StudyMed医師国家試験

体に銅があふれるのに血中は低い―Wilson病の「矛盾」を機序で解く

第110回医師国家試験 I問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第40問

Wilson病について正しいのはどれか。3つ選べ。

  1. a.大脳基底核に銅が沈着する。
  2. b.常染色体優性遺伝疾患である。
  3. c.セルロプラスミンは増加する。
  4. d.キレート薬が治療に用いられる。
  5. e.肝臓からの銅排泄障害が原因である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はWilson病の基本事項を問う問題だ。遺伝形式、病態、検査所見、治療と幅広く聞かれているけれど、実はすべて「銅を胆汁へ捨てられない」という一つの機序から説明できる。そこを軸に整理していこう。
医学生医学生
生化学の講義で、ATP7Bという銅輸送体の異常だと習いました。
ドクタードクター
その通り。ATP7Bは肝細胞の中で余った銅を毛細胆管へ汲み出すポンプなんだ。人体では銅の主な排泄経路は胆汁だから、ここが働かないと銅を体外に捨てられず、まず肝臓に銅がたまる。だから「肝臓からの銅排泄障害が原因」という記述は正しい。
医学生医学生
腸からの吸収が増えているわけではないんですね。
ドクタードクター
そう、吸収ではなく排泄の問題だと押さえておこう。肝臓にたまった銅は肝細胞を傷つけ、脂肪肝、慢性肝炎、肝硬変、ときに劇症肝炎を起こす。そして肝臓の容量を超えた銅は血中に漏れ出し、全身に沈着していくんだ。
医学生医学生
別名が肝レンズ核変性症なので、脳ではレンズ核に沈着するということですか。
ドクタードクター
よく名前から推測できたね。被殻と淡蒼球からなるレンズ核を中心に、大脳基底核に銅が沈着する。だから振戦、筋強剛、構音障害、ジストニアといった錐体外路症状や、性格変化・抑うつなどの精神症状が出る。MRIのT2強調像で被殻や視床に高信号がみられることもある。基底核への沈着という記述も正しいね。
医学生医学生
セルロプラスミンは銅を運ぶタンパクなので、銅が多いなら増えそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの病気の一番の落とし穴だ。ATP7Bにはもう一つ、肝細胞内でセルロプラスミンに銅を載せる役割がある。銅を載せられなかったアポセルロプラスミンは不安定ですぐ分解されるから、血清セルロプラスミンは低下する。増加するというのは誤りだよ。
医学生医学生
血清銅の大部分はセルロプラスミンに結合しているから、血清銅も低くなるんですね。
ドクタードクター
その通り。体内には銅が過剰なのに血清銅とセルロプラスミンは低い、一方で結合していない遊離銅が増えて尿中銅排泄は増加する。この一見矛盾した組み合わせを機序で説明できれば完璧だ。ちなみにセルロプラスミンは急性期反応物質でもあって、炎症や妊娠、エストロゲン投与で上がるから、患者でも正常範囲に見えることがある点は覚えておこう。
医学生医学生
遺伝形式は常染色体優性と書いてありますが、確か劣性でしたよね。
ドクタードクター
正しい。常染色体劣性(潜性)遺伝で、原因遺伝子は13番染色体にある。両親は通常保因者で無症状、同胞の発症確率は1/4だから、患者が見つかったら兄弟姉妹のスクリーニングを勧めるんだ。だから優性という記述は誤り。
医学生医学生
治療は、たまった銅を外に出すキレート薬ですね。
ドクタードクター
そう。D-ペニシラミンやトリエンチンが銅と結合して尿中排泄を促す。ペニシラミンは発疹、骨髄抑制、ネフローゼ症候群などの副作用があり、使えないときはトリエンチンを選ぶ。もう一つの柱が酢酸亜鉛で、腸管上皮でメタロチオネインを誘導して銅の吸収を抑える。症状のない患者や維持療法で使われるよ。
医学生医学生
小児科実習で、レバーや貝類、チョコレートを控えるよう食事指導していた子がいました。
ドクタードクター
まさに低銅食だね。治療は生涯続ける必要があって、自己判断で中断すると悪化しうる。劇症肝炎型や非代償性肝硬変では肝移植が適応になる。
医学生医学生
臨床でほかに注意すべき所見はありますか。
ドクタードクター
まずKayser-Fleischer角膜輪。角膜辺縁のDescemet膜への銅沈着で、細隙灯顕微鏡で確認する。神経症状がある患者ではほぼ全例にみられるよ。それから、急激に発症すると肝細胞から銅が一気に放出され、Coombs試験陰性の溶血性貧血と劇症肝炎が同時に起こることがある。若い人の原因不明の肝障害や溶血、錐体外路症状をみたらWilson病を思い浮かべることが大切だ。
医学生医学生
銅の病気というとMenkes病もありましたね。
ドクタードクター
いい対比だね。Menkes病はATP7Aの異常によるX連鎖劣性遺伝で、腸管から銅を取り込めず全身が銅欠乏になり、縮れ毛やけいれん、発達遅滞を示す。銅過剰のWilson病と銅欠乏のMenkes病、セットで覚えておこう。

まとめ

Wilson病はATP7B遺伝子異常による常染色体劣性遺伝の銅代謝異常症で、肝臓から胆汁への銅排泄が障害されることが根本原因です。蓄積した銅は肝障害を起こし、さらに大脳基底核(レンズ核)、角膜、腎臓などに沈着して錐体外路症状や精神症状、Kayser-Fleischer角膜輪を生じます。セルロプラスミンへの銅の組み込みもできないため、体内の銅が過剰であるにもかかわらず血清セルロプラスミンと血清銅は低値となり、尿中銅は増加します。治療はD-ペニシラミンやトリエンチンなどのキレート薬、亜鉛製剤、低銅食を生涯継続し、重症例では肝移植を考慮します。一見矛盾する検査所見を機序から理解しておくことが、若年者の原因不明の肝障害や神経症状からWilson病に気づく力につながります。

解答・解説

正解はa, d, eです

Wilson病(肝レンズ核変性症)は、銅を運ぶ膜タンパク質ATP7B(銅輸送P型ATPase)の遺伝子異常によって起こる銅代謝異常症である。病態は次の2点に集約できる。 1. 肝細胞から胆汁中への銅の排泄ができない 食事から吸収された銅は門脈を経て肝臓に取り込まれる。健常者では、余った銅はATP7Bの働きで毛細胆管へ汲み出され、胆汁とともに便中へ捨てられる。Wilson病ではこの経路が働かないため、銅がまず肝臓にたまり、肝細胞障害(脂肪肝、慢性肝炎、肝硬変、ときに劇症肝炎)を起こす。肝臓の貯蔵能を超えた銅は血中に漏れ出し、大脳基底核、角膜、腎臓、赤血球などにも沈着する。 2. セルロプラスミンへの銅の組み込みができない ATP7Bは肝細胞内でセルロプラスミンに銅を載せる役割も担う。銅を持たないセルロプラスミン(アポセルロプラスミン)は不安定で速やかに分解されるため、血清セルロプラスミンは低値となる。血清銅の大部分はセルロプラスミンに結合した銅なので、全身に銅が過剰であるにもかかわらず血清銅も低値を示すことが多い。一方、セルロプラスミンに結合していない遊離銅は増え、尿中銅排泄は増加する。 この「体内には銅が過剰なのに、血清銅・セルロプラスミンは低い」という一見矛盾した所見を機序から理解しておけば、各選択肢の正誤は迷わず判断できる。

選択肢考察

  1. ○a.  大脳基底核に銅が沈着する。

    正しい。肝臓で処理しきれなくなった銅は、レンズ核(被殻・淡蒼球)を中心とする大脳基底核に沈着する。これにより振戦(羽ばたき振戦を含む)、筋強剛、構音障害、ジストニアなどの錐体外路症状や、性格変化・抑うつなどの精神症状が現れる。「肝レンズ核変性症」という別名はこの肝臓と基底核の病変に由来する。頭部MRIのT2強調像で被殻・視床などに高信号を認めることがある。

  2. ×b.  常染色体優性遺伝疾患である。

    誤り。Wilson病は常染色体劣性遺伝(潜性遺伝)の疾患である。原因遺伝子ATP7Bは13番染色体長腕(13q14.3)にある。両親はふつう保因者で症状がなく、同胞が発症する確率は1/4である。そのため、患者が見つかった場合は同胞のスクリーニングが勧められる。日本での頻度はおよそ3万〜4万人に1人とされる。

  3. ×c.  セルロプラスミンは増加する。

    誤り。血清セルロプラスミンは低下する(基準値はおよそ20〜40 mg/dL前後で、20 mg/dL未満なら本症を疑う目安となる)。ATP7Bの障害で肝細胞内のセルロプラスミンに銅が組み込まれず、銅を持たないアポセルロプラスミンが速やかに分解されるためである。なお、セルロプラスミンは急性期反応物質でもあり、炎症・妊娠・エストロゲン投与では上昇するため、患者でも正常範囲に見えることがある点に注意する。

  4. ○d.  キレート薬が治療に用いられる。

    正しい。治療の基本は、体内にたまった銅を除去することと、銅の吸収を抑えることである。銅キレート薬(D-ペニシラミン、塩酸トリエンチン)は銅と結合して尿中への排泄を促す。ペニシラミンには発疹、骨髄抑制、ネフローゼ症候群などの副作用があり、使えない場合はトリエンチンを用いる。酢酸亜鉛は腸管上皮でメタロチオネインを誘導して銅の吸収を抑える薬で、症状のない患者や維持療法に使われる。あわせて、レバー・貝類・ナッツ・チョコレートなど銅を多く含む食品を控える。治療は生涯継続が必要で、劇症肝炎型や非代償性肝硬変では肝移植が適応となる。

  5. ○e.  肝臓からの銅排泄障害が原因である。

    正しい。ATP7Bは肝細胞内で銅を毛細胆管側へ汲み出す輸送体である。その機能が失われると、肝臓から胆汁を介して腸管へ銅を捨てることができなくなり、銅が肝臓に蓄積する。人体では銅の主な排泄経路が胆汁であるため、この障害が全身の銅過剰の根本原因となる。腸管からの銅吸収そのものが増えているわけではない点も押さえておく。

症状と病型

発症は小児期〜若年成人が多い。小児では肝障害で見つかる肝型が多く、思春期以降では神経症状(錐体外路症状、構音障害、精神症状)で発症する神経型・肝神経型が増える。急激な発症では、銅が肝細胞から大量に放出されてCoombs試験陰性の溶血性貧血と劇症肝炎を同時に起こすことがあり、致死率が高い。

主な所見

・Kayser-Fleischer角膜輪:角膜辺縁のDescemet膜への銅沈着による緑褐色の輪。細隙灯顕微鏡で確認する。神経症状のある患者ではほぼ全例にみられる。 ・ひまわり白内障(水晶体への銅沈着) ・腎尿細管障害(Fanconi症候群様の尿細管機能障害、尿路結石) ・骨・関節障害、心筋障害

検査所見

・血清セルロプラスミン低値、血清銅は多くの場合低値 ・尿中銅排泄増加(24時間尿で100 μg/日以上が目安) ・肝銅含量の増加(肝生検で乾燥重量1 gあたり250 μg以上が目安) ・ATP7B遺伝子検査

Menkes病との比較

Menkes病はATP7A遺伝子の異常によるX連鎖劣性遺伝の銅代謝異常で、腸管から体内へ銅を取り込めないため全身が銅欠乏となる。縮れ毛、けいれん、発達遅滞などを示す。Wilson病(銅過剰)と対比して覚えるとよい。

POINT

・原因はATP7B遺伝子異常で、常染色体劣性遺伝(13番染色体) ・肝臓から胆汁への銅排泄が障害され、肝臓、大脳基底核(レンズ核)、角膜、腎臓に銅が沈着する ・血清セルロプラスミン低値、血清銅は低値が多い、尿中銅は増加、肝銅含量は増加 ・Kayser-Fleischer角膜輪、錐体外路症状、肝障害、Coombs陰性溶血性貧血 ・治療は銅キレート薬(D-ペニシラミン、トリエンチン)、亜鉛製剤、低銅食。重症例では肝移植

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。