StudyMed医師国家試験

「下痢をしている」は事実、「腸炎が疑われる」は判断―SOAPで読み解く診療録の論理

第110回医師国家試験 H問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第110回 H問題 第28問

74歳の女性。下痢と口渇とを主訴に来院した。昨夜から水様便が5回あった。同居している夫も2日前から下痢をしているという。食欲が低下し水分も十分とれないため入院治療を開始した。口腔内は乾燥し,心窩部と左下腹部とに軽い圧痛を認める。  入院診療録の問題指向型医療記録〈POMR〉においてassessment〈評価〉の記載に該当するのはどれか。

  1. a.「整腸薬を処方する」
  2. b.「腹部に圧痛を認める」
  3. c.「昨夜から下痢をしている」
  4. d.「細胞外液の点滴静注を行う」
  5. e.「ウイルス性の急性腸炎が疑われる」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は症例そのものより、診療録の書き方を問う問題だ。問題指向型医療記録、いわゆるPOMRの経過記録はSOAPの4項目で書く。5つの記載が、S・O・A・Pのどこに入るかを仕分けられるかがポイントだよ。
医学生医学生
SOAPはOSCEの医療面接の練習で聞きました。Sが主観的情報、Oが客観的情報、Aが評価、Pが計画ですよね。
ドクタードクター
その通り。言い換えると、Sは患者さんや家族が語った内容、Oは医療者が診察や検査で確かめた事実、AはSとOを踏まえて医療者が下した判断、Pはこれから何をするか、だ。では「昨夜から下痢をしている」はどこかな。
医学生医学生
患者さんが話したことなのでSです。でも下痢は誰が見ても客観的な症状なので、Oにも思えてしまって少し迷います。
ドクタードクター
いい迷いだね。基準は情報の出どころなんだ。患者さんの訴えとして聞き取った経過ならS。看護師が便の性状を直接観察したり、排便回数を記録で確認したりしたのならOとして書くこともある。今回は患者さんの申告なのでSでいい。同居の夫も下痢をしているという情報もSに入る。
医学生医学生
では「腹部に圧痛を認める」は、医師が触診で確かめた所見なのでOですね。
ドクタードクター
そう。大事なのは、この記載が圧痛があるという事実を述べているだけで、それが何を意味するかには踏み込んでいない点だ。意味づけを加えた瞬間に、それはAの領域になる。
医学生医学生
なるほど。そうすると「ウイルス性の急性腸炎が疑われる」が、Sの経過やOの所見を総合して導いた判断なのでAですね。
ドクタードクター
正解。急性の水様性下痢、同居家族にも同じ症状、口腔内乾燥や腹部圧痛といった情報を組み合わせて、家庭内で広がったウイルス性腸炎、たとえばノロウイルスなどを考えた、という思考の結果がassessmentだ。
医学生医学生
でも「疑われる」だけで確定していないのに、評価として書いていいんですか。
ドクタードクター
むしろそれがAの典型なんだ。Aには確定診断だけでなく、疑い診断、鑑別診断、重症度、治療効果の判定、予後の見通しなど、医療者の考察を書く。今回なら「ウイルス性腸炎疑い」に加えて「経口摂取不良による脱水」という評価も並ぶだろうね。
医学生医学生
残りの「整腸薬を処方する」と「細胞外液の点滴静注を行う」は、どちらもこれからやることなのでPですね。
ドクタードクター
その通り。点滴は脱水という評価があるからこそ立つ計画で、整腸薬は腸炎の評価に基づく計画だ。AとPは必ず対応している。高齢者は脱水に陥りやすいから、経口で水分がとれなければ細胞外液補充液を点滴する、という流れも臨床では大切だよ。
医学生医学生
臨床実習でカルテを書いたとき、指導医に「Aが所見の羅列になっている」と指摘されたのを思い出しました。
ドクタードクター
学生さんがよくつまずく点だね。Aに「腹痛あり、下痢あり」と書いてしまうと、それはSやOの繰り返しで、考察になっていない。逆にSやOに自分の解釈を混ぜると、事実と判断の境界がぼやけて、ほかの医療者が記録を検証できなくなる。
医学生医学生
POMRはそもそも、誰が読んでも診療の論理がたどれるように作られた記録法なんですよね。
ドクタードクター
そう。1960年代に米国のWeedが提唱したもので、基礎データ、問題リスト、初期計画、経過記録、退院時要約から成る。問題リストには確定診断でなくても、症状や異常所見、心理社会的な問題も番号を付けて挙げる。初期計画は診断計画、治療計画、患者教育計画に分けて立てるんだ。
医学生医学生
今回の患者さんなら、教育計画として家族への手洗い指導なども入りそうですね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。ノロウイルスなどは吐物や便を介して広がるから、手指衛生や接触予防策の説明はPの患者教育計画にあたる。病棟内での感染対策も忘れてはいけない。事実と判断を分けて書き、判断に計画を対応させる。この習慣が、チーム医療の質と安全を支えているんだ。

まとめ

POMRの経過記録はSOAP形式で記載し、Sは患者・家族が語った症状や経過、Oは診察や検査で医療者が確認した所見、AはSとOを解釈して導いた判断、Pは検査・治療・教育の計画を記します。「昨夜から下痢をしている」はS、「腹部に圧痛を認める」はO、「整腸薬を処方する」「細胞外液の点滴静注を行う」はPにあたり、「ウイルス性の急性腸炎が疑われる」が医療者の判断としてAに該当します。Aには確定診断だけでなく、疑い診断・鑑別診断・重症度・予後の見通しも含まれ、AとPは対応関係にあるのが基本です。POMRはWeedが提唱した記録法で、基礎データ・問題リスト・初期計画・経過記録・退院時要約から構成されます。事実と判断を区別して記録する姿勢は、診療の論理を共有し検証できるようにするための、臨床実習から続く基本技能です。

解答・解説

正解はeです

症例の整理

・74歳女性。主訴は下痢と口渇 ・前夜から水様便が5回、同居の夫も2日前から下痢 → 家庭内で感染が広がった可能性があり、感染性腸炎(特にノロウイルスなどのウイルス性)を疑う経過 ・食欲低下と水分摂取不良、口腔内乾燥 → 脱水を来している ・心窩部と左下腹部に軽い圧痛 このような情報を、問題指向型医療記録〈POMR:problem-oriented medical record〉ではSOAPの4項目に分けて記載する。

SOAPの区分

・S(subjective:主観的情報):患者や家族が語った内容。症状、経過、既往歴、生活歴、家族の状況など(例:「昨夜から下痢をしている」「夫も下痢をしている」「のどが渇く」) ・O(objective:客観的情報):医療者が観察・測定した事実。身体診察所見、バイタルサイン、検査結果など(例:口腔内乾燥、腹部圧痛) ・A(assessment:評価):SとOをもとに医療者が下した判断。病態の解釈、診断・鑑別診断、重症度、予後の見通し、問題点の整理など ・P(plan:計画):今後の方針。検査計画、治療計画、患者・家族への説明や教育の計画

設問への考え方

各選択肢が「患者が述べた事実」「医療者が確認した事実」「医療者の判断」「これから行うこと」のどれにあたるかを判別すればよい。assessmentは、事実そのものではなく、事実を解釈して導いた判断(疑い診断を含む)である。

選択肢考察

  1. ×a.  「整腸薬を処方する」

    これから行う薬物治療の内容であり、P(plan)の治療計画に該当する。assessmentで下した判断(感染性腸炎の疑い)に基づいて決められる対応である。

  2. ×b.  「腹部に圧痛を認める」

    医師が腹部を触診して確認した身体所見であり、O(objective:客観的情報)に該当する。圧痛の存在という事実を述べたものであって、その意味づけ(腸炎による所見か、他疾患を示唆するか)は含まれていない。

  3. ×c.  「昨夜から下痢をしている」

    患者本人が語った症状とその経過であり、S(subjective:主観的情報)に該当する。症状の性状・発症時期・回数などを患者の訴えに沿って記載する部分である。なお、便の性状を医療者が直接観察した場合や排便回数を記録で確認した場合は、O(客観的情報)として記載することもある。

  4. ×d.  「細胞外液の点滴静注を行う」

    脱水の補正のために行う輸液療法の内容であり、P(plan)の治療計画に該当する。口渇・口腔内乾燥・経口摂取不良から脱水と評価(A)したうえで立てる計画である。

  5. ○e.  「ウイルス性の急性腸炎が疑われる」

    急性の水様性下痢(S)、同居家族の同様の症状(S)、腹部圧痛(O)などの情報を総合して医師が導いた診断上の判断であり、A(assessment:評価)に該当する。確定診断でなく「疑い」の段階であっても、病態の解釈や鑑別診断はassessmentに記載する。

POMR(問題指向型医療記録)

1960年代に米国のWeedが提唱した診療記録の方式で、患者の抱える問題(problem)ごとに情報を整理し、診療の論理過程を誰が読んでもわかるように記録することを目的とする。POS(problem-oriented system:問題指向型システム)を実践するための記録法である。

POMRの構成

1. 基礎データ(data base):主訴、現病歴、既往歴、家族歴、生活歴、身体所見、検査所見など 2. 問題リスト(problem list):基礎データから抽出した問題点に番号を付けて列挙したもの。診断名が確定していなくても、症状や異常所見、心理的・社会的問題もリストに含める 3. 初期計画(initial plan):問題ごとに、診断計画(Dx)、治療計画(Tx)、患者教育計画(Ex)を立てる 4. 経過記録(progress note):問題ごとにSOAP形式で記載する 5. 退院時要約(discharge summary) さらに記録を見直して監査(audit)し、診療内容を修正・改善していく過程も含まれる。

SOAP記載の注意点

・S:患者の言葉をできるだけそのまま、時間経過に沿って記載する。いつから、どこが、どのように、何をきっかけに、どう変化したかを押さえる ・O:身体所見、バイタルサイン、検査値、画像所見などの客観的事実を記載する ・A:S・Oの解釈、診断・鑑別診断、重症度、治療効果の判定、予後の見通しなど医療者の考察を記載する ・P:検査(Dx)、治療(Tx)、説明・指導(Ex)に分けて具体的に記載する

本症例の医学的背景

家族内発生を伴う急性の水様性下痢では、ノロウイルスなどのウイルス性胃腸炎が代表的である。高齢者は脱水に陥りやすく、経口摂取が困難な場合は細胞外液補充液による輸液を行う。吐物や便を介して感染が広がるため、手指衛生や接触予防策も重要となる。

POINT

・POMRの経過記録はSOAP形式で記載する。 ・S:患者が語った症状・経過(例:「昨夜から下痢をしている」) ・O:診察・検査で得た客観的所見(例:「腹部に圧痛を認める」) ・A:S・Oを解釈した医療者の判断・診断・鑑別診断(例:「ウイルス性の急性腸炎が疑われる」) ・P:検査・治療・教育の計画(例:「整腸薬を処方する」「細胞外液の点滴静注を行う」) ・疑い診断の段階でもassessmentに記載する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。