紙やすりのような発疹と口囲蒼白―猩紅熱の1〜2週後に待ち受ける急性糸球体腎炎
第118回医師国家試験 D問題 第65問
国試問題にチャレンジ
8歳の女児。顔面および体幹部の発疹を主訴に父親に連れられて来院した。昨日から微熱があり,本日,顔面や体幹部に皮疹が出現したため受診した。体温37.7℃。顔面の皮膚所見を示す。全身状態は良好である。咽頭発赤を認める。A群β溶連菌迅速検査は陽性だった。 この患児の注意すべき合併症はどれか。

- a.冠動脈瘤
- b.間質性肺炎
- c.血小板減少
- d.急性糸球体腎炎
- e.亜急性硬化性全脳炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
発熱・咽頭炎に、口囲蒼白を伴う細かい紅斑が顔面や体幹に広がり、A群β溶連菌迅速検査が陽性であれば猩紅熱と診断できます。A群溶連菌感染後には免疫学的機序による非化膿性合併症として急性糸球体腎炎とリウマチ熱が重要で、急性糸球体腎炎は咽頭炎の約1〜2週後に血尿・浮腫・高血圧で発症し、C3低下とASO上昇を伴います。冠動脈瘤は川崎病、亜急性硬化性全脳炎は麻疹の合併症であり、IgA血管炎の紫斑は血小板数正常である点も押さえておきましょう。治療はペニシリン系抗菌薬10日間が基本で、感染後数週間の尿検査による経過観察まで含めて考えることが、溶連菌感染症を適切に診る力につながります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・8歳の女児。前日からの微熱(37.7℃)に続いて、顔面と体幹に皮疹が出現した。 ・顔面には細かい紅斑が多数みられ、頬が赤く見える一方で口の周りは比較的白く抜ける(口囲蒼白)のが猩紅熱の典型的な皮膚所見である。 ・咽頭の発赤があり、A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌、Streptococcus pyogenes)の迅速抗原検査が陽性である。 ・全身状態は良好である。
診断へのプロセス
学童期の小児に、発熱・咽頭炎とともに細かい紅斑が顔面・体幹に広がり、溶連菌迅速検査が陽性であることから、A群溶連菌による咽頭炎に伴う猩紅熱と診断できる。猩紅熱の発疹は、溶連菌が産生する発赤毒素(発熱性外毒素)によるもので、触るとざらざらした紙やすり様の細かい紅斑が全身に広がる。ほかに、苺舌、口囲蒼白、皮膚のしわに沿った線状の点状出血(Pastia線)、回復期の膜様落屑などがみられる。
設問の考え方
A群溶連菌感染症では、菌そのものによる化膿性合併症(扁桃周囲膿瘍、中耳炎など)とは別に、感染後しばらくしてから免疫学的機序で起こる非化膿性合併症が重要である。代表は急性糸球体腎炎とリウマチ熱であり、本問の選択肢では急性糸球体腎炎がこれに当たる。他の選択肢は、それぞれ別の疾患(川崎病、麻疹など)で問題となる合併症である。
選択肢考察
- ×a. 冠動脈瘤
冠動脈瘤は川崎病の代表的な合併症である。川崎病も発熱・発疹・苺舌を呈するため猩紅熱と鑑別が必要だが、5日以上続く高熱、両側眼球結膜充血、口唇の紅潮、手足の硬性浮腫、頸部リンパ節腫脹などが特徴で、溶連菌迅速検査は陰性である。本例は微熱で全身状態も良く、溶連菌陽性であり、川崎病は考えにくい。
- ×b. 間質性肺炎
間質性肺炎はA群溶連菌感染症の合併症としては一般的でない。間質性陰影を伴う肺炎は小児ではマイコプラズマやウイルス(麻疹など)による感染で、成人では膠原病(関節リウマチ、強皮症、皮膚筋炎など)や薬剤性で問題となる。
- ×c. 血小板減少
小児の血小板減少として問題となるのは、ウイルス感染(風疹など)やワクチン接種の後に起こる免疫性血小板減少症(ITP)である。A群溶連菌感染症で注意すべき合併症としては一般的ではない。なお、溶連菌感染後に紫斑がみられるIgA血管炎では血小板数は正常であり、血小板減少による紫斑とは区別される。
- ○d. 急性糸球体腎炎
溶連菌感染後急性糸球体腎炎は、A群溶連菌の咽頭炎から約1〜2週間(皮膚感染では3〜6週間)の潜伏期を経て発症する。菌の成分に対する抗体がつくる免疫複合体が糸球体に沈着し、補体を活性化して炎症を起こす(III型アレルギー)。血尿(肉眼的血尿のこともある)、浮腫、高血圧が三主徴で、乏尿を伴うこともある。血液検査では血清補体価(CH50)・C3の低下とASO(抗ストレプトリジンO抗体)の上昇がみられる。小児に多く、多くは安静・塩分水分制限などの支持療法で治癒する。溶連菌感染症の診療では、感染から数週間後に尿検査で血尿・蛋白尿の有無を確認することが勧められる。
- ×e. 亜急性硬化性全脳炎
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は、麻疹ウイルスが脳内に持続感染して起こる遅発性の合併症である。麻疹罹患から平均7〜10年ほどの潜伏期を経て、知能低下・性格変化、ミオクローヌスなどで発症し、進行性で予後不良である。2歳未満での麻疹罹患がリスクとなる。A群溶連菌感染症とは関係しない。
A群溶連菌感染症の主な病型
・咽頭炎・扁桃炎:学童期に多い。発熱、咽頭痛、扁桃の白苔、軟口蓋の点状出血、前頸部リンパ節腫脹、苺舌。咳や鼻汁が乏しいことがウイルス性咽頭炎との鑑別点となる。 ・猩紅熱:咽頭炎に、発赤毒素による全身のびまん性小紅斑を伴うもの。口囲蒼白、Pastia線、回復期の落屑(特に手足)。 ・皮膚感染症:伝染性膿痂疹(とびひ)、蜂窩織炎、丹毒。 ・重症型:劇症型溶血性レンサ球菌感染症(壊死性筋膜炎、毒素性ショック様症候群)。
診断
・迅速抗原検査(咽頭ぬぐい液)、咽頭培養。 ・ASO、ASK(抗ストレプトキナーゼ抗体)は感染後に上昇するので、急性期の診断よりも感染後合併症の診断の参考になる。
治療
・ペニシリン系抗菌薬(アモキシシリンなど)を10日間内服するのが基本である。ペニシリンアレルギーではセフェム系やマクロライド系を用いる。 ・十分な期間の抗菌薬治療は、リウマチ熱の予防に有効であることが示されている。一方、急性糸球体腎炎の発症を確実に防げるかは明らかでない。
非化膿性合併症の比較
・急性糸球体腎炎:咽頭炎後1〜2週、皮膚感染後3〜6週。血尿・浮腫・高血圧、低補体血症。咽頭・皮膚どちらの感染の後にも起こる。 ・リウマチ熱:咽頭炎後2〜3週ごろ。心炎、多関節炎、舞踏病、輪状紅斑、皮下結節(Jonesの診断基準)。咽頭感染の後に起こり、皮膚感染の後には起こらないとされる。衛生環境の改善と抗菌薬の普及により、日本では現在まれである。 ・その他:溶連菌感染を契機としたIgA血管炎、溶連菌感染関連の小児自己免疫性神経精神疾患(PANDAS)なども報告されている。
選択肢に出てきた合併症と原因疾患の対応
・冠動脈瘤 → 川崎病 ・亜急性硬化性全脳炎 → 麻疹 ・血小板減少(ITP) → ウイルス感染後など ・急性糸球体腎炎、リウマチ熱 → A群溶連菌感染
POINT
・発熱+咽頭炎+全身の細かい紅斑(口囲蒼白、苺舌)+溶連菌迅速検査陽性 → 猩紅熱。 ・A群溶連菌感染後の非化膿性合併症は、急性糸球体腎炎とリウマチ熱。 ・溶連菌感染後急性糸球体腎炎:咽頭炎後約1〜2週(皮膚感染後3〜6週)、血尿・浮腫・高血圧、低補体(C3低下)、ASO上昇。 ・治療はペニシリン系抗菌薬10日間(リウマチ熱予防に有効)。 ・冠動脈瘤は川崎病、SSPEは麻疹の合併症。
