20分止まらないけいれん―「まずやること」と「今やらなくていいこと」を見分ける
第110回医師国家試験 H問題 第26問
国試問題にチャレンジ
4歳の男児。全身けいれんが持続するため救急車で搬入された。昨日から39℃以上の発熱があったという。食事と水分の摂取はやや低下しているが嘔吐や下痢はなく,排尿はあったという。今朝,全身けいれんが始まり約20分間持続しているため母親が救急車を要請した。来院時もけいれんが持続している。 まず行うべき処置として適切でないのはどれか。
- a.酸素投与
- b.気道確保
- c.胃管挿入
- d.静脈路確保
- e.ジアゼパム投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
発熱を伴う小児の全身けいれんが続いている場合、原因が熱性けいれんであれ中枢神経感染症であれ、まずはけいれん重積状態として対応し、全身性強直間代発作が5分以上続けば治療を開始します。初期対応はABCの順で、気道確保、酸素投与とSpO2モニター、静脈路確保と採血を行い、ベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパムなど)の静注でけいれんを止めます。静脈路が取れなければミダゾラムの口腔粘膜投与や鼻腔内投与などの代替経路を用い、無効なら第二段階の薬剤、さらに難治例では集中治療下の全身麻酔療法へと進みます。胃管挿入はけいれん停止にも呼吸・循環の安定にも寄与せず、嘔吐・誤嚥を招くおそれもあるため初期対応には含まれません。「止めることを最優先し、原因検索はその後」という原則は、小児救急に限らずけいれん診療全般の基本です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・4歳男児、前日から39℃以上の発熱 ・経口摂取はやや低下しているが、嘔吐・下痢はなく排尿もある → 高度の脱水は考えにくい ・全身けいれんが約20分続き、来院時もなお止まっていない
病態の捉え方
発熱に伴うけいれんであり、原因としては熱性けいれん(15分以上続くため複雑型に該当)のほか、細菌性髄膜炎、ウイルス性脳炎、急性脳症などの中枢神経感染症・炎症を必ず鑑別に挙げる必要がある。しかし原因検索は後回しでよい。目の前でけいれんが続いている以上、本児はけいれん重積状態(status epilepticus)にあり、最優先はけいれんを止めること、そして止めるまでの間に呼吸・循環を守ることである。 けいれん発作が長引くほど薬が効きにくくなり、低酸素や代謝異常による脳障害(後遺症)の危険が高まる。現在の定義では、全身性強直間代発作が5分以上続けば治療を開始すべき状態とされ、30分以上続くと長期的な神経学的後遺症の危険が高まる。本児はすでに20分経過しており、一刻を争う。
初期対応の考え方
救急外来での初期対応は救急蘇生と同じくABCの順で考える。 ・A(Airway):頭部後屈あご先挙上や側臥位で気道を確保し、口腔内分泌物を吸引する ・B(Breathing):酸素投与を行い、SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)をモニタリングする。必要ならバッグバルブマスク換気 ・C(Circulation):静脈路を確保し、同時に血糖測定や血液検査用の採血を行う そのうえで抗けいれん薬(第一選択はジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬)を静注する。 設問は「まず行うべき処置として適切でないもの」を問うており、これらの緊急処置に当てはまらないものを選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 酸素投与
適切な処置である。けいれん中は呼吸運動が障害され、唾液の貯留や舌根沈下も加わって低酸素血症に陥りやすい。さらに発作中は脳の酸素消費量が増えているため、低酸素は脳障害を助長する。ジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬には呼吸抑制作用もあるので、投与前後を通じて酸素を投与し、SpO2を監視する必要がある。
- ×b. 気道確保
適切な処置である。意識のないけいれん中の患児では舌根沈下や分泌物・吐物による気道閉塞が起こりやすい。気道が開通していなければ酸素投与も意味をなさないため、体位(頭部後屈あご先挙上、誤嚥予防の側臥位)の調整と口腔内吸引による気道確保を最初に行う。なお、けいれん中に口の中へ物を入れることは、歯の損傷や窒息の原因となるため行わない。
- ○c. 胃管挿入
まず行うべき処置ではなく、これが正解である。胃管は胃内容の吸引・減圧、経管栄養や薬剤の注入などに用いるが、けいれんを止めることにも呼吸・循環の安定にも直接は寄与しない。むしろけいれん中の挿入は困難であり、咽頭刺激で嘔吐を誘発して誤嚥の危険を高めるおそれがある。また本児は嘔吐がなく、腸閉塞などで胃の減圧が必要な状況でもない。気管挿管後に胃の膨満が問題となる場合などに検討されることはあるが、初期対応で優先する処置ではない。
- ×d. 静脈路確保
適切な処置である。抗けいれん薬を確実かつ速やかに静注するため、また効果不十分な場合の第二選択薬(ホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタムなど)の投与や輸液に備えるために必要である。確保時に採血を行えば、低血糖・電解質異常の確認や、髄膜炎などの原因検索にも役立つ。静脈路確保に手間取る場合は、それを待たずにミダゾラムの口腔粘膜投与・鼻腔内投与やジアゼパムの注腸など、静脈路以外の経路での投与を優先する。
- ×e. ジアゼパム投与
適切な処置である。持続するけいれんを止める第一選択薬はベンゾジアゼピン系薬であり、ジアゼパムの静注がその代表である(ミダゾラムやロラゼパムの静注も用いられる)。けいれんは長く続くほど薬が効きにくくなるため、可能な限り早く投与する。呼吸抑制や血圧低下に注意し、気道確保・酸素投与と並行して行う。なお、ジアゼパム坐剤は発熱時のけいれん予防に用いるもので、吸収に時間がかかり、すでに起きている発作を止める目的には適さない。
けいれん重積状態
けいれん発作が一定時間以上続くか、意識が回復しないうちに発作を繰り返す状態をいう。かつては「30分以上」と定義されていたが、現在は治療開始の目安として「5分以上(全身性強直間代発作の場合)」が用いられ、早期治療が重視されている。
小児のけいれん重積に対する標準的な流れ
1. 初期対応:気道確保、酸素投与、モニター装着(SpO2・心電図・血圧)、静脈路確保、血糖測定 2. 第一段階の治療:ベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパム静注、ミダゾラム静注、ロラゼパム静注)。静脈路がない場合はミダゾラム口腔用液(頬粘膜投与)や鼻腔内投与など 3. 第二段階の治療:ホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタムなどの静注 4. それでも止まらない場合(難治性):集中治療室で気管挿管・人工呼吸管理のもと、ミダゾラム持続静注やバルビツレートなどによる全身麻酔療法
熱性けいれん
主に生後6か月〜5歳ごろに、38℃以上の発熱に伴って起こるけいれん発作で、中枢神経感染症・代謝異常など明らかな原因がないものをいう。以下のいずれかを満たすものを複雑型熱性けいれんとする。 ・焦点性発作(部分発作)の要素がある ・15分以上持続する ・同一の発熱機会(通常24時間以内)に複数回反復する 本児は15分以上続いているため、熱性けいれんであれば複雑型に相当する。
鑑別すべき疾患
発熱を伴うけいれんでは、細菌性髄膜炎、脳炎、急性脳症(インフルエンザ脳症など)を見逃さないことが重要である。けいれん停止後も意識障害が遷延する場合、髄膜刺激症状や大泉門膨隆(乳児)がある場合などは、血液検査、頭部CT/MRI、髄液検査(頭蓋内圧亢進を除外してから)、脳波などで評価する。
POINT
・けいれんが持続している患児では、原因検索より先に「けいれんを止めること」と「ABC(気道・呼吸・循環)の確保」を優先する。 ・初期対応は、気道確保 → 酸素投与 → 静脈路確保 → ベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパムなど)静注。 ・静脈路がとれない場合は、ミダゾラム口腔粘膜投与・鼻腔内投与などの非静注経路を用いる。 ・胃管挿入はけいれん停止にも呼吸・循環の安定にも寄与せず、初期対応として優先されない。 ・全身けいれんが5分以上続けば、けいれん重積状態として治療を開始する。 ・発熱を伴う長いけいれんでは、複雑型熱性けいれんのほか、髄膜炎・脳炎・急性脳症を鑑別する。
