「見つけた病変」を全部内視鏡で取るわけじゃない―診断から治療法を選ぶ上部内視鏡5題
第110回医師国家試験 E問題 第36問
国試問題にチャレンジ
上部消化管の内視鏡像(①~⑤)を別に示す。 経口による内視鏡治療の適応となるのはどれか。2つ選べ。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
上部消化管内視鏡で病変を見つけても、内視鏡治療の適応となるかは病変の診断と標準治療によって決まります。RC sign陽性やF2以上の出血リスクの高い食道静脈瘤はEVLやEISによる予防的内視鏡治療の適応であり、小さく潰瘍を伴わない早期胃癌や腺腫などの上皮性腫瘍はEMR・ESD・ポリペクトミーで切除します。一方、正常粘膜に覆われた粘膜下腫瘍は大きさや悪性所見に応じて経過観察か外科的切除、出血のない良性胃潰瘍はPPIやP-CABとピロリ除菌、周堤を伴う不整な潰瘍を示す進行胃癌は外科的切除や化学療法が対象です。早期胃癌の内視鏡切除はリンパ節転移の可能性がきわめて低い病変に限られ、切除後の病理評価で追加治療の要否を判断します。「見える病変」と「内視鏡で治すべき病変」を区別する視点は、消化器診療での適切な治療選択の基本となります。
解答・解説
正解はc, eです
問われていること
5枚の上部消化管内視鏡像からそれぞれの病変を診断し、経口内視鏡で行う治療(内視鏡的切除、内視鏡的止血、静脈瘤治療など)が標準治療となる病変を選ぶ問題である。「病変が見える」ことと「内視鏡で治療すべき」ことは別であり、診断ごとに標準治療が何かを考える必要がある。
各画像の読み取り
・①:胃内の、正常粘膜に覆われたなだらかな立ち上がりの隆起で、表面にびらんや潰瘍はみられない。粘膜の下から押し上げられた形であり、粘膜下腫瘍(GIST:消化管間質腫瘍、平滑筋腫など)を考える。 ・②:胃体上部に白苔(潰瘍底を覆う白い付着物)を伴う、辺縁が整った小さな類円形の潰瘍がある。周囲に不整な隆起はなく、露出血管や活動性出血もない。良性の胃潰瘍(活動期)と考える。 ・③:食道胃接合部付近に、青白〜発赤調の太く蛇行・結節状に盛り上がった静脈が見られ、表面に発赤所見(red color sign)を伴う。食道静脈瘤であり、破裂の危険が高い所見である。 ・④:胃体部に、辺縁が不整で周囲が堤防状に盛り上がった(周堤を伴う)広い潰瘍性病変があり、潰瘍底には汚い白苔と易出血性がみられる。進行胃癌(潰瘍限局型〜潰瘍浸潤型)を考える。 ・⑤:胃体部に約1cm大の、やや発赤した広基性(茎のない)隆起性病変がある。表面に潰瘍はなく、早期胃癌(隆起型)や腺腫などの上皮性腫瘍を考える。
治療方針
・粘膜下腫瘍は大きさや悪性所見から経過観察か外科的切除を選ぶ。 ・出血のない胃潰瘍はプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの薬物療法とヘリコバクター・ピロリ除菌が基本である。 ・red color signを伴う食道静脈瘤は、破裂予防のための内視鏡治療の適応である。 ・進行胃癌はリンパ節転移の可能性が高く、外科手術や化学療法の対象であり、内視鏡切除の適応外である。 ・小さな隆起型の上皮性腫瘍は、内視鏡的切除(内視鏡的粘膜切除術EMR、内視鏡的粘膜下層剥離術ESD、ポリペクトミー)の適応となる。 したがって、内視鏡治療の適応となるのは③と⑤である。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。正常粘膜に覆われた、なだらかに立ち上がる隆起であり、粘膜下腫瘍である(大きさは約2cm程度)。胃の粘膜下腫瘍で頻度が高く臨床的に重要なのはGISTで、GISTは悪性の潜在能を持つ。診療ガイドラインでは、2cm未満で潰瘍形成や増大などの悪性を疑う所見がなければ経過観察、2〜5cmでは超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)などで組織診断を試みて手術を検討し、5cm以上や悪性所見を伴うもの、GISTと診断されたものは外科的切除(腹腔鏡下胃局所切除など)を原則とする。いずれにしても、経口内視鏡による切除は標準治療ではない。
- ×b. ②
誤り。白苔を伴う辺縁整の小さな潰瘍で、周囲に浮腫を伴う活動期の良性胃潰瘍(崎田・三輪分類でA1〜A2期)である。露出血管や活動性出血がないため内視鏡的止血の必要はなく、PPIやカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB:ボノプラザン)による酸分泌抑制が治療の中心となる。ヘリコバクター・ピロリ陽性であれば除菌を行い、NSAIDs服用中であれば中止を検討する。なお、潰瘍性の胃癌を否定するために、生検や治癒過程の確認を行うことが大切である。
- ○c. ③
正解。食道下部に太く結節状に盛り上がった静脈瘤があり、表面に発赤所見(red color sign:ミミズ腫れ様・cherry red spotなど)を認める。食道静脈瘤の内視鏡所見では、形態(F:F1直線的、F2連珠状、F3結節状)、色調(Cw白色、Cb青色)、発赤所見(RC sign)を評価する。RC sign陽性やF2以上の静脈瘤は出血リスクが高く、予防的な内視鏡治療の適応となる。治療法には、静脈瘤をゴムバンドで縛る内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)と、硬化剤を注入して血栓化させる内視鏡的硬化療法(EIS)がある。
- ×d. ④
誤り。辺縁不整な潰瘍の周りを堤防状の隆起(周堤)が取り囲む大きな病変で、潰瘍底は汚く出血しやすい。良性潰瘍とは異なり、周堤や辺縁の不整は癌を示唆する所見であり、進行胃癌(ボールマン分類の2型〜3型にあたる潰瘍形成型)を考える。癌が筋層以深に浸潤しておりリンパ節転移の可能性が高いため、内視鏡的切除の適応はなく、病期に応じてリンパ節郭清を伴う外科的切除や化学療法を行う。
- ○e. ⑤
正解。約1cmの、やや発赤した広基性の隆起性病変で、表面に潰瘍形成はない。早期胃癌(0-Ⅰ型〜0-Ⅱa型)や腺腫などの上皮性腫瘍を考える。このように小さく潰瘍を伴わない分化型の粘膜内癌(cT1a)は、リンパ節転移の危険がきわめて低く、EMRやESDによる内視鏡的一括切除の適応となる。腺腫や増大傾向のある過形成性ポリープも、内視鏡的切除(ポリペクトミーやEMR)の対象となり、切除標本の病理診断で最終的に評価する。
上部消化管の主な内視鏡治療
・内視鏡的切除:ポリペクトミー(スネアで茎を絞って切除)、EMR(粘膜下に液体を注入して病変を持ち上げ、スネアで切除)、ESD(粘膜下層を専用ナイフで剥離して大きな病変も一括切除)。 ・内視鏡的止血:出血性潰瘍(活動性出血、露出血管)に対するクリップ法、熱凝固法、薬剤局注法など。 ・食道・胃静脈瘤治療:EVL、EIS。胃静脈瘤ではシアノアクリレート系薬剤の注入やバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO:カテーテル治療)も用いられる。 ・その他:狭窄に対するバルーン拡張術・ステント留置、異物除去、胃瘻造設(PEG)など。
早期胃癌の内視鏡的切除の適応(胃癌治療ガイドラインの考え方)
リンパ節転移の可能性がきわめて低く、一括切除できる病変が対象となる。絶対適応病変の主なものは以下である。 ・分化型癌、深達度cT1a(粘膜内)、潰瘍所見なし(UL0):大きさを問わない ・分化型癌、cT1a、潰瘍所見あり(UL1):3cm以下 ・未分化型癌、cT1a、UL0:2cm以下 切除後の病理で、深達度・脈管侵襲・断端などから根治度を判定し、基準を外れれば追加外科切除を検討する。
良性潰瘍と癌の潰瘍の見分け方
良性潰瘍は辺縁が整い、周囲に向かう粘膜ひだがなだらかに集中する。癌の潰瘍は辺縁が不整で、周堤を伴い、集中するひだの先端が途絶・先細り・癒合などの異常を示す。
粘膜下腫瘍の内視鏡所見
正常粘膜に覆われ、なだらかに立ち上がる隆起で、表面に架橋ひだ(bridging fold)を伴うことがある。通常の生検では組織が得られにくいため、超音波内視鏡(EUS)やEUS-FNAで評価する。
POINT
・内視鏡治療の適応:出血リスクの高い食道静脈瘤(RC sign陽性、F2以上)に対するEVL・EIS、早期胃癌・腺腫などの小さな上皮性腫瘍に対するEMR・ESD・ポリペクトミー。 ・粘膜下腫瘍(GISTなど)は大きさ・悪性所見により経過観察か外科的切除。 ・出血のない胃潰瘍はPPI(P-CAB)とピロリ除菌が基本。 ・周堤を伴う不整な潰瘍は進行胃癌で、外科的切除・化学療法の対象。
