StudyMed医師国家試験

脳室のまわりが光るとき―FLAIR像の「分布」で見抜くWernicke脳症

第110回医師国家試験 I問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第22問

意識障害患者の頭部MRIのFLAIR像(A)(B)を別に示す。  最も可能性が高いのはどれか。

第110回 I問題 第22問の問題画像
  1. a.Wernicke脳症
  2. b.一酸化炭素中毒
  3. c.単純ヘルペス脳炎
  4. d.インフルエンザ脳症
  5. e.Creutzfeldt-Jakob病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、意識障害の患者さんの頭部MRIから原因疾患を推定する問題だ。ポイントは「どこに」「どんな形で」病変が出ているか。画像診断では、病変の分布そのものが診断の手がかりになる。まずFLAIR像がどんな画像か、確認しておこうか。
医学生医学生
T2強調像から脳脊髄液の信号を抑えた画像、ですよね。脳室の近くの病変が見やすいと放射線科の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。普通のT2強調像だと脳室の水も病変も白く光ってしまって、脳室に接した病変が埋もれやすい。FLAIRなら脳室は黒く抜けるから、その縁にある病変がくっきり浮かび上がる。今回の画像では、第三脳室を挟んだ両側の視床内側部と、中脳水道のまわりに、左右対称の高信号域がある。
医学生医学生
左右対称ということは、脳梗塞みたいな血管性の病気ではなさそうですね。
ドクタードクター
いい着眼点だね。脳梗塞は基本的に一つの血管の支配域に沿って出るから、こんなにきれいに両側対称にはなりにくい。両側対称の深部病変を見たら、代謝性や中毒性など全身性の原因をまず考える。そのうえで、どの構造が侵されているかで絞り込むんだ。
医学生医学生
第三脳室と中脳水道のまわり……脳室系に沿っているのが特徴的ですね。ビタミンB1欠乏のWernicke脳症でしょうか。
ドクタードクター
正解。Wernicke脳症では第三脳室周囲の視床内側、乳頭体、中脳水道周囲、第四脳室底といった、脳室系を取り囲む部位に対称性の病変が出る。チアミンはピルビン酸脱水素酵素やα-ケトグルタル酸脱水素酵素、トランスケトラーゼの補酵素で、糖からエネルギーを取り出すのに欠かせない。代謝需要の高いこれらの部位が真っ先にダメージを受けるんだ。
医学生医学生
生化学でTCA回路を習ったときに、チアミンピロリン酸が補酵素として出てきたのを思い出しました。ほかの選択肢も分布で区別できるんですか。
ドクタードクター
できるよ。まず一酸化炭素中毒。好発部位はどこだったかな。
医学生医学生
両側の淡蒼球です。国試の頻出事項として覚えました。
ドクタードクター
その通り。視床内側ではなく、レンズ核の内側にある淡蒼球に対称性の病変が出る。さらに数日から数週後に大脳白質の脱髄が起こる遅発性脳症も知っておきたい。次に単純ヘルペス脳炎はどうだろう。
医学生医学生
側頭葉内側や前頭葉眼窩面、島回で、片側優位のことが多いんでしたよね。
ドクタードクター
そう。大脳辺縁系が好きで、しかも左右非対称が多い。今回のような脳室周囲の対称性病変とは違う。インフルエンザ脳症は主に小児で、その一型の急性壊死性脳症では両側視床が侵されるけれど、脳幹被蓋や小脳、大脳白質にも広がり、視床は浮腫や出血で腫れて内部が不均一になることが多い。
医学生医学生
視床という点では少し迷いそうです。Creutzfeldt-Jakob病はどうでしょう。
ドクタードクター
Creutzfeldt-Jakob病は拡散強調像で大脳皮質に沿ったリボン状の高信号や、尾状核・被殻の高信号が早期から出るのが特徴だ。急速進行性の認知症、ミオクローヌス、脳波の周期性同期性放電がセット。視床枕が光るpulvinar signは変異型の所見だね。どれも今回の分布とは合わない。
医学生医学生
淡蒼球なら一酸化炭素、側頭葉内側ならヘルペス、皮質リボンならCJD、脳室周囲ならWernicke、という対応で整理できますね。
ドクタードクター
よくまとまった。臨床で大事なのは治療だ。Wernicke脳症を疑ったら、ビタミンB1の血中濃度の結果を待たずにチアミンを静注する。特に注意したいのが、ブドウ糖を投与するときはチアミンを先に、少なくとも同時に入れること。
医学生医学生
救急外来の実習で、アルコール多飲の意識障害の方にまずビタミンB1を入れていたのはそのためだったんですね。ブドウ糖を先に入れると何がまずいんですか。
ドクタードクター
糖の代謝でチアミンが一気に消費されて、症状が悪化しうるからだ。それから、原因はアルコールだけじゃない。妊娠悪阻、消化管術後、ビタミンB1を含まない高カロリー輸液、長期透析、悪性腫瘍なども背景になる。古典的三徴の意識障害・眼球運動障害・小脳性運動失調がそろうのは一部だから、三徴にこだわらず疑うことが大切だ。
医学生医学生
治療が遅れるとKorsakoff症候群に移行するんですよね。
ドクタードクター
そう。記銘力障害、作話、失見当識が残り、乳頭体や視床背内側核の障害が後遺する。早く気づいて早く補充すれば防げる可能性がある病気だからこそ、画像と背景の両方から見逃さないようにしよう。

まとめ

Wernicke脳症はビタミンB1(チアミン)欠乏によって生じ、MRIのT2強調像・FLAIR像で第三脳室周囲の視床内側、乳頭体、中脳水道周囲、第四脳室底などに左右対称の高信号を示すのが特徴です。両側対称の深部病変では全身性の原因を考え、淡蒼球なら一酸化炭素中毒、側頭葉内側や島回なら単純ヘルペス脳炎、両側視床に加え脳幹・小脳・白質なら急性壊死性脳症、皮質リボン状や線条体ならCreutzfeldt-Jakob病と、分布で鑑別を進めます。原因はアルコール多飲のほか妊娠悪阻、消化管術後、ビタミンB1を含まない輸液なども重要で、三徴がそろわない例も多いため背景から疑うことが欠かせません。疑った時点で結果を待たずにチアミンを静注し、ブドウ糖はチアミンより先に投与しないことが原則です。治療の遅れはKorsakoff症候群につながるため、画像の分布と臨床背景を結びつけて早期に気づく力が求められます。

解答・解説

正解はaです

画像所見の整理

FLAIR(fluid-attenuated inversion recovery)像は、脳脊髄液の信号を抑えたT2強調画像であり、脳室や脳表に接する病変の高信号を見つけやすい。本例では、第三脳室を挟む両側視床内側部、および中脳水道の周囲(中脳被蓋・四丘体付近)に、左右対称性の高信号域がみられる。乳頭体周囲にも同様の変化がうかがえる。

診断へのプロセス

意識障害を伴い、脳の深部に両側対称性の病変があるときは、頻度の高い脳血管障害(通常は一側の血管支配域に一致する)よりも、代謝性・中毒性・感染後性などの全身性の原因を考える。そのうえで病変の「分布」が鑑別の鍵となる。 ・第三脳室周囲(視床内側)、中脳水道周囲、乳頭体、第四脳室底 → Wernicke脳症 ・両側淡蒼球 → 一酸化炭素中毒 ・側頭葉内側・前頭葉眼窩面・島回(片側優位が多い) → 単純ヘルペス脳炎 ・両側視床に加え脳幹被蓋、小脳歯状核、大脳白質など → 急性壊死性脳症(インフルエンザ脳症の一型) ・大脳皮質に沿ったリボン状、尾状核・被殻 → Creutzfeldt-Jakob病(拡散強調画像で目立つ) 本例は第三脳室・中脳水道周囲という脳室系に沿った対称性病変であり、Wernicke脳症に典型的な分布である。Wernicke脳症はビタミンB1(チアミン)欠乏で生じ、意識障害(意識混濁・せん妄)、眼球運動障害(外眼筋麻痺・眼振)、小脳性運動失調が古典的三徴である(三徴がそろうのは一部の症例にとどまる)。

選択肢考察

  1. ○a.  Wernicke脳症

    チアミンはピルビン酸脱水素酵素、α-ケトグルタル酸脱水素酵素、トランスケトラーゼの補酵素(チアミンピロリン酸)としてグルコースのエネルギー代謝に必須である。代謝需要の高い第三脳室・中脳水道・第四脳室の周囲(視床内側、乳頭体、中脳被蓋、四丘体、脳弓など)はチアミン欠乏の影響を受けやすく、急性期にはこれらがT2強調像・FLAIR像で左右対称の高信号を示す。本画像の分布はこれに一致する。原因はアルコール多飲のほか、妊娠悪阻や消化管術後などによる摂取・吸収不良、ビタミンB1を含まない高カロリー輸液、長期透析、悪性腫瘍などである。疑えば直ちにチアミンを静注し、ブドウ糖を投与する場合はチアミンを先に(少なくとも同時に)与える。ブドウ糖を先に入れるとチアミンが消費されて症状が悪化しうるためである。治療が遅れると記銘力障害・作話・失見当識を特徴とするKorsakoff症候群に移行し、乳頭体や視床背内側核の障害が後遺する。

  2. ×b.  一酸化炭素中毒

    一酸化炭素はヘモグロビンに対して酸素の200〜250倍程度の親和性をもち、組織の低酸素を引き起こす。さらにシトクロム酸化酵素の阻害なども加わり、とくに両側淡蒼球に壊死が起こりやすい。MRIでは両側淡蒼球の左右対称性のT2強調像高信号が特徴である。急性期を脱した数日〜数週後に、大脳深部白質のびまん性脱髄による遅発性脳症(間欠型一酸化炭素中毒)を生じることもあり、その際は白質に広範な高信号がみられる。本例のような視床内側・中脳水道周囲の分布ではない。

  3. ×c.  単純ヘルペス脳炎

    単純ヘルペスウイルス1型による脳炎は、大脳辺縁系、とくに側頭葉内側(海馬・扁桃体)、前頭葉眼窩面、島回を侵しやすく、片側優位あるいは左右非対称に分布することが多い。MRIではこれらの部位にT2強調像・FLAIR像・拡散強調像で高信号を認め、出血性壊死を伴うこともある。発熱、頭痛、意識障害、けいれん、異常行動を呈し、髄液PCRでウイルスDNAを検出して診断する。致死率が高いため、疑った時点でアシクロビルを開始する。視床内側・中脳水道周囲の対称性病変は典型的でない。

  4. ×d.  インフルエンザ脳症

    インフルエンザ脳症は主に小児にみられ、発熱後早期に意識障害やけいれんをきたす。画像所見は多様で、びまん性脳浮腫、二相性けいれんと遅発性拡散能低下を呈する急性脳症(AESD)、可逆性脳梁膨大部病変を伴う軽症脳炎・脳症(MERS)、急性壊死性脳症(ANE)などがある。ANEでは両側視床に対称性の病変を生じ、脳幹被蓋、小脳歯状核、大脳白質などにも病変が及ぶ。視床病変は浮腫・出血を伴って腫大し、内部が不均一になることが多い。本例は第三脳室・中脳水道に沿った分布であり、Wernicke脳症の典型像とみるのが妥当である。

  5. ×e.  Creutzfeldt-Jakob病

    Creutzfeldt-Jakob病は異常プリオン蛋白の蓄積による致死性の神経変性疾患で、急速進行性の認知症とミオクローヌスを特徴とし、脳波で周期性同期性放電(PSD)を認める。MRIでは拡散強調像で大脳皮質に沿ったリボン状の高信号(cortical ribboning)や、尾状核・被殻の高信号が早期から出現する。視床枕・視床背内側に高信号を示すのは変異型Creutzfeldt-Jakob病(pulvinar sign)である。病期が進むと急速にびまん性脳萎縮と脳室拡大をきたす。本例の分布とは合わない。

Wernicke脳症の要点

・原因:ビタミンB1(チアミン)欠乏。体内貯蔵量が少なく、摂取不足が数週間続くと欠乏しうる。 ・背景:アルコール依存症、妊娠悪阻、消化管手術後、ビタミンB1を含まない輸液、長期透析、悪性腫瘍、神経性やせ症など。 ・症状:意識障害、眼球運動障害(外転神経麻痺・眼振・注視麻痺)、小脳性運動失調の三徴。 ・画像:第三脳室周囲(視床内側)、乳頭体、中脳水道周囲、四丘体、第四脳室底にT2強調像・FLAIR像で対称性高信号。急性期には造影効果を示すことがある。慢性期には乳頭体萎縮。 ・検査:血中ビタミンB1低値(結果を待たずに治療する)。 ・治療:チアミンの大量静注。ブドウ糖投与前にチアミンを投与する。 ・後遺症:Korsakoff症候群(前向性・逆向性健忘、作話、失見当識)。

ビタミンB1欠乏の他の病態

・脚気(末梢神経障害、高拍出性心不全) ・乳酸アシドーシス(ピルビン酸がTCA回路に入れず乳酸に流れる)

両側対称性の深部病変を示す主な疾患

・淡蒼球:一酸化炭素中毒 ・被殻・尾状核:Creutzfeldt-Jakob病、低血糖、低酸素脳症、Wilson病 ・視床:Wernicke脳症(内側)、急性壊死性脳症、深部静脈洞血栓症、変異型Creutzfeldt-Jakob病(視床枕) ・淡蒼球(T1高信号):肝性脳症、マンガン沈着

POINT

・第三脳室周囲(視床内側)・乳頭体・中脳水道周囲の対称性T2/FLAIR高信号 → Wernicke脳症。 ・原因はビタミンB1欠乏(アルコール多飲、妊娠悪阻、B1を含まない輸液など)。三徴は意識障害・眼球運動障害・運動失調。 ・ブドウ糖より先にビタミンB1を投与する。放置するとKorsakoff症候群へ移行。 ・鑑別:淡蒼球=一酸化炭素中毒、側頭葉内側=単純ヘルペス脳炎、両側視床+脳幹・小脳=急性壊死性脳症、皮質リボン状・線条体=Creutzfeldt-Jakob病。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。