側脳室の壁に潜む灰白質―尾状核が消えていく病気を見抜け
第110回医師国家試験 I問題 第21問
国試問題にチャレンジ
正常脳の大脳半球冠状断の髄鞘染色〈Klüver-Barrera染色〉標本を別に示す。 矢印で示す部位が最も障害される疾患はどれか。

- a.Parkinson病
- b.Huntington病
- c.脳血管性認知症
- d.Lewy小体型認知症
- e.Alzheimer型認知症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Klüver-Barrera染色では髄鞘が青く、神経細胞体が紫に染まり、冠状断で側脳室前角の外側壁をなし内包前脚に外側を接する灰白質が尾状核(頭部)です。尾状核が最も強く障害されるのはHuntington病で、線条体の中型有棘神経細胞が選択的に脱落し、画像では尾状核頭部萎縮による側脳室前角の外側への拡大がみられます。Parkinson病は黒質のドパミン神経が脱落して線条体自体は保たれ、Alzheimer型認知症は海馬・側頭葉内側と頭頂葉、Lewy小体型認知症は大脳皮質へのLewy小体出現が主病変であり、脳血管性認知症は病変分布が多様です。Huntington病はHTT遺伝子のCAGリピート伸長による常染色体顕性遺伝疾患で、舞踏運動・精神症状・認知症を呈し、発症前診断には遺伝カウンセリングが不可欠です。脳の正常解剖と各疾患の主病変部位を対応づけて理解することが、画像診断や神経病理の問題を解く確かな土台になります。
解答・解説
正解はbです
標本の読み方
Klüver-Barrera(KB)染色は、ルクソール・ファスト・ブルーで髄鞘を青く、クレシル紫(Nissl染色)で神経細胞体を紫に染める方法である。髄鞘の豊富な白質(内包・脳梁・半卵円中心など)は濃い青に、神経細胞の多い灰白質(大脳皮質・基底核など)は淡く染まる。 大脳半球の冠状断で、側脳室前角の外側壁に沿って脳室内に膨らむように位置し、外側を内包前脚の白質で境される灰白質の塊が尾状核(とくに尾状核頭部)である。矢印はこの尾状核を指している。尾状核は被殻とともに線条体を構成し、大脳基底核回路の入力部として運動の調節や認知・情動機能に関わる。
設問の考え方
尾状核が最も強く障害される代表的疾患はHuntington病である。Huntington病では線条体の中型有棘神経細胞(GABA作動性)が選択的に脱落し、とりわけ尾状核頭部の萎縮が目立つ。その結果、画像では側脳室前角が外側に丸く拡大する(いわゆるbox-car型)。他の選択肢の疾患は、主な病変部位がそれぞれ黒質、大脳皮質・海馬、血管支配領域・白質などであり、尾状核が選択的かつ最も強く障害されることはない。
選択肢考察
- ×a. Parkinson病
Parkinson病の主病変は中脳黒質緻密部である。メラニンを含むドパミン神経細胞が脱落し、残存細胞にはLewy小体(α-シヌクレインを主成分とする封入体)が出現する。黒質から線条体へ投射するドパミン神経が減るため線条体の機能は低下するが、線条体(尾状核・被殻)の神経細胞そのものは保たれ、萎縮はみられないか加齢相応にとどまる。肉眼的には中脳黒質の脱色素が特徴である。
- ○b. Huntington病
Huntington病は第4染色体短腕のHTT遺伝子でCAGリピートが異常伸長する常染色体顕性(優性)遺伝のポリグルタミン病である。父親から伝わる場合に世代を経てリピートが伸び、発症が早まる表現促進現象がみられる。病理学的には線条体の中型有棘神経細胞が選択的に脱落し、尾状核、とくに尾状核頭部の萎縮が最も顕著となる。大脳皮質(前頭葉など)にも萎縮が及ぶ。尾状核頭部の萎縮によって側脳室前角が外側へ丸く拡大する所見がCTやMRIで確認できる。臨床的には舞踏運動、性格変化・精神症状、認知機能低下を三徴とする。したがって矢印の部位(尾状核)が最も障害される疾患として正しい。
- ×c. 脳血管性認知症
脳血管性認知症は脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって生じる認知症である。病変分布は原因によって異なり、多発性の皮質梗塞、認知機能に重要な部位(視床・海馬など)の単一梗塞、深部白質や脳室周囲のびまん性虚血性変化(Binswanger型)、基底核などの多発ラクナ梗塞などがある。基底核に梗塞が生じることはあるが、尾状核が選択的に最も強く障害される疾患ではない。
- ×d. Lewy小体型認知症
Lewy小体型認知症は、Lewy小体が脳幹だけでなく大脳皮質(辺縁系・新皮質)に広く出現する疾患である。認知機能の変動、具体的で繰り返す幻視、レム睡眠行動異常症、パーキンソニズムを中核的特徴とする。画像ではドパミントランスポーターシンチグラフィ(DaTscan)で線条体への集積低下、脳血流SPECTやFDG-PETで後頭葉の血流・代謝低下、MIBG心筋シンチグラフィで心臓への集積低下がみられる。線条体での集積低下は黒質からのドパミン神経終末の減少を反映するもので、尾状核自体の神経細胞脱落・萎縮によるものではない。大脳の萎縮は一般に軽度で、Alzheimer型認知症に比べ海馬は比較的保たれる。
- ×e. Alzheimer型認知症
Alzheimer型認知症では、アミロイドβの沈着による老人斑とリン酸化タウからなる神経原線維変化が出現し、神経細胞が脱落する。萎縮は海馬・海馬傍回を含む側頭葉内側から始まり、頭頂葉・側頭葉など大脳皮質へ広がる。脳血流SPECTでは早期から後部帯状回・楔前部、頭頂側頭葉の血流低下がみられる。基底核、特に尾状核は比較的保たれる。
大脳基底核の構成
・線条体:尾状核+被殻(発生学的・機能的に一体で、内包によって隔てられる) ・レンズ核:被殻+淡蒼球 ・その他:視床下核、黒質(機能的に基底核回路に含める)
代表的疾患と主な病変部位
・Parkinson病:中脳黒質緻密部(ドパミン神経) ・Huntington病:線条体(とくに尾状核頭部) ・ヘミバリスム:視床下核(多くは対側の血管障害) ・Wilson病:レンズ核(被殻)などに銅が沈着 ・進行性核上性麻痺:中脳被蓋(MRIで中脳被蓋の萎縮、いわゆるハミングバードサイン)、淡蒼球、視床下核など ・多系統萎縮症:被殻、橋、小脳など(MRIで橋の十字サイン) ・Alzheimer型認知症:海馬・側頭葉内側、頭頂葉皮質
Huntington病の要点
・遺伝形式:常染色体顕性(優性)、HTT遺伝子のCAGリピート伸長(トリプレットリピート病) ・表現促進現象:父親由来で顕著 ・症状:舞踏運動、精神症状(易怒性・抑うつなど)、認知症 ・画像:尾状核頭部の萎縮、側脳室前角の外側への拡大 ・治療:根治療法はなく、舞踏運動にはテトラベナジン(VMAT2阻害薬)などを用いる。発症前遺伝子診断には十分な遺伝カウンセリングが必要である。
POINT
・冠状断で側脳室前角の外側壁をなす灰白質は尾状核である。 ・尾状核(線条体)が最も強く萎縮するのはHuntington病。画像では側脳室前角が外側へ丸く拡大する。 ・Parkinson病は黒質、Alzheimer型認知症は海馬・側頭葉内側と頭頂葉、Lewy小体型認知症は大脳皮質へのLewy小体出現(萎縮は軽度、後頭葉の血流低下)。
