StudyMed医師国家試験

鉄は出ていかない―「青銅色糖尿病」で覚えるヘモクロマトーシスの三徴

第115回医師国家試験 A問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第115回 A問題 第13問

 ヘモクロマトーシスで認められるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.肝硬変
  2. b.高血圧
  3. c.腎不全
  4. d.糖尿病
  5. e.皮膚色素脱失

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はヘモクロマトーシスの合併症を問う知識問題だ。ポイントは「鉄がどの臓器にたまり、何を壊すか」。まず前提として、ヒトの体はどうやって鉄の量を調節しているか知っているかな。
医学生医学生
腎臓から余分な鉄を尿に出して調節している……と思っていましたが、違いますか。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。ヒトには鉄を能動的に排泄するしくみがほとんどなく、尿中に出る鉄はごくわずか。体内の鉄量は主に十二指腸での吸収量で調節されているんだ。だから吸収の調節が壊れたり、輸血で外から大量に入ったりすると、鉄は行き場を失って臓器にたまり続ける。
医学生医学生
生化学の講義で、ヘプシジンが鉄吸収のブレーキ役だと習いました。
ドクタードクター
その通り。遺伝性ヘモクロマトーシスではHFE遺伝子変異などでヘプシジンの働きが落ち、腸からの鉄吸収が過剰になる。沈着した鉄は活性酸素を生み、細胞を傷害して線維化を進める。では、鉄がたまりやすい臓器を挙げてみよう。
医学生医学生
肝臓が一番に思い浮かびます。あとは膵臓と心臓でしょうか。
ドクタードクター
いいね。肝臓は鉄が最初に、最も多くたまる臓器で、肝細胞障害と星細胞の活性化による線維化が進んで肝硬変に至る。膵臓ではランゲルハンス島のβ細胞が傷害されてインスリン分泌が落ち、糖尿病になる。これに皮膚の色素沈着を加えたのが古典的な三徴で、皮膚が青銅色になり糖尿病を伴うことから「青銅色糖尿病」とよばれるんだ。
医学生医学生
ということは、肝硬変と糖尿病が正解ですね。皮膚は「色素脱失」ではなく「沈着」なので、そこがひっかけですか。
ドクタードクター
まさにそこ。色調の変化は主に表皮基底層のメラニン増加によるもので、真皮へのヘモジデリン沈着も加わる。露光部や外陰部、瘢痕部で目立つ。色素脱失は尋常性白斑などでみる所見で、ちょうど逆なんだ。
医学生医学生
心臓に鉄がたまるなら、高血圧も起こりそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そう考えたくなるけど、心臓への鉄沈着で起こるのは心筋症による心不全や、不整脈・伝導障害だ。血圧を上げる病態ではない。とくに若年発症例や輸血後の鉄過剰症では心病変が目立ち、死因として重要になる。
医学生医学生
腎不全はどうでしょう。腎臓が鉄の処理にあまり関わらないなら、障害もされにくいということですか。
ドクタードクター
いい推論だね。腎臓は鉄沈着で障害されやすい臓器ではなく、腎不全は典型的な合併症ではない。ただし糖尿病を合併して長く経過すれば糖尿病性腎症は起こりうる。それは鉄そのものの障害ではない、という区別をしておこう。
医学生医学生
三徴のほかに出てくる症状はありますか。
ドクタードクター
下垂体への沈着でゴナドトロピン分泌が低下して性腺機能低下症を起こしたり、第2・第3中手指節関節を好む関節症や偽痛風を起こしたりする。国試では「肝・膵・心・皮膚・下垂体・関節」とセットで覚えておくと強いよ。
医学生医学生
診断と治療も気になります。消化器内科の実習で、フェリチンが異常に高い患者さんを見たことがあります。
ドクタードクター
血清フェリチン高値とトランスフェリン飽和度の上昇がスクリーニングの基本で、CTでは肝臓がびまん性に高吸収、MRIでは鉄沈着で信号が低下する。治療は、遺伝性なら瀉血で鉄を抜くのが基本。一方、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などで頻回輸血を受けた輸血後鉄過剰症では、貧血があって瀉血できないから鉄キレート薬を使う。日本ではむしろこちらが大部分を占めるんだ。
医学生医学生
遺伝性は北欧系白人に多くて、日本ではまれと聞きました。だから日本の臨床では輸血後の鉄過剰に目を向けるべきなんですね。
ドクタードクター
その通り。もう一つ、肝硬変を合併した例では肝細胞癌のリスクが大きく上がるので、定期的な画像検査が欠かせない。それから、銅がたまるWilson病と混同しないこと。あちらは角膜のKayser-Fleischer輪や錐体外路症状が特徴だ。
医学生医学生
鉄は出ていかないからたまる、たまった先の肝臓と膵臓と皮膚が壊れる、と筋道で覚えます。

まとめ

ヘモクロマトーシスは、能動的な排泄経路をもたない鉄が過剰に蓄積し、実質臓器に沈着して障害を起こす病態です。古典的三徴は肝硬変・糖尿病・皮膚色素沈着で、「青銅色糖尿病」とよばれ、皮膚は色素「脱失」ではなく「沈着」である点が頻出のひっかけです。ほかに心筋症による心不全・不整脈、下垂体性の性腺機能低下、関節症をきたしますが、高血圧や腎不全は典型的な合併症ではありません。診断はフェリチンとトランスフェリン飽和度の高値が基本で、治療は遺伝性なら瀉血、日本で多い輸血後鉄過剰症では鉄キレート薬を用い、肝硬変例では肝細胞癌に注意します。鉄代謝の基本から臓器障害を筋道立てて理解しておくと、血液内科・消化器内科の両面で役立ちます。

解答・解説

正解はa, dです

ヘモクロマトーシスは、体内に過剰な鉄が蓄積し、それが実質臓器の細胞に沈着して組織障害(線維化・機能不全)を起こす病態である。ヒトには鉄を能動的に排泄するしくみがほとんどなく、体内の鉄量は主に十二指腸での吸収量によって調節されている。そのため、吸収調節が破綻したり(遺伝性)、輸血などで外から大量の鉄が入ったり(続発性)すると、鉄は体外へ出ていかずに臓器へたまり続ける。 鉄が沈着しやすいのは肝臓・膵臓・心臓・皮膚・下垂体・関節などである。古典的には「肝硬変・糖尿病・皮膚色素沈着」が三徴とされ、皮膚が青銅色になり糖尿病を伴うことから「青銅色糖尿病(bronze diabetes)」ともよばれる。 本問では、この三徴を思い出せば肝硬変と糖尿病が選べる。皮膚については「色素脱失」ではなく「色素沈着」である点がひっかけになっている。高血圧や腎不全はヘモクロマトーシスの典型的な合併症ではない。

選択肢考察

  1. ○a.  肝硬変

    肝臓は過剰な鉄が最初に、かつ最も多く蓄積する臓器である。肝細胞内に沈着した鉄はフリーラジカル(活性酸素)の産生を通じて細胞を傷害し、肝星細胞を活性化して線維化を進め、最終的に肝硬変に至る。肝硬変を合併すると肝細胞癌の発生リスクが大きく上昇するため、定期的な画像検査が必要となる。飲酒やウイルス性肝炎の合併は肝障害の進行を早める。

  2. ×b.  高血圧

    高血圧はヘモクロマトーシスの典型的な所見ではない。心臓への鉄沈着によって起こるのは心筋症(初期は拡張障害、進行すると収縮障害を伴う心不全)や不整脈・伝導障害であり、血圧を上昇させる病態ではない。心病変は若年発症例や輸血後鉄過剰症で目立ち、死因として重要である。

  3. ×c.  腎不全

    腎臓はヘモクロマトーシスで障害されやすい臓器ではなく、腎不全は典型的な合併症に含まれない。鉄の尿中への排泄はごくわずかで、腎臓が鉄の処理に大きく関与しないことも一因である。なお、糖尿病を合併して長期経過すれば糖尿病性腎症を起こしうるが、これは鉄沈着そのものによる腎障害ではない。

  4. ○d.  糖尿病

    膵臓、とくにランゲルハンス島のβ細胞に鉄が沈着すると、β細胞が傷害されてインスリン分泌が低下し、糖尿病を発症する。さらに肝硬変によるインスリン抵抗性も耐糖能悪化に加わる。皮膚の色素沈着と合わせて「青銅色糖尿病」とよばれる由来である。進行例ではインスリン治療を要することが多い。

  5. ×e.  皮膚色素脱失

    ヘモクロマトーシスでみられるのは色素「脱失」ではなく色素「沈着」である。皮膚は青銅色〜灰褐色を呈し、露光部や外陰部、瘢痕部などで目立つ。色調の変化は主に表皮基底層のメラニン増加によるもので、真皮へのヘモジデリン沈着も加わる。色素脱失は尋常性白斑などでみられる所見であり、本症とは逆である。

分類

・遺伝性(原発性)ヘモクロマトーシス:HFE遺伝子(とくにC282Y変異)などの異常により、鉄調節ホルモンであるヘプシジンの作用が低下し、腸管からの鉄吸収が過剰になる。常染色体潜性(劣性)遺伝で、北欧系白人に多く、日本人ではまれである。女性は月経・妊娠で鉄を失うため、男性のほうが発症が早く重症になりやすい。 ・続発性ヘモクロマトーシス(鉄過剰症):再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、サラセミアなどに対する頻回輸血、無効造血、慢性肝疾患などに伴う。日本ではこちらが大部分を占める。

鉄が沈着する臓器と症状

・肝臓:肝腫大、肝硬変、肝細胞癌 ・膵臓:糖尿病 ・皮膚:青銅色の色素沈着 ・心臓:心筋症、心不全、不整脈 ・下垂体:ゴナドトロピン分泌低下による性腺機能低下症(性欲低下、無月経など) ・関節:第2・第3中手指節関節を好む関節症、偽痛風(ピロリン酸カルシウム沈着)

診断

・血清フェリチン高値、トランスフェリン飽和度(血清鉄÷総鉄結合能)高値(おおむね45%以上でスクリーニング陽性) ・CTで肝臓のびまん性高吸収、MRIで鉄沈着による信号低下(T2強調像・T2*強調像で低信号) ・肝生検による肝鉄濃度測定、HFE遺伝子検査

治療

・遺伝性:瀉血療法(定期的な採血で鉄を除去)が基本 ・輸血後鉄過剰症:貧血があり瀉血ができないため、鉄キレート薬(デフェラシロクス内服、デフェロキサミン注射)を用いる ・ビタミンC(鉄吸収を促進)サプリメントや鉄剤、飲酒を避ける

類似疾患との区別

ヘモジデローシスは組織に鉄(ヘモジデリン)が沈着しているが臓器障害を伴わない状態を指し、臓器障害を伴うものをヘモクロマトーシスとよぶ。銅が沈着するWilson病(肝障害、角膜のKayser-Fleischer輪、錐体外路症状)と混同しないこと。

POINT

・ヘモクロマトーシスの三徴:肝硬変・糖尿病・皮膚色素沈着(青銅色糖尿病)。 ・ほかに心筋症(心不全・不整脈)、性腺機能低下、関節症を起こす。 ・皮膚は色素「沈着」であり「脱失」ではない。 ・診断はフェリチン・トランスフェリン飽和度高値、治療は瀉血(輸血後鉄過剰症は鉄キレート薬)。 ・肝硬変例は肝細胞癌に注意。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。