StudyMed医師国家試験

熱がなくても重症―炎天下の「こむら返り」と乏尿に必要な一本の点滴

第110回医師国家試験 H問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第110回 H問題 第29問

56歳の男性。四肢の筋けいれんを主訴に来院した。炎天下で道路工事をしていた。午後になり,気分不快とふらつきが出現し,四肢に筋けいれんが生じるようになってきたため同僚に付き添われて受診した。朝から尿が出ていないという。意識レベルはJCSⅠ-2。体温37.2℃。脈拍100/分,整。血圧104/70 mmHg。呼吸数18/分。皮膚,口腔粘膜,舌および腋窩は乾燥している。頸静脈の虚脱を認める。血液生化学所見:総蛋白8.3 g/dL,アルブミン4.5 g/dL,血糖98 mg/dL,尿素窒素46 mg/dL,クレアチニン2.0 mg/dL,尿酸7.8 mg/dL,Na 138 mEq/L,K 4.8 mEq/L,Cl 98 mEq/L。  治療として適切なのはどれか。

  1. a.血液透析
  2. b.ドパミン投与
  3. c.フロセミド投与
  4. d.生理食塩液点滴
  5. e.重炭酸ナトリウム投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は炎天下の労作中に起きた体調不良から、病態をつかんで治療を選ぶ問題だ。注目してほしいのは、身体所見と検査値が「体の中で何が足りなくなっているか」を一貫して示している点。まずは何が起きていると考えるかな。
医学生医学生
夏の屋外作業で筋けいれんとふらつきなので熱中症だと思います。でも体温が37.2℃なので、軽症の熱けいれんくらいでしょうか。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴。熱中症の重症度は体温だけでは決まらない。日本救急医学会の分類では、めまいや筋けいれんだけで意識障害がなければI度だけれど、JCS 2以上の意識障害や肝・腎機能障害があればIII度、つまり重症だ。この患者さんは見当識障害があり、腎機能も悪化しているね。
医学生医学生
JCS I-2なのでIII度に当てはまるんですね。救急の講義で「熱が高くないから大丈夫と思うな」と言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
その通り。では病態の中心は何だろう。皮膚や口腔粘膜、腋窩の乾燥、頸静脈の虚脱、頻脈、それに尿が出ていないこと。これらは何を意味している?
医学生医学生
全部、細胞外液、特に循環血液量が減っているサインですね。大量に汗をかいて脱水になったということでしょうか。
ドクタードクター
そう。検査値も同じことを語っている。総蛋白やアルブミン、尿酸が高めなのは血液が濃縮しているからだ。そしてBUNとクレアチニンの比が20を超えている。これは何を示唆するかな。
医学生医学生
BUN/Cr比が20以上なら腎前性ですね。腎臓そのものが壊れたのではなく、腎臓に流れる血液が足りない状態です。
ドクタードクター
正解。ではNaはどう読む?
医学生医学生
138 mEq/Lで正常なので、水とNaが同じくらい失われた等張性脱水ですね。ただ、浸透圧を計算すると少し高くなりそうで、高張性かとも思いました。
ドクタードクター
鋭いね。計算上の血漿浸透圧が高めなのはBUNが上がっているせいなんだ。尿素は細胞膜を自由に通るので、細胞内外の水の移動には関与しない。脱水の型は血清Naで判断するのが基本で、今回は等張性脱水と考えていい。汗で水と塩分をまとめて失い、筋けいれんはその電解質不足による筋の異常収縮と考えられる。
医学生医学生
それなら治療は、Na濃度が細胞外液に近い生理食塩液の点滴ですね。
ドクタードクター
その通り。生理食塩液や乳酸リンゲル液などの細胞外液補充液で循環血液量を戻せば、腎血流と脳血流が回復して、尿量、腎機能、意識の改善が期待できる。意識障害があるから経口補水は誤嚥の危険があるし、補う量も多いので静脈内投与が適切だ。では他の選択肢を確認しよう。尿が出ていないなら血液透析、という発想はどうかな。
医学生医学生
クレアチニンが2.0もあるので一瞬考えましたが、腎前性なら輸液で戻る可能性が高いですよね。
ドクタードクター
そう。緊急透析の適応は、治療抵抗性の高K血症、重度の代謝性アシドーシス、溢水による肺水腫、尿毒症症状などだ。Kも4.8で、今は適応がない。十分輸液しても乏尿が続き、合併症が出てきたら検討する。
医学生医学生
フロセミドで尿を出すのも違いますね。脱水なのに利尿薬を使ったら、さらに体液が減ってしまいます。
ドクタードクター
その通りで、脱水状態での利尿薬は禁忌と考えていい。利尿薬は体液過剰のときの薬だ。ドパミンも同じ考え方で、血圧は保たれているし、体液が足りないまま血管を締めても原因は解決しない。腎保護目的の低用量ドパミンも有効性が示されず、今は推奨されていない。
医学生医学生
重炭酸ナトリウムは、アシドーシスがあるかもしれないから、という発想でしょうか。
ドクタードクター
そうだね。ただ血液ガスが示されておらず、アシドーシスは確認できない。仮に循環不全で乳酸アシドーシスがあっても、輸液で循環を戻せば多くは改善する。安易な投与はNa負荷やアルカローシス、低K血症を招くおそれがある。
医学生医学生
どの選択肢も、結局は体液を戻すことが先、という一点に集約されるんですね。
ドクタードクター
まさにそこが核心だ。臨床での注意点も押さえておこう。熱中症では横紋筋融解症を合併することがあるので、CKやミオグロビン尿の確認が必要だ。腎前性の状態が長引くと急性尿細管壊死へ移行し、輸液でも戻らなくなる。体温が高ければ積極的な冷却も並行して行う。2024年の改訂では、深部体温40℃以上かつGCS 8以下の最重症例をIV度として区別するようになった。
医学生医学生
腎前性かどうかは、尿中Naやナトリウム排泄分画でも確かめられますよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。尿中Na 20 mEq/L未満、FENa 1%未満なら腎前性を支持する。輸液を始めたら、血圧、脈拍、尿量、意識、腎機能の推移を追って、治療に反応しているかを確認することが大切だよ。

まとめ

炎天下の労作後に筋けいれんやふらつきを来し、皮膚・粘膜の乾燥、頸静脈の虚脱、頻脈、乏尿、血液濃縮を認める場合は、発汗による細胞外液量減少を中心とした熱中症を考えます。意識障害(JCS 2以上)や腎機能障害を伴えば、体温が高くなくてもIII度(重症)として入院加療が必要です。BUN/Cr比20超は腎前性腎障害を示唆し、血清Naが正常なら等張性脱水であるため、生理食塩液などの細胞外液補充液の点滴静注が治療の基本となります。脱水状態での利尿薬は禁忌であり、昇圧薬や透析、重炭酸ナトリウムも輸液に優先しません。病態を体液量の視点で読み解き、原因に直接働きかける治療を選ぶ考え方は、熱中症に限らず脱水や急性腎障害の診療全般に通じる基本です。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・56歳男性。炎天下での道路工事中に、気分不快、ふらつき、四肢の筋けいれん(いわゆる「こむら返り」)が出現した → 高温環境での労作であり、熱中症を考える状況 ・朝から尿が出ていない → 乏尿〜無尿 ・意識レベルJCS I-2(意識はあるが見当識障害がある)、脈拍100/分(頻脈)、血圧104/70 mmHg(やや低め) ・皮膚・口腔粘膜・舌・腋窩の乾燥、頸静脈の虚脱 → 細胞外液量(循環血液量)の減少を示す身体所見 ・体温37.2℃ → 高体温は目立たない

検査所見の読み方

・総蛋白8.3 g/dL、アルブミン4.5 g/dL、尿酸7.8 mg/dL:いずれも高めで、血液濃縮を示す ・尿素窒素(BUN)46 mg/dL、クレアチニン(Cr)2.0 mg/dL:腎機能が低下している。BUN/Cr比は23と20を超えており、腎血流量の低下による腎前性の急性腎障害(AKI)を示唆する ・Na 138 mEq/L:正常範囲 → 水とNaがほぼ等しい割合で失われた等張性脱水 ・K 4.8 mEq/L:正常上限付近で、高K血症には至っていない ・血糖98 mg/dL:正常

診断

高温環境下の労作で大量に発汗し、水分とNa(塩分)を失った結果、細胞外液量が減少した熱中症である。筋けいれんは、汗で失われた電解質の不足による筋の異常収縮と考えられる。日本救急医学会の熱中症の重症度分類に当てはめると、筋けいれんやふらつきだけでなく、JCS 2の意識障害と腎機能障害を伴っていることから、III度(重症)に相当する。体温が高くないからといって軽症とは判断しない。

治療の考え方

病態の中心は細胞外液量の減少(循環血液量減少)であり、それが腎血流の低下による腎前性腎障害と、脳血流の低下による意識障害を引き起こしている。したがって治療の第一は、細胞外液補充液(生理食塩液や乳酸リンゲル液など)の点滴静注により循環血液量を回復させることである。意識障害があるため経口補水は誤嚥の危険があり、また補充すべき量も多いため、静脈内投与が適切である。併せて涼しい環境で安静にし、輸液に対する反応(血圧・脈拍・尿量・意識レベル・腎機能)を観察する。

選択肢考察

  1. ×a.  血液透析

    現時点では適応がない。BUN 46 mg/dL、Cr 2.0 mg/dLと腎機能は低下しているが、BUN/Cr比が20を超え、身体所見でも脱水が明らかであることから腎前性の急性腎障害と考えられ、輸液で腎血流が回復すれば改善が期待できる。緊急透析の適応となるのは、治療抵抗性の高K血症、重度の代謝性アシドーシス、溢水による肺水腫、尿毒症症状(意識障害、心膜炎など)などであり、本例のK 4.8 mEq/Lはその水準に達していない。十分な輸液を行っても乏尿が続き、これらの合併症が出現した場合に検討する。

  2. ×b.  ドパミン投与

    血圧は104/70 mmHgと保たれており、昇圧薬を必要とするショックではない。また循環血液量が減少した状態で血管収縮作用をもつ昇圧薬を使っても、根本的な原因である体液不足は改善せず、臓器血流をかえって損なうおそれがある。血圧低下があっても、まず十分な輸液を行うのが原則である。なお、腎保護を目的とした低用量ドパミン投与(いわゆる「腎用量」)は、急性腎障害の予防・治療に有効でないことが示されており、現在は推奨されていない。

  3. ×c.  フロセミド投与

    フロセミドはループ利尿薬で、尿中へのNaと水の排泄を増やす。本例の乏尿は脱水による腎血流低下が原因であり、利尿薬を投与すると細胞外液量がさらに減少して脱水と腎前性腎障害を悪化させる。脱水状態での投与は禁忌と考えてよい。利尿薬は体液過剰(溢水)の状態で用いる薬である。

  4. ○d.  生理食塩液点滴

    本例の病態の中心は、大量の発汗による細胞外液量の減少である。皮膚・粘膜の乾燥、頸静脈の虚脱、頻脈、乏尿、血液濃縮、腎前性腎障害がこれを示している。血清Naは138 mEq/Lと正常で等張性脱水であるため、Na濃度が細胞外液に近い生理食塩液(Na 154 mEq/L)で細胞外液を補充するのが適切である(乳酸リンゲル液などの細胞外液補充液でもよい)。輸液で循環血液量が回復すれば、腎血流と脳血流が改善し、尿量の回復、腎機能の改善、意識障害の改善が期待できる。補充したNaにより筋けいれんの改善も見込める。

  5. ×e.  重炭酸ナトリウム投与

    重炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウム)は代謝性アシドーシスの補正などに用いられることがあるが、本例では血液ガス分析が示されておらず、アシドーシスの存在は確認できない。仮に脱水による循環不全で乳酸アシドーシスが生じていても、循環血液量を回復させれば多くは改善するため、まず行うべきは輸液である。安易な投与はNa負荷や代謝性アルカローシス、低K血症などを招くおそれがある。

熱中症の重症度分類(日本救急医学会)

・I度(軽症):めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)。意識障害はない。→ 涼しい場所での安静、体表冷却、経口での水分・塩分補給で対応し、現場での応急処置が中心 ・II度(中等症):頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下(JCS 1以下)。→ 医療機関での診療が必要で、経口摂取が困難なら点滴を行う ・III度(重症):中枢神経症状(JCS 2以上の意識障害、小脳症状、けいれん発作)、肝・腎機能障害、血液凝固異常(DIC)のいずれかを認める。→ 入院加療が必要で、集中治療を要することもある ・2024年の改訂で、III度のうち深部体温40℃以上かつGCS 8以下の最重症例をIV度として区別し、積極的な冷却を含む集中治療の対象とすることが示された かつて用いられた熱けいれん(heat cramp)・熱失神・熱疲労(heat exhaustion)・熱射病(heat stroke)という分類は、おおむねI度〜III度に対応する。本例の四肢の筋けいれんは従来の「熱けいれん」の症状にあたるが、意識障害と腎機能障害を伴うためIII度と判断する。

熱中症の病態

高温環境では、皮膚血管の拡張と発汗によって熱を逃がす。発汗が続くと水とNaが失われて細胞外液量が減少し、循環不全(頻脈、血圧低下、乏尿)を来す。さらに体温調節が破綻すると深部体温が上昇し、中枢神経障害、横紋筋融解症、肝・腎障害、DICなどの多臓器障害に至る。

治療の原則

1. 涼しい環境へ移し、体温が高ければ積極的に冷却する(体表冷却、蒸散冷却など) 2. 細胞外液補充液(生理食塩液、乳酸リンゲル液など)で体液を補う 3. 腎機能障害、横紋筋融解症(CK・ミオグロビン尿の確認)、肝障害、凝固異常の合併に注意してモニタリングする

脱水の型と輸液

・等張性脱水(血清Na正常):水とNaを同程度に喪失 → 細胞外液補充液を投与 ・高張性脱水(血清Na高値):水の喪失が主体 → 自由水を含む輸液(5%ブドウ糖液や低張液)で、Naを急速に下げすぎないよう補正 ・低張性脱水(血清Na低値):Naの喪失が主体(汗を真水だけで補った場合など)→ Naを含む輸液を投与 血漿浸透圧は「2×Na+血糖/18+BUN/2.8」で計算でき、本例では約298 mOsm/kgとやや高い。しかしこれはBUN上昇によるものである。尿素は細胞膜を自由に通過して細胞内外の水の移動に関与しないため、脱水の型は血清Na(または尿素を除いた有効浸透圧「2×Na+血糖/18」:本例で約281)で判断する。本例は等張性脱水である。

腎前性腎障害の手がかり

BUN/Cr比>20、尿中Na濃度<20 mEq/L、Na排泄分画(FENa)<1%、尿浸透圧高値など。原因(脱水、出血、心不全など)を是正すれば腎機能は回復しうるが、腎血流低下が長引くと急性尿細管壊死(腎性)へ移行する。

POINT

・炎天下の労作+筋けいれん・ふらつき+脱水所見 → 熱中症。 ・意識障害(JCS 2以上)や肝・腎機能障害があれば、体温が高くなくてもIII度(重症)として入院加療する。 ・皮膚・粘膜の乾燥、頸静脈の虚脱、頻脈、乏尿、TP・Alb・尿酸の上昇は細胞外液量減少(血液濃縮)を示す。 ・BUN/Cr比>20は腎前性腎障害を示唆し、まず輸液で腎血流を回復させる。 ・治療の基本は生理食塩液などの細胞外液補充液の点滴静注。 ・脱水状態での利尿薬は禁忌であり、昇圧薬も輸液より先には使わない。 ・BUN上昇で計算上の血漿浸透圧が高くても、血清Naが正常なら等張性脱水である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。