲出液を体外へ排出する(治療的ドレナージ)とともに、術後出血や縫合不全を早期に察知する役割(情報ドレナージ)をもつ。先端が目的の部位から外れていたり、屈曲していたりすると有効に機能しないため、エックス線不透過のドレーンの走行と先端位置を確認する必要がある。

  4. ○d.  腹腔内異物の有無

    ガーゼ、縫合針、鉗子などの手術器具が体内に残ることは、本来あってはならない重大な医療事故であり、遺残すると感染・膿瘍・腸閉塞・瘻孔形成などの原因となる。通常は閉腹前に看護師と術者がガーゼ・器械・針のカウントを行うが、汎発性腹膜炎の緊急手術のように大量のガーゼを使い、時間的な余裕も少ない状況では見落としのリスクが高まる。手術用ガーゼにはエックス線不透過のマーカーが入っているため、退室前の腹部エックス線写真で異物遺残がないことを確認する。

  5. ×e.  腸腰筋陰影異常の有無

    腸腰筋陰影は、腸腰筋と周囲の後腹膜脂肪とのX線吸収差によって描出される輪郭である。腹水の貯留、後腹膜の血腫・膿瘍、腸腰筋膿瘍(結核性脊椎炎〈脊椎カリエス〉に伴う流注膿瘍など)、後腹膜の炎症(急性膵炎、虫垂炎の波及など)があると不明瞭化・消失する。これらは主に術前の診断に用いる所見であり、腹腔内を洗浄して滲出液を除去した手術直後に退室前に確認する意義はない。

手術室退室前の画像確認

全身麻酔下の手術、とくに開腹手術の後には、退室前に胸部・腹部の単純エックス線撮影を行うことが多い。 ・胸部写真:気管チューブ・中心静脈カテーテルの先端位置、気胸の有無(中心静脈穿刺後など)、無気肺、胸水 ・腹部写真:胃管の先端位置、ドレーンの位置・走行、ガーゼや器械などの異物遺残の有無

異物遺残の予防

・手術開始前・閉創前・閉創後にガーゼ、針、器械の数を数える(カウント) ・エックス線不透過マーカー入りのガーゼを使用する ・カウントが合わない場合や緊急手術でカウントが困難な場合は、エックス線撮影で確認する

汎発性腹膜炎の術後管理

・胃管による消化管減圧 ・ドレーン排液の量・性状の観察(血性なら出血、便汁様・胆汁様なら縫合不全を疑う) ・抗菌薬投与、輸液・循環管理(敗血症性ショックに注意) ・遺残膿瘍(横隔膜下膿瘍、Douglas窩膿瘍など)の出現に注意

腹部単純エックス線写真の主な所見と意味

・鏡面像:腸閉塞 ・free air(遊離ガス):消化管穿孔(立位胸部写真の横隔膜下で検出しやすい)。なお開腹術後は手術による腹腔内遊離ガスがしばらく残存する ・腸腰筋陰影の消失:腹水、後腹膜の出血・膿瘍・炎症

POINT

・開腹術後の退室前の腹部エックス線写真では「チューブ類の位置」と「異物遺残」を確認する ・確認すべきもの:胃管の先端位置、ドレーンの位置、ガーゼ・器械などの腹腔内異物 ・手術用ガーゼにはエックス線不透過マーカーが入っている ・鏡面像は腸閉塞、腸腰筋陰影の消失は腹水や後腹膜病変の所見で、術直後の確認項目ではない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。