鉄は出ていかない―「青銅色糖尿病」で覚えるヘモクロマトーシスの三徴
第115回医師国家試験 A問題 第13問
国試問題にチャレンジ
ヘモクロマトーシスで認められるのはどれか。2つ選べ。
- a.肝硬変
- b.高血圧
- c.腎不全
- d.糖尿病
- e.皮膚色素脱失
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
ヘモクロマトーシスは、能動的な排泄経路をもたない鉄が過剰に蓄積し、実質臓器に沈着して障害を起こす病態です。古典的三徴は肝硬変・糖尿病・皮膚色素沈着で、「青銅色糖尿病」とよばれ、皮膚は色素「脱失」ではなく「沈着」である点が頻出のひっかけです。ほかに心筋症による心不全・不整脈、下垂体性の性腺機能低下、関節症をきたしますが、高血圧や腎不全は典型的な合併症ではありません。診断はフェリチンとトランスフェリン飽和度の高値が基本で、治療は遺伝性なら瀉血、日本で多い輸血後鉄過剰症では鉄キレート薬を用い、肝硬変例では肝細胞癌に注意します。鉄代謝の基本から臓器障害を筋道立てて理解しておくと、血液内科・消化器内科の両面で役立ちます。
解答・解説
正解はa, dです
ヘモクロマトーシスは、体内に過剰な鉄が蓄積し、それが実質臓器の細胞に沈着して組織障害(線維化・機能不全)を起こす病態である。ヒトには鉄を能動的に排泄するしくみがほとんどなく、体内の鉄量は主に十二指腸での吸収量によって調節されている。そのため、吸収調節が破綻したり(遺伝性)、輸血などで外から大量の鉄が入ったり(続発性)すると、鉄は体外へ出ていかずに臓器へたまり続ける。 鉄が沈着しやすいのは肝臓・膵臓・心臓・皮膚・下垂体・関節などである。古典的には「肝硬変・糖尿病・皮膚色素沈着」が三徴とされ、皮膚が青銅色になり糖尿病を伴うことから「青銅色糖尿病(bronze diabetes)」ともよばれる。 本問では、この三徴を思い出せば肝硬変と糖尿病が選べる。皮膚については「色素脱失」ではなく「色素沈着」である点がひっかけになっている。高血圧や腎不全はヘモクロマトーシスの典型的な合併症ではない。
選択肢考察
- ○a. 肝硬変
肝臓は過剰な鉄が最初に、かつ最も多く蓄積する臓器である。肝細胞内に沈着した鉄はフリーラジカル(活性酸素)の産生を通じて細胞を傷害し、肝星細胞を活性化して線維化を進め、最終的に肝硬変に至る。肝硬変を合併すると肝細胞癌の発生リスクが大きく上昇するため、定期的な画像検査が必要となる。飲酒やウイルス性肝炎の合併は肝障害の進行を早める。
- ×b. 高血圧
高血圧はヘモクロマトーシスの典型的な所見ではない。心臓への鉄沈着によって起こるのは心筋症(初期は拡張障害、進行すると収縮障害を伴う心不全)や不整脈・伝導障害であり、血圧を上昇させる病態ではない。心病変は若年発症例や輸血後鉄過剰症で目立ち、死因として重要である。
- ×c. 腎不全
腎臓はヘモクロマトーシスで障害されやすい臓器ではなく、腎不全は典型的な合併症に含まれない。鉄の尿中への排泄はごくわずかで、腎臓が鉄の処理に大きく関与しないことも一因である。なお、糖尿病を合併して長期経過すれば糖尿病性腎症を起こしうるが、これは鉄沈着そのものによる腎障害ではない。
- ○d. 糖尿病
膵臓、とくにランゲルハンス島のβ細胞に鉄が沈着すると、β細胞が傷害されてインスリン分泌が低下し、糖尿病を発症する。さらに肝硬変によるインスリン抵抗性も耐糖能悪化に加わる。皮膚の色素沈着と合わせて「青銅色糖尿病」とよばれる由来である。進行例ではインスリン治療を要することが多い。
- ×e. 皮膚色素脱失
ヘモクロマトーシスでみられるのは色素「脱失」ではなく色素「沈着」である。皮膚は青銅色〜灰褐色を呈し、露光部や外陰部、瘢痕部などで目立つ。色調の変化は主に表皮基底層のメラニン増加によるもので、真皮へのヘモジデリン沈着も加わる。色素脱失は尋常性白斑などでみられる所見であり、本症とは逆である。
分類
・遺伝性(原発性)ヘモクロマトーシス:HFE遺伝子(とくにC282Y変異)などの異常により、鉄調節ホルモンであるヘプシジンの作用が低下し、腸管からの鉄吸収が過剰になる。常染色体潜性(劣性)遺伝で、北欧系白人に多く、日本人ではまれである。女性は月経・妊娠で鉄を失うため、男性のほうが発症が早く重症になりやすい。 ・続発性ヘモクロマトーシス(鉄過剰症):再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、サラセミアなどに対する頻回輸血、無効造血、慢性肝疾患などに伴う。日本ではこちらが大部分を占める。
鉄が沈着する臓器と症状
・肝臓:肝腫大、肝硬変、肝細胞癌 ・膵臓:糖尿病 ・皮膚:青銅色の色素沈着 ・心臓:心筋症、心不全、不整脈 ・下垂体:ゴナドトロピン分泌低下による性腺機能低下症(性欲低下、無月経など) ・関節:第2・第3中手指節関節を好む関節症、偽痛風(ピロリン酸カルシウム沈着)
診断
・血清フェリチン高値、トランスフェリン飽和度(血清鉄÷総鉄結合能)高値(おおむね45%以上でスクリーニング陽性) ・CTで肝臓のびまん性高吸収、MRIで鉄沈着による信号低下(T2強調像・T2*強調像で低信号) ・肝生検による肝鉄濃度測定、HFE遺伝子検査
治療
・遺伝性:瀉血療法(定期的な採血で鉄を除去)が基本 ・輸血後鉄過剰症:貧血があり瀉血ができないため、鉄キレート薬(デフェラシロクス内服、デフェロキサミン注射)を用いる ・ビタミンC(鉄吸収を促進)サプリメントや鉄剤、飲酒を避ける
類似疾患との区別
ヘモジデローシスは組織に鉄(ヘモジデリン)が沈着しているが臓器障害を伴わない状態を指し、臓器障害を伴うものをヘモクロマトーシスとよぶ。銅が沈着するWilson病(肝障害、角膜のKayser-Fleischer輪、錐体外路症状)と混同しないこと。
POINT
・ヘモクロマトーシスの三徴:肝硬変・糖尿病・皮膚色素沈着(青銅色糖尿病)。 ・ほかに心筋症(心不全・不整脈)、性腺機能低下、関節症を起こす。 ・皮膚は色素「沈着」であり「脱失」ではない。 ・診断はフェリチン・トランスフェリン飽和度高値、治療は瀉血(輸血後鉄過剰症は鉄キレート薬)。 ・肝硬変例は肝細胞癌に注意。
