毒素がT細胞を一斉に叩き起こす―スーパー抗原が招くショックを見抜く
第110回医師国家試験 E問題 第35問
国試問題にチャレンジ
外毒素がショックの原因となるのはどれか。2つ選べ。
- a.腸球菌
- b.緑色連鎖球菌
- c.表皮ブドウ球菌
- d.黄色ブドウ球菌
- e.A群β溶血性連鎖球菌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
外毒素によってショックを起こす代表は、黄色ブドウ球菌とA群β溶血性連鎖球菌です。黄色ブドウ球菌のTSST-1やエンテロトキシン、A群β溶血性連鎖球菌の発熱性外毒素はスーパー抗原として、MHCクラスⅡとT細胞受容体Vβを直接結合して多数のT細胞を活性化し、サイトカインストームから血圧低下・多臓器不全を引き起こします。ブドウ球菌性TSSは紅斑と後の落屑が特徴で血液培養は陰性のことが多く、劇症型溶血性レンサ球菌感染症は壊死性筋膜炎を伴って急速に進行し致死率が高い病態です。一方、表皮ブドウ球菌はバイオフィルムによる人工物感染、緑色連鎖球菌は感染性心内膜炎、腸球菌は尿路感染症やVREが重要で、ショックを起こす外毒素は産生しません。菌ごとの病原因子を押さえておくことは、ショックの鑑別や、デブリドマン・クリンダマイシン併用といった治療判断に直結します。
解答・解説
正解はd, eです
問われていること
細菌が菌体外へ分泌する毒素(外毒素)によってショックを起こす代表的な病態は、毒素性ショック症候群(TSS:toxic shock syndrome)である。本問は、TSSおよび類似の病態を起こす菌を選ばせている。
外毒素と内毒素の違い
・外毒素:主に生きた菌が産生・分泌するタンパク質性の毒素。グラム陽性菌・陰性菌の両方にみられ、作用が特異的で強力なものが多い。 ・内毒素(エンドトキシン):グラム陰性菌の外膜を構成するリポ多糖(LPS)で、菌が壊れると放出され、敗血症性ショックの一因となる。 選択肢はいずれもグラム陽性球菌であり、内毒素は持たない。したがって、ショックの原因となる外毒素を産生するかどうかが判断の分かれ目となる。
スーパー抗原による機序
黄色ブドウ球菌のTSST-1(毒素性ショック症候群毒素-1)やエンテロトキシン、A群β溶血性連鎖球菌の発熱性外毒素(SPE:streptococcal pyrogenic exotoxin)は「スーパー抗原」として働く。通常の抗原は抗原提示細胞内で処理され、ごく一部のT細胞だけを活性化する。これに対しスーパー抗原は、処理を受けずにMHCクラスⅡ分子と T細胞受容体のVβ部分を外側から直接橋渡しするため、T細胞の非常に大きな割合(最大で約20%)を一度に活性化する。その結果、TNF-α、IL-1、IL-2、インターフェロンγなどのサイトカインが大量に放出され(サイトカインストーム)、高熱、血管透過性亢進、血圧低下、多臓器不全を起こす。 以上より、外毒素がショックの原因となるのは黄色ブドウ球菌とA群β溶血性連鎖球菌である。
選択肢考察
- ×a. 腸球菌
誤り。腸球菌(Enterococcus faecalis、E. faeciumなど)は腸管の常在菌で、尿路感染症、感染性心内膜炎、腹腔内感染症、カテーテル関連血流感染症の原因となる。ショックの原因となるスーパー抗原性の外毒素は産生しない。セフェム系に自然耐性を示すこと、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が院内感染上問題となることが臨床的に重要である。
- ×b. 緑色連鎖球菌
誤り。緑色連鎖球菌(viridans group streptococci、α溶血を示す)は口腔内の常在菌で、歯科処置後などに菌血症を起こし、亜急性の感染性心内膜炎の代表的な原因菌となる。S. mutansはう歯の原因となる。ショックの原因となる外毒素は産生しない。
- ×c. 表皮ブドウ球菌
誤り。表皮ブドウ球菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の代表で、皮膚の常在菌である。毒性は弱く、TSST-1のような外毒素は産生しない。病原性の中心はバイオフィルム形成能で、血管内カテーテル、人工弁、人工関節、脳室シャントなどの人工物に付着して慢性・難治性の感染症を起こす。血液培養で検出された場合は汚染菌との区別が問題となる。
- ○d. 黄色ブドウ球菌
正解。黄色ブドウ球菌はTSST-1やエンテロトキシン(B、Cなど)といったスーパー抗原を産生し、毒素性ショック症候群(TSS)を起こす。高熱、血圧低下、日焼け様のびまん性紅斑とその1〜2週後の落屑(特に手掌・足底)、嘔吐・下痢、多臓器障害が特徴である。かつては高吸収性タンポンの長時間使用に伴う月経関連TSSが注目されたが、現在は術後創部感染、鼻腔パッキング、熱傷、皮膚軟部組織感染などに伴う非月経関連TSSも多い。局所感染から毒素が作用するため、血液培養は陰性のことが多い。なお黄色ブドウ球菌は、ほかに表皮剥脱毒素(ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群)やエンテロトキシン(食中毒)なども産生する。
- ○e. A群β溶血性連鎖球菌
正解。A群β溶血性連鎖球菌(化膿レンサ球菌、Streptococcus pyogenes)は、発熱性外毒素(SPE-A、SPE-Cなど)をスーパー抗原として産生し、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(レンサ球菌性毒素性ショック症候群:STSS、toxic shock-like syndromeとも呼ばれる)を起こす。四肢の疼痛や腫脹で始まり、壊死性筋膜炎を伴って数時間〜数十時間の単位で急速にショック、多臓器不全に進行する。致死率は約30%と高く、「人食いバクテリア」と俗称される。黄色ブドウ球菌によるTSSと異なり、血液培養が陽性となることが多い。感染症法では5類感染症(全数把握)である。
毒素性ショック症候群(TSS)とレンサ球菌性TSS(STSS)の比較
・原因菌:TSSは黄色ブドウ球菌、STSSは主にA群β溶血性連鎖球菌(G群・B群などでも起こりうる) ・主な毒素:TSSはTSST-1・エンテロトキシン、STSSは発熱性外毒素(SPE) ・感染の入口:TSSはタンポン、鼻腔パッキング、術後創、熱傷など。STSSは小さな皮膚外傷、咽頭炎などで、入口が不明のことも多い。 ・局所所見:TSSでは軽微なことが多く、STSSでは激しい疼痛を伴う壊死性筋膜炎・筋炎が多い。 ・血液培養:TSSでは陰性が多く、STSSでは陽性が多い。 ・致死率:STSSの方が高い。
治療
循環管理などの全身管理、感染巣のドレナージ・デブリドマン(STSSでは壊死組織の外科的切除が重要)、抗菌薬投与を行う。抗菌薬はβ-ラクタム系に加えて、タンパク合成を阻害して毒素産生を抑えるクリンダマイシンを併用するのが一般的である。重症例では免疫グロブリン大量静注が考慮される。
スーパー抗原が関与する主な疾患
ブドウ球菌性TSS、レンサ球菌性TSS。なお、ブドウ球菌の食中毒はエンテロトキシンの腸管・嘔吐中枢への作用によるもので、ショックに至ることはまれである。
A群β溶血性連鎖球菌によるその他の疾患
咽頭炎・扁桃炎、膿痂疹、丹毒、蜂窩織炎、猩紅熱(発熱性外毒素による発疹)、および続発症としてのリウマチ熱、急性糸球体腎炎。
POINT
・外毒素(スーパー抗原)でショックを起こすのは黄色ブドウ球菌(TSST-1)とA群β溶血性連鎖球菌(発熱性外毒素SPE)。 ・スーパー抗原はMHCクラスⅡとT細胞受容体Vβを直接結合し、多数のT細胞を活性化してサイトカインストームを起こす。 ・STSS(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)は壊死性筋膜炎を伴い急速に進行、致死率が高い。5類全数把握。 ・表皮ブドウ球菌はバイオフィルム、緑色連鎖球菌は感染性心内膜炎、腸球菌は尿路感染症・VRE。
